2018年06月20日

◆自民総裁選は安倍独走の形勢

                             杉浦 正章


尖る石破・野田、岸田は禅譲狙いか

英語のdead angle を語源とする死角が自民党総裁選挙にあるだろうか。
まずない。首相・安倍晋三は圧倒的にリードしていて、死角を探してもない。

自民党内を見渡したところ虎視眈々とその安倍にチャレンジしようとして
いるのが元幹事長・石破茂だ。大勢は首相・安倍晋三3選支持の流れであ
り、石破は孤立気味だ。石破は昔、佐藤栄作の長期政権を阻止しようとし
た三木武夫を思い起こす。

「男は1回勝負する」とチャレンジしたが、敗北。その後ロッキード事件
が幸いして首相になったものの、党内の支持は得られず、すぐに潰れた。
しかし、立候補者がいないと自民党内は活気が出ない。石破に限らず、野
田聖子など例え売名でもオリンピック精神で出馬すればよい。

総裁候補としては事実上安倍が独走している。森友・加計問題はまるで朝
日と民放と野党の独壇場だったが、贈収賄疑惑があるわけでなし、予算委
の終了と共に影を潜めた。

攻め手がなく、今後も忘れた頃にぽっとか細く火が付く程度のものだろ
う。内閣支持率もモリカケがなくなって回復しはじめている。読売の調査
では45%で支持が不支持を逆転した。

朝日や産経、民放の支持率も同様の上昇ぶりを示している。長期政権は一
時的な高支持率より、30から40%を安定して維持することが大切だ。佐藤
内閣がそうであった。

これを反映して6月10日の新潟知事選では、事前の世論調査では、接戦と
の見方が多かったが、開票結果は花角英世54万6670票に対して池田千賀子
50万9568票と、3万7000票余りの差を付けた。与党系は「快勝」であり、
政局で安倍にプラスの結果となった。

こうした中で、総裁候補とされる面々は,動くに動けない情勢である。国
会会期は7月22日まで延長されるが、この間は表立った動きをすれば世論
の反発を受けるし、国会終了後総裁選まで2か月しかない。短期決戦を余
儀なくされるが、安倍の独走を阻止できる候補は存在しない。

政調会長・岸田文男も、早々に旗を巻きそうな気配だ。4月16日に安倍と
会談したのに続き、18日にも2時間半にわたって会食している。岸田は記
者団に「北朝鮮、終盤国会、(自民党)総裁選の話をした」と語ったが、
内容については「ノーコメント」とした。

岸田の狙いは秋の総裁選で奪い取るのではなく、安倍の3選を認めて3年
我慢をして禅譲を狙うところにあるのかもしれない。昔池田勇人にオリン
ピック花道論があった。池田は癌であることをひた隠しに隠して、任期を
残して退陣する演出を行った。

東京オリンピック閉会式翌日の10月25日に退陣を表明、自民党内での後継
総裁選びの調整を見守った上で11月9日の議員総会で佐藤栄作を後継総裁
として指名したのだ。佐藤は「待ちの佐藤」といわれたが、岸田も「待ち
の岸田」として、昔のインスタントラーメンではないが「3年待つのだ
ぞ」が、今考えられる最高の戦術だろう。

総裁選への流れは、安倍が楽勝のように見えるが、油断は出来ない。問題
は党員らの投票による地方票の動向も作用する。12年総裁選では、石破が
党員らの投票による地方票で安倍を上回っだのだ。

決選投票で議員票を固めた安倍に敗れたが、決選投票に地方票を加えた現
行制度なら、石破が当選していたといわれる。閣僚を離れた石破は、活発
に地方行脚を繰り返している。

しかし、石破にとっての致命傷は派閥の人数が少ない点だ。国会議員の人
望がないから数が集まらない。衆参合わせて20人で6番目では、なかなか
突破口を開くのは難しいだろう。安倍は5年の在任の結果、地方票がかな
り集まる状況にあり、油断しなければ、石破はそれほど獲得出来ないかも
知れない。

総務相野田聖子も、発言を先鋭化させている。15日に日本記者クラブで記
者会見し、選択的夫婦別姓の導入などを総裁選の主要政策に掲げる考えを
示した。安倍との対立軸を明確にする狙いがあるが、支持の広がりには全
く欠けているのが実情だ。空回りな発言も目立ち、20人の推薦人確保がで
きるかどうかも不透明だ。

安倍は意気軒昂だ。16日の読売テレビでは「まだまだやるべきことがたく
さんある。北朝鮮の問題、拉致問題、これはやはり私自身の責任で解決を
しなければならないという強い使命感も持っている」と政権維持に強い意
欲を表明している。そして最終決断の時期については味な発言をした。

「東京近辺のセミの声がうるさいと感じられるようになってきたら」だそ
うだ。もっとも、考えてみればこの発言は事実上の出馬表明にほかならない。

◆トランプの「対中報復関税」

宮崎 正弘


平成30年(2018年)6月19日(火曜日)通巻第5726号 

 トランプの「対中報復関税」の究極目標は「軍事大国世界一」阻止にあり。
  報復対象品目は10分野、すべては「メイド・イン・チャイナ2025」

トランプは対中経済制裁を本格化させ、500億ドル分の損出を高関税で補
うとした。米中間の高官レベルの協議は一貫して続けられてきたが、米朝
首脳会談を挟んでいたため、一時休戦状態だった。

6月15日にトランプは報復関税の対象を具体的に発表した。課税率は25%
である。

ただちに中国は「報復には報復しないと失礼に当たる」とばかり、同じ規
模の500億ドルの制裁関税を課すとし、大豆、トウモロコシ、穀物などト
ランプの大票田である農業州に焦点を充てる。

アメリカの代表的輸出はボーイング、ついでフォードも中国への輸出が激
減するため、米財界でもトランプ批判が多い。とくに穀物商社のカーギル
などは悲鳴を挙げて、議会に働きかけている。

米国の制裁第一弾は818品目で自動車、情報通信機器、ロボットなど340億
ドル相当、一方で中国側は545品目、牛肉、豚肉、鶏肉に水産物を加え
て、帳尻あわせのように340億ドル相当とした。

第二次制裁は米側が284品目、化学、鉄鋼、鉄道車両などを対象としてい
るが、中国も第二次制裁に114品目、このなかには原油、ガス、石炭、エ
チレン、そして医療機器などが加えられ、いずれも7月6日から実施され
る。発表をうけてウォールが意外の株式は連続で下落している。
 米国の主要メディアの論調は賛否両論だ。

「日本経済は相当の悪影響を受ける」、「グローバルな自由貿易体制を破
壊する」、「トランプは保護貿易主義で時代錯誤だ」などとする「金儲
け」レベルの論評が日本のメディアを蔽っているが、見当違いも甚だしい
のではないか。

