2017年04月09日

◆トランプは韓国への核配備に本気のようだ

杉浦 正章



日本は非核三原則論議再燃か


 米中会談はきわどいやりとり


日本の報道では何やら歯切れが悪く平行線をたどった米中首脳会談であったように見えるが、トランプと習近平の間では北朝鮮の核ミサイル対策でかなり激しいやりとりがあったようである。より深刻な対応を迫られている韓国の報道を見れば、トランプは戦域高高度防衛ミサイル(THAAD)配備について「韓国に対して報復措置を取らないように求めた」(東亜日報)という。これに対し習近平はTHAAD配備に反対するとともに、米韓軍事演習について「軍事的圧力を停止すべきだ」と逆襲している。かなりきわどいやりとりである。


一方、トランプが「中国がやらなければ米国が独自の行動について準備が出来ている」と伝えたことについて、軽佻(けいちょう)浮薄なる民放テレビのコメンテーターらが「すわ軍事行動」とばかりに騒いでいるが、そうとは限るまい。軍事行動の前に行いそうな最大の一手は、韓国への戦術核配備であろう。韓国に核配備する以上、トランプが日本にも有事の際の核持ち込みを求める可能性がないとは言えまい。極東情勢の激変で非核三原則の是非について、国会での議論が再燃する可能性もある。
 

首脳会談を経て米国はここ当分は中国の北への動きを注視することになるだろう。会談のポイントはトランプが習近平の尻をたたいたことにあるからだ。米中首脳会談を狙ってシリアへの巡航ミサイル攻撃を断行、国家安全保障会議(NSC)に韓国への核配備を提言させるなどどぎつい対中圧力を展開したトランプは、中国がこれに促されて北に対して行動を起こすかどうかを見守るのだろう。起こさなければ、矢継ぎ早に対策を打つだろう。


既に下院が可決した北のテロ支援国家再指定を実行に移し、北と取り引きする第3国の企業・個人への制裁、同盟国のミサイル防衛網の整備などをちゅうちょなく打ち出すであろう。そしてその白眉とも言えるものが韓国への戦術核の再配備である。
 

トランプは就任後国家安全保障チームで韓国に核を配備して北への“劇的な警告”を行うことを検討してきた。これを習近平の訪問を待っていたかのようにNBCテレビにリークして「米国家安全保障会議(NSC)が在韓米軍への核兵器の再配備をトランプ大統領に提案した」と報じさせた。グアムに配備している戦略核はミサイルや爆撃機でいつでも使用できるから、韓国への配備を検討するのは戦術核であろう。戦術核とは局地戦で使用するもので、戦場単位で通常兵器の延長線上での使用を想定した核兵器である。


かつて在韓米軍は核弾頭を装着できる地対地ミサイル「オネスト・ジョン」と280ミリ核大砲、空中投下核爆弾、超小型破壊用特殊核爆弾などを搬入した。しかし、冷戦終了への流れがはっきりしてきた1991年、ジョージ・ブッシュが軍縮計画に添って、これらの戦術核兵器を朝鮮半島から撤収した。現在、北大西洋条約機構(NATO)では、5ヵ国の米空軍基地6ヵ所に戦術核兵器約150〜200個が備蓄されている。核兵器の再配備先としては、ソウル南方にある烏山(オサン)空軍基地が候補に挙がっている。タイミングとしては金正恩が6回目の核実験をやった直後かもしれない。
 

トランプのNSCは、金正恩の臆面もないミサイル打ち上げと核開発で、極東が核危機の状況になりつつあると見ており、韓国への核配備は戦略上も欠かせなくなってきたと判断したようである。韓国内は5月9日の大統領選挙に向けて保革伯仲の戦いが展開されているが、この戦術核配備が争点になりつつある。「核武装」すら主張する与党保守勢力は歓迎しており、文在寅など野党候補は反対している。選挙結果は配備に影響するかもしれないが、トランプは選挙に関わりなく配備する構えのようだ。
 

こうして昔懐かしい核の傘論や非核三原則論が日本でも活発になるだろう。「造らず、持たず、持ち込ませず」の非核3原則は佐藤内閣時代から「国是」となっている。佐藤栄作は1967年衆院予算委員会で「核は保有しない、核は製造もしない、核を持ち込まないというこの核に対する三原則のもとにおいて日本の安全はどうしたらいいのか、これが私に課せられた責任でございます。」と答弁、非核三原則を表明した。2006年には安倍が衆議院予算委員会で「我が国の核保有という選択肢は全く持たない。非核三原則は一切変更がないということをはっきり申し上げたい。」と堅持を表明している。
 

重要なのはこの非核三原則があるかぎりアメリカは安心であるということだ。なぜなら「造らず」「持たず」があるかぎり日本の核武装はなく、米国の世界戦略は安泰であるからだ。経緯を知らないトランプが「持ち込みくらいいいだろう」と言い出さないとも限らない。しかし非核三原則は一体であり、持ち込むとなれば大きな反核闘争を巻き起こし、死に体のようになっている民進党と、共産党を利するだけということになる。よほどの有事になれば別だが、今のところは平時だ。平時に波風を立てる必要はない。有事にはどさくさに紛れて持ち込むことも可能だ。

<<今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

◆中国の野望を封じる強固な日米同盟

加瀬 英明



トランプ政権が発足してから2か月余りが過ぎたが、まずは順調である。

オバマ政権が中国という巨龍をしつけることを怠ったために、中国が我
が物顔に振る舞って、太平洋諸国を脅かし、南シナ海に7つの人工島を造
成したが、トランプ政権が強面(こわもて)をしているために、中国が尻込
みして、守りの姿勢をとるようになった。

メキシコとの壁は、クリントン政権のもとで建設がはじまって、オバマ
政権が半分までつくっていた(なぜか、日本のマスコミはこの事実を報じ
ない)が、トランプ大統領の過激な発言によって、メキシコから流入する
不法移民の数が、激減している。

アジアにおける最大の不安定要因は、中国と北朝鮮である。中国は太平
洋の覇権を握ろうとして、南シナ海を埋め立てて、人工の要塞島をつくる
かたわら、大海軍を建設に狂奔して、太平洋に“海の万里の長城”を築こう
としている。

