2018年11月03日

◆中国の正体を見誤るな

櫻井よしこ


「「新冷戦」の今、中国の正体を見誤るな」

世界はまさに「新冷戦」の時代に入っている。トランプ大統領は10月20
日、訪問先のネバダ州でアメリカは中距離核戦力(INF)全廃条約を破
棄するとこう語った。

「ロシアが我々の所にきて、また中国が我々の所にきて、口を揃えて『互
いに賢くなろう、そして我々の中の誰も、あんな武器(中距離核)を開発
するのはやめよう』と言わない限り、アメリカは(中距離核を)開発しな
ければならないだろう」

トランプ氏はさらに「ロシアが賢くなり、他国も賢くなる」こと、即ち
INFを放棄することが大事だと繰り返した。「他国」が中国を意味して
おり、その「他国」がINFを諦める可能性はほぼないと予測しているの
も、間違いないだろう。

メディアから、本当にINF全廃条約から離脱するのかと問われ、「そう
だ。離脱する(pull out)」と述べ「アメリカには7000億ドル(77兆円)
を超える軍事費がある」と強調した。中露両国を相手に、十分な核戦力を
構築できると誇示した。

INF全廃条約は、1987年にレーガン米大統領とゴルバチョフ・ソ連共産
党書記長との間で締結された。核弾頭を搭載する地上発射型の、射程
500〜5500キロのミサイルを全廃するとの内容だ。やがてソ連は崩壊しロ
シアとなったが、両国は廃棄を続け、2001年には双方がINFを全廃した
と確認した。

しかし、プーチン政権が14年に「ノバトール9M729」と呼ばれる巡航ミサ
イルを開発したとき、オバマ大統領はこれをINF全廃条約違反だと断じ
た。無論ロシア側は否定したが、今回、トランプ氏はロシアの否定を認め
ず、正面からその違反行為に対抗すると宣言したわけだ。

ちなみにトランプ氏は、7月16日にヘルシンキでプーチン大統領と首脳会
談を行ったときは、INFについては殆ど理解していなかった。それがい
ま、国防総省や安全保障問題担当大統領補佐官のボルトン氏らの助言に
従ってロシアを非難する。米国の安全保障政策は専門家らによって決定さ
れているのである。

「新しいタイプの核兵器」

トランプ氏の離脱宣言で注目すべき点は、標的がロシアだけではなく、中
国も大いに問題視されていることだ。中国はINF全廃条約の当事国では
ないことを利用して、中距離核ミサイルを含む兵器を着々と開発、配備し
てきた。結果として、中距離核ミサイルを保有していないのは米国だけと
いう状況が生じた。トランプ政権を支える安全保障問題の専門家らは、こ
の点についての懸念を深めていたのである。

今回の発言が単にトランプ氏の思いつきや暴走ではなく、政権の基本政策
であったことが、昨年12月に発表された米国の「国家安全保障戦略」と、
今年2月の「核態勢の見直し」から見えてくる。前者では中露に対して
「アメリカの軍事力、影響力と国益に挑み、アメリカの安全と繁栄を侵食
しようとしている」という非難の言葉を投げかけている。

後者では、冷戦が最も激しかった時期に較べて米国は核弾頭の85%を廃棄
したとの主張を展開し、にも拘わらず、10年の「核態勢の見直し」報告以
来今日まで、「潜在敵国」(potential adversaries)による核の脅威が
高まっているとして、次のように強調した。

「米国が核兵器を削減し続けてきたこの間、中露を含む他の国々は正反対
の動きをした。彼らは新しいタイプの核兵器を作り、核戦略を充実させ、
宇宙やサイバースペースに至るまで侵略的に行動した」

非常に興味深く、また説得力もあったのが、報告書の8頁に掲載された
「2010年以降の核運搬手段」の図表である。米中露が10年以降に新たに開
発に着手した、或いは実戦配備した核運搬手段の紹介である。中露の欄に
はかなりの種類が列挙されている反面、米国の部分はほとんどが空白に
なっている。

ロシアの場合、新たに地上に配備された核ミサイルはSS27Mod2(大
陸間弾道ミサイル、ICBM)、SSC08(地上発射巡航ミサイル、
GLCM)がある。潜水艦から撃ち出される海洋配備のミサイルは
SSN32、SSN30などの4種類、空から撃ち込むものはKh102が実戦配
備されたと書かれている。

その他、開発着手済みの地上発射、潜水艦発射或いは爆撃機から撃ち込ま
れるミサイルが7種類も列挙されている。

中国も、地上発射のミサイルは実戦配備済みと開発中のものが、ロシア同
様5種類列挙され、海に関してもロシアとほぼ同じ4種類が記載されている。

一方米国は地上発射、海洋配備の新しいミサイルは10年以降、開発も配備
もしていない。米国が10年以降導入したのは戦闘機のF35Aである。

トランプ氏の決断

対照的に中国は凄まじい。核ミサイル以前に第一列島線、第二列島線を想
定済みだ。有事の際には、西太平洋に米軍の進入を許さない、台湾や尖閣
諸島攻略などの作戦の初期段階で中国が上陸し占拠して目的を達せられる
ように、米軍の進入を遅らせる戦略を描き、準備を進めてきた。

そのために彼らは非対称の戦いを考えてきた。米軍の誇る空母群に中国の
空母をあてるのでなく、弾道ミサイルを搭載した潜水艦を配備するなどが
そうである。建造費も膨大で、艦自体も巨大な空母に対して、建造費がは
るかに少なく、潜ってしまえば探知するのが非常に難しい小さな潜水艦を
あてるのである。このような考えから中国保有の潜水艦はいまや71隻もあ
る。わが国は16隻、米国は69隻である。

中国はINF条約に全く縛られることなく、すでに射程1500キロの東風
(DF)21Dを配備済みだ。これは潜水艦から発射されると、複数の弾頭
が迎撃ミサイルを回避して飛ぶため「空母キラー」として恐れられている。

他にも「DF26」ミサイルは射程3000〜5000キロ、「グアム・キラー」と
通称される。なんといっても米軍には、中露両国が保有するこれらの中距
離核ミサイルがない。