トランプ大統領率いるアメリカが究極の目標としているのは習近平の唱え
る「MADE IN CHINA 2025」の実現を阻止することであり、
つまり米国を凌ぐような世界一の軍事大国に中国をさせないという決意の
表れなのである。

ちなみに中国の「MADE IN CHINA 2025」が掲げ、かつ技術
開発国費援助、ベンチャーへの補助金を出して急成長を遂げている十分野
の次世代ハイテク技術とは何か。

 (1)5Gネットワークとサイバー・セキュリティを含む次世代情報技術
 (2)ロボット及び計測機器(ドローン、ステルスなどを含む)
 (3)航空宇宙
 (4)海洋エンジニアリング
 (5)高速鉄道技術並びに機材
 (6)省エネ技術、EV運搬車両技術
 (7)発電ならびに関連気通
 (8)農業分野
 (9)新素材
 (10)バイオ薬品、高度医療ならびに機器

いずれも軍事技術に直結する高度な産業分野であり、さらにライトハイ
ザーUSTR代表は、中国資本の倍企業買収を禁止するなど、「この次に
は投資への制裁、制限に移るだろう」と発言している。
 
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  樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1745回】           
――「支那人は巨人の巨腕に抱き込まるゝを厭はずして・・・」――中野(1)
中野正剛『我が觀たる滿鮮』(政?社 大正4年)

  △
 中野正剛(明治19=1886年〜昭和18=1943年)について敢えて多くを語
る必要はなかろう。ただ『我が觀たる滿鮮』を世に問うた頃は、「内に民
本主義、外に(反アングロ・サクソン的)帝国主義」を抱いていたといわ
れている程度は記しておきたい。

福岡生まれで早稲田大学卒。東京朝日新聞記者として出発した後に東方
時論に拠って護憲を説く。大正9(1920)年に無所属で代議士初当選。
憲政会から民政党を経て国民同盟に転じ、2・26事件以後は党首として東
方会を率いる。日米開戦後、戦争遂行方針をめぐって東条内閣と対立し、
やがて倒閣嫌疑で逮捕される。釈放後に割腹自殺。

冒頭に掲げられた「自序」は、「足跡曾て本國の外に出でざる者は、正
當に帝國の東亞に於ける地位を解し難し。新領土に定住して内地の事情に
疎き者は、往々にして本國の實力を顧みずして、對外的妄想に馳せんと
す。余は内地に在りては、常に紛々たる政界の現状に憤りしが、更に一年
有半滿鮮の野に放浪するに及びて、著しく我對外發展の遲遲たるを憂ふる
に至れり。内政革新せられざれば、海外の地歩、何によりてか之を伸ばさ
ん。海外の地歩伸びざらんかは、帝國は東海の一孤島に屏息するの外なき
なり」と書きだされる。

『我が觀たる滿鮮』はここに記された「一年有半滿鮮の野に放浪」した折
の思いを綴ったものだ。併合以後の朝鮮情勢を論じた「總督政治論」、朝
鮮半島唯一の大会社である東洋拓殖会社を論じた「今後の東拓會社」、内
地と朝鮮の一体化を論じた「同化政策論」、「滿洲遊?雜?」、「如何に大
鉈を振ふ=滿鐵と官僚及政黨」、「大國大國民大人物=滿蒙放棄論を排
す」、「一瞥せる朝鮮の地方」で構成されている。朝鮮関連も重要だとは
思うが、ここでは残念ながら割愛し、やはり「滿洲遊?雜?」、「如何に大
鉈を振ふ=滿鐵と官僚及政黨」、「大國大國民大人物=滿蒙放棄論を排
す」を扱いたい。

だが、「同化政策論」に収められた「殖民的能力乏しき國民」と題する
一項は、当時の日本人の朝鮮・満州の人々に対する振る舞いを、中野がど
う考えていたのかを知るうえで重要だと思うので、「滿洲遊?雜?」に入る
前に一瞥しておく。

中野によれば日本人は「數千年來島帝國に割據せし國民」であり、「一
種の攘夷思想」を持っている。

それは「偏狭なる白人の有色人種に對する如き」もので、現地人を搾取・
掠奪して当たり前とする。「朝鮮に於ける實例」の1つが「内地人の鮮人
に對する言語」だ。日本人は「如何なる朝鮮人に對するも、一律に『ヨ
ボ』と呼び捨つるを常とす」。元来、それは「呼び掛けの言語にして、決
して侮辱の言に非ざ」るが、「内地人の朝鮮人に對する時は」、必ず「一
種侮蔑的強迫的意味を含」んでいる。

朝鮮人との間で意思疎通を欠き言語不通になるや、「内地人は必ず『ヨ
ボ』に次ぐに『馬鹿』『野郎』『イヌマ』等の語を以てす」。それは「白
人が劣等人に對し『ビースト』『ドツグ』等の語を連發すると異な」らない。

だが「朝鮮人と雖も、劣等なる賤民もある代りに、高尚なる篤学の士も少
なからず」。「徳行家のあれば、人に敬はるゝ舊家もあ」る。にもかかわ
らず彼ら朝鮮人を「一律に『ヨボ』『イヌマ』にて叱り飛ばすは、甚だし
き亂暴なり」。

こういった日本人の「唯本國の權威を濫用して」の理不尽な行為は断じ
て「決して同胞終局の利益となるもの」ではなく、廻り回って必ずや「彼
我の反目を招き、我も利せず、彼も利せず、遂に他の野心ある國をして、
其間隙に乘せしむるに至るなり」。

であればこそ、「今此種の誤れる威嚇手段を取りて、之を朝鮮人滿洲人を
操縦する唯一の手段なりとする」は「謬見」である。「然るに今日の所謂
對支政策家、海外發展論者にして、此謬見を抱く者は決して少なからざる
なり」。

かくて「此謬見を抱く者」を「植民的能力なき國民として、列國との角逐
に敗北すべき運命を有する者なり」と、中野は糾弾する。

◆米国の真の相手は、北を支える中国だ

櫻井よしこ


世界の安全保障問題専門家が集うアジア安全保障会議では、今年もまた中
国への物言いが際立った。シンガポールでの3日間の会議で、6月1日、基
調講演に立ったのはインドのナレンドラ・モディ首相である。

モディ氏はインド・太平洋の在り様が世界の運命を定める重要な要素だと
し、「大洋が開かれているとき海の安全が保たれ、国々は結ばれ、法治が
ゆきわたり、地域は安定し、国家は大小を問わず主権国として栄える」
と、謳った。