それに対して、トランプ政権は日米同盟を中核に据えて、アジア太平洋
諸国とともに、中国の野望を閉じ込める“長城”をつくって、対抗しようと
している。

トランプ政権が発足してから、アメリカの株式市場が活気づいている。

泣きべそをかいているのは、政権を失った民主党だ。

トランプ大統領は国内製造業の保護、工場労働者の職を守る、10年間 で
10兆ドルという壮大な投資を行うことによって、大規模なインフラ整 備
を進めることを約束して、本来なら民主党が行うべき政策を奪ってし
まった。

昨年の大統領選挙では、民主党の伝統的な地盤である労働者層(ブルー カ
ラー)が、トランプ候補にこぞって投票した。民主党はこれまで巨大な 労
働組合組織によって、しっかりと支えられてきたのに、労働貴族となっ
た組合幹部だけが、ヒラリー夫人を支持した。

民主党は、新聞、テレビの大手マスコミ、有名大学の知識人、インテリ
層などのエリートによって支えられてきたが、トランプ候補に喝采する、
下積みの大衆の軍門に降った。

民主党はトランプ大統領によって夢を奪われて、意気沮喪しているだけ
ではなく、ヒラリー夫人のあとを継ぐ者が、1人もみあたらない。頭部を
切り落されてしまった鶏のように、意味もなく走りまわっている。

昨年の大統領選挙で負けたのは、ヒラリー夫人だけではなかった。“朝 日
新聞的良識”を代表するニューヨーク・タイムズ紙をはじめとする大新
聞、知的体制(エスタブリシメント)の意見しか代弁しない大手テレビも、
あげてヒラリー候補を応援したために惨敗した。

トランプ大統領が大手マスコミを懲らしめるために、マスメディアと
はっきりと敵対し、新聞にも、大手テレビにもよらず、ツイッターを使っ
て見解を表明しているために、大手メディアは深い傷を負うようになって
いる。大手メディアの社員は、庶民よりもはるかに高い収入をえて、大衆
を見下してきた。

このために、国民の大手メディア離れが進んでいる。大手マスコミは2
度と立ち上れないのではないか。

アメリカの大手メディアが捲き返しをはかって、トランプ叩きに血道を
あげている。日本の大手マスコミも、直感的に同病相憐れむことを覚っ
て、ことあるごとにトランプ叩きに耽っている。

トランプ大統領は安倍首相が2月に訪米すると、手厚くもてなした。メ
ルケル首相、オランド大統領が精彩を失い、キャンベル首相が昨年失脚し
たあとで、安倍首相が世界で抜きん出た政治家となっている。それにアメ
リカがアジアで頼れる国は、日本しかない。

日本の大手テレビが番組で、2月の日米首脳会談に当たって、「安倍首
相が手玉に取られたのではないか」といったが、属国根性丸出しで、卑し
いとしかいえない。

もっと、日本に自信をもってほしい。


◆米中首脳会談はひとつの成果もなく

宮崎 正弘 



<平成29年(2017)4月9日(日曜日)通算第5260号>   

〜米中首脳会談はひとつの成果もなく、事実上は失敗
  トランプ記者会見で、米中会談に一言も触れなかった〜

フロリダ州パームビーチのトランプ別荘は中世ヨーロッパの古城のような
風格、空から見ると、まるで軍事要塞でもある。役者2人は、表面的にニ
コニコしながら、一応握手もしたが、習近平の緊張ぶりは画面にもでてきた。

夕食会の冒頭、トランプは「個人的な関係は深まった。合意に到らない点
もあったが、概ね良好な関係を築けたと思う」とだけ発言した。
中国側の出席者の顔は引きつった人が多い。

夕食会の出席メンバーを一瞥すると、この首脳会談に両国とも相当な心づ
もりで臨んでいることが分かる。

とくに通商が第一議題とばかりに、米国はムニューチン財務、ロス商務が
左脇を固めた。2人おいてバノン顧問。右脇にティラーソン国務、マティ
ス国防は当然にしてもプリーバス、端っこがクシュナーと3人の大統領顧
問全員が列席しており、トランプ政権の中枢は誰々が握っているかの権力
状況が把握できる。

中国側も王洋副首相(米中戦略対話責任者)が習の左を固めた。右には王
炬寧、栗戦書、劉?らの経済ブレーンばかり。軍からは房峰輝参謀部長、
鐘山・商務大臣が隅っこに。外交関係では王洋のとなりに楊潔チ国務委
員、ひとりおいて王毅外相という布陣だった。

この陣容から判断できることは習近平の外交政策最高意思決定レベルが、
奈辺にあるか。とりわけ団派の王洋が出席していること。軍からは国防大
臣や中国軍事委員会副主任らをさしおいて、房峰輝が出席していることは
留意しておくべきだろう。

中国側はトランプの過去の発言からして貿易不均衡、為替操作などきつい
要求が出ることを警戒し、万全の体制で臨んだと考えられるが、結果的に
一つの成果もなく、会談後、中国の記者が嘆息したように、「トランプの
記者会見はシリア問題だけ、米中首脳会談には一言の言及もなかった」のだ。

北朝鮮問題でいかなる議論が交わされたのかは明らかではない。「北の核
開発は脅威であり」「レッドラインを越える状況にある」という2点が共
通の認識とされたが、あとはお互いの腹の探り合いだったようだ。また儀
礼的に習近平の招待に応じ「年内の訪中」が合意されたが日程は未定とさ
れた。

習近平は会談後、さぞ肩を落として中国へ帰る飛行機に乗ったことだろう。
           
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書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評BOOKREVIEW 
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 ♪「仰げば尊し」の美談に隠れてきた台湾原住民の過酷な運命
 清軍と戦い、日本統治に反旗、のち協力。やがて国民党がやってきた

   ♪
菊池一隆『台湾北部タイヤル族から見た近現代史』(集広舎)
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それにしても、いまのような享楽的で刹那的な時代に、こういう地道で真
摯な研究書を出版する良心的な書店があるというのは驚きである。
 
版元の集広舎は、これまでにも一般読者とはあまり縁のなさそうな分野
の、たとえば、文革や南モンゴルの近現代史の研究書を多く出されている
が、本書は台湾の少数民族というより原住民の苦難の歴史を綴った珍しい
本である。

