2018年10月21日

◆のど自慢に出場したのだ

渡部 亮次郎


1946(昭和21)年のこの日、NHKラジオで「のど自慢素人音楽会」が開始
され、それを記念してNHKが制定した。

第1回の応募者は900人で予選通過者は30人、実に競争率30倍の超難関
だった。

今でも12倍を超える人気長寿番組とか。1946(昭和21)年のこの日、NHK
ラジオで東京)「のど自慢素人音楽会」が開始され、それを記念してNHK
が制定しました。

第1回の応募者は900人で予選通過者は30人、実に競争率30倍の超難関で
した。

私も高校生のころ、秋田市での大会に出場、合格した。受験戦争ムードに
反発したもの。歌ったのは「チャペルの鐘」

   作詞:和田隆夫
   作曲:八州秀章

1)なつかしの アカシアの小径は
 白いチャペルに つづく径
 若き愁い 胸に秘めて
 アベ・マリア 夕陽に歌えば
 白いチャペルの ああ
 白いチャペルの 鐘が鳴る
(以下略)

この歌を聞くと、なぜか札幌の時計台を思い出す。理由は分からない。で
もあれは時計台であってチャペルではない・・・。では「チャペル」とは
何ぞや? 

Wikipediaによると、
「チャペル (Chapel) は、本来クリスチャンが礼拝する場所であるが、日
本では私邸、ホテル、学校、兵舎、客船、空港、病院などに設けられる、
教会の所有ではない礼拝堂を指している。」とある。教会の礼拝堂はチャ
ペルとは言わない。結婚式場が チャペルだ。

でもこの歌詞は、何とも淡い恋でいいな〜。(オジサンには縁が無い
が・・・)

白いチャペルか・・・

フト、2年前の今頃、オーストリアに行って教会を見た事を思い出した。
ヨーロッパはどこに行っても教会だ。2年前は2週間掛けてオーストリアを
一周したが、オーストリアでも、どこに行っても尖塔の教会があった。

中 でも有名で「これどこかで見た事がある・・」と思った教会が二つ
あっ た。ハイリゲンブルートの教会とハルシュタットの教会である。こ
の歌と はあまり関係ないが、“絵になる”教会の写真を見ながら、岡本敦
郎の歌を 聞くもの一興か?

大学を出てNHKで記者になった。

政治部所属になってある夜、新宿のスナックで唄っていたら、見知らぬ
男に声をかけられてびっくりした。「うちへ入りませんか」という。名刺
には「ダニー飯田とパラダイスキング」とあった。「政治記者から歌手へ
転身」というのがおもしろいというのだ。

記者の仕事が面白くてたまらない時期だったこともあって断った。
あれから50年。まったく歌う機会が無いままにすごしたから今では歌は聴
くものと心得ている。2013・10・29

    

◆米中対立は中長期に及ぶ

櫻井よしこ


「米中対立は中長期にわたり本格化する 日米の連携を一層強めていくの
がよい」

米国が遂に中国の本性に気づいた──。10月4日、マイク・ペンス米副大統
領が有力シンクタンク「ハドソン研究所」で行った演説のメッセージがこ
れだった。

米国の「覚醒」は遅すぎるとも思えるが、それでも彼らが中国の長期的国
家戦略の意図を正しく認識するのは日本にとって歓迎すべきことだ。

ペンス氏は約1時間、およそ全分野にわたって中国批判を展開した。不公
正貿易、知的財産の窃盗、弱小国への債務の罠、狡猾な米中間選挙への介
入、豊富な資金による米言論機関、シンクタンク、大学、研究者への影響
力行使、米国世論を動かす中国メディアの一方的情報、さらに、南シナ
海、インド洋、太平洋での軍事的席巻など、ペンス氏は果てしなく具体例
を挙げた。

諸外国だけでなく自国民にも苛烈な圧力を中国共産党は加え2020年までに
ジョージ・オーウェル的社会の実現を目論んでいるとも非難した。

この一連の異常な中国の行動を見逃す時代はもはや終わりだと、トランプ
政権の決意を、ペンス氏は語ったのだ。米国はいまや対中新冷戦に突入し
たと考えてよいだろう。

とりわけ印象深いのは、演説でペンス氏がマイケル・ピルズベリーという
名前に二度、言及したことだ。現在ハドソン研究所の中国戦略センター所
長を務めるピルズベリー氏は1969年、大学院生のときにCIA(米中央情
報局)にスカウトされ、以来、CIA要員として中国問題に関わってきた。

親中派の中の親中派を自任する氏は三年前、ベストセラーとなった
『China 2049』を書いて、自分は中国に騙されていたと告白
し、氏がそのほぼ一生を費やして研究した中国人の考え方を詳述した。中
国人は、米国を横暴な暴君ととらえ、中国の最終決戦の相手だと認識して
いるが、米国はそのことをほとんど理解しておらず、むしろ中国は米国の
ような国になりたいと憧れていると勝手に思い込み、結果として騙され続
けてきたというのだ。