どこから聞いても、南シナ海のほぼすべてが自国領だと主張し、第1及び
第2列島線で米国の進入を防ぎ、インド・西太平洋に君臨しようとする中
華大帝国思想への批判である。インドは「東に向かえ」政策(Act East
Policy)の下で、日、米、豪を筆頭にASEAN諸国やロシアを含めた大
同団結で、平和で繁栄するインド・太平洋圏を構築すると語った。

翌日は、ジェームズ・マティス米国防長官が演説した。小野寺五典防衛相
のマティス氏の人物評は、「極めて物静か、人の話に耳を傾ける、控えめ
に話す」である。そのとおりに、マティス氏は冷静な口調ながら、冒頭か
ら鮮やかに切り込んだ。

「私にとって2回目の参加です。専門家が集い、自由で開かれた海として
のインド・太平洋の重要性を共通の認識とする最高の機会です」

「昨年は主として耳を傾けました。今日、私はトランプ政権のインド・太
平洋戦略を共有してもらうために来ました」

無駄な修飾語のひとつもなく、事柄の核心だけを淡々と述べる。それは自
ずと中国への批判となった。

「米国は台湾との協調関係を誠実に守ります。台湾関係法に基づいて台湾
の自主防衛に必要で十分な防衛品を供給し、助力、協力します。如何なる
一方的な現状変更にも反対し、(台湾海峡の)両岸の人々の意思が尊重さ
れなければならないと主張します」

習主席が語った言葉

台湾に対する中国の一方的手出しは看過しないと言明した、この突出した
台湾擁護には、実は背景がある。トランプ大統領は昨年12月、6920億ドル
(約79兆円)の軍事予算を定めた国防権限法案に署名し、台湾への手厚い
対策を実現しようとした。高雄を含む複数の港に米海軍を定期的に寄港さ
せ、台湾海軍も米国の港に定期的に寄港することを許可し、台湾の自主潜
水艦建造、機雷製造など水中戦力の開発を技術的、経済的に支えようとした。

ところが中国が猛烈な巻き返しに出た。米議会への中国のロビー活動は凄
まじく、法案は事実上骨抜きにされた。だがトランプ氏も国防総省も引っ
込みはしない。トランプ氏はすでに台湾の潜水艦の自主建造に必要な部品
の輸出の商談を許可し、シンガポールではマティス長官が前述の台湾擁護
の演説をしたのである。

マティス氏は「南シナ海における中国の政策は我々の『開かれた海』戦略
に真っ向から対立する。中国の戦略目標を疑わざるを得ない」と語り、
「南シナ海の軍事化で対艦ミサイル、対地・対空ミサイルが配備され、電
波妨害装置が導入され、ウッディー島には爆撃機が離着陸した。恫喝と強
制だ。ホワイトハウスのローズガーデンで2015年に(南シナ海人工島は軍
事使用しないと)習(近平)主席が語った言葉と矛盾する。こうした理由
ゆえに我々は先週、環太平洋合同軍事演習(リムパック)への中国の招待
を取りやめた」と、説明したのである。

軍人出身らしい無駄のない極めて短い表現で、事実のみを淡々と披露した
マティス氏に、例の如く中国側は激しく反論した。

今回の会議に中国代表として参加していた人民解放軍軍事科学院副院長の
何雷(ホーレイ)中将は「米軍の航行の自由作戦こそ、南シナ海の軍事化
だ」と反論した。他方、中国外交部は、マティス発言以前に華春瑩(ファ
チュンイン)報道官が米国の南シナ海に関する発言に対して「盗人猛々し
い狡猾さ」だと口汚い非難を展開済みだ。

決して自分の非を認めず必ず他国のせいにするのが中国だが、彼らは昨年
から、大物をアジア安全保障会議に派遣しなくなったと、「国家基本問題
研究所」研究員、太田文雄氏が指摘する。現に今年の代表の階級は中将だ。

「ここ数年、シンガポールに行く度に彼らは国際社会から総スカンを食
らってきました。国際社会の中枢勢力と折り合うのを諦めて、独自の道を
模索し始めたのではないでしょうか。それが香山フォーラムです」

トランプ大統領は大丈夫か

香山フォーラムは06年の創設である。米国、日本、インド、NATO諸国
など、自由と法治を尊ぶ国々の価値観に基づく安全保障論は、どこまで
いっても中国のそれとは折り合わない。そこで、中国が影響力を及ぼし得
る国々を集めて軍事の世界を仕切ろうという意図が見える。

中国はアジア安全保障会議に取って代る、中国主導の安全保障会議を創り
出したいのである。彼らは64か国が集まったと喧伝する。アジアインフラ
投資銀行(AIIB)や一帯一路(OBOR)構想には中国マネーに魅き
つけられて多くの国が参加した。しかし中国の軍事力やその安全保障政策
に魅きつけられる国々は、現時点では多くなく、影響力も小さい。

ただ、中国の意図を過小評価してはならないと思う。彼らはハーグの国際
司法裁判所の中国版の創設も目指している。金融、経済、軍事、司法など
の全ての分野において中国式のルールを打ち立て、それによって世界を支
配しようと考えているのは明らかだ。

まさに価値観の闘いに、中国は本気で挑んでいるのである。そのことに私
たちは気づかなければならない。米国は、少なくとも国防総省や通商代表
部などの行政組織、それに立法府である議会、とりわけ上院は十分に気づ
いているはずだ。

だからこそ、米国と台湾の要人の往来を自由にする台湾旅行法を、上院は
党派を超えて全会一致で支持したのではないか。地政学上、台湾擁護は南
シナ海の安定に直結する。インド・太平洋を開かれた海として維持するに
は台湾を死守しなければならないという認識であろう。

米中の価値観は全く異なる。対立の根は深い。その中で北朝鮮問題に関し
てトランプ大統領の姿勢は大丈夫か。トランプ氏は、中国が北朝鮮を支え
始めてから金正恩朝鮮労働党委員長が変化したと批判した。

中国の支援があるからこそ、北朝鮮は朝鮮半島の非核化とは言っても、
「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄」(CVID)とは決して言わない。

北朝鮮の路線に乗る限り、トランプ氏の交渉はそれ以前の政権と同じく失
敗に終わるだろう。トランプ氏はその元凶の中国にこそ厳しく対峙しなけ
ればならないのである。

『週刊新潮』 2018年6月14日号  日本ルネッサンス 第806回

◆加齢疾病連発に悩まされた夏

石岡 荘十


今日書こう、明日こそはと思いながら、胸や背中を孫の手で掻くのに忙し
くて今日に至ってしまった。何の話か。すでに畏友毛馬一三氏が本誌で報
告しているように帯状疱疹“事件”の経緯についてである。