なんの偶然だろう、評者(宮崎)が、本書を手にする前夜、来日中の許世
偕(元駐日大使)を天ぷらをつつき、酒を飲みつつ、様々な話題を語り
合っていたのだが、本書に出てくる国民党の228事件以後の「白色テロ」
の詳細についても話題が及んでいた。その話が後半に出てくるのだ。

読み進んでいくと、許世偕氏の名前もでてくる(75p)。氏は『土匪』の
反乱を3つの期間にわけて研究されている。

さて、日本人がおおいに台湾原住民を誤解したのは、下関条約で割譲を受
けて以来の公民教育が「うまく行っていた」という神話の類いからだろ
う。たしかに日本人教師は懸命に台湾の子供達を教えて、貧乏な子には弁
当もわけて、家族のように育てた。

いまから20年ほど前まで、そのときの台湾の教え子らが来日すると、恩師
を招んで半世紀ぶりの同窓会、謝恩会をほうぼうで執り行い、評者も何回
か招かれたが、最後にでてくる歌は「仰げば尊し」と涙だった。

日本の統治時代、台湾原住民を日本の当局は7種族に区分していた。
 タイヤル族、サイセット族、プヌン族、ツオウ族、パイアン族、ヤミ
族、アミ族。これらを総称して「高砂族」と言っていた。

敗戦後、台湾が唐突に「中華民国」となると、パイアン族を三分化したの
で、9種族となった。近年の研究の結果、さらに細分化され、たとえば、
タイヤル族は、タロコ族、セデック族に分化されたりしたため、台湾原住
民は合計16種族となっている。

著者が注目したのは、このタイヤル族である。

タイヤル族が滅法戦争に強いことを、当時敵対した日本軍が発見した。
「男は狩猟者、農民であり、同時に「戦士」である。武器は銃(モーゼル
銃、村田銃、レミントン銃ほか)、蕃刀、槍などが主であり、特に銃がな
いと恥とする。

男は老人、病人、幼児を除いてすべて戦闘に参加する。女は武器を取って
敵と戦うことはしないが、戦闘のための食料準備、負傷者の看護など後方
支援にあたる。このように部落全体が一つの軍隊といえる」

戦闘力は抜群であり、しかし死を軽んじたりはしない。

日本の統治を悩ました原住民の反乱、襲撃事件は霧社事件が象徴する。そ
して原住民と融合的となり、統治の末期、日本は原住民から志願兵をつの
りフィリピン、ニューギニアへ派遣することになった。
 これが「高砂義勇隊」と呼ばれ、勇猛果敢に戦い、その死亡率は部隊に
よっては8割にも達した。

日本の敗戦後、こんどは蒋介石国民党がやってきた。かれらの一部が騙
されて、中国大陸に送られ、内戦を戦い、また多くが死んだ。悲劇に満ち
た原住民の歴史を淡々と本書はまとめ上げた。
 貴重な研究成果と言える。

◆「聖徳太子」が復活した!

育鵬社編集部



◆厩戸王(聖徳太子)へのパブリックコメントが殺到

聖徳太子の名称をこれまで通りに戻す――3月20日に産経新聞、朝日新聞が
報道し、翌日、各社も一斉に報道した。

焦点となっていたのは、文部科学省が2月に公表した中学校の次期学習指
導要領の社会科【歴史】の改訂案で、日本史上、重要人物の一人である聖
徳太子を()書きにして、厩戸王(聖徳太子)と表記する方針を打ち出し
ていた点である。ちなみに厩戸王は「うまやどのおう」と読む。

これを現行の学習指導要領(平成20年3月告示)通りに聖徳太子をメイン
として、聖徳太子(厩戸皇子[おうじ])と表記することで最終調整が行
われていると報道された。

文科省は、この改訂案に対するパブリックコメント(政策に関する意見募
集)を3月15日まで行ったが、その「総数は1万1210件で、そのうちの4割
にあたる約4600件が『聖徳太子』について」であったという(『つくる会
FAX通信』3月25日号より)。聖徳太子を厩戸王と呼称することに対する、
国民からの強烈な反対と読み取れる。

この件は国会でも問題になり、笠浩史衆院議員(民進党)や松沢成文参院
議員(無所属)が、それぞれの文部科学委員会で質問していた。

こうした反響を受け文科省は、次期学習指導要領案の「歴史用語」の変更
に関して、異例ともいえる方針転換表明を行ったのである。最終的には、
今月3月末に次期学習指導要領は確定して公示される。

◆10年に一度改訂される学習指導要領は、どのように作られるか

そもそも、学習指導要領は、どのように作られるのか。

学習指導要領は、おおむね10年前後に一度、改訂され、その改訂内容に基
づき教科書会社は教科書を編集し直し、学校現場では新しいカリキュラム
(教育課程)に基づき児童・生徒に授業を行う。こうした性格のため、学
習指導要領の改訂作業は、膨大な手間暇がかけられる。

文科省の担当部署は、義務教育を担当する初等中等教育局の中の教育課程
課であり、(1)課長をトップとして、(2)主任視学官、(3)視学官、(4)教科
調査官(国立教育政策研究所に所属)というラインがある。

ここが学習指導要領の原案を作成し、中央教育審議会(中教審)の中の教
育課程部会や教育課程企画特別部会に諮られ、中教審の総会で答申がまと
められる構図である。

今回の歴史用語の変更に関しては、上記の(4)教科調査官(小中学校の教
員出身)⇒(3)視学官(ベテランの教科調査官)⇒主任視学官(文科省キャ
リア)のボトムアップで原案がつくられ、そのまま中教審の各部会や総会
で了承された経緯という(自民党の山田宏参院議員の『言論テレビ』3月
10日放送などより)。

◆歴史用語の変更は「勇み足」?