一例として氏は米中接近の事例を示している。私たちは、米中接近はニク
ソン大統領が旧ソ連を孤立させるために中国を取り込んだ大戦略だと理解
してきた。しかしピルズベリー氏の見方は異なる。60年代末に中国は国境
を巡ってソ連と対立、新疆国境でソ連軍と大規模な衝突を起こした。軍の
タカ派の元帥らはソ連に対して米国カードを使うべきだ、台湾問題を不問
にしても米国に接近すべきだと毛沢東に進言、毛はそれを受け入れたという。

ニクソン大統領の訪中で、米中関係は劇的に改善されたが、それは中国が
支援と保護を必要とする無力な嘆願者を装い、武器装備をはじめ、中国が
対立していたインドやソ連の情報まで、世界が驚く程の貴重な支援を米国
から手に入れた構図だったと、ピルズベリー氏は明かしている。

明らかに中国は米国の力を借りて力をつけた。それは彼らが日本から膨大
な額のODA(政府開発援助)をせしめ、鉄鋼をはじめとする基幹産業技
術を移転してもらって力をつけたのと同じ構図だ。

ピルズベリー氏はさらに中ソ関係も分析した。中国はソ連に対しても米国
に対するのと同様に弱い国を演じて最大限の援助を受け、力をつけ、最終
的に米国の側につくことでソ連と訣別し、ソ連を潰したというのだ。

そしていま、中国は米国に対しても覇権を目指す意図を隠さなくなった。
米国がもはや太刀打ちできないところまで、状況は中国有利に変化したと
中国が判断した結果だというのだ。ペンス氏もそのピルズベリー氏の分析
を共有しているのであろう。それがハドソン研究所でのスピーチではない
か。米中の対立は中・長期にわたり本格化していくと考えるひとつの理由
である。導き出される結論は日米連携を一層強めるのが日本の国益だとい
うことだ。

週刊ダイヤモンド 2018年10月20日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1252

◆弁護士を選択できる時代

川原 俊明

「現在、〇〇弁護士先生に事件を頼んでいますが、契約解除して、そちらにお願いしたいのですが、可能でしょうか?」

そのようなお問い合わせをいただく機会が増えています。ネットの流通により、容易に弁護士を選び、自身に適した弁護士を選択できる時代に入ったということでしょう。

弁護士全体の敷居が低くなったという背景もあると思います。

この事実は反対に、私たちも容易に契約解除されるという危険性もあるということを意味します。

依頼者が契約解除しようとする背景には、説明不足や、方針の違い、金銭的な理由など様々でしょうが、信頼関係がなくなったことが原因であることは間違いありません。

私たちは、そのような依頼者・お客様を前に、日々、自身を改善し、矜持といいますか、自覚を持って事件処理に当たる必要があると考えています。

ただそれは、単に依頼者の思った通りに動く、ということではありません。

依頼者のことを真剣に考え、十分な打ち合わせ時間を利用したうえで、依頼者と私たちが納得する形での事件処理です。

私たちは依頼者にとって都合のいい、その場しのぎの存在になるつもりはありません。口酸っぱくも、依頼者にとってためになると考える提案をさせていただきます。

弁護士が選択できる・選択される時代だからこそ今後もそのスタンスは大事にした事件処理に徹する決意です。

2018年10月20日

◆またも「トランプ・ショック」

宮崎 正弘


平成30年(2018年)10月19日(金曜日)通巻第5863号 <前日発行>

またも「トランプ・ショック」。こんどはUPU(万国郵便連合)を離脱
  中国は安い郵便制度を悪用し、貿易赤字の裏ルートで活用している。

101月17日、トランプ政権は突如、UPU(万国郵便連合)からの離脱を
検討しているとした。一年ほどかけて交渉し、成果があがらなければ、米
国郵便制度を他国が利用して儲けているだけで米国が一方的な負担を強い
られているのだから、新しいレートを設定して対応するとし、離脱期限を
2020年1月1日と発表した。

まさに「アメリカ・ファースト」政策の一環、しかし、ここまで徹底して
やるとは想定外の方針発表である。

全米商工会議所はただちに歓迎声明、なぜなら流通を担うのUSPS(米
国郵便公社)のほかに、Fedex,DHLなど、国外からの荷物を万国
郵便制度の義務から、米国内では無料で配達してきたため、不満が募って
いた。

ちなみにUSPSは、赤字が累積しており、3万人の解雇、土曜配達の取
りやめなど削減措置をとってきたが(それはサービスの低下を招いた)、
向こう10年間に、さらに230億ドルの赤字が予想されている。

もとよりUPUは1874年に制定され、現在、アンドラ、台湾などをのぞき
192ヶ国が加盟している。制度の悪用とは、たとえば日本で切手を貼った
國際郵便物は相手国では無料配達が義務つけられている。

