2018年01月04日

当分の間、休刊です。ご芳情に感謝します。

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◆トランプがイラン国民を鼓舞

宮崎 正弘

平成30年(2018)1月3日(水曜日)通巻第5564号   

「残酷で腐敗した政権に民衆が立ち上がった」とトランプがイラン国民を鼓舞
  「食料欠乏、猛烈インフレ、人権無視」が「外国の陰謀」だって?

 2017年暮れからイラン各地で反政府暴動が拡大し、2018年1月2日まで
に死者が22人、拘束されたイラン人は700人に達した。ハメネイ師は、急
遽記者会見し、「これはイランを敵視する外国勢力が背後で扇動してい
る」と呼びかけた。

ロウハニ政権下で猛烈なインフレは40%台から10%台に低下したが、食料の
値上がりが相次いでおり「クリスチャン・サイエンス・モニター」(1月
2日)によれば、1200万人のイランは空腹のままベットに入る貧困の日々
を送り、3300万人が食料不足を深刻に訴えているという。

 それなのにイラン政府は、シリアのアサド政権支援のために革命防衛軍
を送り、イラクにも軍を送り、イェーメンに軍事支援をなし、挙句はガザ
のハマス、レバノンの『ヒズボラ』を大々的に支援してきた。国民が飢え
に直面しているときに、外国へ軍隊を送るなど言語道断であると反政府デ
モは叫び、ついに立ち上がった。

すかさずイランを敵視するトランプ大統領はツィッターに、「残酷で腐敗
した政権」に抗議した民衆にエールを送り、「食料欠乏、猛烈インフレ、
人権無視」が、いまのイランの政治の貧しさだと批判した。

ハメネイ師が、こうした反政府運動を「外国の陰謀」とするあたり、周辺
の茶坊主に囲まれて正確な情報が入っていないうえ、一神教の傲慢さが
漂っている。
         
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書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIEW
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半島は火の海となる怖れ、第三次世界大戦につながりかねない
朝鮮半島事情、ロシアの不気味な介入、中国という鵺、米国の関心の低さ

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柏原竜一『北朝鮮発 第三次世界大戦』(祥伝社新書)
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本書の題名はそのものずばり。たしかに刺激的であり、分かりやすい。間
もなく北朝鮮をめぐって半島は火の海となる怖れが強まり、それが第三次
世界大戦につながりかねないという危機状況を多角的に解説し、われわれ
の直面している未曽有の危険度を伝える。

本書では朝鮮半島の危機のほかに、中東など多方面の動向をユニークな視
点で解説している。

意外性と列強の思惑の交錯が複雑に絡んでいることがわかる本である。

しかしながら、世界史のプレーヤーを自ら降板してしまった日本には、そ
れなりの情報も入らない。

外交というのは軍事力と情報力の背景が必要だが、この2つの死活的要素
を欠く日本には、まともなインテリジャンス機関さえない。したがって本
書のような情報満載の書籍からか、或いは欧米のシンクタンク筋や当該方
面に明るい個人の情報に依拠せざるを得ない。

柏原氏は世界のインテリジェンス戦争の研究で知られる学究である。
 「水と安全保障はタダ」(イザヤ・ベンダサン)と思っている日本人
は、くわえて情報もタダだと思っているから始末に負えない。

情報とは、謀略、諜報、調略、防諜などの工作活動の上になりたち、スパ
イが命がけで集めてくる。

データベース、ハッキングなどからも精度の高い情報は収集できるが、そ
れらにはタイミングの問題と、人間の血の通った判断力がないため、宝の
もち腐れになるケースも多多ある。

さて題名の北朝鮮と朝鮮半島事情、ロシアの不気味な介入、中国という
鵺、そしてアメリカの無関心、そのアメリカに安全保障を依拠する日本と
いう構図があるが、本書では、これらに加えて中東の情報分析にかなりの
ページを割かれている。

評者(宮崎)が注目したのは下記の経緯の指摘だった。
 それは2015年のことだった。

 「イラク南部で鷹狩りをしていたカタールの首長家メンバーを含む多数
のカタール人が、何者かに誘拐される事件が起きました。イラクでも大き
く報じられたこの事件が解決したのは2017年の4月でしたが、『フィナン
シャルタイムズ』によれば、10億ドルの身代金が支払われ、その相手がイ
ランであり、アルカイダの関連組織であったというのです」(220p)。

つまりサウジアラビアの対カタール断交の芽が胚胎したのは、この誘拐事
件だった。
 
ビン・ラディンのアルカィーダに多額の献金をしていたのはサウジであ
る。秘密協定でサウジには手を出さないことが決められたという。9・11
実行犯の多くが、しかもサウジアラビア人だったことは私たちの記憶に新
しいが、柏原氏は、これが原因でカタールがアラブ諸国に浮き上がったと
いうファイナンシャルタイムズの記事に賛同してはおらず、むしろ2017年
5月のリヤド会議ではないかという。

「この会議の場でトランプ大統領は、カタールを名指ししてヌスラ戦線
(スンニ派の過激組織)の後身組織である「ファター・アル・シャム」に
資金を提供していると非難しました」

カタールの沖合ガス田は、じつはイランとの共有である。カタールはイラ
ンとの関係を緊密にせざるを得ず、同時にカタールには米軍の大規模な軍
事基地がある。

そのうえでカタールはロシアに急接近し、ロフネフツの大株主となって米
国を刺激した。つまりサウジのカタール断行の裏にはアメリカの戦略的意
思がある、と本書の著者が分析している。

カタールの孤立を救ったのがモロッコ、トルコであり、割り込んで得点を
挙げたのがプーチンだった。つまり米国は外交的に躓きを演じたというの
がこれまで経過である、とする。

 このほか驚くような情勢分析が本書ではさりげなく述べられているの
で、どのページもおろそかにはできない。

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  樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1681回】           
――「全く支那人程油斷のならぬ者はない」――(中野1)
  中野孤山『支那大陸横斷遊蜀雜俎』(松村文海堂 大正2年)

               ▽

先ず冒頭に掲げられた「緒言」と「外遊の動機」から、本書執筆に至る経
緯を探ってみたい。

 「光輝ある四千年の?史を有し、而も廣大なる境土を以て世界に卓絶
し」、「五億の生民を有し、堂々たる一統國を形成し」、「天然の沃野壤
土を以て天下に目せられ、天然物の豐富なるを以て世に誇れる」中華民国
であればこそ「世界各国に羨望せらるる」。「支那4百餘州の死活を制
し、世界の運命を左右せんとするものは、中原貫流の揚子江」である。

「世界潮流の現況を達觀」すると、「英米佛獨諸強を始め、其の他の列國
が、此所の活動飛躍を競ふこと頗る熾」しい。それというのも「實に世界
的殖産興業の中樞は、此の流域に存す」からであり、それゆえに「世界の
大事業は、近き将來に於て此所に一大發展を見るべし」。世界経済の将来
を左右するは「此の流域」とは、なんとも示唆的で刺激的な主張だ。

そんな揚子江流域において「天富の豐饒なる點に於て其の最も優勢なる
ものは、往昔の巴蜀、現今の四川省なり」。だが、そこは天然の要害に囲
まれた「噫交通至艱!!! 噫交通至難!!!」の地であり、他地域との
交流が困難であることから、「充分の發達を見るに至」っていない。それ
ゆえに「中華民國が常に各國の侮りを受くる」のである。これこそ「噫豈
一大耻辱と謂ぶべ」きだ。