教科調査官や視学官は、小中学校の教員出身者であり、「アクティブラー
ニング」といった教科をどう教えるかの教育方法についてはプロ中のプロ
であるが、歴史用語の詳細にわたる機微については、歴史教育に造詣の深
い専門家の意見を聞く必要がある。

仮に、中教審の各部会を含め、歴史用語の変更に関して専門家から詳しい
ヒヤリングを重ねていなかったとしたら、勇み足だったのではないか。

 その一方で次期学習指導要領案では、世界史重視の観点から「ムスリム
商人」(イスラム教徒の商人)という用語を新規に加えるなど、専門家か
らのヒヤリングの形跡もうかがえる。(続く)

◆私生活上の非違行為と懲戒解雇・退職金不支給

川原 俊明(弁護士)



<わて、どないなってまうん!?>

 Aさんは、B株式会社に25年勤続してきましたが、ある日、お酒を飲んで、痴漢を行い、逮捕され、有罪が確定しました。

 B株式会社は、就業規則に基づき、Aさんを懲戒解雇し、さらに、退職金を支給しないこととしました。

 Aさんは納得できないのですが、法的にはどういう問題があるのでしょうか?

<お答えします!>
1 懲戒解雇の当否
  まず、懲戒解雇は、就業規則に基づくものでなければならず、また、具体的事案に照らし社会的相当性を有するものであることが必要です。

  今回の場合、私生活上の非違行為ですので、具体的に会社の名誉や社会的信用を毀損させ、企業の円滑な運営に支障を来たすおそれがあることが必要とされます。

2 退職金を支給しないことの当否
  次に、仮に懲戒解雇が有効とされる場合であっても、直ちに、退職金を(全部・一部)支給しないことが許されることにはなりません。

 退職金は、功労報酬金としての性格のみならず、賃金の後払い的性格、生活保障的性格を併せ持つものだからです。

 判例では、@非違行為の内容、A使用者の受けた損害、B被用者の会社における地位、C在職中の貢献度などを踏まえ、被用者の永年の勤続の功を抹消・減殺してしまうほどの重大な不信行為があることが必要とされています。
  
  労働問題は生活に直結する重要な問題です。疑問を感じたら、気軽に相談してください♪

2017年04月08日

◆度肝を抜かれた習近平、プーチン、金正恩

〜シリア空爆〜

杉浦正章



トランプ起死回生の世界戦略に成功
 

北への戦略応用は容易ではない
 

一挙に米国のリーダーシップを回復させ、四方八方に目配りしたこの見事な世界戦略は、トランプの立案とは思えない。おそらく国家安全保障担当大統領補佐官マクマスターが国家安全保障会議(NSC)をリードして成し遂げたに違いない。解任されたマイケル・フリンの後を継いだマクマスターは政権のダークベイダー・スティーブン・バノンをNSCから追い出したが、この“政変”もシリアをめぐる中東政策の違いが原因ではないかと思えるくらいだ。


シリア空爆をあえて「見事な世界戦略」と形容するのは、フロリダで会談中の習近平、シリアに存在感を増すプーチン、増長の極みの黒電話の受話器ヘアの金正恩の度肝を抜いたからである。加えて35%まで落ちたトランプ支持率を大きく押し上げる効果も生じよう。


なぜならアサド政権への攻撃は道徳的な側面が強く、米国民の好きな正邪の戦いでもあるからだ。まさに八方にらみ、一石四鳥の世界戦略である。朝日は8日付け社説でミサイル攻撃を「無責任な単独行動」と相変わらず唯我独尊的に批判しているが、放置すればアサドは図に乗って毒ガスをばらまく。それでいいのか。首相・安倍晋三がトランプの決断を支持したのは全く正しい。読売も社説で安倍を支持している。
 

度肝抜かれのナンバーワンは習近平であろう。華麗で和やかなる晩餐会は東部時間午後8時から9時半まで続いたが、事もあろうにトランプはその最中の午後8時40分にトマホーク巡航ミサイル59発をシリアのシャイラート飛行場へと発射するよう指示していたのだ。トランプがこれを習近平にささやいたかどうかは分からないが、おそらくささやいていないだろう。なぜなら空爆の成功を確認できないうちに、言えることではないからだ。


トランプが発表したのは空爆成功を確認した食事後であり、習近平はその後知らされた可能性が高い。もともとシリア政府軍攻撃は急ぐ話ではなかった。2日や3日遅れても問題が生ずる話ではない。従ってトランプは“わざと”晩餐の時を狙った可能性が高い。まさに巧妙なる“作戦”に、習近平はこけにされたことになる。トランプのアッパーカットを食らって、今日の米中首脳会談までに態勢を整えるのに懸命の有様が目に浮かぶ。
 

次に度肝を抜かれたのはプーチンだ。プーチンはトランプを大統領選挙で陰から助けたといわれており、対露強硬路線のクリントンが政権を担わないでほっとしていたところだろう。イランとともにシリア内戦に介入して、冷血動物のようなアサドを支持し、アサドがサリンのような神経ガスや塩素ガスなどの化学兵器を使ったことを否定してきた。プーチンはトランプが親露である以上、一挙に攻撃には出まいと誤算していたのだ。

しかし、プーチンの主張とは逆にミサイル攻撃が、化学兵器による爆撃の拠点となったシリア中部のホムス空軍基地に限定されたのは、米国が空撮などの動かぬ証拠を握っているからだという説が強い。米国務長官ティラーソンは来週訪ロするが、これに先立って「米露関係がどのような方向に進むかはロシア側から聞く内容次第」とすごんでいる。


ニューヨークタイムズはティラーソンがプーチンに会うと報道しているが、外相ラブロフだけとなるかははっきりしない。いずれにせよプーチンは、あくまでアサドをまもるか、米国との関係を考慮するかの選択を迫られる形だ。米露が対立すれば内戦はより複雑化して長引くだろう。
 

一方、超度肝を抜かれたのは北の黒電話ヘアだろう。ヘアが逆立ったかもしれない。金正恩は、「戦略的忍耐」と称して優柔不断だったオバマしか知らないから、トランプになってからもミサイルの打ち上げを続け、6回目の原爆実験も準備している。金はトランプが安倍に「全ての選択肢がテーブルの上にある」と、軍事行動示唆の発言しても実感を伴って理解出来ないでいたのだろう。しかし、巡航ミサイル59発の威力を映像で目の当たりにして、金正恩は隠れ家の地下壕をより深く掘れと命じたかもしれない。