この制度を活用するのが、例によって「あの国」。貿易外の事実上の貿易
に転用し小口貨物を、小分けして大量に発送し、米国の配達は他人の褌を
利用する。つまり実質的なビジネスを展開しているからだ。「これは中国
の対米黒字3750億ドルの統計以外のものであり、不公平極まりない」とト
ランプ政権は言う。

◆インスリン注射不要の夢

渡部 亮次郎


2006年8月、京大の山中伸也教授が、人の皮膚から採った細胞に4つの遺伝
子を入れて培養したら、万能細胞ができた。iPS細胞=人工多能性幹細胞
と言うそうだ。

万能細胞から、神経細胞、心臓細胞、臓器細胞、血液細胞、軟骨などが作
られ糖尿病や心臓病に使えるとされている。

自分の皮膚から採った細胞だから、自分の体に入れても拒否反応がない。
ノーベル賞だという声が上がって本当に受賞した。細胞や臓器の再生へ、
万能細胞の研究競争が激化するだろう。

山中教授は、何年かしたら、人工細胞ができると言う。激しい競争がある
からだ。

しかし、4つの遺伝子は、癌細胞から採っているので、人に応用すると思
わぬ事故になる可能性があると言う。

山中氏は、神戸大→大阪市立大→カリフォルニア大と研究を続けて、世界初
の万能細胞を作った。

人工細胞は、糖尿病、心筋梗塞(しんきんこうそく)、脊髄損傷(せきず
いそんしょう)などの治療に使える。
http://www2.ocn.ne.jp/~norikazu/Epageh3.htm

このうち糖尿病治療への展望について専門家に聞いて見ると、うまくすれ
ばインスリン注射が要らなくなる可能性があるという明るい見通しがある
らしい。

糖尿病は、食べたものを血肉にするホルモン「インスリン」が膵臓から十
分に出てこないため、溢れた栄養(ブドウ糖)が血管を内部から攻撃した
末に小便に混じって出る病気である。小便が甘くなるから糖尿病。

糖尿病それ自体ではなかなか死なないが、内部から血管を糖分で攻撃され
ると、脳梗塞、心筋梗塞、盲目、足の切断、癌多発といった
「合併症」を招いて、寿命より10年は早く死ぬ。

栃木県にある自治医科大学内分泌代謝科の石橋俊教授によると、駄目に
なった膵臓や膵頭を何らかの方法で丈夫なものを移植すれば問題は一挙に
解決し、インスリン注射も要らなくなる。

しかし日本ではドナーが不足し、膵頭を調整する試薬の供給がストップし
たりして、こうした治療を受ける患者は2桁どまりだ。

そこで注目されたのが、インスリン「製造工場」ともいえる膵ベーター細
胞の再生治療だったがヒトの受精卵の仕様に付随する倫理的制約や拒否反
応が壁になって進んでいなかった。

そこへ登場したのが山中教授の万能細胞。ヒトES細胞から膵ベーター細胞
を作る研究は壁に突き当たったが、山中教授のiPS細胞なら、自分の皮膚
から出来た物だから拒否反応も倫理的な問題も起きない。

問題は今回できた4つの遺伝子が、がん細胞からとっているので、人に応
用すると思わぬ事故になる可能性があることだ。石橋教授は「この問題が
解消されれば、実用化は意外に早いかも知れない」と言っている。

資料:(社)日本糖尿病協会関東甲信越地方連絡協議会機関紙「糖友
ニュース」91号(2008・7・1)  執筆 08・06・28




◆蕪村俳句は本当の世界を厳密に伝えるアート

                                  シェフツォバ・ガリーナ
                                   ウクライナ・キエフ国立建設建築大学教授

日本の俳句の世界は、松尾芭蕉の現象の夢中になり,彼だけのタレントを注目するそうです.芭蕉は勿論優れた詩人だけではなく,人生の独創的な例としてとても興味深い方です.

けれども与謝蕪村のタレントは松尾芭蕉と同じぐらいのレベルだと思います.それにもかかわらず,蕪村の人生について,知識はとても少なくて,不明な点が多いです.それは勿論直さなければならないことであり,将来の研究者のための大仕事になると思います.でもただの蕪村の人生の情報だけではなくて,彼の俳句の書方,そして文学のスタイルとしてでも,いろいろ研究しないといけないと思います.

私は外国人ですけれども,蕪村の俳句の詳しい言語の特徴を分析するのは無理だと思いますが,俳句の美しさは言語の形だけではありません.心の温かさ,意味の深さ,世界を見る特別な見方などはメインだと思います.この点は外国語に翻訳した俳句にも感じています.