夏は、典型的な加齢疾病といわれる病につぎつぎと襲われ、悪戦苦闘した
3ヶ月だった。この間、私を襲ったのは帯状疱疹。発症から3ヶ月、やっと
終息にこぎつけたと思ったら今度は、加齢黄班変性といわれる眼球の疾病
である。これについては今なお加療の真っ只中であり、別稿で報告したい。

帯状疱疹の兆しが現れたのは6月の末のことだった。「夏バテ」というの
は夏だけの症状だと思われがちだが、気候の変化が激しい梅雨時や初夏に
も起こりやすい。

気温の乱高下に老体がついていけず、何もする気がしない。全身がともか
くけだるい。にもかかわらず梅雨明けの7月、以前からの約束もあって、
猛暑の中、秩父盆地のど真ん中にあるゴルフ場に出陣。疲労困憊、這うよ
うにして帰宅した。完全に体力を消耗していた。これが祟った。

思い返すと、その数日前すでに左胸の皮膚に違和感があり肋骨のあたりに
ピリピリ感があった。間もなく胸から左肩甲骨下にかけて赤い斑点がぽつ
ぽつ。ゴルフの後から左側の神経に沿って激痛が走るようになった。

にもかかわらず、まだ帯状疱疹とは気がつかず、市販のかゆみ止め軟膏
(レスタミン)を塗ったり、サロンパスの湿布を患部に張ったりして凌ご
うと試みていた。無知は恐ろしい。

そうこうしているうちに、赤い斑点は水ぶくれとなり、夜はベッドの上で
転々。背中を孫の手で掻きまくったものだから水ぶくれが破れ、かさぶた
へと変わったがかゆみと痛みは治まらなかった。

遂にたまらず、行きつけの病院の皮膚科に駆け込んだのはゴルフから3週
間を過ぎていた。

「帯状疱疹です。ずいぶん我慢強い方ですねぇ。もうかさぶたになり始め
ていますから、ペインクリニックに行きなさい」という。

帯状疱疹は、幼児に経験した水ぼうそうのウイルスが原因だ。ウイルスは
長い間体内の神経節に潜んでいて、加齢(50歳代〜70歳代)やストレス、
過労などが引き金となってウイルスに対する免疫力が低下すると、潜んで
いたウイルスが再び活動を始める。ウイルスは神経を伝わって皮膚に達
し、帯状疱疹として発症するとされている。

東京女子医大の統計によると、発疹する部位は、一番多いのが私のケー
ス。上肢〜胸背部(31.2%)、次いで腹背部(19.6%)、そして怖いのは
頭部〜顔面(17.6%)などとなっており、高校の友人が右顔面に発症。何
年か前のことだが、今でも顔面の筋肉がこわばっている。

最悪、失明をしたケースも報告されている。頚部〜上肢にも発症する。い
ずれの場合も体の左右どちらか一方に現れるのが特徴だ。

発症してすぐ気づき、すぐ適切な治療を受けた場合でも3週間は皮膚の痛
みや痒みが続く。痛みがやや治まってからも神経の痛みは容易に治まらな
い。数年間、痛みが消えなかったと言う症例もある厄介な加齢疾病である。

まして、私のケースは、初期治療のタイミングを逸した。その祟りで、い
まだにときどき、肋間や背中にピリピリと痛みが走る。

さて治療法である。皮膚科では坑ヘルペスウイルス薬を処方する。ウイル
スの増殖を抑える飲み薬で初期の痛みや痒みを抑える効果があるが、私は
そのチャンスを逃し、我慢強く無為に苦しんだ。

ペインクリニックでは、飲み薬と塗り薬を処方される。

【飲み薬】、

・鎮痛剤リリカプセル:今年4月、保健が適用されることとなった帯状疱
疹の最新特効薬だ。

・セレコックス:リリカカプセルが効かない場合に飲む頓服錠剤。炎症に
よる腫れや痛みを和らげる。
・メチコバール:末梢神経のしびれ、麻痺、痛みを改善する。

【塗り薬】、

・強力レスタミンコーチゾンコーワ(軟膏)

ペインクリニックでの治療5週間。月初旬にくすりの処方が終わった。発
症から3ヶ月の闘病であった。この間体力をつけようと金に糸目をつけず
美食に走った結果、太ってしまった。

毛馬一三氏が先日レポートしたとおりで、初動がこの病気治療の決め手で
ある。他山の石とされたい。





2018年06月19日

◆紫式部と「和紙」

毛馬 一三


書き出しは、与謝蕪村のことからだ。蕪村(幼名:寅)は、生誕地大阪毛馬村で幼少の頃、「和紙に絵」を描いて楽しんでいたことを、最近知った。

寅は、庄屋の子供だったから、高価な「和紙」を父から貰って、絵描きに自在に使ったらしい。その幼少の頃の絵心と嗜みが、苦難を乗り越えて江戸に下り、巴人と遭遇してから本格的な俳人となったのも、この幼少の頃「和紙」に挑んだ絵心とが結び付いたらしい。

このことは、「蕪村生誕300年祭」時に発行する記念誌に、この幼少の頃の「蕪村と和紙の絵」のことを「短編小説」にして掲載したいと思っている。

さて、本題―。

高貴な「和紙」の事を知った時、ジャンルは違うが、紫式部が思い切り使って「和紙」を使って「世界最古の長編小説・源氏物語」を書いたことを思い出した。

そのキッカケは、福井県越前市の「和紙の里」を訪ねてからである。

越前市新在家町にある「越前和紙の里・紙の文化会館」と隣接する「卯立の工芸館」、「パピルス館」を回り、越前和紙の歴史を物語る種々の文献や和紙漉き道具の展示、越前和紙歴史を現す模型や実物パネルなどを見て廻った。

中でも「パピルス館」での紙漉きを行い、汗を掻きかき約20分掛けて自作の和紙を仕上げたのは、今でもその時の感動が飛び出してくる。

流し漉きといって、漉舟(水槽)に、水・紙料(原料)・ネリ(トロロアオイ)を入れてよくかき回したあと、漉簀ですくい上げ、両手で上下左右に巧みに動かしていくと、B5くらいの「和紙」が出来上がる。まさにマジックの世界だ。

ところでこの越前和紙だが、今から約1500年前、越前の岡太川の上流に美しい姫が現れ、村人に紙の漉き方を伝授したという謂れがある。

山間で田畑に乏しかった集落の村人にとり、紙漉きを伝授されたことで、村の営みは豊かになり、以後村人はこの姫を「川上御前」と崇め、岡太神社(大瀧神社)の祭神として祀っている。

<その後大化の改新で、徴税のため全国の戸籍簿が作られることとなり、戸籍や税を記入するために必要となったのが「和紙」である。そのために、越前では大量の紙が漉かれ出したという。