自民党副総裁・高村正彦はNHKに「『無法国家』にアメリカの決意を知らせることになり、『無法』ができなくなるということが考えられる。その反面、北朝鮮が、『シリアは核を持っていないから攻撃された』と、ますますミサイルや核が必要だと考えるかもしれない。トランプ政権はオバマ政権と違い、レッドラインを越えたと思えば思い切ったことをやるというメッセージが、『無法国家』を抑制させる効果が出ればいい」と延べ、看破している。高村の言うとおり国内的には核開発の口実になり得るが、実体的には相当の抑制効果となる可能性が大きい。
 

しかし、トランプの世界戦略がマクマスターによって動かされている限りにおいては、米国がアサド政権に対するように北朝鮮への奇襲攻撃を軽々に断行するかについては疑問がある。なぜならマクマスターの戦略のプロとしての思慮分別が強く働くからだ。というのもソウルは北の報復砲撃によって火の海になるし、傲岸不遜にも金正恩は日本の米軍基地をミサイル攻撃の標的にすると公言している。


特に東京周辺の基地にサリンを積んだミサイルで攻撃をかけられれば、被害は甚大だ。日本国内でトランプに対する怨嗟の声が澎湃(ほうはい)と起こり、野党は鬼の首を取ったように矛先を安倍政権に向けるだろう。


ただまだ核ミサイルを保持していない現段階での北朝鮮攻撃は最後のチャンスとも言える。その場合も、北の反撃が出来ないように一挙に800カ所もの拠点を壊滅的に攻撃しない限り、日本がミサイル攻撃を受ける可能性がある。問題はそれを米国が出来るかどうかだ。


外交的にはカギを握る中国が、シリア攻撃を目の当たりにしてトランプに同調するかどうかだが、習近平はしたたかであろう。まるでキューバにソ連が核ミサイルを持ち込もうとした「キューバ危機」のような様相が北東アジアで展開されるかもしれない。その場合秋田での避難訓練が大都会でも行わなければならなくなる可能性がある。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

◆韓国大統領選、流れが変わっている

宮崎 正弘
 


<平成29年(2017)4月7日(金曜日)弐 通算第5258号>  

 〜韓国大統領選、流れが変わっている
  猛追する安哲秀が、優位だった文在寅との支持率を逆転〜

やはり「何がおこっても不思議でない」韓国のことだから、新聞報道通り
に事態は進まないと考えて、これまで韓国大統領選挙の予測は控えてきた。

風向きは変わりつつある。絶対優位と見られた文在寅の勢いに衰えが見え
てきたのだ。

2017年3月31日、朴権恵前大統領が逮捕され、拘置所送りとなった。狭い
拘置所は僅か3・2坪の独房で、ここに収監され、1日の食事は145円とか。

これは文在寅・野党候補におおいに有利な「追い風」となった。

同日のギャロップ調査では文在寅が所属する「共に民主党」の政党支持率
が45%で、第2野党や、保守党を圧倒していた。大統領候補の支持率でも
文在寅が31%と、ほかの候補を大きく引き離していたことが分かった。

文在寅は学生時代から左翼活動家としてならし、逮捕歴がある。卒業後、
人権派弁護士として活躍し、釜山に盧武鉉元大統領と一緒に共同法律事務
所を開設した関係もあり、盧武鉉時代は、大統領秘書長を歴任した。64
歳、カトリック信者。12年の大統領選挙では僅差で朴権恵に敗れた。

 盧武鉉の自殺後、政界に復帰し韓国を「公正な国家」に変質させるには
財政改革、メディア改革、検察改革などを掲げ、とくに財閥の改革が韓国
経済には必要であり、財閥は非民主的などと底辺の国民の不満を吸収する
作戦にでた。

財閥の横暴を恨む庶民には受けるスローガンである。

北朝鮮には甘く、太陽政策の2番煎じのような言辞を吐き、「金正恩と、
いつでも対話をなし、核問題を解決する」とした。

一方で、日本への姿勢は病的なほど厳しく、戦後の反日教育に洗脳された
ままである。すでに両国間では解決している従軍慰安婦、補償などをまた
持ち出し、日本の謝罪と賠償金を求めるという。THAAD配備は見直
し、日韓合意は再交渉するなどと時代錯誤的な暴言を吐くあたり、発言は
国際法を無視しているから、本当にこの人、弁護士かという声もある。

ともかく朴大統領が逮捕されたことで野党への政権交代待望論がくっきり
と世論にでた。保守系は分裂し、支持率は僅か4−5%台に低迷、はっき
りと次の政権は野党へ移行する傾向がでた。

頼りなくなった保守党は「セヌリ党」から分裂した「自由韓国党」と「正
しい政党」があるが、有力候補が不在、選挙対策としては第二野党の安哲
秀候補への合流が想定された。


 ▼保守も野党も分裂している混沌状況のなかで

4月3日、勢いに乗る野党「共に民主党」は大統領選の公認候補に文在寅
を正式に選出した。

選出後、文候補は「不公正や腐敗など、国民を失望させた旧弊を精算す
る」として、明確に「アンチ朴」を掲げ、調査会社リアルメーターの世論
調査は支持率43%とでた。2位につける第2野党「国民の党」の安哲秀は
23%と2位に付けていた。

対決構図としては、安哲秀が保守系の票を合従連衡でまとめあげるか、ど
うかにかかっていた。

とはいうものの北朝鮮の度重なるミサイル、核実験に関して、韓国民の鈍
感さは、いったいどこから来るのだろうか?