こうした事情を考えれば、トランプ氏の決断には十分な理由があると言わ
ざるを得ない。今後の展開はまだ定かではないが、米国の離脱論は消えな
いと見るべきだ。

米国の最大限の警戒心がロシアのみならず中国に向けられている現実を、
日米安保条約に依存する日本は弁(わきま)えておかなければならない。米
露、米中新冷戦は米中貿易戦争からも明らかな現実である。

英国のウィリアムソン国防相は「絶対的に揺るがぬ決意でワシントンの側
に立つ」と語った。安倍晋三首相は折りしも10月26日、日中首脳会談に臨
む。中国の本質を見誤って甘い対応をしてはならない。日本の主張をきち
んと表明することだ。

『週刊新潮』 2018年11月1日 日本ルネッサンス 第825回

◆貴ノ岩関が訴え取下げ

                     川原 敏明  弁護士


 大相撲の貴ノ岩関が元横綱の日馬富士関から暴行を受けて傷害を負
った事件で、貴ノ岩関は、日馬富士に対し、約2400万円の損害賠
償を求めて民事訴訟を提起していましたが、ニュースでこの訴えを
取り下げたということが報道されていました。

 貴ノ岩関と代理人弁護士によると、モンゴルでの貴ノ岩関の家族へ
のバッシングが激しく、訴えを取り下げざるを得なかったということ
です。

 モンゴルでは、日馬富士は英雄視されており、貴ノ岩関は日馬富士
の後輩にあたるのですが、傷害事件の被害者家族がバッシングを受け
ているということが事実であれば、とても悲しいことです。
 これが日本であれば、貴ノ岩関の擁護派が多数であると思います。

 モンゴルで家族が批難を受けていると貴ノ岩関から相談を受けた代
理人弁護士としては、正義はこちらにあるのだから民事訴訟で戦いま
しょうという趣旨のアドバイスをしたと思います。

 それでも、最終的には訴えの取下げという苦渋の決断をせざるをえ
なかったということは、貴ノ岩関の家族への批難の程度が想像を超え
るものであり、貴ノ岩関もその事実に心を痛めていたことは間違いあ
りません。

 民事訴訟は裁判所に判決を求める手続ではありますが、両当事者か
らの主張、立証が出そろった段階で、裁判所から和解の勧告がなされ
るのが通例です。

 そして、一般的に民事訴訟の大部分は和解によって終了していると
いう統計もあります。
 今回の貴ノ岩関の訴えの取り下げによって、貴ノ岩関と日馬富士の
和解の機会も失われることになると思います。

 日馬富士本人や日馬富士のさらに先輩にあたる白鵬関がSNS等で
モンゴル国民に対して貴ノ岩関の家族へのバッシングはやめるように
訴えるということは期待できないのでしょうか。

 日馬富士関は今後も被害弁償について誠実に対応していくと述べて
います。

2018年11月02日

◆中国の身分不相応な立ち位置

宮崎 正弘

平成30年(2018年)10月31日(水曜日)通巻第5873号 

 「中国は身分不相応な立ち位置を求めるべきではない」
   トウ小平の長男(トウ僕方)が中国身体障害者大会で間接批判

トウ小平の長男(74歳)は文革中の1968年に、ビルの屋上から突き落とさ
れて身体障害者となり、爾来、車いすの生活。中国全国身体障害者組織の
会長として、社会活動に従事してきた。

 さきに開催された全国大会で議長に再選され、挨拶に立ったトウ僕方
は、「中国は身分不相応な立ち位置を求めるべきではない」と発言したこ
とが分かった。これは間接的な習近平批判ではないのか、と。

「中国はもっと広い立ち位置を求め、野心を剥き出しにするような行為を
続けるべきではない。四十年前に父が切り開いた路線は、そういう方向に
はなかった」。つまり「養光韜晦」(能ある鷹は爪を隠す)というトウ小
平の遺言を重視しろ、と言っているのである。

僕方はまたこうも言った。

「たしかに国際情勢は激変しているが、われわれの求めるものは平和と発
展であって、世界のほかの国々との調和が重要である。それが本当の
『ウィンウィン戦略』である。身分不相応な目標を掲げるのではなく、中
国の国内に関して、もっと議論を為すべきではないか」

1970年代後半、文革が終わり中国は制度改革に踏み切って、民主化のうね
りが目立つ時期があった。それの動きは89年の天安門事件で押しつぶさ
れ、民主学生を弾圧したのもトウ小平だった。

このスピーチは9月16日に北京で開催された身障者全国大会で行われた
が、演説記録は非公開だった。『サウスチャイナ・モーニングポスト』
(2018年10月30日)が別のルートから入手し、発表に踏み切った。
     
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  樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1812回】             
――「支那人は不可解の謎題也」・・・徳富(37)
徳富蘇峰『支那漫遊記』(民友社 大正7年)

■「(72)何故に支那文明の同化力は宏大なる乎」

「蓋し支那人の外物を容るゝや、必ず之を支那化せずんば止まず」。「支
那文明の同化力の、其包容力に比して、更に一層宏大な」り。じつは「支
那の文明は、亞細亞の一大平原たる、殆んど一世界とも云ひ得可き地域に
發生し、四圍より、各種の要素を會湊し、之を凝結し、之を結晶したる者
なれば」こそ、「同化作用の無敵なる所以」であり、「如何なる外來の勢
力も、之を其の根底より破壞するは、到底不可能」である。

そこで考えられるのが「支那文明の敵ありとせば」、それは外来の文明で
はなく「其の久遠の?史」にある。「年代と與に、其の消耗する量の多き
に比して、新たに補充する量の少なき結果」、当然のように「文明の新
鋭、活?なる生氣を、減殺」することになる。

――ならば放っておけば、遅かれ早かれ自壊の道を進むということか。

■「(73)日支何れか同化力強き乎」

両国人を「公平に觀察すれば、支那人が日本化するよりも、日本人が支那
化する方、多かるべく推定さらるゝ也」。それというのも、「支那文明
は、其の物質上の愉快、及び便宜に於て、何となく人を引き附け、吸ひ込
むが如き力ある」からだ。