この見方から芭蕉と蕪村の俳句を比べたら,明らかな違いがはっきり見えます.おうざっぱにいうと,芭蕉の俳句の書方は簡単な言葉で、深い人生の哲学を伝わることができて,蕪村の俳句の場合は,本当に生きている世界の絵が見える.同じの簡単な言葉を使いながら,世界のアイコンタクトのイメージも,音や匂いまでに読者のイマジネーションに現れる.それは蕪村の優れたアートだと思います.

言葉を変えれば,蕪村はプロの画家でしたので,俳句にでも,描きと同じに,生世界を厳密に伝わることができるではないでしょうか.



2018年10月19日

◆角さんは糖尿病だった

渡部 亮次郎


肩書きを言うより「角さん」で通っていた田中角栄氏。脳梗塞により75歳
で逝去した。若いころからの汗っかきは「バセドウ病」のためと周囲に説
明していたが、実は糖尿病持ちだったことは隠していた。だから脳梗塞を
まねいたのだ。

彼が自民党幹事長だったころ私も彼を担当したが、糖尿病で医者通いをし
た事実はなかった。ところが、彼が首相を辞めた後会ったところ「あん時
は血糖値が400にもなった」としゃべりだした。

「文春で立花隆に書かれたことには堪えなかったが児玉に書かれた佐藤昭
(あき)とのとを連日真紀子(娘)にわーわーいわれて参っちゃった。血
糖値も400まで上がるしな」と糖尿病を発症していたことをうっかり告白
してしまった。

おなじく糖尿病から「合併症」としての心筋梗塞で死亡した政治家に大平
正芳がいる。同じく首相を務めて死んだが年下の角栄を「兄貴」と呼んで
政治的にすがっていた。大平は甘党だったが、糖尿病と真剣にむきあって
はいなかった。

ちゃんとインスリン注射をしていれば総理在任中70の若さで死ぬことはな
かったはずだ。もっとも当時は今と違ってインスリン注射を患者自身がす
ることは厚生省(当時)の「省令」で禁止されていたから多忙な政治家が
連日医者通いをすることは無理だった。

この大平の無二の親友だった伊東正義も糖尿病だった。外務大臣当時は政
務秘書官も糖尿病だった。伊東はしかし医者通いをちゃんとしていたから
80まで生きたき。インスリン注射を怠ると寿命を10年は縮めるといわれて
いる。

糖尿病にともなう網膜症のため国会の代表演説の原稿を大きすぎる字で書
いてきて有名になった田中六助は心筋梗塞で死んだが、まだ62歳と若すぎ
た。医者通いをしていなかったのではないか。まず眼底出血して網膜をや
られ、最後に若くして死んだことがそういう推測を招く。

日本で糖尿病患者のインスリン自己注射を許可したのは昭和56年厚生大臣
園田直がはじめてである。それまでは日本医師会の反対を歴代厚生大臣が
おしきれなかったためである。

このときの園田氏はすでに1回目の厚生大臣の後、官房長官、外務大臣2期
の末という実力者に成長していたためか日本医師会も抵抗はしなかった。
禁止の「省令」は廃止された。

結果、「テルモ」など医療器具メーカーの競争が活発になり、たとえば注
射器が小型化してボールペン型になった。針も極細になり、
いまでは0・18mmと世界一の細さになった。また血糖値の事故測定器の
小型のものが発明されて便利になっている。

これらはすべて園田さんの決断の賜物だが、その園田さん自身は若いころ
からの患者であり、患者の苦しみを知るが故に自己注射許可の決断をした
のだった。わたしは秘書官として側にいたからよく見ている。

患者によっては医者に一日3回も注射のため医者に通わなければならない
人もいた。1日に医者に3回!!仕事ができない。自覚症状としては何もな
い病気とあれば医者通いをやめて早死にをずる不幸をまねく例もおおかった。

そうなのだ。大決断をした園田さん自身はその恩恵に浴することなく70の
若さで死んだ。そう武道の達人も注射の痛さを嫌いインスリンから逃げて
いたのだ。腎臓が機能しなくなり「腎不全」で死んだ。(2013・7・13)
(再度掲載)

◆米政権を日本は支えよ

櫻井よしこ


「中国と対峙する米政権を日本は支えよ」

マイク・ペンス米副大統領が10月4日、アメリカの有力シンクタンクのハ
ドソン研究所で行った演説は凄まじかった。トランプ政権が中国の脅威を
どれ程深刻にとらえているか、また中国に対してどれ程厳しい戦いを展開
しようとしているかを世界に周知させた演説だった。

米中はまさに「新たなる冷戦」(米クレアモント・マッケンナ大学ケック
国際戦略研究所所長、ミンシン・ペイ氏)の中で鎬を削っていることを示
すもので、日本は政府も民間も、このアメリカの決意を十分に理解し日本
の国益につなげなければならない。

