2018年10月29日

◆中国と対峙する米政権を

櫻井よしこ


「中国と対峙する米政権を日本は支えよ」

マイク・ペンス米副大統領が10月4日、アメリカの有力シンクタンクのハ
ドソン研究所で行った演説は凄まじかった。トランプ政権が中国の脅威を
どれ程深刻にとらえているか、また中国に対してどれ程厳しい戦いを展開
しようとしているかを世界に周知させた演説だった。

米中はまさに「新たなる冷戦」(米クレアモント・マッケンナ大学ケック
国際戦略研究所所長、ミンシン・ペイ氏)の中で鎬を削っていることを示
すもので、日本は政府も民間も、このアメリカの決意を十分に理解し日本
の国益につなげなければならない。

ペンス氏は演説の冒頭、ハドソン研究所中国戦略センター所長のマイケ
ル・ピルズベリー博士の名前を口にして、研究所に招かれたことに謝意を
表明している。

ピルズベリー氏は3年前に、『China2049』を世に問うた。日本語に
も訳された同書はワシントンに一大旋風を巻き起こした。著書の中で氏
は、自身が米政府の一員として長年中国と関わり、一貫して手厚い保護と
援助を中国に与えるようアメリカ政府の政策を立案してきた体験を詳述し
ている。

豊かになれば中国はアメリカのように自由で民主的な国になりたいと望む
に違いないと信じて援助してきたが、中国はアメリカの考え方や価値観に
は反対の立場であり、中国がアメリカのようになりたいと考えることなど
期待できないとの結論を下している。自身も含めてアメリカは中国に騙さ
れていたという痛恨の思いを、援助と裏切りの生々しい具体例を挙げつ
つ、氏はこれでもかこれでもかとばかり書き連ねたのだ。

ピルズベリー氏の個人名を敢えて演説冒頭で口にしたペンス氏は、明らか
にピルズベリー氏の中国体験に学んでいると考えてよいだろう。

余談だが、ピルズベリー氏を最初に日本に招いたのは、私の主宰するシン
クタンク、「国家基本問題研究所」である。2010年の国際セミナー、「イ
ンド洋の覇権争い・21世紀の大戦略と日米同盟」で日米中印の国際会議を
開催し、副理事長・田久保忠衛氏の長年の友人である中国専門家のピルズ
ベリー氏に声をかけたのだ。

トランプ氏の本心

ペンス氏はトランプ大統領と習近平国家主席は過去2年足らずの間に「強
い個人的絆」を築いたと語る一方で、「今日、私は米国民が知るべきこと
を語りに来た」として、「北京は国ぐるみであらゆる政治的、経済的、軍
事的手段を使い、さらに宣伝戦を通して米国内で影響力を強め中国の国益
につなげようとしている」と、約1時間にわたって強烈な非難の言葉を連
ねた。

現在のアメリカの対中政策はトランプ大統領が昨年12月に発表した「国家
安全保障戦略」で明らかなように、それ以前の政権の対中政策とは異なる
と、ペンス氏は強調する。

右の戦略を現場の戦術に置き換えて説明した「国家防衛戦略」は、中国と
ロシアの脅威を、「略奪的経済政策」「周辺諸国を恫喝し続ける」などの
強い表現で非難し、アメリカの敵は、「テロではなく、中露両国」だと位
置づけ、とりわけ中国に対する警戒心を強く打ち出す内容だった。

ここで、多くの人は疑問を抱くに違いない。この戦略報告の前には、トラ
ンプ氏は習氏をカリフォルニアの自身の別荘、マララーゴに招き(昨年4
月6日)、その後の11月8日にはトランプ氏が北京を訪れ、歯の浮くような
賞賛の言葉を習氏に贈った。また、戦略報告の後、今年に入ってからは中
国に制裁的関税をかける一方で、北朝鮮の非核化を巡って中国の助力を期
待し、またもや習氏を度々ほめ上げた。トランプ氏の本心はどこにあるの
か、と迷うのは当然だ。

トランプ氏の言葉と行動が往々にして一致しないために、アメリカの対中
政策の真実が何処にあるのかを測りにくいのは確かだが、この2年間の
「実績」を辿っていくと、トランプ政権はいま、本気で中国と対峙しよう
としていると見てよいだろう。

ペンス氏は、アメリカも賛成して中国を世界貿易機関(WTO)に参加さ
せたのが2001年であり、これまでの17年間にアメリカは中国に巨額の投資
を行い、その結果中国のGDPは9倍に成長したと説明する。

他方、中国共産党は、自由で公正な競争というアメリカが大切にする価値
観とは相容れない関税、割当、自国産業への不公正な補助金、為替操作、
企業への強制的技術移転の要求、知的財産の窃盗などの不公正な手段で応
じてきたとし、いま、「中国製造2025」というスローガンを掲げて、25年
までに世界の最先端産業の90%を中国がコントロールしようとしていると
論難する。

ロボット、バイオ、人工知能

ペンス氏は具体的にロボット、バイオ、人工知能の分野を挙げて、中国が
アメリカに対して優位に立ち、支配を確立するために、如何なる手段を講
じてもアメリカの技術や知的財産を盗み取ろうとしていると、強く反発した。

軍事的にも、中国はかつてない程大胆な挑戦を続けているとして、日本が
施政権をもつ尖閣諸島の事例にまっ先に触れた。南シナ海でアメリカの
イージス駆逐艦「ディケーター」が「航行の自由」作戦を行っていると、
中国海軍の駆逐艦が40メートルの近さにまで異常接近した事例にも言及
し、アメリカはこんなことには屈しないと息巻いた。

中国の言論弾圧、宗教弾圧にも具体的に触れ、国民全員を監視する中国
は、社会をジョージ・オーウェルの世界にしようとしているのだと喝破した。

貧しい発展途上の国々を借金漬けにして、港や鉄道などのインフラを取り
上げてしまう債務の罠についても豊富な具体例を列挙して中国の手法を非
難した。

また、アメリカに対しては、アメリカ国民に影響を与え、トランプ氏以外
の大統領を選ばせようと情報工作をしており、中国政府が「米国社会分断
のために、正確かつ注意深い打撃を加えるよう」指示を出していると語っ
ている。そのために、自由の国アメリカに、中国はラジオ局を30局以上設
立し、中国のテレビ放送は7500万人の視聴者を獲得している、その影響は
大きいと警告する。

中国の許容し難い点をおよそすべて列挙して、トランプ政権はアメリカの
国益を中国の略奪的行動から守る決意だと、ペンス氏は強調した。どう考
えても、アメリカの価値観と中国のそれは合致しない。突き詰めれば突き
詰める程、相違は大きくなる。米中の冷戦は長期化するとの前提に立っ
て、アメリカと歩調を合わせる局面である。それが日本の国益につなが
る。トランプ氏の言葉に惑わされず、アメリカ政府の政策をじっと見るべ
きときだ。
『週刊新潮』 2018年10月18日号 日本ルネッサンス 第823回


◆木津川だより 蟹満寺

白井繁夫


七世紀末(白鳳時代)の大作(丈六の金銅仏像):国宝の釈迦如来坐像を、現在は本尊として祀る「蟹満寺(かにまんじ)」が「木津川の右岸:木津川市山城町綺田(かばた)」に在ります。