加えて仏教の伝来で写経用として和紙の需要は急増し、紙漉きは越前の地に根ざした産業として大きな発展を遂げてきている>。

さて長編小説「源氏物語」の作者紫式部は、執筆に取り掛かる6年前の24歳の時(996年)、「和紙」の里・越前武生に居住することになり、山ほどの「和紙」に囲まれて、存分に文筆活動に励んだ。

当時、都では「和紙」への大量の需要があったらしく、宮廷人も物書きも喉から手が出る程の「和紙」だったが、手には入らなかった。

ではどうして都にいた紫式部が、遥か離れた「和紙」の里越前の武生に移住してきたのか。それはご当地の国司となった父の藤原為時の“転勤”に関わりがある。文才だけでなく、商才に長けた為時の実像が浮かび上がる。

<為時は、中級の貴族で、国司の中で実際に任地へ赴く“転勤族”だったそうで、996年一旦淡路の国(下国)の国司に任命されるが、当時の権力者・藤原道長に賄賂の手を使って、転勤先を越前の国(上国)の国守に変更してもらっている。はっきり言えば為時は、淡路の国(下国)には赴任したくなかったのだ。何故なのか。

当時、中国や高麗からの貿易船が日本にやってくる場合、海が荒れた時や海流の関係で、同船団が「越前や若狭」の国を母港とすることが多く、このため海外の貴重な特産品が国司のもとに届けられ、実入りは最高のものだったという>。

藤原為時一族は、中級の貴族ながら文才をもって宮中に名をはせ、娘紫式部自身も為時の薫陶よろしく、幼少の頃から当時の女性より優れた才能で漢文を読みこなす程の才女だったといわれる。

これも商才に長けたばかりでなく、父親の愛情として、物書きの娘に書き損じに幾らでも対処できる「和紙」提供の環境を与えたものといわれる。

<この為時の思いは、式部が後に書き始める「源氏物語」の中に、武生での生き様が生かされている。恐らく有り余る「和紙」を使い、後の長編小説「源氏物語」の大筋の筋書きをここで書き綴っていたのではないだろうか。平安時代の歌集で、紫式部の和歌128 首を集めた「紫式部集」の中に、武生の地で詠んだ「雪の歌」が4 首ある。

越前武生の地での経験が、紫式部に将来の行き方に影響を与えたことはまちがいない。と同時に式部は、国司の父親のお陰で結婚資金をたっぷり貯め込むことも成し遂げて、約2年の滞在の後、京都に戻り、27歳になった998年に藤原宣孝と結婚している>。

越前武生の生活は、紫式部にとり「和紙」との出会いを果たして、後の世界最古の長編小説への道を拓くことに繋げた事は、紛れもない事実であろう。

<紫式部の書いた「源氏物語」の原本は現存していない。作者の手元にあった草稿本が、藤原道長の手によって勝手に持ち出され外部に流出するなど、「源氏物語」の本文は当初から非常に複雑な伝幡経路を辿っていたという。

確実に平安時代に作成されたと判断できる写本は、現在のところ一つも見つかっておらず、この時期の写本を元に作成されたと見られる写本も、非常に数が限られているという>。
 
この歴史の事実と筆者の推論を抱きながら、「紫式部公園」に回り、千年前の姿をした高い式部像に対面してきた。

北京五輪の開会式の時、中国の古代4大発明の一つとして「紙」を絵画の絵巻をCGで描き、国威を高らかに示した。

この紙が7〜800年後に日本に渡り、「和紙」となった。その後、「世界最古の長編小説を書いた女性が日本にいた」ということは、中国は勿論諸外国は知らない。

参考:ウィキペディア、: 青表紙証本「夕顔」 宮内庁書陵部蔵 
(加筆修正・再掲) 

2018年06月18日

◆メディアは何を間違えたのか

宮崎 正弘


平成30年(2018年)6月13日(水曜日)通巻第5724号 
   
 米朝首脳会談を過大な期待で予測したメディアは何を間違えたのか
  会談は始まりにすぎず、金正恩は中国の意向(何も約束するな)を実
践した

日本の期待は夢幻に終わったのか。

発表された米朝首脳会談の共同声明を「素晴らしい」とトランプは自画自
賛したが、多くの人々から見れば、具体的内容を欠いているため、「失
望」だろう。

第一に「非核化への努力」は謳われたが、「完全な、検証可能な、不可逆
的な」という文言は共同声明のどこにもないではないか。

期限も方法も明記されていない。要するに具体的には何も成果はなかった
のだから。安倍首相が「高く評価する」などと、トランプの成果を渋々評
価したのも、納得するには無理がある。

米国政府筋は「これから高官による詰めが行われて、具体的な日程などが
でてくる。ともかく歴史的文脈に於いて、この会談は意議がある」と総括
して、今後の交渉に大きく期待する方向にある。

とはいえ、「完全な、検証可能な、不可逆的な非核化」は結局、並ばず、
「非核化」の現地を金正恩から得ただけだった。

中国の後ろ盾を得た金正恩は強気になっていた。アメリカとの世紀の
ショーを演出するために、人質を解放し、使い物にならなくなった核実験
場を廃棄処分としたが、これをトランプは記者会見で「成果」と総括し
た。ディールの名人も、ここまでか、との感想を抱いた読者が大いに違い
ない。

「総合的に前進した」という米朝首脳会談は、アメリカにとっては中間選
挙向け、北にとってはやっぱり時間稼ぎと中国との関連。唯一の歯止め
が、米国は「制裁を続ける」という姿勢だけだろう。

大きく期待した人は失望の谷は深い。期待しなかった人にとっては、なん
とか、一歩前進したというのが率直な感想ではないか。

「歴史的に米朝が『初の会談』という意議いがいにないもない」(NYタ
イムズ)

 「希望を抱かせたが、保証がない」(ワシントンポスト)
 「希望に向けての前進」(ウォールストリートジャーナル)


 ▲「人権」「拉致」の文言は声明には盛り込まれていない

米国メディアは消極的だが、否定はしていない。しかしトランプは記者会
見で「人権に言及した」「日本の拉致問題についてはちゃんと伝えた」と
言い訳に終始し、いつものような強気が見られなかったように、そのう
え、米軍撤退を示唆したように、これでは過去の歴代大統領の、その場の
人気取り対応と大きな違いはない。

 結局けっきょく、この米朝首脳会談で一番の勝者は、中国である。
 おそらく中国は、前進があったとして『制裁』緩和の方向へ舵を取るだ
ろう。『中国抜きには何も進まない』と国際社会に印象づけることに成功
し、金正恩の背後でシナリオを描き、トランプに米軍撤退の発言を誘発さ
せた。 