「東洋啓發を以て天職とする我が日本」は、「渠と土壤を接すること最も
近く」、「其の人種」「其の文字」を「同ふする」がゆえに、「之が啓發
の義務」を持ち、「東洋の平和を永久に保維し、相提携して倶に共に富強
を期せんとする」。「啓發の義務」を負う日本人であればこそ、「中央支
那の事情を知るは、現時の急務」といえよう。

中野は四川省総督・錫良が教育振興のために募集した「教育家の招聘撰
擇」に応じ、「奮然決起し身命を抛ちて、此の寶庫の一端を開き、聊か國
恩に報ひん」として、広島県立中学校の職を辞し、「家族は東都に遺し、
挺身行李を携ひ、生國を後にし」て、「崑崙の麓、長江の源、遠く成都
(蜀)の地に赴くこと」になった。

以上から、「東洋啓發を以て天職とする我が日本」の立場から「世界各
国に羨望せらるる」はずながら「常に各國の侮りを受くる」中華民国を眺
め、同文同種・一衣帯水の関係にあるゆえに中華民国を「啓發」すること
は日本に課せられた「義務」である。その「義務」を全うし、「東洋の平
和を永久に保維し、相提携して倶に共に富強を期せんとする」という中野
の決意を読み取ることができそうだ。

これは中野だけが抱いたというより、当時の日本における前途有為な若者
の間にみられた考え、敢えていうなら素朴極まりないアジア主義といえる
のではなかろうか。

さて中野は、「玄海の荒波を渡り、渺々、茫々たる大洋に浮んで、東洋の
パリーと目せらるゝ上海」に上陸するのだが、「客は上陸の準備に取亂
れ、實に雜踏を極める。此時が實に油斷のならぬ時で、少し注意を怠れば
重要な荷物の行衞を失ふといふのである」から、安閑としてはいられない。


四囲を見ると苦力、苦力、苦力である。彼らの「風習と來ては、一目して
ぞつとする。手も足も垢で特別の皮膚を作り、腫物が全身に滿ち、襤褸を
纏うて、ノソリノソリと、客室をのぞき廻り、或は客膳の殘肉をハキダメ
から探し出して、舌打鳴らしてゐる。其の不潔さを見ては誰しも一驚せぬ
ものはない」。「蓋し華人は、不潔を意とせず、大小便は所きらはず、鼻
汁を無暗に何所へでも摺りつけ、喀痰を無暗にするからであらう。其の不
潔さ推して知るべきである」。

そんな彼らと、どうやって「相提携して倶に共に富強を期せんとする」の
か。《QED》
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  樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1682回】                    
――「全く支那人程油斷のならぬ者はない」――(中野2)
  中野孤山『支那大陸横斷遊蜀雜俎』(松村文海堂 大正2年)

                ▽

上海では「内地奥深く旅行するには、先ず支那式を經驗するが好都合であ
らう」と考え、わざわざ「支那式を選んで純粹の支那旅館に投宿」するも
のの、便所の「甚だ風違ひ」に驚く。

「起床して直に便所に行つた、所が支那人が1人最早先がけして、一つ
の壺に跨りて、眼を圓くして?を膨らし滿身に力を入れてやつてゐるので
退却して來た」。暫くして出かけると、「此度は2人並んでやつてゐる」
ので、また「退却して來た」。暫くしてまた行くと、「此度は四人も並ん
で煙草を吸ひながら、ゆつくりと平氣でやつている」。なにせ日本式に個
室ではないわけだから、さぞや困ったことだろう。

 以下、中野の綴る上海の街の風景をいくつか。
 「食器を拭く布巾も、靴臺や、腰掛を拭く雜布も、區別がない。手鼻を
かんだ手を着物になする。其の着物で食器を拭く、斯の如きは、支那人の
特徴で彼等は少しも氣にせぬが、我より見れば、不潔でたまらない」。一
切合切が「不潔千萬なのには、驚くの外はない」。

 「市街は晝夜雜沓してゐる」。茶館はひどく賑わっているが、「殊に
妙なのは、荒物屋、八百屋、呉服店、菓子店、其他雜貨店等の店先にも、
夜は娼妓が顔見せしてゐる。茶館には、階上階下、常に客と娼妓で滿ちて
ゐる」。

「舶來品は、總べて日本より價が安い」。「各國商品競爭實に盛に行はれ
てゐる。商業上何が勝を制するか、獨逸の如きは我を大敵と見て甚だ努め
てゐる。大いに心すべきことである」。どうやら上海に、いや中国におけ
る日本の敵は「我を大敵と見て甚だ努めてゐる」というドイツ・・・昔も
今も。

「市中一番に繁華の街は、(中略)すべて家屋は、宏大に煉瓦にて疊ま
れてゐる。街道は、廣?で蒲鉾形に作られてある。人出は多く、常に賑わ
うてゐる」。

「商人は、各國各省から蝟集してゐる、人情、風俗、混然錯綜して一樣
でない。然し土人は、勤勉で商業を重んじて、善く外人に接し、大利を計
つて小利に安んじない、專ら營利に汲々としてゐる、だから人情浮薄毫厘
の爭ひに情誼を顧みない、風俗奢侈?飾を貴ぶのである」。

「各商店は軒を連ね、朱塗、?塗の大看板を掲げ、美事に飾られて」はい
るが、「唯道路の狹隘と路上の修繕行屆かず、雨水常に溜りて、池をな
し、糞尿之に混じて、臭氣鼻を衝く、嗅官爲めに麻痺する。實に余輩外人
には久しく堪へられない」。

「居留地には、巡査が辻々にゐる。大概印度人を採用してゐる。其容貌、
魁偉頭髪を束ねて、赤い布を醤油樽の箍の如く纏頭して外觀甚だ異様なる
風態をしてゐる」。元を辿れば英国東インド会社の門番として連れてこら
れたインド人のターバンを「醤油樽の箍の如」しとは、言い得て妙。

さて、いよいよ長江を遡航する船旅に出発となる。「すると案内のもの
は、出帆の延期を申込んで來る」。すったもんだの挙句に強引に出帆の準
備を進めた。どうやら「支那人は、上海に歸り辮髪を垂れると本性を現は
して、仲々我々の言ふ事を取り用ひない」らしい。

かくて中野は彼らには彼らなりの計算があって出航延期を申し出たはずと
考えた末に、「抜け目のないのは支那人だ。支那人に欺かれて、隨分困難
をしたものが、あつたとのことであるが、全く支那人程油斷のならぬ者は
ない」と悟った次第である。

宿舎から船まで「荷物運搬を數多の苦力に託」すも「油斷をすれば、彼等
苦力に竊み去らるゝの恐れがあるので」、「嚴重に監督しつゝ波止場に行
つて、船の倉庫に積み込んでしまふ迄」は見張りをし、それから船に乗り
込んだ。さぞや骨が折れたことだろう。
《QED》

◆「慰安所の帳場人の日記」は何を物語るか

櫻井よしこ


東亜大学人間科学部教授の崔吉城氏の近著に、『朝鮮出身の帳場人が
見た慰安婦の真実 文化人類学者が読み解く「慰安所日記」』(ハート出
版)がある。

この「慰安所日記」とは、戦中、ビルマ(現ミャンマー)やシンガポール
の慰安所で帳場人として働いていた朝鮮人男性の日記だ(以下『帳場人の
日記』)。慰安所の実態を誰よりもよく知る立場にあった人物の記録であ
り、慰安婦の実態を知るこの上ない手掛かりとなる。それだけに、意気込
んで手に取ってみた。