ペンス氏は演説の冒頭、ハドソン研究所中国戦略センター所長のマイケ
ル・ピルズベリー博士の名前を口にして、研究所に招かれたことに謝意を
表明している。

ピルズベリー氏は3年前に、『China2049』を世に問うた。日本語に
も訳された同書はワシントンに一大旋風を巻き起こした。著書の中で氏
は、自身が米政府の一員として長年中国と関わり、一貫して手厚い保護と
援助を中国に与えるようアメリカ政府の政策を立案してきた体験を詳述し
ている。

豊かになれば中国はアメリカのように自由で民主的な国になりたいと望む
に違いないと信じて援助してきたが、中国はアメリカの考え方や価値観に
は反対の立場であり、中国がアメリカのようになりたいと考えることなど
期待できないとの結論を下している。自身も含めてアメリカは中国に騙さ
れていたという痛恨の思いを、援助と裏切りの生々しい具体例を挙げつ
つ、氏はこれでもかこれでもかとばかり書き連ねたのだ。

ピルズベリー氏の個人名を敢えて演説冒頭で口にしたペンス氏は、明らか
にピルズベリー氏の中国体験に学んでいると考えてよいだろう。

余談だが、ピルズベリー氏を最初に日本に招いたのは、私の主宰するシン
クタンク、「国家基本問題研究所」である。2010年の国際セミナー、「イ
ンド洋の覇権争い・21世紀の大戦略と日米同盟」で日米中印の国際会議を
開催し、副理事長・田久保忠衛氏の長年の友人である中国専門家のピルズ
ベリー氏に声をかけたのだ。

トランプ氏の本心

ペンス氏はトランプ大統領と習近平国家主席は過去2年足らずの間に「強
い個人的絆」を築いたと語る一方で、「今日、私は米国民が知るべきこと
を語りに来た」として、「北京は国ぐるみであらゆる政治的、経済的、軍
事的手段を使い、さらに宣伝戦を通して米国内で影響力を強め中国の国益
につなげようとしている」と、約1時間にわたって強烈な非難の言葉を連
ねた。

現在のアメリカの対中政策はトランプ大統領が昨年12月に発表した「国家
安全保障戦略」で明らかなように、それ以前の政権の対中政策とは異なる
と、ペンス氏は強調する。

右の戦略を現場の戦術に置き換えて説明した「国家防衛戦略」は、中国と
ロシアの脅威を、「略奪的経済政策」「周辺諸国を恫喝し続ける」などの
強い表現で非難し、アメリカの敵は、「テロではなく、中露両国」だと位
置づけ、とりわけ中国に対する警戒心を強く打ち出す内容だった。

ここで、多くの人は疑問を抱くに違いない。この戦略報告の前には、トラ
ンプ氏は習氏をカリフォルニアの自身の別荘、マララーゴに招き(昨年4
月6日)、その後の11月8日にはトランプ氏が北京を訪れ、歯の浮くような
賞賛の言葉を習氏に贈った。また、戦略報告の後、今年に入ってからは中
国に制裁的関税をかける一方で、北朝鮮の非核化を巡って中国の助力を期
待し、またもや習氏を度々ほめ上げた。トランプ氏の本心はどこにあるの
か、と迷うのは当然だ。

トランプ氏の言葉と行動が往々にして一致しないために、アメリカの対中
政策の真実が何処にあるのかを測りにくいのは確かだが、この2年間の
「実績」を辿っていくと、トランプ政権はいま、本気で中国と対峙しよう
としていると見てよいだろう。

ペンス氏は、アメリカも賛成して中国を世界貿易機関(WTO)に参加さ
せたのが2001年であり、これまでの17年間にアメリカは中国に巨額の投資
を行い、その結果中国のGDPは9倍に成長したと説明する。

他方、中国共産党は、自由で公正な競争というアメリカが大切にする価値
観とは相容れない関税、割当、自国産業への不公正な補助金、為替操作、
企業への強制的技術移転の要求、知的財産の窃盗などの不公正な手段で応
じてきたとし、いま、「中国製造2025」というスローガンを掲げて、25年
までに世界の最先端産業の90%を中国がコントロールしようとしていると
論難する。

ロボット、バイオ、人工知能

ペンス氏は具体的にロボット、バイオ、人工知能の分野を挙げて、中国が
アメリカに対して優位に立ち、支配を確立するために、如何なる手段を講
じてもアメリカの技術や知的財産を盗み取ろうとしていると、強く反発した。

軍事的にも、中国はかつてない程大胆な挑戦を続けているとして、日本が
施政権をもつ尖閣諸島の事例にまっ先に触れた。南シナ海でアメリカの
イージス駆逐艦「ディケーター」が「航行の自由」作戦を行っていると、
中国海軍の駆逐艦が40メートルの近さにまで異常接近した事例にも言及
し、アメリカはこんなことには屈しないと息巻いた。

