2018年11月24日

◆中国の逃れられない弱み

櫻井よしこ


「米中対立、中国の逃れられない弱み」

11月9日にワシントンで米中外交・安全保障対話がもたれた。米国側から
ポンペオ国務長官、マティス国防長官、中国側から楊潔篪(ようけっち)共
産党政治局員、魏鳳和(ぎほうわ)国防相が参加した。

この閣僚会議は、昨年、習近平主席が米国を訪問した際に、トランプ大統
領と合意して設置したものだ。昨年6月に第1回目が開かれ、今回が2回目
となる。

ポンペオ氏が、「米国は中国との新冷戦を望んでいないし、封じこめるつ
もりもない」と発言し、楊氏が「中国は改革と平和発展の道にとどまり続
ける」と答えたこの対話は、互いに関係を損なわないよう、相手の意図を
探り合い、それなりに繕ったことを窺わせる。しかし、内容に踏み込んで
みれば、現在の米中関係の厳しさは明白だ。

明らかな対立点は、南シナ海、台湾、人権、北朝鮮の各問題である。南シ
ナ海問題では米国側は中国による島々の軍事拠点化に強い懸念を示した。
国務省はメディア向けの説明の中で、以下のように重要なことを明らかに
している。

「米国は、中国が南沙諸島の人工島に配備したミサイルシステムを取り除
くよう要求し、全ての国々は問題解決に強制や恫喝という手法をとっては
ならないことを確認した」

中国がフィリピンなどから奪った南沙諸島を埋め立てて軍事拠点を作って
以来、このようにミサイル装備を取り外せと具体的に要求したのは、恐ら
く初めてだ。トランプ政権が一歩踏み込んで要求したと見てよいだろう。

そのうえで、米国側は従来どおり、国際法に基づいて南シナ海の航行と飛
行を続けると明言している。

これに対して楊氏は、南シナ海に配備した施設の大部分は民間用だと、
白々しくも主張し、米国が「航行の自由」を掲げて軍艦を派遣するのはや
めるべきだと反論している。

異常に男児が多い

台湾問題について、中国が台湾と国交を結んでいる国々に働きかけ、次々
に断交させて台湾を孤立させている手法を、米国は批判した。すると、楊
氏は「台湾は中国の不可分の領土の一部だ」と主張し、魏氏も「中国は如
何なる犠牲を払っても祖国統一を維持する。米国が南北戦争で払ったよう
な犠牲を払ってでもだ」と強い口調で語っている。

南北戦争は、1861年から4年間も続いた激しい内戦だった。犠牲者は60万
人以上とされる。それ程の犠牲を払っても、中国は台湾の独立を許さない
と力んだのだ。

イスラム教徒であるウイグル人に対する弾圧、虐殺についても米中両国の
溝は全く埋まっていない。北朝鮮の核に関しても、明確な核の放棄までは
北朝鮮に見返りを与えないとする米国と、核廃棄と援助を同時進行で行い
条件を緩和することもあり得るとする中国側の立場は、完全に合致するこ
とはない。

11月末に予定される米中首脳会談への瀬踏みの米中閣僚会議だったが、両
国の基本的対立が解決に向かうとは思えない。

習主席は、自身にその力さえあれば、終身、中国の国家主席の地位にとど
まることができる道を開いた。選挙によって指導者が入れ替わる民主主義
国と較べて、優位に立っていると、習氏は思っているであろう。だが、11
月の中間選挙でトランプ氏の共和党が下院で民主党に過半数を奪われ相対
的に力を弱めたとはいえ、民主党は共和党よりはるかに保護主義的で人権
問題にも厳しい。トランプ政権以降に希望をつなぐのは早計というもので
あろう。

10月4日にペンス副大統領が行った演説の対中批判の厳しさについては、
10月18日号の本誌当欄でもお伝えしたが、米国で超党派勢力が結束して中
国に本気で怒っている理由は、習氏が高らかに謳い上げた「中国製造
2025」という大目標にある。

中国は経済的にも軍事的にも世界最強の国となり、科学、技術の全分野に
おいて世界最先端の地位を確立すると誓った。だがそのための手段は知的
財産の窃盗であり、騙しであり、恫喝に他ならない。こんな不公正な中国
に、世界最強国の地位を明け渡してはならない、という米国の闘争心が掻
き立てられたのだ。

中国が米国に取って代り、中国風の支配構造の中に組み込まれることな
ど、我々日本にとっても願い下げだ。だが、そんな時代は恐らくやってく
るまい。

フランスの歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏は今年5月、シンクタ
ンク「国家基本問題研究所」創立10周年の記念シンポジウムで、全世界の
人口学者の一致した見方だとして、中国は基本的に異常事態の中に在る
と、以下のように語った。