当寺院は真言宗智山派 普門山蟹満寺として、もともとは観音菩薩が本尊でした。寺号が『今昔物語集』の巻十六に収録された蟹の報恩譚と結びつく民話「山城の国の女人、観音の助けに依(よ)りて、蛇の難を遁(のが)れたる語(こと)」で有名です。

当寺の入口近くに建つ観音堂のなかに祀られている秘仏の観音菩薩が元の本尊です。本堂に祀られている現在の本尊:釈迦如来坐像は、像高2.4メートル、重量約2.2トンの巨大な金銅仏です。

「蟹満寺」に参拝した第一印象は、有名な国宝の仏像を祀る寺院なのに、こじんまりした境内で本堂は新しく、外観だけでは南山城の各寺社と比べ、歴史の重みをあまり感じませんでした。だから、「木津川沿い」は昔から度々水害が発生し被害を受けて、いろんな建造物も流されたのか?と思いました。

しかし、本堂に上がり、須弥檀に安置されている巨大な釈迦像に対面した時、芸術的とか歴史的とかを超越した世界に引き込まれ、言葉では表現できない境地になって、遙々訪ねてきて本当によかった。と心から安穏を感じました。

本堂に安置されている銅像の釈迦如来坐像は、巨像の少ない白鳳から天平彫刻への移行時代の鋳造技術の解明に寄与する重要な仏像と云われています。(興福寺仏頭→蟹満寺如来像→師寺薬師三尊の中尊像と技術が推移していると一般的に云われています。)

『山城名勝志』に「蟹満寺は光明山懺悔堂(ざんげ)と号す。本尊は観音像でまた釈迦像がある。」と記されています。(寺伝には光明山寺の廃滅に当って光明山懺悔堂が蟹満寺へ移る。と記されています。)

銅像の釈迦像は類稀な巨像(丈六像)ですが、この寺の本尊でなかった点に疑問が向けられ、下記の諸説が出ました。

<角田丈衞説>:巨像は狛一族が制作したが、高麗寺(山城町上狛)が藤原初期廃滅し、
光明山寺へ移り、蟹満寺へ来た。

<杉山二郎説>:山城国分寺金堂の本尊説、地元高麗鋳物師たちの作品(天平15年開眼供養)
田中重久説:蟹満寺は蟹幡郷が訛って蟹幡寺(かんはた)、蟹満多寺、紙幡寺という。
『太子伝古今目録抄』に「蝦蟆寺、秦川勝建立堂也」とあり、秦氏の長者秦和賀が建立。

<足立康の説>:天平の最高権力者:橘諸兄の別業付属の寺院:井堤寺(井出寺)からす。
(釈迦像の造立年代を白鳳時代と考える説と薬師寺金堂の薬師像と酷似から天平時代と
考える説に分かれています。)

しかし、蟹満寺からは白鳳時代の大和川原寺式の瓦が発掘されており、近年数次の発掘
調査を寺域で行った結果も、7世紀末(白鳳時代)に創建されことが確認されました。

本堂の須弥檀は堂のほぼ中央に位置しており、1300年間釈迦如来座像は創建時の位置
の状態のままである。と云う「説」が発表されました。

(川原寺は壬申の乱に勝利して天下を掌握した天武天皇が崇敬した寺、川原寺系瓦は天武
天皇に味方した豪族に恩賜として使用許可された白鳳時代の瓦です。)

創建期の金堂が薬師寺の金堂とほぼ同じ規模であり、現在の須弥檀も中央に在るからと
いって構造も薬師寺と同じだと断定できない。だから安置場所も確定できない。という
反論もあります。

「木津川流域」は古来より氾濫が多く、その上天井川もあり、歴史的に貴重な文物も地下に眠っていると推察されますので、今後の更なる発掘調査に期待しています。

蟹満寺と云えば、今昔物語集の蟹の恩返しの民話に繋がりますので、古来より伝わって
来た民話から我々の祖先の物の見方、考え方にも(私見ですが)少し触れてみます。

<民話の荒筋:山城の久世に住む慈悲深い娘が蟹を捕えて食べようとしている人に、娘の家にあった死魚と蟹の交換を願い、その活き蟹を川に放つ。

その後、娘の父(翁)は蛙を飲み込もうとしている毒蛇に出会って(蛙を不憫と思い)、
を放てば娘の婿として迎えると約した。蛇は蛙を見捨てて薮の中へ消えた。(翁は悩むが娘に事の次第を告げた。)

娘は父(翁)に蛇が来れば3日後に来るよう告げ、頑丈な倉を造り娘はそこへ入った。
立派な5位の姿できた若武者は娘がいないことを知るや蛇の姿に戻り、倉をぐるぐる巻き
に巻き尾で戸を叩く、娘は観音の加護を願って夜中法華経を誦えると僧が現れ不安を解く。

翌朝、多数の蟹と蛇の屍骸があり、その者らを鄭重に供養して、埋葬した上に寺を建てた。
その寺は蟹満多寺(かみまた)といい、その後、紙幡寺(かみはた)と云う。:>

蟹は助けられた人の恩に報いるため、何の縁も恨みもない蛇を殺す罪を作り、蛇は約束を
果たされずに、逆に殺される。蛇が毒蛇でも何かかわいそうですね。しかし、観音様は悩める全ての者の罪報を助け救ってくださる。と云われています。

蛇はその姿形からして、古来より人は怖がり、畏敬から信仰の対象となって水霊(白蛇.
竜など).農業神にもなっています。ここに出てくる蛙や蟹も水棲動物であり、「木津川の洪
水」に悩むが田畑の灌漑には役立つ水に纏わる動物です。

「蟹満寺」はすぐ近くにある綺原神社(かにはら)と対になって五穀豊穣を祈った寺社
は、と思われますが、蟹の恩返しの民話が有名になり、「蟹供養放生会」が毎年4月18日に盛大に催行されるようになりました。

私達は子供の時から亡くなった人は善人も悪人も皆仏様だから大切にして、罪を憎むが人
を憎まず、過去の不幸等は早く忘れて水に流しなさい。と云われてきました。

しかし、昨今の世界情勢を見ると、「菊池寛の恩讐の彼方に」の世界をはるかに越え、過去に不幸を被ったことは絶対に忘れてはいけない、許すことは先祖を大切にしない。ということと同じだと云う人々が出て来たように感じています。

参考: 山城町史      本文編     山城町
    木津川歴史散歩  南山城をめぐる  斉藤幸雄著

2018年10月28日

◆安倍訪中、「競合から協調へ」

宮崎 正弘


平成30年(2018年)10月27日(土曜日)弐 通巻第5869号 

 安倍訪中、「競合から協調へ」スタンスを本気で変えたのか?
  米国メディアは慎重に批判。「危機にヘッジした」とNYタイムズ

10月26日、訪中した安倍首相は李克強首相と会談し、「競合から協調へ」
として握手したが、米中対決という歴史的変化の流れに逆らうかのような
日中接近を、米国はいかに総括したか、或る意味、それが問題だろう。

ウォール・ストリートジャーナルは「日本は米国の警戒心を十分に心得て
おり、米国批判を差し控えたが、日中は『自由貿易』が重要として、トラ
ンプの遣り方を引っかけた」と書いた。