「之(支那文明)に接觸する久し」ければ、「何人も自から支那化し、支
那人化するを禁ずる能はざる可し」。「支那文明は、無意識の裡に、他を
催眠術に誘ふ底の魔力を有す」。かりに「支那が武力的に、不能者たるが
爲めに、總ての點に不能者視」したなら、それは「實に大なる油斷」であ
る。彼らは武力的な短所を補うだけの長所を、「他の方面に有する」こと
を忘れてはならない。

「吾人(徳富)は日支親善を、中心より希望す」るが、彼らの同化力には
「深甚の考慮を廻らさゞるを得ない」。彼らの「同化力や、今日と雖も決
して侮る可らざる也」。

■「(74)二重人格」

「支那人は僞善者」ではない。「心に思はぬ事を、口に語り、表裏二樣の
使ひ分けを、自ら承知の上にて、之を行ふ」という「先天的の二重人格」
の持ち主だ。だから「彼等は僞善を行ひつゝ、自ら僞善たる事に氣附か」
ない。気づかないのだから「之を僞善と云ふは、餘りに支那人を買被りた
る、判斷を云はざるを得」ない。

 「表裏二樣の使ひ分けは、支那數千年を一貫したる、一種の國風、民
俗」というものだ。彼らは「理想を立てゝ、之に嚮往する」のではなく、
「理想は理想とし、實際は實際として、截然たる區別を定め」ている。だ
から彼らの「實際を知らんと欲せば、寧ろ理想の反對を見る」がいいのだ。

 「實際が理想の如くならざればとて、毫も疚しき所」はない。だからこ
そ「彼等が煩悶なく、懊惱なきも、亦當然也」。そこにこそ「支那人が比
較的、樂天人種たる所以」がある。

 ――無原則という大原則に敵う術があるわけがない。ならば面子とは理想
なのか、実際なのか。彼らが掲げる理想のなかに実際があると仮定するな
ら、「實際を知らんと欲せば、寧ろ理想の反對を見る」のではなく、理想
の3,4割を実際と瀬踏みしてみるのがいいのではなかろうか。「煩悶な
く、懊惱なき」ゆえに無反省・・・これを無敵というに違いない。

■「(75)理想と實際」

「支那に於ては、一切の法度、如何に精美に出て來りとするも、概ね徒法
たるに過ぎず。然も徒法たりとて輕視す可からざるは、猶ほ廢道たりと
て、道として保存せらるゝが如し」。

 なにせ「世界に支那程、空論國はなき也」。だから「議論の爲めに議
論」であり、「實行と議論とは、全く別物視」している。
そこに「彼等の議論が無責任」の背景がある。
《QED》

◆園田直の二十三回忌

渡部 亮次郎


(元NHK政治記者 元外相・厚相秘書官)

晩年になって福田、大平、鈴木の3内閣で外務大臣を務めて死んだ故園田
直の二十三回忌が3月27日に東京の増上寺で営まれ、秘書官だった私も参
列した。

僅か70歳の死だった。糖尿病でありながらインスリンを打たなかったため
の「若死に」であった。皮肉な事に、彼が厚生大臣(当時)の時、日本で
はじめて糖尿病患者の「自己注射」を許可。結果、医療業者の競争を促
し、注射針は世界一細くなり、注射は殆ど無痛になっている。

彼が残した業績として、水俣病など公害病の初認定が残るが、外務大臣と
してやり遂げた日中平和友好条約の締結は40年も以前のことだから、語ら
れる事も少なくなった。私はNHK政治記者から彼の秘書官に発令された
者だけに、その舞台裏を記者の目で見つめていた。

中国について、実は田中角栄氏が首相として国交正常化交渉をした際、
NHK政治部から記者として北京に同行していた。その時発せられた共同
声明で日中平和友好条約の締結が公約されていたのだが、田中氏はスキャ
ンダルの為退陣し、次の三木内閣も交渉に行き詰まって退陣し六年が空費
されていた。

福田内閣を打ち立てた園田は官房長官として鳩山外務大臣よりも積極的な
条約推進論者であった。そのため剣道の弟子で中国育ちの人物をしばしば
北京に派遣、廖承志氏ら共産党政権の有力者と接触させていた。

それがモノを言った。偶然にも園田は福田首相に煙たがられ、外務大臣に
横滑り。当に日中平和友好条約の担当者になった。更に偶然にも中国側で
も条約の推進勢力たるケ小平氏が復活。ケ氏の動静は大使館からの公式情
報としては全く入ってこないが、例の剣道の弟子からは詳細に入ってきた。

「園田が来れば調印する」というケ氏の発言すら入ってきた。しかし大使
館情報しか知らない福田首相と外相の仲は、首相の自民党総裁再選問題と
絡んで、悪化していった。

締結を渋りだした首相に無断で北京行きの特別機を手配したのは有田事務
次官。園田情報に賭けたのである。

動きは記者たちから首相に洩れた。だから箱根で静養中の首相に決断を求
めに園田が厳しい顔で会ったとき、首相がいきなり「直(ちょく)さん、
いつ行くや」といって園田をびっくりさせた。

かくて1978年8月8日、特別機は羽田を飛び立った。人民大会堂での交渉は
たった2回目で中国側が日本案を全面受諾した。

それから6年後、園田は死んだ。それまでに大平、鈴木内閣で外相と厚生
大臣を務めた。


◆中国の正体を見誤るな

櫻井よしこ


「「新冷戦」の今、中国の正体を見誤るな」

世界はまさに「新冷戦」の時代に入っている。トランプ大統領は10月20
日、訪問先のネバダ州でアメリカは中距離核戦力(INF)全廃条約を破
棄するとこう語った。

「ロシアが我々の所にきて、また中国が我々の所にきて、口を揃えて『互
いに賢くなろう、そして我々の中の誰も、あんな武器(中距離核)を開発
するのはやめよう』と言わない限り、アメリカは(中距離核を)開発しな
ければならないだろう」

トランプ氏はさらに「ロシアが賢くなり、他国も賢くなる」こと、即ち
INFを放棄することが大事だと繰り返した。「他国」が中国を意味して
おり、その「他国」がINFを諦める可能性はほぼないと予測しているの
も、間違いないだろう。

メディアから、本当にINF全廃条約から離脱するのかと問われ、「そう
だ。離脱する(pull out)」と述べ「アメリカには7000億ドル(77兆円)
を超える軍事費がある」と強調した。中露両国を相手に、十分な核戦力を
構築できると誇示した。