中国の言論弾圧、宗教弾圧にも具体的に触れ、国民全員を監視する中国
は、社会をジョージ・オーウェルの世界にしようとしているのだと喝破した。

貧しい発展途上の国々を借金漬けにして、港や鉄道などのインフラを取り
上げてしまう債務の罠についても豊富な具体例を列挙して中国の手法を非
難した。

また、アメリカに対しては、アメリカ国民に影響を与え、トランプ氏以外
の大統領を選ばせようと情報工作をしており、中国政府が「米国社会分断
のために、正確かつ注意深い打撃を加えるよう」指示を出していると語っ
ている。そのために、自由の国アメリカに、中国はラジオ局を30局以上設
立し、中国のテレビ放送は7500万人の視聴者を獲得している、その影響は
大きいと警告する。

中国の許容し難い点をおよそすべて列挙して、トランプ政権はアメリカの
国益を中国の略奪的行動から守る決意だと、ペンス氏は強調した。どう考
えても、アメリカの価値観と中国のそれは合致しない。突き詰めれば突き
詰める程、相違は大きくなる。米中の冷戦は長期化するとの前提に立っ
て、アメリカと歩調を合わせる局面である。それが日本の国益につなが
る。トランプ氏の言葉に惑わされず、アメリカ政府の政策をじっと見るべ
きときだ。
『週刊新潮』 2018年10月18日号日本ルネッサンス 第823回

     

◆「何でも民間」に疑問

眞邊 峰松



私の年来のマスコミに対する不信感・大衆迎合体質への嫌悪感が一層増大してきた。 


果たして、国家百年の将来を考えるべき時期に、本筋の議論と離れ、質的には枝葉末節の問題に国民を巻き込んで彼らの主張が、“社会の木鐸”、“オピニオンリーダー”の役割というのは、どこに存在するのだろうか。


私も、必ずしもマスコミ人の全てが、課題を単にワイドショー的に取り上げてばかりいるとまでは言わないが、もう少し冷静・客観的に問題を整理し報道するべきだと考える。


ところで、「行為する者にとって、行為せざる者は最も苛酷な批判者である」とは、ある書物の言葉。 同書でこんな話が続く。


「ナポレオンの脱出記」を扱った当時の新聞記事である。幽閉されていたナポレオンがエルバ島を脱出した。兵を集めて、パリへ進撃する。


パリの新聞がこれを報道する。その記事の中で、ナポレオンに対する形容詞が、時々刻々に変化していく。 最初は“皇位簒奪者”。 次いで“反乱軍”〜“叛将”〜“ナポレオン”、 やがて“祖国の英雄”。 

そして、ナポレオンがパリに入城した時には、一斉に“皇帝万歳”の記事で埋められた。オポチュ二ズムとセンセーショナリズムのマスコミの実態が浮き彫りにされている」。 まさに、その通りだという感がする。


少々議論が飛躍するが、私は基本的に今の“何でも民間”の風潮に反対だ。
私自身の体験から言っても、国の役人の省益あって国益なし、自分たちの徹底的な権益擁護には、実は本当に癖々した。 まさに国を誤る輩だ、何とかならんのか、という気分にもなった。


しかし、国家公務員というに相応しい立派な人士をも身近に知る私としては、少々誤弊のある言い方かも知れないが、敢えて言えば、こと“志”という点においては、真に心ある役人に比し得る民間人は、そう多くなかろうとも思う。
 

これも個人資質・能力というよりは、やはり、退職までの30年を超える永年の職務経験、職責の持つ私自身に染み込んだ体質的なもの、職業の匂いのようなものかも知れない。
  

私には、特にかっての余裕ある民間経営の時代ならともかく、現下の利潤一点張り、効率一点張りの時代に、現役の企業人で、常日頃から“公益とはなんぞや”の視点から物事を考察したことがある人物が、そう数多いとはとても思えない。


とりわけ、最近の風潮となっている企業利益の増加のみに邁進し、その過程で中高年の自殺者の激増など、社会不安を増幅してきたリストラを闇雲に推進してきた企業経営者を見るにつけ、その観を否めない。 


このような中で、果たして、現在のマスコミの論調のように“何でも民間人登用”“何でも民間感覚“ということが果たして正しいのだろうか。                                      (了)

2018年10月18日

◆悪夢の泥沼から台湾企業はなぜ

宮崎 正弘


平成30年(2018年)10月18日(木曜日)通巻第5862号   

 悪夢の泥沼から台湾企業はなぜ這い上がれないのか?
  貿易メカニズムとサプライ・チェーンにビルト・インされてしまった

米中貿易戦争により、もっとも激甚な株安、そして経済の先行きについて
制御できないほどの不安に襲われているのは中国ではなく、じつは台湾で
ある。経済規模がことなるからだ。