同紙はまた日本の代表団に1千名もの財界人が随行したことを問題視して
いる。

NYタイムズはトランプ批判の急先鋒だが、トップ記事は爆弾男の逮捕、
サウジ、イエーメン問題で、首相記事の片隅に日中接近のニュースが配置
されている。

そして「日本は中国をパートナーだと言って、トランプの移り気な対中政
策によって孤立化する状況へのヘッジをかけた。つまり(保護貿易で)孤
立したトランプ音対中政策が、日中を接近させたのだ」とあくまでも批判
の対象はトランプである。

そのうえで、米国メディアが特筆したのは日本のODAが終わりを告げた
こと、シルクロード(一帯一路プロジェクト)への日中の協力が唱われた
ことに焦点をあてつつ、日中通貨スワップに関しては、意外に小さな扱い
である。

しかし一帯一路への日本の協力に関しては、声明文に明確な付帯条件が
あって、「ルールに則り、透明性のあるプロジェクトへの協力」となって
おり、諫言すれば、その両方を欠いている中国の遣り方が続く限り、日本
の協力はないという意味に取れる。
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 切支丹伴天連の暗躍をイエズス会から見ると、日本はどう映っていたか
  意外に客観的に、世界史の視点から布教活動を評価している

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ウィリアム・バンガード著 上智大学中世思想研究会訳
『イエズス会の歴史』(上下。中公文庫)
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イエズス会の視点から書かれたイエズス会の歴史である。つまり内輪の人
間から見た、自分史でもある。しかし、過大評価でもなく、矮小化した歴
史叙述でもなく、淡々とイエズス会の誕生から現在までの波瀾万丈を述べる。

とくにイエズス会は神秘的な霊感をえた創始者イグナティウス・デ・ロヨ
ラがパリで唱え、忽ちにして七人の同志が糾合した(1534年)

上智大学の正門前にあるイエズス会の教会は「イグナチオ教会」。命名は
この創始者から来ている。その創始者7人のなかに、フランシスコ・ザビ
エルがいた。ふたりはバスク人だった。

1540年に国王の許可を得て、海外布教に乗り出したことはよく知られる
が、いきなり日本に来たのではなかった。その前史は大西洋からブラジ
ル、喜望峰を越えて、インドのゴアにたどり着き、そこからマルッカ(マ
ラッカ)、マカオを経て、薩摩にザビエルが上陸したのだった。こんにち
南アメリカ諸国は殆どがスペイン語圏なのに、ブラジルだけがポルトガル
語という歴史的背景は、この航路から理解できる。

ザビエルは聖人として、ゴアの教会(世界遺産)にミイラが保存されてい
る。そのゴアに帰還する前にマラッカの教会に数ヶ月、遺体は保存された。

評者(宮崎)も両方を見に行ったが、ともに世界遺産の遺構のなかにある。

チェコの首都プラハのカレル橋に飾られた多くの英傑の銅像のなかでも、
観光客がもっとも集まり、写真を撮るのはザビエルだ。それほどザビエル
は、キリスト教徒から崇敬をあつめている。

さて、パリで結成されたイエズス会は、「清貧、貞潔、聖地巡礼」の三つ
の誓願に収斂された。

ザビエルは最初に上陸した薩摩での布教に失敗すると、「仏教の総本山で
ある比叡山と、北に遠く離れた都、現在の京都にいる帝の両者と接触する
ことにした」。(中略)だが都では、「大勢の人の嘲笑と軽蔑に」遭遇
し、ザビエルはすごすごと引き下がった。なぜなら「社会・政治機構につ
いてのひどく間違った情報にもとづいた浅はかなものだった」からだ。
ゴアやマカオで仕入れた日本に関する情報がすべて間違っていたというこ
とである。

そこでザビエルは山口の大内氏に「美しく書かれた信任状と、念入りに取
りそろえた献上品を携えて山口の大名の前に姿を見せることにしたのであ
る。彼とフェルナンデスは平戸まで戻り、ポルトガル人の協力を得て」、
時計、眼鏡、オルゴール、葡萄酒などを贈り物として揃え、威風を見せる
ために立派な衣装をまとうなどの工作をした。

山口での布教は成功し、日本人が「非常に知的で向学心に富み、新しい信
仰への専心に余念のない事に喜びを覚えた。ザビエルは教えながら学んで
もいた。日本の人々が世界で一番博識なのは中国人であると思っており、
芸術、思想、宗教の刺戟と手本を海の向こうのこの大帝国(シナ)に求め
ていることが分かった(中略)中国の改宗が日本の改宗に最も効果のある
鍵だ」

ザビエルは布教方針を日本からシナ重視に変えたのだ。

このような叙述が現在のイエズス会の記録にあるのは一種驚きでもある。
だが、信長の登場によって都での情勢が激変し、信者が加速度的に増えて
いった。有力大名の大友、有馬、そして天草、長崎でイエズス会の信者は
雪だるまのように膨らんだ。いかにデウスが大日、マリアが慈母観音とい
う布教の方法が効果的であったか、キリスト教のドグマは日本的に溶解し
ていたのだ。

その後の布教活動で、ヴァリニャーノが問題である。

「ヴァリニャーノは日本文化の豊かさについて深い鑑識眼を持ち、カト
リックの教義にとって危険が生じない限り、この文化に自らの生活の仕方
などを会わせるべきであると確信し」ていたが、「3つの要因が成功とは
反対の方向に作用し、ついには1614年、追放の布告が出されるに至った。
その三つの要因とは、イエズス会の准管区長の判断の誤り、フランシスコ
会士との激しい論争、そしてイギリス人の到着で増した商業の利害を巡る
衝突の影響である」(上巻、302p)

コエリョが「軽率」だった、というのがこの著者の総括である。つまり、
これが現在のイエズス会の公式見解に近い意見とみるべきである。コエ
リョが好戦的に反応し「カトリック大名の叛乱を組織しようとし、またゴ
ア、マニラに派兵要請を書き送ったのである。ヴァリニャーノはひどく
噴って反対した」(上、3030p)。

この記述が公式見解であるとすれば、秀吉は誤解して禁教したという解釈
になり、首を傾げたくもなるが、当時の実力差を勘案すればイエズス会本
部は、一応妥当な判断をしていたということだろう。

もうひとつの切支丹伴天連の見方が明確に分かる。

     
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  樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1810回】                
 ――「支那人は不可解の謎題也」・・・徳富(35)
徳富蘇峰『支那漫遊記』(民友社 大正7年)


                 ▽

「支那人をして、斯くの如く思惟せしむる」ために、「只だ、興亞の一天
張りを主要とする、大旗幟の下に、日支協同の一大新聞を、發行」させる
べきだ。そこで問題になるのが人材と資金だが、いずれ「英、米、獨逸其
他の國人」は必ず新聞創刊に踏み出すはずだ。その時になって「如何に
七?八到するも時機既に晩しと云はざるを得ず」。であればこそ、日本人
は躊躇せずに一日も早く新聞創刊に踏み切れ。

■「(65)道?の天下」

「儒?は、治者階級少數者に?にして、然もそれさへ實際は覺束なく、唯
だ看板に過ぎず。佛?も寧ろ、曾て上流社會の一部に行はれる迄」であ
り、「強ひて國民的宗?」をあげようとするなら「道?に若くはなかる可
し」。「未來の安樂を豫約する佛?よりも、現在の福利を授與する道?が
支那の民性に適恰す」る。