「同族だから攻めてくるはずがない。核兵器を同胞に使うはずがない」と
いうのは根拠のない未来論を説く新興宗教の信仰に近い。

通常なら北の軍事的脅威は与党有利となって、これを「北風現象」と譬喩
したのだが、殆どの韓国国民が反応せず、保守党はどん底の人気に低迷し
ている。

4月4日、風向きがすこし変わった。

第2野党「国民の党」が正式候補で安哲秀を決めると、「もし2人が決戦
となれば」という世論調査が行われ、トップを走る文在寅が41・7%に対
して、安哲秀は39・3%、その差が僅差の2・7%でしかないことが判明
したのだ(東亜日報の調査)

米国の大統領選挙でも顕在化したように2・7%の差は誤差の範囲内であ
り、逆転の可能性も否定できない状況がうまれた。

安哲秀は、とくにTHAAD配備に関して「合意を護るべきである」と現
実路線が鮮明である。国連事務総長だった播基文支援グループも、この安
支持に回った。

つまり4月4日の時点で「文在寅・一強論」が潰れたのである。


 ▼逆転の可能性が高まった

4月6日、流れが勢いよく変わった。

文在寅と安哲秀の支持率が「逆転」したのである。まるで昨年のトランプ
vsヒラリーの熾烈な選挙戦のようだ。
 
同日の世論調査では「2人の対決なら」という設問で、中央日報は安哲秀
が50・7%、文在寅が42・7%、YTNテレビのそれでも安哲秀が47・
0%、文在寅が40・8%.両方ともに逆転である。

しかし安哲秀も、国防問題、外交ではリアリストだが、対日認識では反日
姿勢が濃厚である。

安哲秀は時事通信(4月4日)のインタビューで「慰安婦問題をめぐる日
韓政府間合意について、当事者たちが生存しており、当事者たちとの合意
を基に直さなければならない」とし、「慰安婦を象徴する少女像が釜山の
日本総領事館前に設置された問題」でも、「日本政府が撤去を要求し、移
転を条件に大使の帰任を拒否してきたことは理解できない」などと妄言を
吐いている。

これらは韓国のメディアが流していることの受け売りで、独自性がない。

安哲英は「日韓関係は歴史問題で国民感情が悪化している。歴史問題を解
決しない状態で、安全保障問題などを分離し、アプローチするのは極めて
難しいのが現実だ」とし、余白を残した発言に終始している。

同時期、米韓合同演習は続き、また北朝鮮のミサイル発射が繰り返され、
北朝鮮問題の解決は韓国を蚊帳の外において米中首脳会談で論議される。
 
ところが、韓国軍の内部ネットワークが北朝鮮にハッキングされ、米韓の
軍事作戦の機密「5027」流出したらしいと韓国KBSテレビが伝えた。
しかもハッキングは2016年9月であり、発覚したのが同年12月、3ヶ月も
機密漏洩が分からなかったのだ。

この「5020」作戦は米韓軍が北朝鮮の進撃をとどめ、北上し、日本海と黄
海には海兵隊を上陸させ、平壌を制圧するという軍事作戦の機密が多く含
まれているとされ、国防部の必死の否定にも拘わらず、不安が拡がった。

また済州島沖では、日米間の初めての対北朝鮮潜水艦訓練が実施された。
 日本の海上自衛隊からは護衛官「さわぎり」とP3C対戦哨戒機、ヘリ
が参加した。米軍はイージス駆逐艦、哨戒機が参加し、とりわけ北朝鮮の
潜水艦発射ミサイルSLBMに対応する訓練だった。
 
4月6日、韓国軍も射程800キロのミサイル実験を胡なった。これで韓国
南部から平壌を射程にいれることが出来るため、年内配備が急がれている。      

◆うれしか、おいが自転車!

馬場 伯明



都内の料亭で友人たちと飲みながら「子供の頃にうれしかったこと」が話
題になった。私の場合は自転車だった。

昭和32(1957)年、中学1年の5月に父が自転車を買ってくれた。夢にまで
見た自転車である。「うれしか、おいが(おれの)自転車!」。20歳まで
では最も価値がある私の財産であった。60年前の記憶が彷彿と甦った。あ
の胸のときめきは言葉ではなかなか表現しにくい。

南串山村(昭和44年に町制となる)の自転車屋さんに注文していた中古自
転車が入荷した。2キロの道を走った。生まれて初めて運転することにな
る自転車だ。大事に押しながら家まで戻ってきた。

自転車の車体は黒色でリムやスポークは磨いてあった。ペダルのクランク
は銀色の塗装。車輪は標準的な大人用。黒いチェーンカバー、荷台、茶色
の革のサドル、広めのハンドルにはベルがあり、ブレーキは前後輪にワイ
ヤでつながる。右ブレーキが前輪用、左が後輪用だ。ライトの発電装置は
後輪にある。前後に泥よけカバーがついており、両立スタンドである。

ところで、自転車の価格はいくらだったのか。6,000円という記憶があ
る。調べてみると、昭和32年頃、自転車の新車価格は18,000円ほどであ
り、大学卒の初任給12,700円よりも高い。なお、小学校長だった父の給与
は10万円以下だったらしい。中古自転車でも高い買い物だったのだ。

近所の同級生の浦島稔ちゃん(今も長崎県在住)が運転の先生。私は背が
高く「三角乗り」は窮屈だ。両足が地面に着く状態にサドルを下げ、稔
ちゃんが後ろから荷台を押す。直進と左右のカーブ走行を繰り返した。

集中練習で購入から1週間で習得した。納得した運転技術がある。カーブ
では内側(曲がる方向)に体重をかけ、急カーブでは外側のペダルの足を
伸ばし下げ内側のペダルを上げる。ペダルが地面を擦らず転倒しない。

外庭から公道へ出て海岸へ下り広い県道を走る。次の日曜日に2で県道を2
キロ先の南串中学校へと走った。中古車だが整備してあった。出会った人
たちは「よか自転車」と誉めてくれた。自転車を所有した満足感がふつふ
つと湧いてきて私の心を満たした。

この日は県道をさらに南へ走り4キロ先の村境の小津波見まで行った。調
子に乗りすぎ砂利にハンドルを取られ進行方向の右側に転倒した。右脚の
ズボンが破れ膝小僧に血が滲んだ。でも、心が躍っているので痛くはな
い。それより自転車のどこかが壊れなかったか心配だった。

初心者なのに2週間後の日曜日の午後に稔ちゃんと10数キロ先の千々石町
へ向かった。2台並んで県道の真ん中を走る。小浜温泉から県道はコンク
リート舗装だ。自転車は道路を滑るように走る。颯爽と風を切る。僕らは
一段とペダルを踏み込みスピードを上げた。大きな声で歌いながら走っ
た。なぜだか、南串中学校の校歌を歌った。

東(ひんがし)の空に雲仙の
気高き姿仰ぎ見て
北に千々石の灘広き
丘に立ちたる学舎ぞ
ああ ああ 南串中学校 (2番以下は略)