INF全廃条約は、1987年にレーガン米大統領とゴルバチョフ・ソ連共産
党書記長との間で締結された。核弾頭を搭載する地上発射型の、射程
500〜5500キロのミサイルを全廃するとの内容だ。やがてソ連は崩壊しロ
シアとなったが、両国は廃棄を続け、2001年には双方がINFを全廃した
と確認した。

しかし、プーチン政権が14年に「ノバトール9M729」と呼ばれる巡航ミサ
イルを開発したとき、オバマ大統領はこれをINF全廃条約違反だと断じ
た。無論ロシア側は否定したが、今回、トランプ氏はロシアの否定を認め
ず、正面からその違反行為に対抗すると宣言したわけだ。

ちなみにトランプ氏は、7月16日にヘルシンキでプーチン大統領と首脳会
談を行ったときは、INFについては殆ど理解していなかった。それがい
ま、国防総省や安全保障問題担当大統領補佐官のボルトン氏らの助言に
従ってロシアを非難する。米国の安全保障政策は専門家らによって決定さ
れているのである。

「新しいタイプの核兵器」

トランプ氏の離脱宣言で注目すべき点は、標的がロシアだけではなく、中
国も大いに問題視されていることだ。中国はINF全廃条約の当事国では
ないことを利用して、中距離核ミサイルを含む兵器を着々と開発、配備し
てきた。結果として、中距離核ミサイルを保有していないのは米国だけと
いう状況が生じた。トランプ政権を支える安全保障問題の専門家らは、こ
の点についての懸念を深めていたのである。

今回の発言が単にトランプ氏の思いつきや暴走ではなく、政権の基本政策
であったことが、昨年12月に発表された米国の「国家安全保障戦略」と、
今年2月の「核態勢の見直し」から見えてくる。

前者では中露に対して「アメリカの軍事力、影響力と国益に挑み、アメリ
カの安全と繁栄を侵食しようとしている」という非難の言葉を投げかけて
いる。後者では、冷戦が最も激しかった時期に較べて米国は核弾頭の85%
を廃棄したとの主張を展開し、にも拘わらず、10年の「核態勢の見直し」
報告以来今日まで、「潜在敵国」(potential adversaries)による核の
脅威が高まっているとして、次のように強調した。

「米国が核兵器を削減し続けてきたこの間、中露を含む他の国々は正反対
の動きをした。彼らは新しいタイプの核兵器を作り、核戦略を充実させ、
宇宙やサイバースペースに至るまで侵略的に行動した」

非常に興味深く、また説得力もあったのが、報告書の8頁に掲載された
「2010年以降の核運搬手段」の図表である。米中露が10年以降に新たに開
発に着手した、或いは実戦配備した核運搬手段の紹介である。中露の欄に
はかなりの種類が列挙されている反面、米国の部分はほとんどが空白に
なっている。

ロシアの場合、新たに地上に配備された核ミサイルはSS27Mod2(大
陸間弾道ミサイル、ICBM)、SSC08(地上発射巡航ミサイル、
GLCM)がある。潜水艦から撃ち出される海洋配備のミサイルは
SSN32、SSN30などの4種類、空から撃ち込むものはKh102が実戦配
備されたと書かれている。

その他、開発着手済みの地上発射、潜水艦発射或いは爆撃機から撃ち込ま
れるミサイルが7種類も列挙されている。

中国も、地上発射のミサイルは実戦配備済みと開発中のものが、ロシア同
様5種類列挙され、海に関してもロシアとほぼ同じ4種類が記載されている。

一方米国は地上発射、海洋配備の新しいミサイルは10年以降、開発も配備
もしていない。米国が10年以降導入したのは戦闘機のF35Aである。

トランプ氏の決断

対照的に中国は凄まじい。核ミサイル以前に第一列島線、第二列島線を想
定済みだ。有事の際には、西太平洋に米軍の進入を許さない、台湾や尖閣
諸島攻略などの作戦の初期段階で中国が上陸し占拠して目的を達せられる
ように、米軍の進入を遅らせる戦略を描き、準備を進めてきた。

そのために彼らは非対称の戦いを考えてきた。米軍の誇る空母群に中国の
空母をあてるのでなく、弾道ミサイルを搭載した潜水艦を配備するなどが
そうである。建造費も膨大で、艦自体も巨大な空母に対して、建造費がは
るかに少なく、潜ってしまえば探知するのが非常に難しい小さな潜水艦を
あてるのである。このような考えから中国保有の潜水艦はいまや71隻もあ
る。わが国は16隻、米国は69隻である。

中国はINF条約に全く縛られることなく、すでに射程1500キロの東風
(DF)21Dを配備済みだ。これは潜水艦から発射されると、複数の弾頭
が迎撃ミサイルを回避して飛ぶため「空母キラー」として恐れられている。

他にも「DF26」ミサイルは射程3000〜5000キロ、「グアム・キラー」と
通称される。なんといっても米軍には、中露両国が保有するこれらの中距
離核ミサイルがない。

こうした事情を考えれば、トランプ氏の決断には十分な理由があると言わ
ざるを得ない。今後の展開はまだ定かではないが、米国の離脱論は消えな
いと見るべきだ。

米国の最大限の警戒心がロシアのみならず中国に向けられている現実を、
日米安保条約に依存する日本は弁(わきま)えておかなければならない。米
露、米中新冷戦は米中貿易戦争からも明らかな現実である。

英国のウィリアムソン国防相は「絶対的に揺るがぬ決意でワシントンの側
に立つ」と語った。安倍晋三首相は折りしも10月26日、日中首脳会談に臨
む。中国の本質を見誤って甘い対応をしてはならない。日本の主張をきち
んと表明することだ。

『週刊新潮』 2018年11月1日 日本ルネッサンス 第825回

◆彼岸の風景

石岡 荘十



多分、彼岸はこんなところではないかと思わせる風景を垣間見る機会があった。といっても、自ら望んで体験をしたわけではない。

少年の頃のリウマチ熱が原因で、全身に血液を送り出す心臓(左心室)の出口の、扉ともいえる大動脈弁がうまく開閉しなくなった。

このため、1999年2月、開心手術、つまり胸を切り開いて、ナマの大動脈弁を切り取り、代わりにチタンとカーボンで出来た人工の弁を縫い付ける手術(大動脈弁置換手術)を強いられた。