道教と国民性の関係を考えれば、「道?支那人を作らず、支那人道?を
作」るというべきだ。いわば「支那人ありての道?にして、道?ありての
支那人」ではない。「道?其物」こそ「支那國民性の活ける縮圖」なのだ。

■「(66)回?徒」

「若し支那に於て、眞に宗?と云ふ可きものを求めば、恐らくは唯回?あ
らんのみ」。それというのも形式にも虚儀に流れない回教だけが「聊か活
ける信仰と、活ける力を有」しているからだ。

「回教とは、新疆より北滿に及び、寨外より南海に至る迄、殆んど一種の
秘密結社たるの風あり」て、彼らは異郷にあっても「必ず回?徒の家に宿
す」。彼らの「分布の地域は、支那の領土に普」く、「彼等が?徒として
の氣脈相接し、聲息相通じつゝある團結は、蓋し亦た一種の勢力」という
ものだ。

なぜ回教徒が全土に住んでいるのか。それは「支那は、世界のあらゆる物
の會湊所也、即ち溜場」だからだ。宗教をみても「佛?あり、道?あり、
拝火?あり。猶太?も、今尚ほ若干開封府に存し、景?に至りては、唐代
に於ける盛況」が伝えられている。

少数派である彼らは「宗門の戒律を守」ることで、自らを守る。であれ
ばこそ「少なくとも支那に於ける、他の宗教に比して、其の活力の若干を
保持しつゝあるは」否定できない。

■「(67)日本の?史と支那の?史」

「日本の?史は、支那に比すれば、稀薄にして、其の奥行き深からず」。
だから「如何に贔屓目に見るも、支那の歴史に於て、太陽中天の時は、日
本の?史に於ては、僅かに東方に曙光を見たるならむ」。だが「唯だ日本
が支那に對してのみならず、世界に向て誇り得可きは、我が萬世一系の皇
室あるのみ」。「此の一事に於ては。空前絶後、世界無比」といっても過
言ではないが、「帝國其物の?史は、質に於ても、量に於ても、到底支那
の敵にあらず」。

――さて蘇峰山人の説かれる歴史の「質」が何を指し、「量」は何を指すのか。

■「(68)一大不思議」

「吾人(徳富)が不思議とするは、支那史の久遠なるにあらずして、其の
久遠なる繼續にあり」。「或る意味に於ては、支那の保全は支那其物の爲
めのみならず、世界に於ける活ける最舊國の標本として、是非必要」だろう。

たしかに「老大國」であり「老朽」ではある。「舊國民として多くの缺點
を有する」。「に拘らず、尚ほ若干の活力を有するを、驚嘆」しないわけ
にはいかない。

◆米中対立は中長期にわたり本格化する

                          櫻井よしこ


「米中対立は中長期にわたり本格化する 日米の連携を一層強めていくの
がよい」

米国が遂に中国の本性に気づいた──。10月4日、マイク・ペンス米副大統
領が有力シンクタンク「ハドソン研究所」で行った演説のメッセージがこ
れだった。

米国の「覚醒」は遅すぎるとも思えるが、それでも彼らが中国の長期的国
家戦略の意図を正しく認識するのは日本にとって歓迎すべきことだ。

ペンス氏は約1時間、およそ全分野にわたって中国批判を展開した。不公
正貿易、知的財産の窃盗、弱小国への債務の罠、狡猾な米中間選挙への介
入、豊富な資金による米言論機関、シンクタンク、大学、研究者への影響
力行使、米国世論を動かす中国メディアの一方的情報、さらに、南シナ
海、インド洋、太平洋での軍事的席巻など、ペンス氏は果てしなく具体例
を挙げた。

諸外国だけでなく自国民にも苛烈な圧力を中国共産党は加え2020年までに
ジョージ・オーウェル的社会の実現を目論んでいるとも非難した。

この一連の異常な中国の行動を見逃す時代はもはや終わりだと、トランプ
政権の決意を、ペンス氏は語ったのだ。米国はいまや対中新冷戦に突入し
たと考えてよいだろう。

とりわけ印象深いのは、演説でペンス氏がマイケル・ピルズベリーという
名前に二度、言及したことだ。現在ハドソン研究所の中国戦略センター所
長を務めるピルズベリー氏は1969年、大学院生のときにCIA(米中央情
報局)にスカウトされ、以来、CIA要員として中国問題に関わってきた。

親中派の中の親中派を自任する氏は3年前、ベストセラーとなった
『China 2049』を書いて、自分は中国に騙されていたと告白し、氏
がそのほぼ一生を費やして研究した中国人の考え方を詳述した。中国人
は、米国を横暴な暴君ととらえ、中国の最終決戦の相手だと認識している
が、米国はそのことをほとんど理解しておらず、むしろ中国は米国のよう
な国になりたいと憧れていると勝手に思い込み、結果として騙され続けて
きたというのだ。

一例として氏は米中接近の事例を示している。私たちは、米中接近はニク
ソン大統領が旧ソ連を孤立させるために中国を取り込んだ大戦略だと理解
してきた。しかしピルズベリー氏の見方は異なる。60年代末に中国は国境
を巡ってソ連と対立、新疆国境でソ連軍と大規模な衝突を起こした。軍の
タカ派の元帥らはソ連に対して米国カードを使うべきだ、台湾問題を不問
にしても米国に接近すべきだと毛沢東に進言、毛はそれを受け入れたという。

ニクソン大統領の訪中で、米中関係は劇的に改善されたが、それは中国が
支援と保護を必要とする無力な嘆願者を装い、武器装備をはじめ、中国が
対立していたインドやソ連の情報まで、世界が驚く程の貴重な支援を米国
から手に入れた構図だったと、ピルズベリー氏は明かしている。

明らかに中国は米国の力を借りて力をつけた。それは彼らが日本から膨大
な額のODA(政府開発援助)をせしめ、鉄鋼をはじめとする基幹産業技
術を移転してもらって力をつけたのと同じ構図だ。

ピルズベリー氏はさらに中ソ関係も分析した。中国はソ連に対しても米国
に対するのと同様に弱い国を演じて最大限の援助を受け、力をつけ、最終
的に米国の側につくことでソ連と訣別し、ソ連を潰したというのだ。

そしていま、中国は米国に対しても覇権を目指す意図を隠さなくなった。
米国がもはや太刀打ちできないところまで、状況は中国有利に変化したと
中国が判断した結果だというのだ。ペンス氏もそのピルズベリー氏の分析
を共有しているのであろう。それがハドソン研究所でのスピーチではない
か。米中の対立は中・長期にわたり本格化していくと考えるひとつの理由
である。導き出される結論は日米連携を一層強めるのが日本の国益だとい
うことだ。

週刊ダイヤモンド 2018年10月20日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1252

◆インスリン注射不要の夢

渡部 亮次郎


2006年8月、京大の山中伸也教授が、人の皮膚から採った細胞に4つの遺伝
子を入れて培養したら、万能細胞ができた。iPS細胞=人工多能性幹細胞
と言うそうだ。

万能細胞から、神経細胞、心臓細胞、臓器細胞、血液細胞、軟骨などが作
られ糖尿病や心臓病に使えるとされている。

自分の皮膚から採った細胞だから、自分の体に入れても拒否反応がない。
ノーベル賞だという声が上がって本当に受賞した。細胞や臓器の再生へ、
万能細胞の研究競争が激化するだろう。