しかし、読んでもどかしい思いが残る。もっとはっきり知りたいと思うと
ころに中々行きつかない。

崔氏は3年前、同じ出版社から『韓国の米軍慰安婦はなぜ生まれたのか』
も上梓している。合わせて読めば、氏が『帳場人の日記』に深い関心を寄
せ続けてきたこと、日記をできるだけ客観的に読み解こうとしていること
も、明らかである。

氏は、「国家や戦争などを通じて性を考察すること」をテーマとしてきた
という。背景には、10歳の頃に勃発した朝鮮戦争の体験があった。序章か
ら引用する。 

「国連軍は平和軍であり、共産化、赤化から民主主義を守ってくれる天使
のような軍だと思われていた。だからみんなが手を振って迎えたのに、村
の女性に性暴行するとは、思いもよらないことであった」

氏の生まれ故郷の村では儒教的な倫理観が強かった。しかし「戦争とい
う不可抗力と、性暴力の恐怖によって、住民たちは売春婦、つまり『米軍
慰安婦』を認めざるを得なかった」、「国連軍に翻弄された小さな私の故
郷の村は、売春村となった」、それによって「一般の女性たちが性暴行を
免れることができた。いま問題となっている慰安婦問題にも、そうした側
面があったのか」と、氏は問うている。重要な問いだ。

慰安婦問題は日本だけではなく、国連軍や各国の軍を含めた問題である。
さらに加害、被害の両面において、韓国自身も関係するという認識が、崔
氏の分析を公正なものにする力となっている。

韓国では「慰安婦は被害者から愛国者へと変換され、民族的英雄のように
銅像が建てられ、拝まれているが、実はその現象は、新しいものではな
い」と氏は指摘し、 妓生(きーせん)の論介(のんげ)の例を引用する。

当時の事実

朝鮮の人々が日本人を「倭」と呼んでいた時代、妓生の論介は国を守るた
め、敵である日本の武将を抱いて川に身を投じたそうだ。韓国の人々は慶
尚南道晋州に彼女を奉る『義妓祠』を建てて、彼女を英雄から神に祭り上
げた。妓生や売春は儒教的道徳観によって否定されるが、政治的要素で状
況は大きく変わり得るということだ。

『帳場人の日記』は4年前の2013年8月、ソウル大学名誉教授の安秉直(ア
ンビョンジク)氏が解説する形をとって韓国で出版された。同書は韓国に
おいて、慰安所は「揺るぎない日本軍の経営」の下にあり、従って慰安婦
も厳しく監視されていたという主張の論拠となる資料だとされた。反対に
日本では、慰安所が公娼制度の下で営まれていたことを示す証拠と見做さ
れた。

前述のように崔氏は、どちらの側にも与(くみ)しないよう、慎重に本にま
とめた。内容が物足りないのは、日記の日本語訳が部分的な引用にとどま
り全体として示されていないからであろう。全てを日本語訳で出版できな
いわけを私は知る由もないが、慰安婦問題を正しく知る上で残念なことだ
と思う。

それでも崔氏の著作は、当時、慰安所がどのように位置づけられていたの
か、どんな人々が関わっていたのかを、教えてくれる。過去の事象に現代
の価値観や見方を当てはめるのではなく、帳場人だった朴氏の視線を通じ
て当時の事実を見せてくれる。朴氏は1942年7月に釜山からビルマのラン
グーンに向かう船上にいた。第4次慰安団の一員だったのだ。同じ船に、
高額の貯金を残したことが日本でも知られている慰安婦の文玉珠氏も乗っ
ていた。

ラングーン到着後、朴氏は暫くして慰安所で働き始める。11月にはアキャ
ブという所に移動しているが、この地にあるシットウェーという港は、近
年中国が巨額の資金を投じて整備し、中国海軍が拠点としている。年が変
わった43年、氏は再びラングーンに戻り、その後幾つもの市や町を移動し
た。慰安所は1カ所に定着して営業することはあまりないのだと実感する。

各地を移動し、43年の9月末にはシンガポールに移り、朴氏は翌年の44年
12月に故郷に戻った。

その間に朴氏は自分や同僚のために、また慰安婦の女性のためにも驚く程
の送金をしている。たとえばビルマに戻って日も浅い43年1月16日、朴氏
は慰安所経営者の山本龍宅氏から3万2000円を故郷の家族に送金するよう
指示されたと書いている。

実はこの山本氏は、朴氏の妻の兄弟である。朴氏の働いた慰安所は同胞が
経営していたのだ。朴氏の日記には慰安所経営者として多くの日本名が登
場するが、人間関係を辿っていくと、その多くが朝鮮人だと崔氏は指摘する。

「本人に戻るブーメラン」

朴氏が、妻の兄弟から送金を頼まれた3万2000円は現在の貨幣価値ではど
のくらいなのか。崔氏は当時の公務員の給与を75円、それがいま約20万円
として計算した。3万2000円は現在8530万円になる。

「実に、1億円近い大金が、行き来していたわけである」と崔氏は驚いて
いるが、朴氏が朝鮮の家族や自分の口座に送金した中に、1万円台、2万円
台、3万円台の額が目につく。1億円近い額を2年の間に数回送金できた
程、慰安所経営は利益が上がったということだ。

他の多くの慰安所でも同じような状況があったはずだ。女性たちも高額の
収入を手にし、経営者は慰安所を営み、時にはそれ自体を売買していた。

わずかだが、慰安所での生活も紹介されている。朴氏は公休日には映画を
よく見たようだ。「たいていは同業者と一緒」だが、「時には慰安婦たち
や仲居などと一緒」だった。「鉄道部隊で映画があり、慰安婦たちが見て
きた」という記述もある。

朴氏の日記を精読した崔氏が結論づけている。そこには慰安婦の強制連行
に繋がるような言葉すらない、と。氏は、「性的被害をもって問題とする
ことは、どの国、どの民族でも可能だ」、従って「韓国が、セックスや貞
操への倫理から相手を非難することは、韓国自身のことを語ることに繋
が」る「いつか必ず本人に戻るブーメラン」だと強調する。

韓国はそのような対日非難をただちに中止すべきだというのが氏の結論
だ。私は同感だが、トランプ大統領との晩餐会に元慰安婦を招く政権の耳
には、この直言は届かないのである。
『週刊新潮』 2017年12月14日号  日本ルネッサンス 第782回

◆歳は足に来る(続)

石岡 荘十


数十メートル歩くと左足がだるくなって歩行困難になる。で、数分立ち止まって休むとまた歩けるようにはなるが、またすぐだるくなる。


このような症状を専門的には「間欠性跛行」という。「跛行」はビッコを引くという意味だ。こうなった経緯については前回述べた。今回はその続編である。


先般、閉塞した足の大動脈にステントを入れる治療を受け、ビッコは解消し、元通り颯爽と歩けるようになった。


はじめ、「これはてっきり腰をやられた」思い込んで、近所の接骨院に駆け込んだら、「典型的な脊柱管狭窄症の症状だ」と断言する。つまり神経の管が腰のところで狭まっている疑いがあるとのことで、電気治療、針を数回やってもらったが、はかばかしくない。


血流が詰まる動脈硬化は典型的な加齢疾病だ。脳の血管が詰まれば脳梗塞になるし、心臓の血管(冠動脈)が狭くなると狭心症、詰まると心筋梗塞になる。私の場合は足にきたというわけである。

造影剤を使ったCTで診ると、左足付け根から動脈を15センチほど遡ったところで90パーセント狭窄していることが確認できた。左足へは最大、通常の7割ほどしか血が流れていない。これではビッコになるわけだ。