64歳だったがまだ死にたくなかった。怖かった。幸い、手術は成功し、集中治療室(ICU)から三日ぶりに一般病棟に還ったのはいいが、その翌朝、突然、激しい不整脈に襲われる。

こんなときに一発で不整脈をしゃんとさせる方法は一つしかない。「ドカン!」である。

後でわかったことだが、ドカンというのは業界スラングで心臓に電気ショックを与える治療のことだ。ストレッチャーに乗せられて別室につれ込まれ麻酔注射をブスッ。記憶はここまでで、全身麻酔をかけられた後の、見た風景は------。

地下室のような真っ暗なところに私はいる。見上げると長い階段があって「うんうん」言いながら這い上っていくと、そこに一条の光と川の流れ-----花園。うっとりしていると、女の声。
「石岡さん、石岡さん、わかりますか」
別の女の呼びかけ。
「お父さん!」
「おやじ聞こえるかっ」
 薄目を開けてみると、家族の顔があった。
 
あれは、よく言われる「臨死体験」ではなかったか。死に臨む、つまり彼岸直前の風景ではなかったか。研究者によると、こんな話は腐るほどあって、数多くの体験者からの聞き取りを統計的に分析すると、二つの特徴がある。

その一つは「体外離脱」。英語ではOut of Body Experience。直訳すると「肉体の外の体験」である。

手術台とか布団に寝ている自分を家族や医者が取り囲んで嘆き悲しんでいる風景を、肉体から離れたもう一人の自分が高いところから見ている状態をいう。

ある体験者は祖母が隠し通していたハゲが頭のてっぺんにあることをそのとき初めて見つける。生還した後そのことを祖母に言うと「いつ見たんだ」と不機嫌に問い詰められたという。

こうしてみると、肉体から離れたもう一人の自分こそ本当の自分であり、肉体はただの抜け殻ということになる。

もう一つの特徴は、私が体験した「他界経験」。英語でいうとNear Death Experience。これには次のような共通の特徴がある。

(1)トンネル体験
(2)光の世界

暗いトンネル体験の後、光が近づいてくるか、自分が光に近づいていく。そこは、花、水、鳥------楽園が現出する。

(3)亡くなった身内に会う
(4)バリア体験

バリアは障害物、例えば川があって向こう岸に渡ってしまうと生還の可能性は少なくなる。生還した大概の人が渡る直前、家族に名前を呼ばれて引き返している。

私の場合は、亡くなった身内には会わなかったがそのほかの体験は合致する。

このような体験談は科学的、神経生理学的にはどのように説明されているか。有力な説は、脳の酸素欠乏説だ。

事故であれ不整脈であれ、最後の瞬間には、心臓が働かなくなって脳に十分な酸素が供給されなくなり、脳は低酸素状態になる。

すると、脳は広い範囲で無秩序に興奮し、正常な機能がマヒして幻覚が生じる、と説明する。しかし、なぜ「暗黒と光」がつきものなのか、学説は分かれていて、なるほどと思わせる説にはまだぶつかっていない。

それより興味深いのは、ほとんどの体験者が、いまわの際には至福、恍惚、安らぎを感じていることだ。清らかな水の流れ、花が咲き乱れ鳥が囀る楽園を見たという人もいる。

その意味で私の見た風景は、臨死としては“完璧”なものではないが、不整脈で一時的に脳に酸素が行き渡らなくなった可能性はある。

夏目漱石も体験者の一人である。43歳のとき胃潰瘍で大量の喀血をして、あやうく彼岸へ渡るところだった。そのときの感じを作品(『思ひ出す事など』)のなかで「縹渺とでも形容して可い気分------」と表現している。

この歓喜に満ちた恍惚感を生み出すのはエンドルフィンだという説が有力である。エンドルフィンは脳内麻薬物質といわれ、死に瀕して脳内が低酸素状態になると、脳内で活発に生産されるホルモンの一種であることが確認されている。

その作用はモルヒネと同じ、あるいは十数倍強烈で、これが脳の深いところでドーパミンという覚醒剤に似た物質を分泌させる。

その結果、瀕死の苦痛は次第に恍惚感に変わっていく、と説明されている。脳の酸素欠乏による幻覚に過ぎないという説もある。

「最後は安らかな表情でした」

 長い闘病の末、愛する身内を看取った家族がこういう感想を漏らすことがよくある。その時、瀕死の身内は脳内に分泌した物質のおかげで恍惚の中にいるからだという説もある。

「死ぬのは怖い、間際では苦しい思いをする」という思い込みは、とんでもない誤解かもしれない。

臨死、そして死、来世の光景はどうも『蜘蛛の糸』(芥川龍之介)に描かれた地獄絵巻とはまったく異なる、恍惚の世界である可能性があることを、研究者は報告している。

命の灯がまさに消えようとするとき、皮肉なことに本人はやっとの思いでたどり着いた楽園をうっとりと彼岸に向けて逍遥しているらしいのだ。

ここでだれも名前を呼ぶものがいないと彼岸へと渡っていく。

脳梗塞で死に掛った大学時代の友人は、川岸でなくなった母親に会い、追い返されたと体験を語ってくれた。

「三途の川」というのは作り話だと思っていたが、「案外、創造主はそこまでお見通しで設計・創造しているのかもしれない」と手術後は、半分信じるようになっている。

恐るべし、創造主の叡智。


本文は拙著『心臓手術〜私の生還記〜』執筆の際書いて、都合で所載で出来なかった部分を補・加筆しました。なお執筆に際しては「臨死体験 立花隆 文春文庫 上下」他数冊を参考・引用にしました。


2018年11月01日

◆名作「カサブランカ」は戦争中の

宮崎 正弘


平成30年(2018年)11月30日(金曜日)通巻第5907号  

名作「カサブランカ」は戦争中のスパイ合戦を背景のラブストーリーだっ
たが。。。
  いま、ジブチがまさに列強スパイ戦争の舞台となって

高齢者なら見たことがあるかも知れない。名作映画「カサブランカ」はハ
ンフリー・ボガードとイングリッド・バークマンが主演した(きっと、花
田紀凱氏なら「見たよ」って言うだろうけど)。