2人は面白いことを思いついた。小浜町から千々石町への道路のセンター
ラインは追い越し可の点線表示だった。その点線を縫いS字の蛇行走行を
していた。ところが、突然、前方で大きなクラクションが鳴った。顔を上
げたら県営バスが急ブレーキ、僕らの目の前で停止した。「こらあ!バカ
もんが、何ばしよっとか。引っ殺すど!」。接近に気付かなかった。

不思議な生理現象がある。自転車では屁が出る。サドルで尻の穴を圧迫し
ている状態で振動が下腹に伝わる。だから屁が出やすくなるのか。ソレデ
僕らはどうしたのか。そう、走りながら尻を上げ一発出す。ブブブッと連
発することもある。そして、放屁と同時にペダルに力を入れダッシュす
る。まさに、(屁の)ロケット・ダッシュだ(笑)。でも、進む僕らに臭
いは届かず、私の屁は風に吹かれて消えていく。

そうこうしているうちに千々石(ちぢわ)町の橘神社に着いた。新緑の桜
葉が美しい。日露戦争の陸軍の軍神の日本第一号である橘周太中佐を顕彰
している神社であることは祖父から聞いて知っていた。高い台座に立つ銅
製の立像から奥へ進み本殿に参拝した。

「さあ、帰ろう」。だが帰り道は遠かった。「行きはよいよい、帰りは怖
い」。ペダルを漕ぎ疲れきり暗い自宅へ到着。風呂の後母や姉妹らに今日
の「偉業」を誇らしく報告した。翌朝は両太腿がパンパンに張っていた。

自転車の整備や手入れは「丁寧にせよ」と自転車屋さんに指導された。ま
ず工具や物品等を揃えた。空気入れ(中古)、スパナ、ドライバー、バル
ブ、パンク修理の古チューブの切れ端、ゴム糊(のり)などだ。次に手入
れと点検だ。自転車を布で拭いた。泥はタワシで水洗いし落とした。

タイヤの空気量は乗る前にチェック。チェーンが緩んだらスパナで締め
た。耕運機の潤滑油をチェーンとペダルに差した。ブレーキシューへの油
は厳禁、ブレーキが効かなくなる。

道路の舗装はなく中古チューブなのでたまにパンクした。自転車屋さんに
教えてもらい自分で修理した。手順を示す。空気を抜きタイヤをリムから
外す。リムからチューブを外す。外したチューブに空気を入れる。水を入
れたバケツにチューブを潜らせればパンクの箇所から空気が漏れ気泡が出
る。パンク箇所を紙ヤスリでこする。

チューブにゴム糊を塗る。古いチューブから円径のゴムを切出し(直径3
センチ)ゴム糊を塗り乾かしお互いを接着する。空気入りのチューブを水
に潜らせ確認する。バルブをリムに通しチューブをリムにはめ込む。タイ
ヤをリムに入れる。これで完了。タイヤをリムに戻す作業にはコツがある。

当時(昭和30年代)自転車は大変な貴重品であった。私の宝物である。盗
難防止用の鍵が付いていた。鍵を持っていると大人になったような一種の
優越感と精神の高揚があった。小屋の奥に自転車の保管場所を決め、箒で
掃き清め大切に責任をもって管理した。

・・・ときは流れた。昭和39(1964)年に京都の大学へ入学した。四条河
原町の映画館で偶然「自転車泥棒(1948)」を観た。イタリア映画のリバ
イバルである。戦後の混乱期、貧乏な男がついに自転車を買うことができ
幼い息子に自慢した。生活も安定するであろうと思われた。

ところが、その自転車を盗まれた。犯人は逃げ去った。悲嘆にくれ悶々と
する男。ついに自転車泥棒を働き捕まる。衆人に糾弾されうつむく男。私
は自転車を買ってもらった中学生の頃を思った。男がかわいそうで、あわ
れで、せつなくなり頬に伝う涙を拭くことも忘れていた。

自転車の映画と言えば「ET(extra terrestrial 1982)」は余りに有名
である。主人公が奇妙な地球外生命体ETを自転車に乗せ月を背景に空を飛
んだ(走った)。かっこいい自転車BMX(bicycle motocross)は日本製
だった。ETは世界中の子供たちに大きな夢と善意をプレゼントした。

自転車でMちゃんと2人乗りがしたかった。危険な横座りではなくスカート
のまま荷台にまたがり私の腰に両手を回してもらう、その場面を想像した
だけで股間が興奮した。だが、結局Mちゃんを誘う勇気もないままに中学
時代は終わった。アニメ映画の「耳をすませば(1995)」の2人乗りの
シーンは羨ましく眩しい。(今、2人乗りは違法だが)。

中学校3年まで自転車で楽しく通学した。高校通学は家から板引停留所ま
で10分歩き40分バスに乗り口之津町まで通った。その後受験や何やかやと
多忙になり自転車にあまり乗らなくなった。

大学時代には左京区の黒谷さん(紫雲山金戒光明寺)の隣の下宿から自転
車で吉田や百万遍に通学した。古い自転車は先輩から貰ったもので単なる
移動手段。私の興味と関心は他事へ移り自転車への愛着は消えていた。 

社会人となり南串山町へ帰省したら9学年下の中学生の弟が3段ギアのド
ロップハンドルのカッコいい新品の自転車に乗っていた。10年前の私の自
転車はなかった。下取りにとって貰えたらしい。

思い起こせば、中学1年の5月に父に自転車を買ってもらった。狂喜した。
その言葉のとおり最高にうれしかった。家の仕事がない休日には長い距離
を走った。だが、その興奮はなぜか何となく中学校時代で終わった。

Mちゃんを自転車の荷台に乗せることができなかった私の意気地のなさに
起因しているかもしれない。それでも、自転車を愛した3年間の熱い体験
は私のどこかに静かに沈潜している。そして、ある日突然頭をもたげてく
るのである。(2017/4/7千葉市在住)


◆シンガポールにて思うこと

Andy Chang      



シンガポールに来て1週間になる。ロスから飛行機で20時間かけて
常夏の国に着いたら夏ボケと時差で生活のテンポが遅くなってしま
ったように感じる。世界各地で起きている時事が望遠鏡で見るよう
に遠い事としか思えない。