台湾の株式市場には1200社が上場されている。その殆どが大陸へ進出して
いる。

中国にどっぷり浸かるという悪夢の泥沼から台湾企業はなぜ這い上がれな
いのか。それは貿易メカニズム上、中国を基軸とするサプライ・チェーン
に台湾経済がずるっとビルト・インされてしまったからだ。

反共の政治立場とか、イデオロギーとかは横に置いて、島嶼国家としての
台湾は地政学的経済学からも、対岸の中国福建省、ならびに香港経由の広
東への進出は生き延びるためには避けて通れない宿命だった。

過去30年、累計48000社もの台湾企業が中国大陸のあちこちへ上陸して拠
点を開設し、投資した金額はおよそ1200億ドルに達すると見積もられ
ている。
これらには個人企業的なラーメン屋から、中国大陸につくった愛人に経営
させているスナック店など小規模な投資も含む。

いまさら蔡英文政権が呼びかけるように中国国内の工場を台湾に戻すのは
種々の条件を考慮しても、短時日裡の実現が難しい。

第一に土地がない、第二に水資源の問題、第三はマンパワーの不足であ
る。日本と同様に台湾は出生率が低く、労働力を死活的に欠いている。
 
現実に台湾へ工場を戻すとした大手企業は、クアンタ・コンピュータくら
いで、大陸からは撤退するが代替工場をフィリピンへ移動するとしたのは
デルタ・エレクトロニクス社(アップルに部品を供給)、また深センに工
場に新工場を造るが、同時にアメリカにも工場をつくるのが鵬海精密工業
である。

かくして台湾の貿易構造は輸出の41%が中国大陸向け(1302億ドル)、残
りのうち13%がアジア方面(673億ドル)という歪つな構造であり、しか
も年初来7ヶ月の統計をみると、わずかにベトナムへの投資が6億2000万
ドルで、同時期に大陸への投資が53億ドルとなって、あべこべに増えて
いる。


 ▼日本はアメリカの姿勢に背を向ける中国政策の大矛盾

日本も同じである。

トヨタは世の中の動きに逆行して、中国値の投資を増やしている。日産も
同様で、中国から撤退を決めたのはスズキだけだ。

中国に長期駐在する日本人は13万強と、これも逆に増えている。

あの反日暴動直後から起きていた中国投資漸減傾向はいつの間にか反対
カーブを描いていたことになる。日本経済新聞の煽動的なプロパガンダと
経団連の主導、そして与党内のチャイナ派の暗躍などで、こうなったのだ。

そのうえ米中貿易戦争激化で、撤退する日本企業よりも、むしろ奥地にま
で進出する日本企業が多い理由は、コンピュータのクラウド関連、システ
ムの構築、そして介護の需要が高まっているからだ。

そこにビジネスがあれば、全体主義国家だろうが、専制政治の国であろう
が、出て行って商いをする。いやな国でも、社命なら仕方がないと、企業
戦士もまた、別の使命感に燃えるわけだろう。

このような現実をみれば、安部首相が、日米共同声明に背を向けて、一帯
一路にも協力すると米国を苛立たせるようなスタンスを堅持し、同時に中
国側も、日本にべったりと擦り寄ってきた現象的理由がのみこめる。
 トランプの姿勢、ペンスの演説と真っ向から異なる日本のスタンス、は
たして之でよいのか?
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BOOKREVIEW 書BOOKREVIEW
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 『文化防衛論』『反革命宣言』など思想の作品を詳論しつつ
  『日本文学小史』という佳品の詳論を試みた

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松本徹『三島由紀夫の思想』(鼎書房)
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この本は松本徹全集の第2巻(全5巻)にあたり、主に著者が三島を論じ
た中でも、思想に特化しての評論である。紹介するまでもなく、松本氏に
は、三島由紀夫論が数冊、そのうえ、鼎書房からは『三島由紀夫の研究』
がすでに19巻。すべて松本氏が中心となって佐藤秀明、井上隆史氏らとと
もに編んだ。

本書ではまず三島の『文化防衛論』について論じられる。

「論の中心は、『文化概念としての天皇』である。先に『英霊の声』で人
間宣言を行った昭和天皇を厳しく糾弾、衝撃を与えたが、戯曲『朱雀家の
滅亡』では天皇と特攻隊の英霊の融和の糸口を示した旨を指摘した。が、
衝撃は鎮まるに至っていなかった。そうした状況で、天皇擁護論を如何に
して持ち出すか、考えなくてはならなかったろう。(中略)とにかく伝
統、歴史、文化との関わりに改めて重点を置き、押し出したのである。そ
して、天皇は、『国と民族の非分離の象徴であり、その時間的連続性と空
間的連続性の座標軸』であるだけでなく、『雑多な、広汎な、包括的な文
化の全体性と見合』い、『変革の原理』としても働くとした。固定化し、
矮小化するのを徹底的に排除しようとした」