 同じ日に上野動物園のパンダが誕生一周年とかで、長い長い行列ができ
た。パンダはチベットの動物であり、中国が外交の道具としているものだ。
これを行列してみるという、あきれ果てた日本人がいるように、精神的劣
化がますます進んでいる。

◆米国の真の相手は、北を支える中国だ

櫻井よしこ


世界の安全保障問題専門家が集うアジア安全保障会議では、今年もまた中
国への物言いが際立った。シンガポールでの3日間の会議で、6月1日、基
調講演に立ったのはインドのナレンドラ・モディ首相である。

モディ氏はインド・太平洋の在り様が世界の運命を定める重要な要素だと
し、「大洋が開かれているとき海の安全が保たれ、国々は結ばれ、法治が
ゆきわたり、地域は安定し、国家は大小を問わず主権国として栄える」
と、謳った。

どこから聞いても、南シナ海のほぼすべてが自国領だと主張し、第1及び
第2列島線で米国の進入を防ぎ、インド・西太平洋に君臨しようとする中
華大帝国思想への批判である。インドは「東に向かえ」政策(Act East
Policy)の下で、日、米、豪を筆頭にASEAN諸国やロシアを含めた大
同団結で、平和で繁栄するインド・太平洋圏を構築すると語った。

翌日は、ジェームズ・マティス米国防長官が演説した。小野寺五典防衛相
のマティス氏の人物評は、「極めて物静か、人の話に耳を傾ける、控えめ
に話す」である。そのとおりに、マティス氏は冷静な口調ながら、冒頭か
ら鮮やかに切り込んだ。

「私にとって2回目の参加です。専門家が集い、自由で開かれた海として
のインド・太平洋の重要性を共通の認識とする最高の機会です」

「昨年は主として耳を傾けました。今日、私はトランプ政権のインド・太
平洋戦略を共有してもらうために来ました」

無駄な修飾語のひとつもなく、事柄の核心だけを淡々と述べる。それは自
ずと中国への批判となった。

「米国は台湾との協調関係を誠実に守ります。台湾関係法に基づいて台湾
の自主防衛に必要で十分な防衛品を供給し、助力、協力します。如何なる
一方的な現状変更にも反対し、(台湾海峡の)両岸の人々の意思が尊重さ
れなければならないと主張します」

習主席が語った言葉

台湾に対する中国の一方的手出しは看過しないと言明した、この突出した
台湾擁護には、実は背景がある。トランプ大統領は昨年12月、6920億ドル
(約79兆円)の軍事予算を定めた国防権限法案に署名し、台湾への手厚い
対策を実現しようとした。高雄を含む複数の港に米海軍を定期的に寄港さ
せ、台湾海軍も米国の港に定期的に寄港することを許可し、台湾の自主潜
水艦建造、機雷製造など水中戦力の開発を技術的、経済的に支えようとした。

ところが中国が猛烈な巻き返しに出た。米議会への中国のロビー活動は凄
まじく、法案は事実上骨抜きにされた。だがトランプ氏も国防総省も引っ
込みはしない。トランプ氏はすでに台湾の潜水艦の自主建造に必要な部品
の輸出の商談を許可し、シンガポールではマティス長官が前述の台湾擁護
の演説をしたのである。

マティス氏は「南シナ海における中国の政策は我々の『開かれた海』戦略
に真っ向から対立する。中国の戦略目標を疑わざるを得ない」と語り、
「南シナ海の軍事化で対艦ミサイル、対地・対空ミサイルが配備され、電
波妨害装置が導入され、ウッディー島には爆撃機が離着陸した。

恫喝と強制だ。ホワイトハウスのローズガーデンで2015年に(南シナ海人
工島は軍事使用しないと)習(近平)主席が語った言葉と矛盾する。こう
した理由ゆえに我々は先週、環太平洋合同軍事演習(リムパック)への中
国の招待を取りやめた」と、説明したのである。

軍人出身らしい無駄のない極めて短い表現で、事実のみを淡々と披露した
マティス氏に、例の如く中国側は激しく反論した。

今回の会議に中国代表として参加していた人民解放軍軍事科学院副院長の
何雷(ホーレイ)中将は「米軍の航行の自由作戦こそ、南シナ海の軍事化
だ」と反論した。他方、中国外交部は、マティス発言以前に華春瑩(ファ
チュンイン)報道官が米国の南シナ海に関する発言に対して「盗人猛々し
い狡猾さ」だと口汚い非難を展開済みだ。

決して自分の非を認めず必ず他国のせいにするのが中国だが、彼らは昨年
から、大物をアジア安全保障会議に派遣しなくなったと、「国家基本問題
研究所」研究員、太田文雄氏が指摘する。現に今年の代表の階級は中将だ。

「ここ数年、シンガポールに行く度に彼らは国際社会から総スカンを食
らってきました。国際社会の中枢勢力と折り合うのを諦めて、独自の道を
模索し始めたのではないでしょうか。それが香山フォーラムです」

トランプ大統領は大丈夫か

香山フォーラムは06年の創設である。米国、日本、インド、NATO諸国
など、自由と法治を尊ぶ国々の価値観に基づく安全保障論は、どこまで
いっても中国のそれとは折り合わない。そこで、中国が影響力を及ぼし得
る国々を集めて軍事の世界を仕切ろうという意図が見える。

中国はアジア安全保障会議に取って代る、中国主導の安全保障会議を創り
出したいのである。彼らは64か国が集まったと喧伝する。アジアインフラ
投資銀行(AIIB)や一帯一路(OBOR)構想には中国マネーに魅き
つけられて多くの国が参加した。しかし中国の軍事力やその安全保障政策
に魅きつけられる国々は、現時点では多くなく、影響力も小さい。

ただ、中国の意図を過小評価してはならないと思う。彼らはハーグの国際
司法裁判所の中国版の創設も目指している。金融、経済、軍事、司法など
の全ての分野において中国式のルールを打ち立て、それによって世界を支
配しようと考えているのは明らかだ。

まさに価値観の闘いに、中国は本気で挑んでいるのである。そのことに私
たちは気づかなければならない。米国は、少なくとも国防総省や通商代表
部などの行政組織、それに立法府である議会、とりわけ上院は十分に気づ
いているはずだ。

だからこそ、米国と台湾の要人の往来を自由にする台湾旅行法を、上院は
党派を超えて全会一致で支持したのではないか。地政学上、台湾擁護は南
シナ海の安定に直結する。インド・太平洋を開かれた海として維持するに
は台湾を死守しなければならないという認識であろう。

米中の価値観は全く異なる。対立の根は深い。その中で北朝鮮問題に関し
てトランプ大統領の姿勢は大丈夫か。トランプ氏は、中国が北朝鮮を支え
始めてから金正恩朝鮮労働党委員長が変化したと批判した。