山中教授は、何年かしたら、人工細胞ができると言う。激しい競争がある
からだ。

しかし、4つの遺伝子は、癌細胞から採っているので、人に応用すると思
わぬ事故になる可能性があると言う。

山中氏は、神戸大→大阪市立大→カリフォルニア大と研究を続けて、世界初
の万能細胞を作った。

人工細胞は、糖尿病、心筋梗塞(しんきんこうそく)、脊髄損傷(せきず
いそんしょう)などの治療に使える。
http://www2.ocn.ne.jp/~norikazu/Epageh3.htm

このうち糖尿病治療への展望について専門家に聞いて見ると、うまくすれ
ばインスリン注射が要らなくなる可能性があるという明るい見通しがある
らしい。

糖尿病は、食べたものを血肉にするホルモン「インスリン」が膵臓から十
分に出てこないため、溢れた栄養(ブドウ糖)が血管を内部から攻撃した
末に小便に混じって出る病気である。小便が甘くなるから糖尿病。

糖尿病それ自体ではなかなか死なないが、内部から血管を糖分で攻撃され
ると、脳梗塞、心筋梗塞、盲目、足の切断、癌多発といった
「合併症」を招いて、寿命より10年は早く死ぬ。

栃木県にある自治医科大学内分泌代謝科の石橋俊教授によると、駄目に
なった膵臓や膵頭を何らかの方法で丈夫なものを移植すれば問題は一挙に
解決し、インスリン注射も要らなくなる。

しかし日本ではドナーが不足し、膵頭を調整する試薬の供給がストップし
たりして、こうした治療を受ける患者は2桁どまりだ。

そこで注目されたのが、インスリン「製造工場」ともいえる膵ベーター細
胞の再生治療だったがヒトの受精卵の仕様に付随する倫理的制約や拒否反
応が壁になって進んでいなかった。

そこへ登場したのが山中教授の万能細胞。ヒトES細胞から膵ベーター細胞
を作る研究は壁に突き当たったが、山中教授のiPS細胞なら、自分の皮膚
から出来た物だから拒否反応も倫理的な問題も起きない。

問題は今回できた4つの遺伝子が、がん細胞からとっているので、人に応
用すると思わぬ事故になる可能性があることだ。石橋教授は「この問題が
解消されれば、実用化は意外に早いかも知れない」と言っている。

資料:(社)日本糖尿病協会関東甲信越地方連絡協議会機関紙「糖友
ニュース」91号(2008・7・1)  執筆 08・06・28


◆毛馬を出奔した蕪村の理由

石岡 荘十


インフルエンザというか、「はやり風邪」の記述を歴史の中にたどると、今で言う「新型インフルエンザ」はじつは昔から繰り返し起きていたことがわかる。だからいまさら「新型」というネーミングは「いかがなものか」と首をかしげる感染症や公衆衛生の専門家が少なくない。

南北朝時代を描いた歴史物語、「増鏡」にこんな記述がある。

「ことしはいかなるにか 、しはぶきやみはやりて、ひとおおくうせたまふ」「しはぶき」は咳のことだから「咳をする病で多くの人が死んだ」ということだ。また、「大鏡」には、1006年前の寛弘8年(1011年)6月、一条法皇が「しはぶきやみ」のため死亡したと書かれている。

ずっと時代を下って享保18年(1733年)、大阪市中で33万人が流行性感冒にかかり、2,600人が死亡。

注(蕪村が庄屋を引き継げず、庄屋:問屋・宿屋を売却して、毛馬を出奔した。家族も
身内も、蕪村に家督を継ぐがさせようとしたが、父親が死んだ以上、絵だけに頼って
江戸へ下り、俳人巴人を訪ねて、弟子となった。インフルエンザが人生を変えたI

この流行は江戸へ蔓延し、人々は藁人形で疫病神を作り、鉦(かね)や太鼓を打ち鳴らし、はやし立てながら海辺で疫病神を送った、とある。

これらの出来事は、いずれも6月、7月の暑い季節に起きており、疫学的に証明されたわけではないが、どうも、寒い時期に起きるいわゆる季節性の風邪とは違うようだ。

さらに、江戸時代には天下の横綱・谷風がはやり風邪にかかり本場所を休んで、連勝記録が止まってしまった。世間では「谷風もかかったはやりかぜ」と怖れ、四股名にひっかけて、はやりかぜのことを「たにかぜ」と呼んだそうだ。

天保6年(1835年)の「医療生始」という書物には「印弗魯英撒(いんふりゅえんざ)」の言葉が早くも見える。

そして1918年春から翌年にかけて、第1次世界大戦の最中、海の向こうではアメリカに端を発した史上最悪のインフルエンザ「スペイン風邪」がヨーロッパに持ち込まれて猛威をふるい、やがて全地球に蔓延する。

感染者は当時の全地球人口の三分の一の6億人、いろいろな説があるが死者は5000万人に達したといわれる。日本では、大正7年のことだ。当時の人口5500万人に対し最新の研究では死者は48万人に達していたと推定する説もある。当時の新聞の見出しはこうだ。

「西班牙風邪遂に交通機関に影響(東京朝日新聞 大正7年10月31日)」。「電信事務も大故障(読売新聞 大正8年2月6日)」---。

スペイン風邪については↓。
http://www.melma.com/backnumber_108241_4570052/

これらは明らかに、季節性のインフルエンザとは違った。スペイン風邪の病原体が「新型インフルエンザ」と同じA型インフルエンザH1N1と分かったのは、1933年になってからのことである。

つまり、いま問題になっている新型インフルエンザはじつは「新型」でもなんでもなく、「旧型」のリバイバルなのである。その後1997年、アラスカの凍土の中から発見された4遺体から、肺組織の検体が採取され漸くスペイン風邪の病原体の正体が科学的に裏付けられた。

スペイン風邪だけでなく、6月や7月の湿気の多い梅雨のむし暑い季節に流行った「しはぶきやみ」もじつはいまの新型インフルエンザのご先祖様の仕業だったかもしれない。

「新型インフルエンザは時々現れる。1580年以来10〜13回パンデミック(世界規模の蔓延)が発生している」(国立感染症研究所の岡部信彦情報センター長)のである。

アジア風邪は1956年に中国南西部で発生し、翌年から世界的に流行した。ウイルスはA型のH2N2亜型である。H、Nの詳しい説明は素人には手に負えないのでここでは省くが、新型インフルエンザH1N1の親戚筋、「いとこ」か「はとこ」だ。死者はスペインかぜの1/10以下であったが、抗生物質の普及以降としては重大級の流行であった。

40年ほど前、前回の「パンデミック」である香港風邪(H3N2)が1968年に発生。6月に香港で流行を始め、8月に台湾とシンガポールに、9月には日本に、12月にはアメリカに飛び火する。結局、日本では2,000人、世界では56,000人が死亡したと言われている。日本では3億円事件のあの年である。