治療法は、脳梗塞や心臓梗塞と同じだ。血管の狭くなったところにカテーテルを挿し込んでフーセンで拡げるとか、バイパスを作るとか、etc。

8/23、心臓カテーテル室でカテーテル台に横になると、若くて美形の看護婦さんが何の躊躇もなくパラリとT字帯をはずし、左足の付け根周辺の陰毛を電気かみそりで刈る(剃毛という)。慣れたものだ。

局所麻酔の後、この治療では実績も多い腕利きの医師が、モニター画面を見ながらカテーテルを挿入。先端には、中心部に細くすぼめたバルーンを仕込んだステントがある。ステントはステンレスで出来た金網のチューブである。

これを狭窄部分まで持っていってバルーンを膨らますと、すぼめてあったステントの内径も同時に拡がって、狭窄した血管を見事に押し広げた。

ステントは内径8ミリ、長さ40ミリ。心筋梗塞の治療に使うステントは内径2ミリほどだから、それに較べると大型だ。治療時間は1時間ほど、治療費86万円、自己負担9万円ほどだった。

心筋梗塞でステントを使う治療法はよく知られているが、足の大動脈狭窄にステントを使うケースはまだそれほど多くない。

治療を受けた東京女子医大では、ステントを使った心筋梗塞治療が今年すでに数百件に上るのに対して、足に使った症例は筆者でまだ56件目だという。

下肢(足)へ行く動脈が詰まると、下肢が腐ってしまい、痛いだけでなく、命にかかわるケースもある。そうなると「命には代えられない」とやむを得ず下肢を切断しなければならなくなる。日本では毎年1万人以上が足を切断されているという報告もある。高齢化で症例は増えている。

足にもステントを入れるという治療法は、循環器内科ならどこでもやっているわけではない。リスクもある。医師の選択には慎重でありたい。

元京都大学心臓血管外科部長・米田正始(こめだまさし)医師を中心とする研究グループは新しい血管を作って下肢切断を救う「血管再生法」という試みを行なっていて、再生医学のひとつとして注目されている。が、成功症例はまだそれほど多くない。

「なんとなく足の先が冷たい」

これが、アラームだ。接骨院では治らない。歳は足にくる。専門の医師を選んで、治療を受ける必要がある。(再掲)

2018年01月03日

◆中国、さらに厳しい外貨持ち出し規制

宮崎 正弘

平成29年(2017)12月31日(日曜日)通巻第5562号   

中国、「旧正月」を前に、さらに厳しい外貨持ち出し規制
  ひとりの上限を5万ドルから1万5000ドルに

 旧正月を前にして、中国人の海外旅行はピークを迎える。
 
3年前まで、中国人の「爆買い」は世界に脅威の印象を与える一方で小売
業界は商機到来と捉えた。ホテルや、デパートばかりか、ドンキホーテな
ど、あらゆる店舗が改装し、中国語のできる店員を雇い、さらなるブーム
に備えた。欧米でも同じ対策をとった。

ところが、爆買いは「突然死」していた。銀座のブランド旗艦店を覗かれ
ると良い。店内がガラガラである。

外貨持ち出しが制限され、ATMから現地で引き出せる上限は一日に1万
元(約」16万円)、年間に5万元(80万円)となったのも束の間、2017
年12月30日に当局は、後者の上限を1万5000ドル(24万円)に制限すると
した(前者は据え置き)。

これっぽっちの上限枠では海外で食事をして、交通費などを考えると、土
産にまで予算は回らないだろう。1
年に1
回ていどしか海外旅行は楽しめなくなる。逆に言えば中国人の観光客が世
界的規模で激減するだろう。

日本でもすでにその兆候があり、かれらの食事場所は豪華レストランか
ら、吉野屋、回転寿司、立ち食い蕎麦、すき家などに移行している。

過去2年間の動向をみても、中国人ツアー客相手の免税店は閑古鳥、店員
は暇をもてあまし、地方都市(福岡、神戸、長崎など)でも、ホテルはが
らんとしている(クルーズ船が主流となったからだ)。カメラ店も、ブー
ムは去ったと嘆いている。

新しい外貨規制は、2018年1月1日から実施される。

中国政府の発表では、目的は(1)資金洗浄を防ぎ(2)テロリストへの
資金の迂回を止める。(3)脱税防止としている。

そんな表向きのことより(そもそもATMを使って利便性の高い現地通貨
を目的地で引き出す上限が1日16 万円ていどで、資金洗浄、テロ資金、脱
税などに転用される筈がないではないか)、本当の目的は底をついている
外貨を防衛することになる。

あれほどブームだったビットコインも中国では取引所が停止されたため、
突然ブームは去った。ビットコインは昨秋から日本に熱狂が移った(が、
そのうちの幾ばくかは在日華僑、日本人を代理人に立てた中国人投機筋だ
ろう)。


 ▼本当の目的は外貨流出防衛だ

拙著で度々指摘してきたことだが、中国の外貨準備、公式的には3兆ドル
と言っているが(このなかには1兆1000億ドルの米国債権を含む)、対外
債権の多くが「一帯一路」の頓挫が象徴するように、すでに不良債権化し
ており、あまつさえ共産党幹部が不正に持ち出した外貨が3兆ドルを超え
ている。つまり中国の外貨準備は事実上マイナスに転落していると推測で
きる。

かろうじて中国が外貨を取り繕えているのは、貿易によるドル収入と、海
外企業からの直接投資が続いているからだ。これでなんとかやりくりして
はいるが、予測を超えるペースで外貨準備が激減しており、今後も、この
動向は悪化してゆくだろう。

次なる対策として、おそらく中国は海外で購入した資産売却に走る。つま
り買収した企業、土地、不動産の売却である。

また同時に「上に政策あれば、下に対策あり」の中国人のことだから、別
の手口により新現象が併行して起こるだろう。

第1はヤミ金融、地下経済、偽札の横行が予測され、第2に外貨持ち出し
も、小切手や証券などの手口が使われ、詐欺的な新手口が見られるように
なるだろう。

第3にこれまで日本などで買ったローレックスなどを逆に日本に持ち込ん
で売却することも予測され、ダイヤモンドなど換金価値の高いものが逆流
することになるのではないだろうか。
          
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  樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1680回】           
――「早合點の上、武勇を弄ぶは、先ず先ず禁物とせねばならぬ」――(川田5)
川田鐵彌『支那風韻記』(大倉書房 大正元年)

    ▽

これまでも「各省で鑛山其他の物件を擔保に入れ」、いままた「軍隊解散
費及行政費の充つる爲」に借款に頼る。これに対し「列國は競うてこの借
款に應ずる」。その結末がどうなるのか。貸す方も、借りる方も、よくよ
く考えるべきだ。

「其五」=「中華民国は、どのくらいつゞくであろうか」。中華民国とは
いうものの、「極端に中央政府の權力の乏し」く、「各省毎に多大の實權
を有する共和政體で進む」しかないだろうが、それでは「國一國の體面を
取り直し、經濟上の基礎を鞏固にする」ことは「骨の折れる話である」。
各政治勢力が「何時迄も、内輪喧嘩するようでは、國内疲弊するばかりだ」。

中華民国崩壊は、日本にとって「一衣帶水を隔てた一大障壁を無くす」よ
うなもの。だからこそ「この際、多大の同情を以て、支那を研究する必要
がある」。だが、「書物の上で調べた支那大陸と、實地踏査した支那大陸
とは、著しく相違の點がある」。

やはり「孔孟の立派な學問は、日本に於いて、其の實を見ることが出來る
も、支那大陸では寧ろ有名無實の嫌がある」。「支那大國は、隣國であり
ながら、日本人に其眞相が誤解されてゐる」。これは、これまでの学者が
「或る程度の迄は、其責任を負はねばなるまいかと思ふ」。なぜ、いまな
お「日本人に其眞相が誤解されてゐる」のか。川田は痛憤する。