パソコンを開いて見たらホワイトハウスではスティーブ・バノンが
国家安全保障会議から外されたとか、北朝鮮がミサイルを発射した
とか報道している。シンガポールにいると対岸の火事を見ているよ
うだ。アメリカに居ると毎日がトランプのニュースでウンザリだが、
シンガポールに居ると他人事だから平気でいられる。

それにしても北朝鮮のミサイル発射でトランプの制裁は必ず起きる
と思うのに日本のニュースは豊洲問題や森下学園、安倍首相夫人の
関与の有無で騒いでいる。今にも北のミサイルが飛んでくるかもし
れないのに呑気なものだ。アメリカが金正恩を制裁すると言ったが、
金正恩がミサイルを発射したのだから制裁は必ず起きるとみてよい。
シンガポールの新聞を見るとローカルニュースは大したことはない。
それだけ平和な国と言える。

●差別の少ない国

シンガポールはいろいろな人種、言語と宗教が入り交ざった国だ。
漢民族が人口の8割で仏教と道教が主な宗教だが、マレーシア人は
マレーシア語を話す回教徒でインド系人はタミル語を話す人が多い
らしい。国民の殆どが最低2つ以上の言語を話し、英語はお互いの
共通語である。

こんな雑多な環境でも差別待遇とか抗議デモは起きない。アメリカ
ではテロ分子の入国を禁止するためトランプが中東6か国からの入
国ビザを一定期間禁止すると言い出して問題になったが、シンガポ
ールでは回教も道教も仏教もあり、人々には信仰の自由がある。

原語についていえば漢語が主体だが、漢民族は多言語の民族だから
いわゆる北京語(マンダリン)の外に福建語、広東語、客家語などが
ある。教育制度は小学校1年から2つの言語教育で、学生は北京語、
マレー語、タミル語などを選べる。学校は北京語が主体である。

●独裁的な民主主義

60年代にマレーシアで起きた排華運動で漢民族が追い出されてシ
ンガポールを建国したとき、リークアンユーはかなり厳しい規則を
作ったのでシンガポールは独裁的国家だと批判された。たとえばチ
ューインガムを禁止し、タバコの吸い殻を捨てたら罰金、痰唾を吐
いたら罰金などと言われていた。

当時は街角で小便するとかゴミを捨てたりするケースが多かったからであ
る。それが独裁制度で改善した。今のシンガポールは清潔で平和な民主国
である。

日本でも中国人の多い地区では町が汚いと言う。こんな状況を改善
するにはリークアンユーのように厳しい規則を作る必要がある。シ
ンガポールは建国して50年でこのような悪習をすっかり改善した
と言える。

ところが今回シンガポールに来たら、道端に座ってタバコを吸って
いる人を方々でみかけて驚いた。タバコを吸っても吸い殻を捨てた
わけではないが、タバコの灰は地面に落としているらしい。

去年までは見かけなかった現象だから、リークアンユーが亡くなっ
て数年たって制度が緩くなったのかもしれない。一昔前まではシン
ガポールは独裁的で住み辛いとも言われていたが最近は政府の規則
が緩和されて暮らしやすくなったのか。この変化は良いことか悪い
ことか、簡単に判断できない。

●民主主義は一定の規則が必要

タバコを吸うのは構わないが吸い殻のポイ捨ては禁止、これが今の
シンガポールらしい。新聞を読めばタバコは禁止しないがマリファ
ナは絶対禁止だ。

シンガポールと違ってアメリカではマリファナを合法化する州が増
えている。アメリカは民主主義国家で自由と平等を尊重する国だと
言うが、麻薬も禁止できないし人種差別、男女差別などの抗議デモ
が毎日のように起きる衆愚政治になった。

マリファナを合法化すれば当然のように常用者が他の麻薬を試すよ
うになり、麻薬がどんどん蔓延る。だから麻薬密輸の違法入国が絶
えない。マリファナ禁止の規則さえ作れないアメリカとマリファナ
を厳しく取り締まるシンガポール。シンガポールは規則の厳しい民
主主義で、アメリカは放漫な民主主義だとしたらどちらが良いか迷
ってしまう。

民主主義とは自由と平等だがアメリカのような無制限な自由はダメ
だ。制限が厳しすぎたら独裁国家になるが、アメリカよりも最近の
シンガポールのように規則がある民主のほうが理想的な民主国家に
近いのではないか。これがシンガポールに来た私の感想である。

◆いつまでも残る「教え」(後)

眞鍋 峰松



中学時代の先生で、今でもその先生のお顔もお名前も鮮明に記憶しているが、確か、復員軍人上がりの、しかも将校経験のある人であった。 その先生の授業中で、担当教科に何の関係もない一言が今でも忘れられない。

それは、黒板に大書された「男子、青雲の志を抱き、郷関を出れば・・・・」という言葉。

今から思い起こしても、少々時代錯誤的な言葉に聞こえるようだが、間違いなくその後の私の人生に影響を及ぼした言葉であることは事実だ。

最近になって、陳 舜臣氏の著書「弥縫録」の中で久し振りにその言葉に出逢えた。
 
<〜青雲の志を抱いて郷関を出る〜>といった表現がある。

この場合の青雲の志とは、功名を立てて立身出世しようという意欲のことなのだ。辞典には、この外に「徳を修めて聖賢の地位に至る志」といった説明もある。 

だが、実際には功名心の方にウェイトがかかっている。「ボーイズ・ビ・アンビシャス! 青雲の志を抱け」というのだ。  

青といえば、すぐに連想されるのが、春であり、東であり、竜である。

東は日の出る方角であり、人生に日の出の時期を「青春」というのは、これに由来している。青は若く、さわやかである。

それに「雲」という言葉をそえると、心はずむような語感がうまれる。雲は天の上にあるのだから。若い日の功名心は、まさに天に昇ろうとするかのようである。

流石に、良い言葉ではないか。要は、望ましい教師像として私が言いたいことは、19世紀英国の哲学者・ウイリアム・アーサー・ワードの次の言葉に簡潔に表現されている気がする。

        ・凡庸な教師は しゃべる。
        ・良い教師は  説明する。
        ・優れた教師は 示す。
        ・偉大な教師は 心に火を付ける。
                               (完)