舞台はフランス植民地のモロッコはカサブランカ、ドイツに影響を受けた
フランスからレジスタンス活動家が入り込み、またナチスのスパイも入り
込み、亡命工作、政治ロビィ、そして機密書類や、そうした背景のもとに
繰り広げられるのが、波乱に満ちたラブ・ロマンス。「君の瞳に乾杯」が
流行語となった。

いま、舞台はジブチへ移動した観がある。

 ジブチはフランス領ソマリランドから独立し、紅海の入り口を扼すシー
レーンの要衝のため、米軍が基地を置いた。米軍兵士は4000名が駐屯して
いる。

もちろん旧宗主国のフランスの基地(2900)があるが、この陣地にイタリ
ア(300人)もドイツもスペインも、そして日本の自衛隊も、この地に
180名が駐屯している。隣接する米海軍基地は本格的な構造であり、ま
たイタリアや日本が駐留部隊を派遣しているのはアデン湾の海賊退治が目
的だった。

このジブチに中国が割り込んできた。

「借金の罠」に引っかかった、というよりジブチ政府自らが中国のカネを
アテにして宏大な土地を中国に提供した。中国は免税特区、貿易中継基地
の倉庫、工業団地を建設するとして、巨費を投下し、気がつけば、中国初
の、しかも宏大な海外軍事基地を保有していた。

米軍の基地使用料は年間6300万ドル、フランスは3600万ドル。中国は2000
万ドルとされている。日本の負担額は公表されていない。

中国の軍地基地はドラレという地区にあって港に位置する。その上、エチ
オピアのアジスアベバからの鉄道759キロの終着駅でもある。免税特区は
4600ヘクタール、中国が投資した巨額は35億ドルに達すると言われ、軍人
ばかりか、商人、貿易商、労働者、運搬会社、乙仲業者などが入り乱れて
出入りしている。

しかも中国の軍人らは米、伊、仏、そして日本の防衛作戦の展開をスパイ
している。その目的は何なのか?

第一に米軍はカタールとインド洋上のディエゴガルシアに空母群基地を置
いている。米軍の動向、あたらしい設備や方法を観察しやすい地形にある。

第二に西側の軍事演習の観察から、その整合性、効果を計測し評価できる。

第三にドラレ港をほぼ手中にした中国の海軍基地はすでに一万人収容の
キャパを誇る。海兵隊、工兵さらには「得体の知れない」物資、設備を陸
揚げしている。
 ジブチは列強のスパイ合戦の策源地となった。
  
 ☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆書評 しょひょう 
BOOKREVIEW 書評BOOKREVIEW
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  南北統一は韓国の滅びを意味し、米軍は撤退するしかない
  南シナ海海戦は一瞬にして終わり、対馬海峡が日本の防衛戦になる

              ♪
藤井厳喜 v 古田博司『韓国・北朝鮮の悲劇 ――米中は全面対決へ』
(ワック)
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
えっと思われる挿話があちこちに挿入されている。

 古田 「2002年に北朝鮮の漁郎という飛行場に降りたことがあります。
ミグがならんでいたのだけど、赤さびで期待が真っ赤だった」

 藤井 「ええっ。戦闘機が錆びている? 本当ですか(笑)。

 古田 「驚きました。明らかに飛んでいないことが分かりました」
 またこんな会話がある。南北朝鮮の統一に関して、

 古田 「文在寅は自分たちを、ロウソク革命で暴虐な政府を倒した革命
政権だと思っている。気分だけではもう、南ベトナム解放戦線ですよ」。
 藤井 「そうそう。反共だった『大韓民国』を潰すための革命政権です
からね。だから、図式は南北朝鮮 vs 日本、統一する前の段階の『高
麗連邦』は安全保障と外交が一体となり、国内体制の統一は後回しでしょ
う。そうなったら北朝鮮が優位に立つ」

したがって、日本としては脱北者ではなく「脱南者」対策の方が先決であ
り、古田教授は「難民対策はしっかり準備しなければなりません」と言え
ば、藤井氏は

「日本に入れないことが理想ですけどね(笑)。そのために、済州島を、
米軍が保障占領して日米共同運営の難民収容所をつくればいい。去年トル
コからエルドアン派の学者が来て、『トルコはシリアの難民を人道的に無
制限に入れたのが大失敗だった。国境周辺に収容所をつくって入れておく
べきだった。日本は気をつけたほうが良い』と話してくれました。最初の
段階で国内に入れたらおしまいです」

二人の議論はこうした徹底したリアリズムに立脚した、国家の安全保障、
外交、軍事、貿易戦争、文化の衝突などを掘り下げていく。

結局、朝鮮半島はどうなるかと言えば、南北統一は韓国の滅びを意味し、
米軍は撤退するしかないだろうし、南シナ海海戦は一瞬にして終わり、対
馬海峡が日本の防衛戦になると、明るくない近未来を見通すのである。

◆「軍事同盟」で退陣した内閣

渡部 亮次郎


若い頃、NHK記者として4年間駐在した岩手県には、後に総理大臣になる
鈴木善幸(ぜんこう)のほか小沢佐重喜(さえき)、椎名悦三郎ら、錚々
たる政治家がいた。言うまでも無く佐重喜は小沢一郎の父、椎名は副総裁
として田中角栄の後継首相に三木武夫を推して大失敗した。

そうした中で目立つようで目立たなかった男が鈴木善幸だった。三陸沿岸
の漁民の出。はじめは日本社会党から代議士になったが、間違いに気付い
て保守党に鞍替え、とうとう自民党総裁、総理大臣になった。

だが日米安保条約の何たるかも知らずに過ごし、自民党内のバランスに
のっていただけだったので総理大臣にまつり上げられたものの、「能力不
足」を晒して途中退陣した。

日本大百科全書(小学館)にはこう書かれている。

<国内では自民党の絶対多数を背景に、軍事力増強、実質的な靖国(やす
くに)神社公式参拝、参議院の比例代表制導入、人事院勧告凍結を実現し
た>。

鈴木善幸内閣]は1980(昭和55)年7月成立した。前任の大平正芳が総選挙
中、糖尿病の合併症たる心筋梗塞で急死したところ、「闇将軍」といわれ
て評判の悪かった田中角栄が裏で動いて、突如、鈴木善幸を後任として指
名した。私はその現場に居合わせた。