「支那に對しては、列國とも、其前途に就き、多少疑問を抱いて居
る」。日本人と違って「歐米人士は、支那の内地に入り、殖産興業上に關
し多大の研究を重ね」ている。だから、残念ながら「支那の現状を詳に研
究せんには、外人の著作を手に入れるより他」に便法はない。

ビジネスという「所謂平和の戰爭に、勝利を占むることは、今日の急務で
ある」からして、愛国心に富む商工業家が一念発起して、「特に江西・江
蘇・浙江・福建方面に、然るべき研究隊を派遣し、靜に實地調査に意を用
ひて貰ひたい」ものだ。

日本は、軍事力を頼って「干渉の下、無理に植民政策を施さんとせる獨逸
の不自然を學」ぶべきではない。日清・日露の両戦争で列強の関心が薄れ
た揚子江一帯に多額の資本を投じ、確固とした基盤を築いた「英國の態度
を、腹に入れてかゝ」るべきだ。それというのもイギリスは「武力もあれ
ば金力もあり、ゆったりとした中、抜け目のない、植民政策經驗に富ん」
でいるからだ。やはり日本は「抜け目のない、植民政策經驗」に乏し過ぎた。

なぜイギリスに学ぶべきか。ドイツ方式では、「元來恩を仇に持つ癖のあ
る支那人に、惡感情を抱かしむるばかりでなく、意外に、列國の非難を蒙
ることに陷らないとも限ら」ないからだ。

世界における日本の立場からして、「これから先は、どこ迄も落付いて、
公明正大の方針を採らねばならぬ」。「武勇を示して、商工業家を輔佐す
る位は、別に差支もなかろう」。だが、「早合點の上、武勇を玩ぶは、先
ず先ず禁物とせねばならぬ」。やはり「聲を小に、實を大とするは、最も
肝要である」。

この時から日本の敗戦までの大陸における日本の動きを振り返るに、総
じて言えることは「聲を小に、實を大とする」方式とは程遠かったように
思う。長い歴史と豊富な経験に基づく「ゆったりとした中、抜け目のな
い、植民政策經驗に富ん」だイギリスを筆頭とする諸列強の思惑に翻弄さ
れ、やがて悪辣・巧妙なスターリンに眩惑され、『四捨五入』するまでも
なく、「聲を小に、實を大とする」とは真反対に、声を大に、実を小で終
わった。

それにしても川田が学ぶべきではないと主張した「干渉の下、無理に植
民政策を施さんとせる獨逸」が、日中戦争中も、現在も、『友好裡』に対
中関係を推移させているカラクリは、やはり突き詰めて考えたい。たんに
ドイツが騙されているわけでもなかろうに。

それにしても「元來恩を仇に持つ癖のある支那人」とは・・・言い得て妙
である。
                       《QED》

◆日欧EPAで拓く日本の未来

                        櫻井よしこ


安倍政権の外交の巧みさを実感したのが、12月8日の日欧EPA交渉の妥
結だった。この日本と欧州連合との経済連携協定は、来年夏にも署名さ
れ、再来年春にも発効する。

ドナルド・トランプ米大統領は、12か国がギリギリの妥協を重ねてようや
くまとめた環太平洋経済連携協定(TPP)を、今年1月、いとも容易に
反故にすると発表した。これによって自由主義陣営の結束が危ぶまれた
が、今回の日欧EPAの合意には、TPP頓挫の負の影響を着実に薄める
力がある。

日欧EPAは世界の国内総生産(GDP)の約3割、貿易総額の約4割を扱
う。日本が参加する自由貿易協定(FTA)としては最大規模で、日欧間
貿易では最終的に鉱工業製品、農産品の関税がほぼ全廃される。

たとえばいま自動車輸出には10%の関税がかけられているが、これが協定
発効から8年目にゼロになる。韓国はすでにEUと自由貿易協定を結んで
いるため、関税ゼロで自動車や部品を輸出している。日本は10%の関税を
かけられる分、不利な闘いを強いられてきたが、これで対等に競い合える。

日欧EPAのこの条件は、アメリカも無視できないだろう。アメリカとは
TPPで2.5%の関税を25年目に撤廃することで合意しているが、それに
較べても、ずっと有利な協定を日本は勝ちとったのである。

自動車輸出では目に見える大きなメリットを日本は確保したが、EUから
の輸入について問題がないわけではない。キヤノングローバル戦略研究所
の研究主幹、山下一仁氏の指摘によると、EUの対日輸出では、ワインも
チーズも関税はゼロになるものの、チーズに関しては輸入枠をオークショ
ンで業者に売るために、価格は下がらないというのだ。

従って日本の酪農家にも影響は及ばない。本来なら、より厳しい競争に晒
されて日本の酪農産業の基盤を強化する好機とすべきだが、必ずしもそう
ならない。長い将来を展望するとき、日本の酪農産業はこのままでよいの
かという深刻な疑問が残る。

双方に大きなメリット

日欧EPAで日本の対EU輸出は約24%、EUの対日輸出は約33%増える
と見られ、双方に大きなメリットがある。だが、日欧EPAの意義はそこ
にとどまらない。より注目すべき点は協定の内容の透明度の高さにある。

たとえば知的財産の保護、電子商取引の透明性、鉄道など政府調達分野へ
の市場アクセスの拡大、サービス貿易、企業統治などがより公正なルール
で行われるよう、高い水準の規則が設けられた。中国やロシアが貿易や取
引においてルールの透明性を欠く国であることは、今更指摘するまでもな
い。彼らは力に任せて自国有利の状況を作り出そうとする。他方イギリス
はEUを脱退し、アメリカはTPPを否定する。

そうした中で達成された今回の合意は、自由貿易を後戻りさせてはならな
いという日欧の決意であり、今後の国際的メガ協定の先駆けとなる。これ
から起きるであろうアメリカの変化を予測すれば、今、安倍首相がしてい
ることは、自由主義陣営を支える経済活動のルールをまさに日本が主軸と
なってEUと共に作ったということだ。これからの世界の自由貿易を日本
が主導する可能性が強まったということなのだ。

次に日本が目指すべきはTPPの合意だ。トランプ大統領のTPPへの強
い忌避感は、氏が多国間協定よりも2国間交渉を好むからというだけでな
く、TPPは前任者のオバマ氏が手掛けたものだからと言われている。

感情的要因が強いのであれば、トランプ大統領を説得するのは非常に難し
い。それでも安倍首相がアメリカ抜きの11か国でTPPをまとめたら、或
いは、新たな要求を持ち出して異論を唱えるカナダを除いて10か国でまと
めたらどうなるか。

11月に、ベトナム中部のダナンで参加11か国の閣僚会合において合意が確
認された際、カナダの新たな強い要求があって合意は流れそうになった。
土壇場での変心を茂木敏充経済再生担当相は「こういうことを詐欺と言う
んじゃないか!」と怒ったそうだが、安倍首相は、カナダ抜きの10か国で
も合意を成立させ、年明けにも署名式を行う方針だ。

それが実現した場合を山下氏が予測した。

「TPPが成立すれば、日本はオーストラリアの牛肉を9%の関税で輸入
することになります。他方、TPPに入らないアメリカの牛肉には38.5%
の関税が続きます。明らかにアメリカンビーフは不利です。マーケットか
ら排除されかねない。乳製品でも小麦でも、その他でも同じことが起こり
ます」