中国の支援があるからこそ、北朝鮮は朝鮮半島の非核化とは言っても、
「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄」(CVID)とは決して言わない。

北朝鮮の路線に乗る限り、トランプ氏の交渉はそれ以前の政権と同じく失
敗に終わるだろう。トランプ氏はその元凶の中国にこそ厳しく対峙しなけ
ればならないのである。
『週刊新潮』 2018年6月14日号  日本ルネッサンス 第806回

◆健康百話・「肝臓をいたわっていますか?」

片山 和宏(医師)


肝臓は、右のわき腹からみぞおちのあたりにある、重さが約1kgちょっとの臓器です。

心臓のように「どきどき」したり、お腹が空いた時の胃や腸のように「グーグー」鳴ることもありませんが、ただひたすら黙って体の他の臓器に栄養を送ったり、いらなくなったごみを捨てたりしていますので、家族で言えばまさに最近の若いお母さん達にはとても少なくなった昔の良妻賢母型のお母さんの役割を果たしています。

だからといって、あまり無理ばかりをさせていると、ご主人を見捨てて家出してしまうかもしれません。ですから、ご主人であるあなたが普段からちゃんといたわってあげる必要があるわけです。
 
基本的に肝臓は、少しくらい弱っていても自覚症状が出にくい臓器です。しかし、血液検査をすると、実はとても早くから「SOS」のサインを出していることが多いのが特徴です。

 「沈黙の臓器」として有名な、自覚症状の出にくい肝臓も、血液にはちゃんと気持ちを伝えているわけで、血液検査は肝臓の気持ちを察して上げられる重要な検査です。

 これから、どのようにいたわってあげればいいかとか、文句を言いたそうだけど、どのようにすれば早めに察してあげられるかなどについて、紹介していきたいと思います。

            大阪厚生年金病院 

2018年06月17日

◆映画「万引き家族」   

     馬場 伯明


映画「万引き家族」に賞賛の声が巷に溢れている。第71回カンヌ国際映画
祭で最高賞のパルムドールを受賞したのだ。とは言え、中身を知らないこ
とにはモノが言えない。やはり、観たいな。

特別公開6.3(日)の朝一番、千葉市の「京成ローザ」で観た。満員だっ
た。最近の映画館はガラガラが当たり前なので、館内には異様な雰囲気が
漂っていた。子供の昔にもどったかのようなわくわく感があった。

「Film Marks」より「あらすじ」を引用・転載する。

《高層マンションの谷間にポツンと取り残された今にも壊れそうな平屋
に、治(リリー・フランキー)と信代(安藤サクラ)の夫婦、息子の祥太
(城桧吏)、信代の妹の亜紀(松岡茉優)の4人が転がり込んで暮らして
いる。彼らの目当ては、この古い家の持ち主である初枝(樹木希林)の年
金である。足りない生活費は、万引きで稼いでいた。

社会という海の底を這うような家族だが、なぜかいつも笑いが絶えず、互
いに口は悪いが仲よく暮らしていた。冬のある日、近隣の団地の廊下で震
えていた幼い女の子、ゆり(佐々木みゆ)を見かねた治が家に連れて帰る。

(実親の虐待で)体中傷だらけの彼女の境遇を思いやり、信代は娘として
育てることにする。(狭い家で)「家族」は幸せに暮らしていた。しか
し、ある事件をきっかけに、「家族」はバラバラに引き裂かれ、それぞれ
が抱えていた秘密(過去)が明らかになっていく・・》(引用終わり)。

再び言う。賞賛の声が巷に溢れている。映画公式HPより抜粋・紹介する。

「ヒトは身を寄せ合う、世間から外れても、法に触れても、いのちの自然
に逆らわず、GDPなどどこ吹く風で(谷川俊太郎 詩人)」。「家族・・・
ほんとのつながりって、私にとってはなに?どこにある?とつきつけられ
た(有働由美子 キャスター)」。

「たとえかりそめでも、ここに肩を寄せ合った人々の瞳には、真実の光が
ともっている(小川洋子 作家)」。「映画を見終わって、すべての登場
人物の瞳の奥に、天からぶら下がる蜘蛛の糸のようなもの、「希望の光」
が見えた(松本隆 作詞家)」

斜め後ろからの私の感想をいくつか述べる。

(1)彼らは「万引き家族」である。しかし、大量には盗らない。生活に
必要な分だけ盗る。良心的な万引き野郎である(笑)。貧しい食卓だが彼
らには笑い声が絶えない。(実親の虐待で)体中傷だらけの少女、ゆり
(みゆ)は全身がこわばっていた。しかし、この家族の中で彼女の心は溶
け、あたたかい涙が頬を伝った。(大勢でこういう食事をしていたなあ。
家族っていいな)。

(2)名優二人。夫婦の会話はすぐれた掛け合い漫才のようだ。テンポが
いい。ある昼間、夫婦は言葉のじゃれあいから・・・あらら、SEXになっ
た。慣れたもんだ。安藤サクラ(妻)の豊かな太腿がフランキー(夫)の
小ぶりの尻の動きと好対照だった。急に誰かが玄関に、あわてて着衣、何
食わぬ顔でニヤリ。仲がいい。夫婦はこうでありたい。

(3)治(フランキー)が祥太(城)に万引きの極意を教える。「あせら
ずに店員が減るのをずっと待つのがコツなんだ」と。幼いゆり(みゆ)は
これから万引きを「学ぶ」のだろうか。しかし、祥太はしだいに成長し
「万引き」稼業に疑問を感じ始める。家族はお互いが突っかい棒である。
一人ひとりが微妙に支え合っている。そのバランスがどこで崩れてしまう
のか、それとも、持ち直すのか。観客はまったく気が抜けない。

(4)映画「万引き家族」には、現代の日本社会の底辺の「問題点」が凝
縮されているというか、「てんこ盛り」である。万引き(!)はもちろ
ん、死去老親の年金詐取、親による幼児虐待、風俗産業、非正規労働、派
遣社員、日雇い、無戸籍、独居老人、貧困・・・。その中で、是枝監督は
家族を表現する。

この映画は最高賞のパルムドールを受賞したのに、政府は、日本社会の底
辺の「問題点」を気にしたのか、無条件にベタ誉めはしなかったようだ。
映画だから国政の責任は問われない。余裕を持って誉めたらいいと思う。

是枝裕和監督は、いろいろな家族を題材に「家族を超えた人間の絆」を描
いてきた。形骸化しているともいわれる現代の家族へ逆説的に警鐘を鳴ら
す。この映画のキャッチコピーである「盗んだのは絆でした」も、けっこ
ういいな。