昭和55(1980)年6月12日未明、大平が死んだ。それに先立って、ホテルに
いた私に園田直(当時は無役)から電話。「大平さんが亡くなったらしい、
調べてくれ」で確認。弔問の為、虎ノ門病院で落ち合う。

彼も当時、糖尿病が悪化。減量の為服用していた利尿剤が効き過ぎてゲッ
ソリしていたので、マスコミの目を引いたことを覚えている。

病室から出てきた園田。車に乗ると「ナベしゃん、これからどうした方が
いいかな」。すかさず「目白へ行きましょう」「そうだワシもそう考えて
いた」。

角栄は先に弔問から戻っていたが、客は園田がその朝は初めてだった。約
1時間して出てきた園田。車中「善幸に決まった」と。「それは妥当なと
ころでしょう。大平派の後継者でもあるし」と私。

大平の死で有権者の同情は自民党に集まって総選挙は、大勝。分裂寸前
だった自民党を結束させ、抗争なしで鈴木政権は成立したのだった。

<「増税なき財政再建」を公約とし、1981年3月には臨時行政調査会を設
置し行政改革を最大の課題とした>。(同)

9月になって厚生大臣齋藤邦吉の不正献金がばれて辞職。その後任に園田
が推されたのは、多分に角栄の押しがあったと思われた。

<1981年1月鈴木首相が東南アジア諸国を歴訪、5月には日米首脳会談を開
き日米「同盟関係」を明記し、西側陣営の一員としてアメリカの対ソ戦略
に協力していく姿勢を明らかにした>。

しかし鈴木首相は首脳会談では、そんなことは話題にならなかったと一旦
は否定。共同声明から軍事同盟云々を消そうとした。日米の首脳が会談す
るという事は要するに日米安保体制を確認し、軍事同盟を再確認する事だ
という外交上の初歩的知識に首相は欠けていたのだ。

この混乱で鈴木首相は党内で孤立感を深めた。同一派閥であった外相伊東
正義が辞任した後を埋めるのに、厚生大臣のピンチヒッターだった園田を
またピンチヒッターにした。

しかし、園田は糖尿病が悪化。外遊しても飛行機から車まで歩けない場面
がしばしばとなった。マニラではとうとう日米首脳会談の共同声明なんて
どうでもいい軽い問題でしかない、といった趣旨の問題発言をして政権の
足を引っ張った。

事後になって鈴木は日米首脳会談について「オレは踊り(外交)の素人なん
だから、手ぶり身振りの最後まで教えないと踊れないよ。教えない外務省
が悪い」といった。外務省側は「初歩知識をお教えするのは失礼に当る
か、と」。

政治における知識や情報の扱い方はビジネスの世界とまるで異なる。ビジ
ネス界は「儲け」で一丸となっているが、政治の世界では役人と政治家の
間に抗争が隠されていたり、遠慮がはさまれたりして要は単純ではない。

しかし1982年6月2兆円以上の歳入欠陥が明らかとなって「増税なき財政再
建」は破綻し、行政改革も自民党・官僚の抵抗で後退を余儀なくされた。

さらに日米経済摩擦、日韓経済協力、教科書記述に対するアジア各国から
の批判といった難問を適切に処理できず、内外ともに手詰まりの状態のな
か、1982年10月12日突如退陣を表明した。

鈴木政治は難問を先送りにして解決を図るといった消極的姿勢を特徴とし
ていた。また党幹事長に二階堂進を起用するなど田中角栄の影響力を強く
受け「角影内閣」との異名をとった。>

日本大百科全書(小学館) (文中敬称略) 2010・4・4再度掲載

◆韓国の左翼革命政権に、妥協は無用

櫻井よしこ


親しい韓国人の友人のひとり、洪熒氏が憤って言った。

「日本の人達は文在寅政権と韓国を同一視しています。保守勢力を中心
に、多くの韓国人が文政権のやり方に怒っていることを、日本のメディア
は伝えてくれません。我々は文政権の下で起きている異常事態に、日本人
と同じくらい怒っているのです」

洪氏は現在、日本で刊行されている新聞、「統一日報」の論説主幹を務め
ているが、かつて、在日韓国大使館の公使だった。日本との関わりはかれ
これ40年になる。

10月30日、韓国大法院(最高裁)が新日鉄住金(旧新日本製鉄)に、「元
徴用工」4人への損害賠償金として4億ウォン(約4000万円)の支払いを命
じた判決、10月11日の国際観艦式に日本の海上自衛隊の旗を掲げないよう
に要求した一方で、豊臣秀吉軍を破った李舜臣(イスンシン)の旗(抗日
旗)を韓国軍艦に飾ったこと、2015年末に国際社会が注目する中で日韓両
外相が発表した、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的」な解決の蒸し返し
など、文政権の横紙破りは非常識極まる。

洪氏は、心ある韓国人は皆、文政権の暴挙を恥じている、日本の政府も国
民も、韓国国民と文政権を同一視しないで対韓政策を考えるべきで、そう
しなければ事態はますます悪い方向に進む、と懸念する。

まず、明確にしておくべき点は、今回の韓国人元労働者への補償に日本の
政府も企業も全く責任はないということだ。1965年の日韓請求権・経済協
力協定の第2条は、「国及びその国民(法人を含む)」の請求権問題は、
「完全かつ最終的に解決されたこと」を日韓両国が確認すると明記してい
る。賠償などの請求権問題は、個人のものも法人のものも全て解決済みだ
と両国政府が確認したのである。

日本政府は当時、念には念を入れて日韓間の議事録も交わした。その中
に、請求権に含まれるもの、つまり、全て解決済みとされるものは何かに
ついて八項目にわたる説明がある。戦時徴用労働者の未払い賃金と補償も
含まれており、解決済みであることを二重三重に明記している。

徴用工ではなかった

安倍晋三首相が、判決直後に間髪を入れず、「国際法に照らしてあり得な
い判断だ」と述べたのは当然なのである。一方で首相は重要なことを指摘
した。この裁判の原告4人は徴用工ではなく、「旧朝鮮半島出身の労働
者」だと語った。これこそ大事な点である。