豚肉も小麦も

氏はさらに続けた。

「アメリカは日欧EPAの影響も受けます。豚肉も小麦も、TPPで起き
る現象と同じようなことが次々に起きると言ってよい。トランプ大統領が
どれほどTPPはいやだと言っても、アメリカの国益を考えれば入らざる
を得なくなります。逆にアメリカが入れて欲しいと言う立場に立たされる
でしょう」

TPPはオリジナルの12か国が参加すれば世界のGDPの約38%を占める
規模だ。アメリカ抜きなら約13%、カナダも抜ければ約11%である。それ
でも日本が主軸となってまとめるのは、前述したように大変重要な意味が
ある。

実利面からアメリカも参加せざるを得ない場面が生ずることに加えて、自
由主義陣営の大事な価値観を守り抜く意味合いがある。何と言っても、自
由貿易、公正なルール、民主主義、国際法による問題解決などといった価
値観を尊重する国々のメガFTAが、ふたつ出来るのだ。合わせると世界
貿易の約半分が、透明性の高いルール圏で取引されることになるのだ。

日欧の今回の合意内容は、中国が世界に発信した彼らなりの経済のあり方
とは明確に異なる。中国は10月の共産党大会で、人口13億人以上の社会主
義大国を指導するには国民全員が優れた本領を身につける必要がある、優
れた本領はマルクス主義の学習によって養われると宣言した。党の指導を
徹底させるために、外国資本の民間企業も含めて、企業内に共産党の支部
を設けよと指導する。

すでに外国企業の70%が共産党の「細胞」組織を設置しており、各企業の
情報は中国共産党に筒抜けになっていると考えた方がよい。知的財産の窃
盗も含めて、何でもありの経済体制が中国で公に強化される傍らで、日本
主導の日欧EPAが合意に至ったのだ。非常に心強い。

安倍首相は、いまこそ、自らの考える地球儀を俯瞰した外交戦略を推し進
めるのがよい。そのときに、忘れてはならないのは、経済活動にも強さが
必要で、憲法改正こそが全ての根本にあるという点だ。
『週刊新潮』 2017年12月21日号v日本ルネッサンス 第783回

◆歳は足にくる(前) 

                            石岡 荘十


学生時代から体育会系で足腰には自信があるつもりだったが、古希を過ぎる頃から歳が足にきた。

ことの始まりは、高校の友人と花見がてら玉川浄水伝いの小道を小金井公園まで数キロ歩いたときだった。暫く歩くと左足がだるく、重くなって思うように歩けない。しばらく(数分)休むと回復してまた歩けるようになるのだが、また、だるく重くなる。

こういうのを間欠性跛行(かんけつせいはこう)といい、腰部脊柱管狭窄症の典型的な症状だとされている。跛行とはビッコを引くということだ。

人間の脊椎骨は上から頚椎(7個)、胸椎(12個)、腰椎(5個)、仙骨(1個)、それに数個の尾骨から成っている。脊椎骨の中心を走る脊柱管の中に神経の柱がある。

一つひとつの脊椎と脊椎の骨の間には椎間板というクッションの役割を果たす軟骨組織がある。そしてさらにこれらは靭帯や背筋などの筋肉で支えられている。

ところが、40代後半になってデスクワークが増えたせいか、足に痺れや傷みが来た。背筋が脊椎を支えきれなくなって5番目の腰椎がずれていると診断された。それから、少なくとも一キロ/週、泳ぐ習慣をつけて今日に至っているので、重い足を引きずってビッコを引くようになろうとは思いもしなかった。

脊柱管狭窄症、つまり神経の管が腰のところで狭まっている疑いがあるとのことで、腰のレントゲン、さらにMRIを撮ってみると、確かに、5番目の腰椎がずれている。が、神経には触っていないことが確認できた。脊柱管はどこも狭くなっているところはない。

しかし、MRIをよく見ると、3番目と4番目、4番目と5番目の間の椎間板がほかの椎間板より白く写っていて、炎症を起こしていると認められ、そのせいでごくわずか椎間板がはみ出して、脊柱管を押している。

治療法としては、腰椎を引っ張る、固定装具を使う、消炎鎮痛剤や飲み薬を使う、重症でそれでもダメなら外科手術をするということになる。みのもんたさんは手術をしたといわれるが、そこまでひどい症状は患者の一割程度だそうだ。

私の場合は軽症で、椎間板の炎症は飲み薬でなおる、ビッコの原因はほかにあるというのが整形外科医の診断だった。

では、ビッコの原因は何か。

考えられるのは、足に血液を供給する血管、動脈がどこかで狭くなっていて、栄養補給が足の筋肉の運動量に追いつかない動脈硬化ではないかと循環器内科の医師は考えた。

これを立証するのが、「血圧波検査」だ。両腕、両足に幅広のベルトを巻いて一斉に血圧を測定する検査法である。この検査をすると、動脈の詰まり具合と動脈の硬さ(柔軟性)がわかる。

結果は、左足だけが標準値に達していない、(専門的には「閉塞性病変の疑い」という)左足の血流は右足の7割しかないことが分かった。左足へ行く動脈のどこかが詰まっていた。

血流が詰まる動脈硬化は典型的な加齢疾病だ。脳の血管が詰まれば脳梗塞になるし、心臓の血管(冠動脈)が狭くなると、狭心症や心筋梗塞になる。私の場合は足にきたというわけである。

治療法は、脳梗塞や心臓梗塞と同じだ。血管の狭くなったところにカテーテルを入れ込んでフーセンで拡げるとか、バイパスを作るとか、などなど。

診療科の選択は大事だ。教訓は、大雑把に言うと、足が「痛むとき」は腰の神経になにかが触っているのだから、整形外科へ、「だるい・重いとき」は循環器内科へ、である。

多くの病気は、原因が分かり適切な治療が行なわれれば治るし、治療が適切でなければ治るものも治らない。癌の多くが治らないのは、原因が分かっていない。原因はわかっても治療法がそこまでいっていないか、誤った治療法がまかり通っているためだ、と私は思っている。

いわゆる「難病」といわれるものは、原因が明らかでなく、従って治療法もわからないものをいう。

と、考えると、足がだるくなる間欠性跛行は難病ではない。脳や心臓の梗塞と同じ加齢疾病だと考えればいい。治療法はあり、医師を選び抜けば高い確率で治る。調べてみて“悲観”は飛んだ。

ただ、このような治療法は対症療法に過ぎない。創造主に逆らって老いを押しとどめる智恵はヒトにもない。例外はない。

ガキは頭にくる、なにかというとキレるらしいが、歳は足にくる。(続く)



2018年01月02日

◆台湾民進黨の沈没?