10年前、1998年にも香港風邪が流行った。このときはH3N2ウイルスだったが、アジア風邪(H2N2)のフルチェンジだったといわれる。

一昨年2007年に流行ったAソ連型インフルエンザの先祖は、30年前の1977年のソ連風邪(H1N1)だ。因みに、ソ連と名前が付いているが、“原産地”、つまり発祥地は中国だといわれている。1977年5月に中国北西部で流行をはじめ、同年12月にシベリア、西部ロシア、日本へ、さらに翌年1978年6月にはアメリカへと飛び火。

ウイルスがスペイン風邪と同型だったということで、研究室に保存されていたスペイン風邪のウィルスが何かの理由で漏れ出したという憶測もあるくらいよく似ている。

これらスペイン、香港、ソ連の風邪は、いずれも近年も流行を繰り返しているA香港型インフルエンザのご祖先、鳥インフルエンザから変異した新種のウィルスによるものだといわれている。

「新型インフルエンザ」とは、人間はまだ感染したことがない新種のインフルエンザのことを言い、新種のウィルスであるため、人間にとっては免疫が働かないとされているが、じつは中にはリバイバル、ちょっと“化粧直し”をして姿を現すものもあることがわかる。

いま大騒ぎしている新型インフルエンザは英語では‘Swine Flu’という。

‘New Type Influenza’などとは言わない。「新型」とまったく別のインフルエンザのような印象を与えるネーミングをしているのは日本だけのようだ。いま流行っているのはブタ由来のインフルエンザなのだが、死亡率が高く本当に怖いのは鳥由来のインフルエンザ(’Avian Flu’ Bird Flu’)である。

過去にも何度か鳥インフルエンザの“震源地”となった中国大陸の関連情報について業界では、今ひとつマユツバだという見方もある。ことによったら香港風邪のリバイバル型が周辺国を窺っているかもしれない。

軍事的な脅威ばかりが声高に議論されているが、ウイルスに対する警戒を怠ってはならない。



2018年10月27日

◆お邪魔虫共産党

渡部 亮次郎


中国では幹部でも汚職がばれれば死刑になる。それでも幹部の汚職が引き
もきらない。いくら共産主義に共鳴しても、私欲とは人間の本能に等しい
ものだからである。

こうした目で中国を見ていれば、共産党が政権を掌握している限り人権尊
重や政治の民主化なぞは絶対実現しないと思うのが普通だが、経済の改革
開放が進むのに比例して民主化が進むはずだと考える人々がいる。特にア
メリカの人たちに多い。

中国が何故、共産革命に成功したか。それは国家権力を手中にしようとし
た毛沢東の策謀が成功したからである。国家の形態は何でも良かったが、
とりあえず貧民が国民の大多数だったので、「金持ちの財産を分捕り、皆
で平等に分配しよう」と言う呼びかけに合致したのが共産主義だった。

共産主義政府の樹立が毛沢東の望みではなかった。真意は権力の奪取だっ
た。日中戦争の終結で、日本軍の放棄して行った近代兵器を手中にして蒋
介石と国内戦争を続けた結果、蒋介石は台湾に逃亡した。毛沢東は昭和
24(1949)年10月1日、中華人民共和国建国を宣言した。

人民も共和も中国語には無い。日本語だ。畏友加瀬英明氏の説明だと、中
国語には人民とか共和と言う概念が無いのだそうだ。北朝鮮はそれに民主
主義が加わって嘘が深化している。

権力は掌握したが、人民への約束を果たす手段が無い。とりあえず人民公
社と大躍進政策が当時のソ連をモデルに実施されたが、農民は生産意欲の
低下とサボタージュで抵抗。

結果として食糧不足に陥って各地で飢饉が発生。餓死者は1500万人から
4000万人と推定されている(「岩波現代中国事典」P696)。

毛沢東の死(1976年)後2年、失脚から3度目の復活を遂げていたトウ小平が
経済の開放改革を断行。開放とは日本など外国資本の流入を認め、改革と
は資本主義制度への転換を意味した。

4つの近代化を掲げたのだ。工業、農業、国防、科学技術の近代化であ
る。今のところ実現に近付いているのは軍事の近代化である。

トウ小平は政治の近代化だけは断乎として拒否した。肥大化した経済が政
治(共産政府)を圧倒する危険を回避したのである。だから第2天安門事件
には反革命の匂いを嗅ぎ、断乎、弾圧した。

しかし発展する資本主義にとって共産党政府による様々な統制は邪魔以外
の何物でも無い。工場用地の確保一つとってみても、土地すべての国有は
障害でしかないが、自由にならない以上、共産党幹部を「買収」する以外
に方法が無い。

したがって多発する共産党幹部による汚職事件はいわば構造的なことで
あって、客観的にみれば「事件」ではなく「日常茶飯事」に過ぎない。

しかも冒頭に述べたように「私欲」は本能のようなものだ。所有を否定す
るのが共産主義の思想でも「本能」には勝てっこない。つまり共産主義体
制化で経済だけを改革開放すれば汚職簸自動的に起きるし、共産党幹部に
すれば、現状を変更するメリットは全く無いわけだ。

汚職は時たましか発覚しない。摘発で死刑になるのは不運な奴で政府の知
るところではないのだ。かくて中華人民共和国政府は汚職にデンと腰を下
ろした政権。民主化を抑え、人権無視の批判など絶対耳に留めない。耳が
左右に付いているのは右から聞いたら左から逃す為にあるのだ。2010・12・5

◆首相は中国の人権問題に言及せよ

櫻井よしこ


米中新冷戦が深まりつつある。

10月10日、米共和党上院議員のマルコ・ルビオ氏と同党下院議員のクリ
ス・スミス氏が「中国に関する議会・行政府委員会」の年次報告書を発表
した。

ルビオ氏らは中国政府が100万人以上の少数民族、とりわけウイグル人を
再教育施設に強制的に収容している、中国は北朝鮮と並ぶ弾圧国家で、南
アフリカのアパルトヘイトさながらの人種差別国家であると激しく非難した。

さらに、習近平国家主席の下で人権を巡る状況は幾何級数的に悪化してお
り、2022年に予定されている北京での冬季五輪開催を見直すよう国際オリ
ンピック委員会に申し入れ、獄中にある経済学者のイリハム・トフティ氏
を来年のノーベル平和賞候補に推薦する予定だと語った。

318頁に上る大部の報告書は、中国は経済大国になっても一党独裁をやめ
ず、民主化もしない国だと、歴史的経緯を辿りながら告発している。その
ような国に対してアメリカは、「常に政治犯について言及せよ」、「米中
2国間協議では必ず人権を議題に加えよ」、「相互主義を強調せよ」など
と17項目にわたって、中国との戦い方を詳述している。

報告書の約半分が人権問題に割かれ、人権弾圧の具体例が列挙された。
ぎっしりと書き込まれた中に、世界ウイグル会議総裁のドルクン・エイサ
氏の母、アヤン・メメットさん(78歳)が、今年5月収容所で亡くなった
ことも記されていた。

エイサ氏が世界ウイグル会議の事務総長を務めていた2012年、私はシンク
タンク「国家基本問題研究所」の「アジアの自由と民主化のうねり 日本
は何をなすべきか」と題した国際シンポジウムに、ウイグル、チベット、
モンゴルの三民族の代表を招いた。そのとき、世界ウイグル会議を代表し
て参加したのがエイサ氏だった。氏は中国から逃れ、ドイツ国籍を取得し
て、現在ドイツに住んでいる。