これまで、韓国側は無論、私も含めた日本のメディアはみな、4人の原告
を「元徴用工」だとしてきた。日韓両政府もそのように呼んできた。司法
の場で徴用工と言われてきたことをそのまま信用してきたわけだ。

徴用とは「国家権力により国民を強制的に動員し、一定の業務に従事させ
ること」(広辞苑)だ。一旦発せられれば国民は拒否出来ない。

朝鮮半島での戦時労働動員には三つの形態があった。第一は1939〜41年に
企業の募集担当者が朝鮮に渡り実施した「募集」である。

第二が42年から44年9月までの期間、朝鮮総督府が各市・郡などに動員数
を割り当て、行政の責任で募集し民間企業に割り振った「官斡旋」であ
る。お役所が仲介した募集だが、職場や職種について納得いかなければ断
る自由があった。

第三が、44年9月から45年3月ごろまで発動した「徴用」である。

原告4人はいずれも募集に応じた労働者だった。4人の内の二人は43年9月
に平壌で日本製鉄(新日鉄住金の前身)の工員募集広告を見て応募し、面
接に合格して、募集担当者に引率されて渡日し、大阪製鉄所の訓練工と
なった。

もう一人は41年、大田(テジョン)市長の推薦で勤労奉仕の「報国隊」に入
り、日本製鉄の募集に応じ、担当者に引率されて渡日し、釜石製鉄所の工
員となった。

最後の一人は43年1月、群山府(現在の群山市)の指示で募集に応じ、日
本製鉄募集担当者の引率で渡日、八幡製鉄所工員となった。

つまり、4人とも徴用の始まる44年9月以前に、募集に応じて日本に働きに
来た労働者である。彼らは民間企業と契約を結んで渡日した。戦争が長引
くにつれて日本の男性の多くが徴兵され、国内産業を支える人手不足が顕
著になっていた状況の下、彼らに対する待遇は総じてよかった。

4人が徴用工ではなかったことをつきとめたのは、シンクタンク「国家基
本問題研究所」研究員で朝鮮問題の専門家、西岡力氏である。氏はこの事
実を韓国大法院の判決書で発見した。日本の常識で判断すれば、間違った
事実に基づく韓国大法院の判決は無効なはずだ。ただそう考えるのは日本
人だけで、韓国側は募集も官斡旋も全て強制的な徴用だと主張しているた
め、全く、話が通じない。

一切の妥協は不要

それでも、安倍首相が国会の場でこの事実を明らかにしたことは非常に重
要である。黒を白と言いくるめる韓国のやり方と、そのような手法を駆使
する文在寅政権のいかがわしさを、鋭く抉り出して見せたからだ。

文政権下の韓国で進行中の事態は教育、軍、司法、外交のいずれにおいて
も通常の法治国家では考えられない異常なものだ。一連の事柄は韓国がも
はや真っ当な民主主義の国などではなく、社会主義革命のまっ只中にある
と認識すれば納得がいく。

革命勢力は、秩序の全て、条約も契約も常識も紙クズのように破り捨て
る。現在、文政権が行っているのがまさしくそれだ。彼らは日本に不当な
判決をつきつけ巨額の資金をむしり取り、日本を貶めようとする。

洪氏は、革命政権の文氏が日本を不条理に責めたてるように、韓国の大半
の国民に対しても親北朝鮮社会主義革命を押しつけると指摘する。

このような文政権に対し、韓国内で反対の狼煙が上がり始めた。

「大将(ジェネラル)の会である星友会が、このままでは北朝鮮に韓国が席
巻されるとして、文政権の対北宥和策に警告を発しました。9月21日には
民間人3000人が文氏を与敵罪で告発しました。有罪になれば死刑しかない
重い告発です。

元大使の外交官らが文政権は韓国の安保体制を蹂躙しているとして『弾
劾』の声明文を発表しました。当初大使30人で始まった告発ですが、参加
希望の元大使らが次々に集まり、50人までふえました。いざとなると弱腰
の外交官でさえ、文政権に反対表明をするようになったのです。日本のメ
ディアはなぜこうした事を伝えないのでしょうか」

と洪氏は語る。

今回の「旧朝鮮半島出身労働者問題」は、このような全体像の中でとらえ
るべきで、革命志向の文政権に一切の妥協は不要なのだ。同時に日本は、
韓国が近未来には敵対する存在となることを肝に銘じ、憲法改正をはじ
め、日本の地力を強める施策を急ぐのがよい。

『週刊新潮』 2018年11月15日号 日本ルネッサンス 第827回

◆飲んだら乗るな 乗るなら飲むなは酒だけではない

〜睡眠薬でもないのに、眠くなったり、意識が薄れるくすり〜

大阪厚生年金病院薬剤部 

「酒は百薬の長」とか「酒をのめばみんな友達」とか言って飲む「お酒」は人生を楽しく豊かな気分にしてくれます。

しかしいざ今宵も、と酒を酌み交わそうとした時、「飲んだら乗るな」「乗るなら飲むな」と標語が頭の中を駆け巡ると、車に乗ってきたときは,
飲む訳にはいきませんね。最近では法律が変わって「酒酔い運転は運転者だけでなく同乗者も」みんな捕まってしまいます。罰金は高いそうです。

法律には書いてありませんが、実は薬にも「飲んだら乗るな」「乗るなら飲むな」というくすりがあるのです。睡眠薬はもちろんですが、ある抗生物質にはまれですが、「飲んだ後、突然意識が消失して車で事故った・・」と言う報告もあって、くすりの説明書には「意識消失・・があらわれることがあるので自動車の運転に従事させないこと・・・」などの記載がしてあります。

また、風邪薬やアレルギーを抑えるくすりは殆どが「飲んだら乗るな」「乗るなら飲むな」の類の薬で、注意が必要です。

薬局で貰うくすりには必ず「くすりの説明書」が付いてきますので、飲んでいる薬は「大丈夫かな?」と一度は確認してみましょう。

説明書の中身は注意事項が多いし、文字も小さくて読みにくいかもしれません。そんなときは『分かりにくいし、字も小さくて読めないぞ。』と、薬剤師に説明を求めてください。

真面目で四角い薬剤師ですが、きっと頼りになります。