街角でリリー・フランキーのインタビュー記事を読んだ(The Big ISSUE
vol.336 2018.6.1「スペシャルインタビュー」飯島裕子)。家族とは、
絆とは、幸せとは何だろうか。2頁の最後に彼がつぶやく。

「家族ってとても煩わしいものですよね。・・・寂しいと思って家族をつ
くり、煩わしいと思って離婚しても、また家族をつくるわけじゃないです
か。だから、“正解の家族”ってないんだろうと思うんです。煩わしさの中
には、とても意味のある温かさがあるから」(6p)。

映画はまさに「百聞は一見に如かず」である。さあ、まだ観ていない人
は、この雑文などは無視して、すぐ映画館へ行きましょう。(2018.6.15
千葉市在住)

(追記)
林芳正文部科学相は2018.6.15の閣議後記者会見で、カンヌ国際映画祭で
最高賞を受賞した是枝裕和監督が林氏からの祝意を辞退したことについ
て、「監督の考えを尊重したい」と述べた。是枝監督は7日、「祝意を伝
えたい」とする林氏の発言に対し、自身のホームページで「公権力とは潔
く距離を保つ」として辞退を表明した。

その際、受賞作の「万引き家族」が文化庁から助成金を受け取っているこ
とに感謝の意を示した上で、「日本の映画産業の規模を考えるとまだまだ
映画文化振興の為の予算は少ない」と記した。文化庁は「万引き家族」の
制作に文化芸術振興費補助金2000万円を支出している。(2018.6.15毎日
新聞)

◆中国との危ないデータシェア

宮崎 正弘


平成30年(2018年)6月7日(木曜日)通巻第5719号 

 フェイスブック、中国との危ないデータシェアを認める
  華為ばかりか、レノボ、OPPO、TCLのスマホとも

米議会が燃えるようにいきりたって、フェイスブックを糾弾している。同
社は世界60のデバイス・メーカーと契約し、データシェアをしている。こ
のなかに中国の華為技術(フアウェイ)、レノボ、OPPO、TCLのス
マホが加わっていた。

すでに米国連邦政府ならびに軍、公務員は華為(フアウェイ)、
ZTE(中興通訊)の使用を禁じられており、また米軍兵士は華為、
ZTEのスマホの使用を禁止されている。

議会で「中国制裁」を騒いでいるのはなにも共和党の対中強硬派だけでは
なく、民主党とのシューマー上院議員(ニューヨーク選出)、ペロシ院内
総務など、どちらかといえばリベラルな議員のほうが、この問題では過激
である。フェイスブック問題は連邦議会で超党派の合意がある。

折しもトランプ政権は中国との貿易戦争でロス商務長官と劉?副首相との
会談が数回なされ、そして物別れに終わり、報復関税の出動が近いとされる。

中国が土壇場で出してきた妥協案は「もし、関税強化を引っ込めるのな
ら」という条件付きで、米国から700億ドルの買い物をするなどという曖
昧な風呂敷だった。

もっともフェイスブックに関しては、10代の利用者が離れつつあり、
『ニューズウィーク』(6月12日号、日本版)によれば、13−17歳の利用
率はユーチューブが85%、インスタグラムが72%、スナップチャット
が69%で、フェイスブックは51%、ツィッターは32%に落ち込んでい
ることがわかった。
        
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書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIE 
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 不思議な独裁者、習近平が現代中国にどうして生まれたのか
  あの日中友好ムードが、何故とげとげしい日中関係に陥没したのか

  ♪
石平v 矢板明夫『私たちは中国が世界で一番幸せな国だと思っていた』
(ビジネス社)
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

 じつにスリルに富んだ体験談に溢れた本である。
ともに文革時代を中国で生きて、目の前で起きた惨劇を体験しただけに全
ての経験談が迫真に満ちているのだ。
 「子供の時分からこのような密告社会に身を置いていると、結論として
は誰もホンネを言わなくなる。嘘しかつかなくなる」(矢板)という実体
験が身に染みる。
 誰も信用しない社会は表面上、のっぺらぼうのシステムに見える。
 残留孤児として天津で育った矢板氏は、日本人であることがすなわち
「外国のスパイ」だとしていじめにあった。
ところが田中訪中があって、日中国交回復がなると、途端にちやほやされ
始め、その豹変ぶりになんとも言えない違和感を抱く。

対談相手の石平氏のほうはと言えば、両親は大学教授だったがために「知
識青年」として下放され、少年期を石さんは祖父の元で育った。漢方医
だった祖父は論語を教え、世間の常識を教える人だった。
 それでも周囲の環境を見ながら育つから、世の中はこんなものだと認識
していた。
 毛沢東の写真が掲載された新聞に芋を包んだだけで処刑されたおばさん
がいた。肉は配給で週に一度。極貧のなかにあっても、アメリカはもっと
貧しいと洗脳され、中国は世界一幸せな国民と信じてきた。
あの時代、情報が閉鎖され、操作されてきたからである。

 地獄の十年といわれた「文革」が終息し、やっとこさ大学が再開される
と、一斉に統一試験が行われたが、高校の先生と現役の生徒と、そして老
齢のひとも一斉に試験を受ける有様だった。生徒が合格し、先生が落ちた
という悲喜劇もあった。
 日本の映画が解禁されるや『君は憤怒の河を渡れ』と『幸せの黄色いハ
ンカチ』が凄まじいブームとなって、中国では高倉健がヒーローになっ
た。中野良子がヒロインだった。
 当時は日本を批判する社会的ムードは皆無に近く、友好友好と叫んで、
すこしでも日本に近付こうという社会風潮になった。
 北京大学をでて「配給された」仕事場が四川大学。そこで教鞭をとるこ
とになった石平氏は、本当のことを教えると周りから疎まれ、やがて日本
留学中の友人から『日本に来たら』と誘いを受けた。
じつに衝動的に日本語も出来ないのにふらりと日本に留学を決めたという。

 天安門事件で批判の嵐に直面した中国共産党は、突如『反日』に舵取り
を換え、爾後、中国において日本は敵となった。

無知蒙昧の大衆を統治するには、つねに仮想敵を必要としているからだ。
 なにしろ日本の温泉ブームにあやかった中国で、ならば一儲けと温泉発
見のために、日本から専門家を呼び寄せたが、それが『スパイ』とイチャ
モンをつけられて、まだ一年以上も勾留されている。我が物顔で中国にい
た「日中友好屋」も、なぜかスパイといわれ、まだ拘束されている。不思
議な国である。

習近平がいかに無能であるかを、両人はその体験を踏まえて、実例を具
体的に挙げて描き出す。じつに示唆に富んでいる。