息子が海外で中国政府を非難しているという理由で、78歳の母を中国は収
容所に追いやるのである。エイサ氏を罰するためであるのは明らかで、高
齢のメメットさんは劣悪な環境の中で息絶えた。他の多くの高齢者たち、
幼い子供たち、病気を患っている人々も収容所で次々に命を落としてい
く。年次報告書はそうした事例を生々しく書き連ねている。

メメットさんは人生の最後の段階でどれほどの苦しみを味わったことだろ
うか。エイサ氏の悲しみと怒りは如何ばかりか。国際社会はこのような仕
打ちを許さない。ルビオ氏らは習近平政権によるウイグル人らイスラム教
徒弾圧を、「人道に対する罪」ととらえて糾弾を続けている。

対中強硬策

ルビオ氏らが記者会見した同じ日に、米司法省も対中強硬策に踏み切っ
た。中国の情報機関である国家安全省の幹部、シュ・ヤンジュン氏を起訴
したのだ。彼は4月1日にベルギーで逮捕、収監されていたが、米国の要求
で10月9日、米国に引き渡された。日本ではあまり報じられなかったが、
この事件は米中関係を大きく変えるものとして専門家の間で注目された。

産経新聞外信部次長で中国問題専門家の矢板明夫氏が語る。

「米国が第三国に中国人犯罪者の引き渡しを要求したのは、これが初めて
です。米国が引き渡し条約を結んでいる国では、今後、中国は諜報活動が
できなくなるわけです。中国は極めて深刻にとらえていると思います」

矢板氏の説明はざっと以下のとおりだ。シュ氏は2013年12月頃からGEア
ビエーションなどに狙いを定め、技術者らを費用丸抱えで中国に招き、最
新技術の窃盗につなげようとした。GEアビエーションはGEの子会社だ
が、他にも航空産業最大手の企業など数社が工作対象にされていたという。

矢板氏はなぜシュ氏がベルギーに行き、逮捕されたかに注目する。シュ氏
を監視していたアメリカの情報工作員が、今年春、ベルギーでアメリカの
技術者に会い情報を盗むという話を持ちかけ、シュ氏を呼び出すことに成
功したのだという。アメリカがシュ氏をおびき出したのだ。それだけ積極
的に攻めの手を打って、中国人スパイを摘発したのはなぜか。

現在進行中の米中貿易戦争では、アメリカは主に三つの要求を中国に突き
付けている。➀為替操作の禁止、➁アメリカを含む諸外国の情報や技術の窃
盗の禁止、➂労働者を安い賃金で働かせる奴隷労働の禁止である。

産業スパイ活動

右の三要素によって中国は輸出製品を安く製造し、アメリカをはじめ世界
の強豪と競っているが、これこそ途方もなく不公正、不公平だと、トラン
プ大統領は考えている。だからトランプ氏は中国製品に制裁関税をかける
のだ。

三つの要求のうち・が不可能になれば、独自の技術を生み出す能力がない
中国は壊滅的打撃を受ける。中国の製品はおよそ全て、日本やアメリカな
どから奪った技術により製造されており、中国は経済的に行き詰まる。

トランプ政権はまさにそこを狙っているのである。シュ氏をアメリカに連
行し、中国の産業スパイ活動は断じて許さないという強い姿勢を誇示した
のと同じ日、トランプ政権は対米投資規制の詳細を発表した。

8月には外資によるアメリカへの投資を規制する新たな法律が成立してい
たが、航空エンジン・部品、アルミニウム精錬、石油化学、ナノテクノロ
ジーなど、情報通信や軍事などの27産業にわたって米企業を保護する内容
だ。たとえ少額出資であっても、外資は事前に申請しなければならない。
その意図は明らかに中国マネーから米企業を守ることである。

こうした矢継早の措置を10月4日のペンス副大統領の厳しい演説に重ねる
と、米国が中国に対してどれほど強い警戒心を抱いているか、明白に見て
とれる。

そしていま、米議会がウイグル人に対する中国の人権弾圧を「人道に対す
る罪」として糾弾しているのである。同盟国の日本が米国と同一歩調を取
るべき場面である。

他方、中国は日本に的を絞って微笑外交を展開中だ。天安門事件の当時を
想い出す。世界から経済制裁を受け、追い詰められた中国は、「制裁の環
の最も弱い部分」が日本だと見定めて微笑外交を展開、日本はまっ先に制
裁を解除し、天皇皇后両陛下にご訪中をお願いした。中国は日本を利用し
て世界の制裁を打ち破り、その後、尖閣諸島を中国領とする法律を作るな
ど、今日の横暴な中国の正体を見せ始めた。

日本は同じ間違いを犯してはならない。安倍首相は、いまこそ米国とより
強く協調せよ。今月の訪中では、首相はウイグル人弾圧について言及する
ことを避けてはならない。

『週刊新潮』 2018年10月25日号 日本ルネッサンス 第824回


 

◆消費者をまもる法律

川原 俊明(弁護士)


特定商取引法とは、@訪問販売、A電話勧誘販売、B通信販売、
  C連鎖販売取引、D特定継続的役務提供、E業務提供誘引販売取
  引、F訪問購入の取引について規制をする法律です。
   
@訪問販売取引を規制する法律が制定(昭和51年)されました
  が、その後、消費生活の変化にともない、様々な取引形態につい
  て被害を受ける消費者が増加し保護する必要が生じたために、上
  記A以下の取引について、順次規制するための改正がなされてき
  ました。
   
特定商取引による消費者被害の救済方法として、もっともよく
  利用される制度として、「クーリング・オフ制度」(頭を冷やし
  て考える猶予期間を確保するという意味)があります。
   
これは、本来、契約解除するためには、解除事由が必要なとこ
  ろ、クーリング・オフ制度が適用される取引については、ある一
  定の期間については、無条件で申込みの撤回、契約解除ができる
  というものです。
   
たとえば、訪問販売などでは、突然、自宅に押しかけてきて、
  消費者に十分考える余裕なく、一方的に業者のペースで取引がさ
  れることが多いので、申込書等の書面を交付されてから8日間は、
  無条件で申込みの撤回、契約解除ができます(頭を冷やして考え
  る猶予期間を確保する)。
   
もっとも、このクーリング・オフ制度は、B通信販売には、適
  用がありません。なぜなら、通信販売の場合、訪問販売等と異な
  り、消費者自らカタログ等を見て十分考えたうえで取引をするの
  で、消費者を保護する必要性が低いからです。

ただ、通信販売には、クーリング・オフ制度と似たものとして、
申込みの撤回等の特約(返品特約)が平成21年に新設され、広告中に 返品不可の表示がなければ、商品が購入者に到達した日から8日間、申込みの撤回ができます。

   また、訪問購入の取引についての規制は、近年、業者が消費者
  の自宅で商品を売るだけでなく、物品を購入しようとする業者が
  増え、トラブルが多くなったことから、平成24年に追加された
  ものです。
 
このように、特定商取引法は、消費生活の変化にともなって、
  頻繁に改正がなされることから、消費者を守っていく法律家にと
  って目が離せない法律といえ、今後も注目していかなければなり
  ません。 
   