Andy Chang

民主主義は独裁よりましと言うが、民主主義で自由があれば言論や主張が
多くなるので、俗に言う「百花斉放」となって政治が纏まりを失う。言論
主張には善いのも悪いのもある。メディアはどんな勝手な放言でも報道す
るので、結果として民衆を惑わせ政治はサヨクに偏る。

台湾の民主主義はまだ初歩の段階で、言論が自由になったとは言え、国民
党の洗脳教育を受けた民衆は中国に対する認識が曖昧だ。在台中国人と
中国スパイの思想侵略が影響して打倒国民党の主張が空転している。

中央社が発表した調査によると、民意調査で民進黨の好感度は11月の
32.1%から12月の30.7%に下落し、反感度は45.3%から47.8%に上昇した。そ
して国民党の好感度は11月の26.5%から12月の3.6%に上昇し、反感度は
47.8%から12月の45.1%まで下がった。

両党の好感度はほぼ同じなのに、民進黨に対する反感度が国民党に対す
る反感度より高いとは驚くほかない。

この状態が続けば2018年の中間選挙で民進黨が敗北し、更に2020年の統
一選挙で国民党が政権を取り戻すかもしれない。

蔡英文総統が現状維持を厳守しているため外交、内政、ともに進展がない
のが人民の失望の主因だ。中国の爆撃機が毎日のように台湾の周囲を飛
行し、中南米でコスタリカとパナマが断交しても抗議できない。金融汚
職、海軍の軍艦汚職が起きても調査が有耶無耶でいずれ闇に葬られるかも
しれない。

現政権の無能は国民党時代とあまり違わないと人民が思うようになった。
こんな時に民進黨は中間選挙の候補者が選挙運動に明け暮れている。民
進黨は政治よりも選挙を重視している。しかし民衆が離反すれば選挙は負
ける。中間選挙で国民党が勝てば2020年の総選挙に大きく影響する。

●失策が多すぎる民進黨政権

台湾人民は民進党政権が台湾に大きな変化を齎すことを期待していた。と
ころが新政権は外交面でも内政面でも失策や無策が多すぎ、民進黨を見
放すようになった。この2年間に起きた大きな事件が3つある。

2016年8月にパナマ文書が公開され、兆豊国際商業銀行のニューヨーク支
店が米当局から銀行秘密違反で1億8000ドルの罰金を課された事件が起
きた。台湾では台北地方法院検察署が調査に乗り出した。台湾の政界人物
や企業などが兆豊銀行を使ってマネーローンダリングでニューヨーク支店に
送金したあと世界各地のタックスヘイブンに秘密口座を作った事件である。
事件から一年半も過ぎたのに誰も処罰されていないし新聞も報道しなくなっ
た。汚職した金をタックスヘイブンに入れた人物の名前、金額などは発表さ
れていない。蔡政権は国民党の大物を処分する能力がないのだ。

今年秋の慶邦造船会社の掃雷艦汚職疑惑も2か月ほど騒いだ結果、海軍
は慶邦の契約を破棄しただけで、汚職に関わった人物の調査結果がわから
なくなった。立法院調査委員会の最新報道によると、委員会が海軍に掃雷
艦の資料を要求しても海軍側は「機密資料はみんな検察署が持って行っ
た」と答えたのみで、資料がないので委員会は調査報告も書けないと言う。
検察署は関係者を起訴せず闇に葬ってしまうかもしれない。この事件は海
軍(チンパン)の人物が絡んでいる事件で本気に調査すれば台湾海軍と中
国の秘密関係がハッキリするはずだが台湾の検察はやる気がない。

もう一つの事件は外交部が二日前に発表した新パスポート発行の失敗であ
る。新しいパスポートを作成したけれど、パスポート内のビザページに印
刷された桃園空港(第一ターミナル)の写真を間違えてワシントンのダレ
ス空港の写真を使ったのだ。元を糺せばダレス空港をソックリ真似たター
ミナルを作ったから間違いが起きたのだ。

パスポートのデザインは外交部の職員から主任、外交部長、印刷会社の責
任者などたくさんの人が審査したのに、誰も間違いに気付かなかったと言う。

政府は新パスポートを50万冊作り、すでに20万冊を発行したと言う。間違
いに気が付いた外交部長は既に発行した20万冊を全て取り返して再発行す
ると発表した。政府はこの事件で50億元(約150億円)の損失を計上した
と言う。このようなことが起きるとはまったく呆れた政府だ。

●民衆の失望と彷徨

國民黨政権は無能で汚職が酷かったから民進黨政権になって民衆は大い
に期待した。ところが新政権が発足して2年経っても事件が続出し、転型
正義は口先だけである。こんな具合では国民党政府とあまり違わないと人
民が失望すれば再び政権交代が起きるかもしれない。

大部分の台湾人は国民党政権の再来を拒否するから失望しても国民党に
投票しないはずだが、民進黨に失望した人が多ければ政権を失うかもしれ
ない。そうなったら民進黨の沈没となる。

●民進黨の沈没?

民進黨の沈没は蔡英文の現状維持と民進黨員の責任である。中央社の民
意調査によると民衆は蔡英文と民進黨に失望して国民党に好意を持ち始
めている。更に今回の調査では若年層と高学歴の民進黨離れが起きている
ことがわかったと言う。国民党政権は台湾独立に絶対不利である。民進黨
に失望しても国民党を再起させてはならない。

これは中華民国を打倒するチャンスである。民進黨の沈没が独立運動を加
速する。民進黨の敗退で台湾独立に期待したい。

民進黨は中華民国制度を維持し2大政党政治を理想として国民党を温存
する政党だ。民進黨は台湾独立を阻む政党、政治より選挙を重視するだけ
の政党である。民進黨が敗退しても恐れることはない。

昔のことだが、2000年の総選挙で陳水扁が政権を取ったあと、アメリカ政
府が陳水扁に「四不一没有」で現状維持を強要したため陳水扁政権は困難
を極めた。私が「台湾丸の沈没?」を発表したのはその年の秋だった。今
の台湾は当時の状況と似ている。2020年の総統選挙で国民党が勝てば民進
黨は沈没する。その前に中華民国を倒して独立を達成すべきである。
(在米台湾人地球物理学者)

◆戌年は大波乱、平成30年(2018年)予測

                    宮崎 正弘

平成30年(2018)1月1日(月曜日)通巻第5563号   

 戌年は大波乱、平成30年(2018年)予測
  トランプ中間選挙勝利、安倍首相悠々3選。朝鮮戦争の危機高まる

新年は目出度くもあり、目出度くもなし。
 
戌年は歴史的にみても大変化が繰り返されてきました。とくに本年は戊
戌。国際情勢は大荒れになりそうです。

米国は利上げ観測が高まり、株価は低迷傾向が前半期から顕著となり、逆
に日本株は上昇機運、日経平均は2万6000円台をうかがう地合が形成され
ています。

「安倍一強」は変わらず、おそらく戦後歴代首相の長期記録を塗り替える
でしょう。

習近平は前半期までやや安泰かも知れませんが、後半、経済の直滑降大暴
落が始めれば、フルシチョク的解任へ向かって高層部の権力闘争が激化
し、暴走が始まる兆しも否定できず、したがって中国は対外矛盾に外交を
転回し、北朝鮮か、尖閣諸島を狙った「小さな戦争」をおっぱじめる危険
性があります。

米国トランプ政権は日本のメディアが予測することとは逆に地盤が固まっ
ており、共和党主流派も、彼を引きづり降ろそうとするより秋の中間選挙
勝利に向けて陣営の立て直しをやり始めるでしょう。

トランプの支持率は回復気味です。エルサレムへの米国大使館移転があた
らしい波紋を呼ぶとはいえ、すでにイスラエル・パレスチナ紛争は地域限
定、世界史の視点からは大きく外れており、焦点はシリアからトルコ、レ
バノン、イラク、そしてイランに移っています。

厄介なのはBREXIT以降のEU諸国の亀裂、その方向性が不明となり
ました。

ドイツがいまだに連立政権を組めず、ひょっとして総選挙やり直しとなれ
ばメルケル退陣が射程に入ってくる。

シリア難民は「ゲルマン民族の大移動」の如しであり、トルコが300万人
を引き受け、セルビア、ハンガリーなどが国境を封鎖したため下火とは
いえ、こんどはアフリカからの難民が南欧に押し寄せており、引き続き
EU諸国の難題であり続けるでしょう。
 