さらに松本氏の解説は次のように進む。

「文化を守るのは『剣の原理』であり、『必ず危険がつきまとふ』。それ
というのも、『文化における生命の自覚』が『生命の連続性を守るための
自己放棄というふ衝動へ人を促す』からだという。」

つまり三島は「文化の蘇生は同時に自己滅却を要求する」と主張したわけ
で、「このような献身的契機を含まぬ文化の?不毛の自己完結性が、『近
代性』と呼ばれたところのものであった」。

三島はこうも言った。

「天皇という絶対的媒体なしには、詩と政治とは、完全な対立状態に陥る
か?政治による詩的領土の併呑にをはるしかなかった」。
 
このほか、『日本文学小歴史』について重厚な解説が試みられている。 
             
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  樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1805回】           
――「支那人は不可解の謎題也」・・・徳富(30)
徳富蘇峰『支那漫遊記』(民友社 大正7年)

          △
歴史を振り返れば日本も平安朝のように「文弱の弊に陥りたる例」がある
し、「支那と雖も、時と場合とによりては、武勇を以て、國を立てたるも
のもあり」。だが武勇を必要とした場合、「恰も肉を好む者が、屠者を必
要とするが如く」であり、必要なくなったらポイ捨て状態に近く、「決し
て國民的名譽の標的にはあらざりし也」。

つまり国はもとより民もまた武を支える栄誉を武人・兵士に与えることは
なかった。

かくして「兵士となる者は、社會の喰込者、廢棄者、厄介者にして、乞
食、盗賊と相距る一歩のみ」であり、「兵士彼自身も、無代にて酒を飲む
爲め、奸淫を恣にする爲め、軍服を著て強盗を働く爲めに、之に投ずる
者、少からざる也」。

いわば「支那に於ては、軍隊とは、隊を組みたる持兇器強盗の異名」とい
うものだ。だから「人民は討伐せらるゝ匪徒よりも、却て討伐する官軍に
向て、より多くの鬼胎を懷く」のである。

■「(49)模擬戰爭と模擬賭博」

子供の遊びというものは、大人の振る舞いの反映である。日本では「小童
の遊戯は、概ね模擬戰爭」であり、それは日本の「社會に於ける尚武の氣
風」を物語っている。

一方、「今回の支那旅行中」に屡々目撃した「支那の小童の遊戯」は、
「地に畫きて、何やら小片を投じ」て勝負を決めるもの。「云はヾ支那人
大好物の、賭博の類と思はるゝ也」。

「支那に於ては、兵士は戰爭する爲め」ではなく、「戰爭せざる爲め」に
置かれている。

彼らの戦争とは斬り合い撃ち合い血を流し命の遣り取りをするものではな
く、「兵士は將棋の駒の如く、互ひに之を並べて、其の勝敗を決する」も
の。時に「打ち合ふ事あるも、そは唯だ目的の外れたるが爲」、つまり両
陣営指揮官の見込み違いの結果であり、「何處迄も兵士は戰爭せざる爲め
の要具」ということになる。

――この徳富の考えが正しいとするなら、彼らにとっての戦争は賭博に近い
ようにも思える。将棋の駒のように戦場に兵士を並べたうえで、劣勢と
判ったら大金を振り込んで相手を買収する。

古くから「憫れむ可し堂々たる漢の天下、只に?金四萬斤に直するのみ」
といわれてきたが、まさに戦争とは敵を買収することでもあるわけだ。――

■「(50)地力の防御乎他力の防御乎」

「外敵と戰へば、概して敗走する」のが、「支那?史の常態」である。で
あればこそ、「支那は果して彼が如き大國を、自ら防禦するの能力」を
持っているのだろうか。独立を考えるならば、「支那人が?心平氣に、此
の問題に就て、熟慮せんことを望む」。


「自國の統治に信頼」を置かないからこそ、多くが上海やら天津やら青島
などの租界という「支那の土地にして、支那人が自らから手を下す能はざ
る土地に、其の生命、財産を託する者」が多い。それというのも「支那人
が、外力庇護の下に、其の安全を、見出」しているからだ。やはり彼らは
自らの祖国に信を置いてはいないのである。

こういった歴史的事実から判断して、「此の平和的――如何なる高價を拂ふ
も、唯だ平和是れ希ふ――國民性を、激變」させることは至難だ。そこで考
えられるのが経済関係を含めた「日支攻守同盟を結」ぶことであり、「日
本に提供するに鐵、棉、石炭等の物資を以てし」、これに対し世界に向っ
て「日本を以て、支那の巡査」を務めることを明らかにすることだ。
「是れ兩國其の長所を交換し、互ひに相利する所以にあらずや」。

 ――とてもじゃないが、「日支攻守同盟」が「互ひに相利する所以」とは
到底思えない。これが古今を通じた言論界の超大物とされる徳富から発せ
られた『提案』というのだから、逆に当時の日本における支那認識の実態
と時代の風潮を推し量れそうだ。