訪問販売や通信販売等でお困りの際は、いつでも当事務所まで
  ご相談ください。

530-0047 大阪市北区西天満2丁目10番2号 幸田ビル8階  
弁護士法人 川原総合法律事務所      
弁護士 川 原 俊 明 

2018年10月26日

◆首相は中国の人権問題に言及せよ

櫻井よしこ


「首相は中国の人権問題に言及せよ」

米中新冷戦が深まりつつある。

10月10日、米共和党上院議員のマルコ・ルビオ氏と同党下院議員のクリ
ス・スミス氏が「中国に関する議会・行政府委員会」の年次報告書を発表
した。

ルビオ氏らは中国政府が100万人以上の少数民族、とりわけウイグル人を
再教育施設に強制的に収容している、中国は北朝鮮と並ぶ弾圧国家で、南
アフリカのアパルトヘイトさながらの人種差別国家であると激しく非難した。

さらに、習近平国家主席の下で人権を巡る状況は幾何級数的に悪化してお
り、2022年に予定されている北京での冬季五輪開催を見直すよう国際オリ
ンピック委員会に申し入れ、獄中にある経済学者のイリハム・トフティ氏
を来年のノーベル平和賞候補に推薦する予定だと語った。

318頁に上る大部の報告書は、中国は経済大国になっても一党独裁をやめ
ず、民主化もしない国だと、歴史的経緯を辿りながら告発している。その
ような国に対してアメリカは、「常に政治犯について言及せよ」、「米中
2国間協議では必ず人権を議題に加えよ」、「相互主義を強調せよ」など
と17項目にわたって、中国との戦い方を詳述している。

報告書の約半分が人権問題に割かれ、人権弾圧の具体例が列挙された。
ぎっしりと書き込まれた中に、世界ウイグル会議総裁のドルクン・エイサ
氏の母、アヤン・メメットさん(78歳)が、今年5月収容所で亡くなった
ことも記されていた。

エイサ氏が世界ウイグル会議の事務総長を務めていた2012年、私はシンク
タンク「国家基本問題研究所」の「アジアの自由と民主化のうねり 日本
は何をなすべきか」と題した国際シンポジウムに、ウイグル、チベット、
モンゴルの三民族の代表を招いた。そのとき、世界ウイグル会議を代表し
て参加したのがエイサ氏だった。氏は中国から逃れ、ドイツ国籍を取得し
て、現在ドイツに住んでいる。

息子が海外で中国政府を非難しているという理由で、78歳の母を中国は収
容所に追いやるのである。エイサ氏を罰するためであるのは明らかで、高
齢のメメットさんは劣悪な環境の中で息絶えた。他の多くの高齢者たち、
幼い子供たち、病気を患っている人々も収容所で次々に命を落としてい
く。年次報告書はそうした事例を生々しく書き連ねている。

メメットさんは人生の最後の段階でどれほどの苦しみを味わったことだろ
うか。エイサ氏の悲しみと怒りは如何ばかりか。国際社会はこのような仕
打ちを許さない。ルビオ氏らは習近平政権によるウイグル人らイスラム教
徒弾圧を、「人道に対する罪」ととらえて糾弾を続けている。

対中強硬策

ルビオ氏らが記者会見した同じ日に、米司法省も対中強硬策に踏み切っ
た。中国の情報機関である国家安全省の幹部、シュ・ヤンジュン氏を起訴
したのだ。彼は4月1日にベルギーで逮捕、収監されていたが、米国の要求
で10月9日、米国に引き渡された。日本ではあまり報じられなかったが、
この事件は米中関係を大きく変えるものとして専門家の間で注目された。

産経新聞外信部次長で中国問題専門家の矢板明夫氏が語る。

「米国が第三国に中国人犯罪者の引き渡しを要求したのは、これが初めて
です。米国が引き渡し条約を結んでいる国では、今後、中国は諜報活動が
できなくなるわけです。中国は極めて深刻にとらえていると思います」

矢板氏の説明はざっと以下のとおりだ。シュ氏は2013年12月頃からGEア
ビエーションなどに狙いを定め、技術者らを費用丸抱えで中国に招き、最
新技術の窃盗につなげようとした。GEアビエーションはGEの子会社だ
が、他にも航空産業最大手の企業など数社が工作対象にされていたという。

矢板氏はなぜシュ氏がベルギーに行き、逮捕されたかに注目する。シュ氏
を監視していたアメリカの情報工作員が、今年春、ベルギーでアメリカの
技術者に会い情報を盗むという話を持ちかけ、シュ氏を呼び出すことに成
功したのだという。アメリカがシュ氏をおびき出したのだ。それだけ積極
的に攻めの手を打って、中国人スパイを摘発したのはなぜか。

現在進行中の米中貿易戦争では、アメリカは主に三つの要求を中国に突き
付けている。➀為替操作の禁止、➁アメリカを含む諸外国の情報や技術の窃
盗の禁止、➂労働者を安い賃金で働かせる奴隷労働の禁止である。

産業スパイ活動

右の三要素によって中国は輸出製品を安く製造し、アメリカをはじめ世界
の強豪と競っているが、これこそ途方もなく不公正、不公平だと、トラン
プ大統領は考えている。だからトランプ氏は中国製品に制裁関税をかける
のだ。

三つの要求のうち・が不可能になれば、独自の技術を生み出す能力がない
中国は壊滅的打撃を受ける。中国の製品はおよそ全て、日本やアメリカな
どから奪った技術により製造されており、中国は経済的に行き詰まる。

トランプ政権はまさにそこを狙っているのである。シュ氏をアメリカに連
行し、中国の産業スパイ活動は断じて許さないという強い姿勢を誇示した
のと同じ日、トランプ政権は対米投資規制の詳細を発表した。

8月には外資によるアメリカへの投資を規制する新たな法律が成立してい
たが、航空エンジン・部品、アルミニウム精錬、石油化学、ナノテクノロ
ジーなど、情報通信や軍事などの27産業にわたって米企業を保護する内容
だ。たとえ少額出資であっても、外資は事前に申請しなければならない。
その意図は明らかに中国マネーから米企業を守ることである。

こうした矢継早の措置を10月4日のペンス副大統領の厳しい演説に重ねる
と、米国が中国に対してどれほど強い警戒心を抱いているか、明白に見て
とれる。

そしていま、米議会がウイグル人に対する中国の人権弾圧を「人道に対す
る罪」として糾弾しているのである。同盟国の日本が米国と同一歩調を取
るべき場面である。

他方、中国は日本に的を絞って微笑外交を展開中だ。天安門事件の当時を
想い出す。世界から経済制裁を受け、追い詰められた中国は、「制裁の環
の最も弱い部分」が日本だと見定めて微笑外交を展開、日本はまっ先に制
裁を解除し、天皇皇后両陛下にご訪中をお願いした。中国は日本を利用し
て世界の制裁を打ち破り、その後、尖閣諸島を中国領とする法律を作るな
ど、今日の横暴な中国の正体を見せ始めた。

日本は同じ間違いを犯してはならない。安倍首相は、いまこそ米国とより
強く協調せよ。今月の訪中では、首相はウイグル人弾圧について言及する
ことを避けてはならない。

『週刊新潮』 2018年10月25日号 日本ルネッサンス 第824回