 ▼欧州の団結がささくれだってきた

住民投票で独立賛成が過半をしめたバルセロナ中心のカタロニアは、選挙
やり直しの結果、またも独立賛成が多数となり、スペイン政府はなす術も
なく悄然となって、フランスもオーストリアも、イタリアも保守系政党が
大躍進、EU統合への亀裂がますます鮮明化しています。

オーストリアとオランドには保守政権が誕生し、ポーランド、ハンガリー
は明確に移民政策でEU主要国と対決し、つぎにバルカン半島に目を転ず
れば、セルビアとボスニアヘツェゴビナとの国境付近で停戦以来の「地域
独立」、もしくはセルビアへの編入をめぐる戦争が勃発する可能性がある
とTIMEが予測しています。

ロシアはすでに有力な対立候補がなく、プーチンは大統領職にとどまるば
かりか、シリアで確立された世界史的プレイヤーの位置をさらに強靱なも
のとして、中東政治に介入してくるでしょう。

とりわけ、ロシアートルコーイラン枢軸の形成を政治的に留意すべきです
し、サウジが呼びかける対イラン包囲作戦にエジプトとUAEがどの程度
関与するか。

かようにして欧州の団結がささくれだってきました。
 
朝鮮半島問題は日本の核武装議論を覚醒し、アメリカは日本に核保有を促
す人が増えており、日米安保条約の改定にむけての基盤醸成がなされそう
です。

北朝鮮は挑発行為を止めない限り、いずれアメリカのミサイル攻撃を受け
ることになりそうで、ここにロシアが絡み、中国が別のシナリオで行動す
るとすれば、下手をすれば第二次朝鮮戦争への口火をきることになりかね
ません。

ことほど左様に戊戌の年は、国際情勢波瀾万丈です。
         
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書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIEW
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 幕末維新から日清日露、日本のダイナミックな歴史を裁断しつつ
  自衛力のない日本外交は福沢諭吉の警告を忘れていないかを問う


渡邊利夫『決定版 脱亜論』(育鵬社)
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一年の計は元旦にあり、まさにそれを考えるにふさわしい書が、本書である。

題名から判断すると、一見、福沢の警告本『脱亜論』の現代訳と解題の本
かと誤解しそうである。

ところが本書はまったく異なっての戦略的思考書であり、福沢諭吉の思想
と、その執筆動機となった同時代の国際的状況を、現代日本の立ち位置を
対比されながら、渡邊氏は我が国の自立自尊の原則的なありかたを追求し
ている。

同時にこの本は渡邊氏の現代史解釈であり、そのスピード感覚、パノラマ
的叙述の展開におけるダイナミズムもさりながら、基礎に横たわる確乎た
る愛国心を読者は発見するだろう。

主眼は下記の訴えである。
 
「外交が重要であるのはいうまでもないが、弓を『引て放たず満を持する
の勢いを張る』(福沢諭吉『脱亜論』)、国民の気力と兵力を後ろ盾にも
たない政府が、交渉を通じて外交を決することなどできはしない、と福沢
はいう。極東アジアの地政学的リスクが、開国・維新期のそれに酷似する
極度の緊迫状況にあることに思いをいたし、往時の最高の知識人が、何を
もって国を護ろうと語ったのか、真剣な眼差しでこのことを振り返る必要
がある」。

しかし。

現代の状況を見渡せば、日本は国家安全保障を日米同盟に好むと好まざる
とに関わらず依拠し、しかも歴代自民党が、あまりに依存度を深くしすぎ
て独立の気概を忘却の彼方に置き去りにしたが、本質的な情勢把握ができ
ている中国は、この日本の脆弱性がどこにあるかを知悉している。

だからこそ、と渡邊氏は続ける。

「中国が、東アジアにおいて覇権を掌握するための障害が日米同盟であ
る。中国は、みずからの主導により東アジア秩序を形成し、日本の外交ベ
クトルを東アジアに向かわせ、そうして日米離間を謀るというのが中国の
戦略である。日本が大陸勢力と連携し海洋勢力との距離を遠くすれば、日
本の近代史の失敗を繰り返すことになる」(236p)。

たしかに外交の裏付けは軍事力、情報力だ。
 
この2つを欠如する日本が、アジアの暴力国家群と渡り合えることはあり
得ず、北朝鮮の挑発、韓国の暴発、中国の『アジア的暴力』に対抗するに
はどうしたらよいのか、自ずと結論は見えている。

渡邊氏はアジア全般の経済に関して造詣が深い学者であるが、いまの中国
を、次のように簡潔に概括されている箇所があり、大いに参考になった。

「古来、中国に存在したのは封建制ではなく、郡県制である。全土をいく
つもの郡にわけ、郡の下に県をおき、それぞれの郡と県を中央の直下にお
いて、その統治は中央から地方に派遣された官僚によって一元的になされ
るという、皇帝を頂点とする古代的な官僚政治体制が一貫して踏襲されて
きた。朝鮮の王朝は中国のコピーだといっていい。郡県制は、封建制とは
対照的な中央集権的で専制的な統治機構にほかならない」(12p)

まさに中国の政治体制は、いまもこの原則が機能しているばかりか、じつ
は中国の軍隊制度も同じなのである。すべての軍区が中央軍事委員会直轄
となって、習近平皇帝直属の軍隊と組織図的には編成替えされているので
ある。

とはいえ、地域的軍閥がなぜ危機になると生まれるかは、じつはその弊害
の反作用であり、中央の強圧的求心力が弱まると、自らが遠心力に便乗し
得独自的行動を開始する特徴がある。
 念頭に読んで、大いに参考となった。

      

◆健康百話 乳がんの治療

小川 佳成(医師)

乳癌の治療法は、病状や進行度、あなたの全身状態を考慮して決まります。治療には主として、手術、放射線治療、抗癌剤(抗ホルモン剤を含む)治療があります。

病状の進んでいる方には抗癌剤治療が優先されますが、通常は手術を行い、その後再発予防のための抗癌剤治療を行います。

【手術】
手術には主として、1.乳房切除、2.乳房温存手術があります。腫瘍の大きさや広がり具合などにより術式を選びます。当大阪市立総合医療センターでは、半数以上の方が乳房温存療法を受けられています。
 
乳癌の手術では転移の有無に関わらず、癌の根治・予防のためにわきの下のリンパ節を全部取り除くこと(リンパ節郭清といいます)が標準的に行われてきましたが、リンパ節郭清をすると術後に腕がむくみやすい等の症状が残ります。

そこでわきの下のリンパ節転移がないと予測される方を対象に術後の症状を軽減するために、センチネルリンパ節生検という方法を用いた、腋窩(わきの下)リンパ節郭清を省略する術式が行われるようになりつつあります。当センターでは6割の方がこの術式を受けられています。

【放射線治療】
乳房温存手術を行った場合には、残った乳腺での再発を抑えるために乳房に対する放射線治療を術後に行っています。治療期間は5〜6週間でこの治療により乳腺内での再発は2〜3%以下に抑えることができると考えられています。

【抗癌剤治療】
切除した癌の性格を詳しく調べて、術後の抗癌剤治療の必要性とその内容を決めます。これらの治療で再発の3〜4割を抑えることができるとされます。抗癌剤治療は充分な副作用対策をして外来にて行っています。

【乳房再建】
乳房切除後の乳房再建は形成外科にて行っています。当センターでは、術後1〜2年を過ぎ、治療が一段落してからの再建をお勧めしています。

乳癌の治療は5〜10年ごとに大きく進歩しています。当センターでは、“あなたがより良く生活していくために治療があるのだ”という想いのもとに、各分野の専門医が協力し合い乳癌の治療に当たっています。  
<大阪市立総合医療センター 外科>