長年の一人っ子政策と女児よりも男児優先の価値観により、中国では女児
100人に対して男児118人が生まれている。通常の100対105乃至106に較べ
て異常に男児が多い。結果、人口学的な不均衡が生じ、現時点でも3000万
人の男性が結婚相手を見つけることができないでいる。

「非常に脆い国」

他方中国の教育水準は全体的に見れば低く、若い世代の高等教育進学率は
6%だ。日本や欧米先進国のそれに較べれば非常に低い。

人口の出入りで見ると、すべての欧州諸国、加えて日本も、流入人口が流
出人口を上回っている。だが中国は違う。中国の統計は信頼できない面も
あるが、通常使われる数字によると、毎年150万人が中国から外国に流出
している。彼らの多くが中国には戻らない。だが流出する彼らこそ、中国
人の中で最も活力があり、開明的な人々である。

トッド氏が結論づけた。

「こうして考えると、中国は大国ですが、非常に脆い国なのです。将来的
に危機を回避できない国であると、考えています」

北京発、原田逸策記者の非常に興味深い記事が11月10日の「日経新聞」に
掲載されていた。中国が産児制限の撤廃を検討中という記事だ。中国の現
在の出生率1.3が続くと、今世紀末までに中国の総人口は現在の13億人強
から約6億人に半減する。他方、現在3億2000万人の米国の総人口は4億
5000万人に増えるというのだ。

となると、習氏が高らかに謳い上げたように、2030年前後までには経済
(GDP)で米国を追い抜くことができるとしても、今世紀後半には再び
逆転される可能性があるという。

日本は米中の戦いに、そこまで考えて対処しなければならない。日本の選
択は短期的に見て米国との協調、同盟路線を続ける以外にないのだが、
中・長期的展望を考えてみても、やはり答えは同じになる。

隣国中国とのつき合い方は、中国が共産党一党支配をやめない限り、最大
限の警戒心を持って対処するということに尽きる。

『週刊新潮』 2018年11月22日号 日本ルネッサンス 第828回

◆健康百話・「肝臓をいたわっていますか?」

片山 和宏(医師)


肝臓は、右のわき腹からみぞおちのあたりにある、重さが約1kgちょっとの臓器です。

心臓のように「どきどき」したり、お腹が空いた時の胃や腸のように「グーグー」鳴ることもありませんが、ただひたすら黙って体の他の臓器に栄養を送ったり、いらなくなったごみを捨てたりしていますので、家族で言えばまさに最近の若いお母さん達にはとても少なくなった昔の良妻賢母型のお母さんの役割を果たしています。

だからといって、あまり無理ばかりをさせていると、ご主人を見捨てて家出してしまうかもしれません。ですから、ご主人であるあなたが普段からちゃんといたわってあげる必要があるわけです。
 
基本的に肝臓は、少しくらい弱っていても自覚症状が出にくい臓器です。しかし、血液検査をすると、実はとても早くから「SOS」のサインを出していることが多いのが特徴です。

 「沈黙の臓器」として有名な、自覚症状の出にくい肝臓も、血液にはちゃんと気持ちを伝えているわけで、血液検査は肝臓の気持ちを察して上げられる重要な検査です。

 これから、どのようにいたわってあげればいいかとか、文句を言いたそうだけど、どのようにすれば早めに察してあげられるかなどについて、シリーズでご紹介していきたいと思います。

            大阪厚生年金病院 

2018年11月23日

◆中国の逃れられない弱み

櫻井よしこ


「米中対立、中国の逃れられない弱み」

11月9日にワシントンで米中外交・安全保障対話がもたれた。米国側から
ポンペオ国務長官、マティス国防長官、中国側から楊潔篪(ようけっち)共
産党政治局員、魏鳳和(ぎほうわ)国防相が参加した。

この閣僚会議は、昨年、習近平主席が米国を訪問した際に、トランプ大統
領と合意して設置したものだ。昨年6月に第1回目が開かれ、今回が2回目
となる。

ポンペオ氏が、「米国は中国との新冷戦を望んでいないし、封じこめるつ
もりもない」と発言し、楊氏が「中国は改革と平和発展の道にとどまり続
ける」と答えたこの対話は、互いに関係を損なわないよう、相手の意図を
探り合い、それなりに繕ったことを窺わせる。しかし、内容に踏み込んで
みれば、現在の米中関係の厳しさは明白だ。

明らかな対立点は、南シナ海、台湾、人権、北朝鮮の各問題である。南シ
ナ海問題では米国側は中国による島々の軍事拠点化に強い懸念を示した。
国務省はメディア向けの説明の中で、以下のように重要なことを明らかに
している。

「米国は、中国が南沙諸島の人工島に配備したミサイルシステムを取り除
くよう要求し、全ての国々は問題解決に強制や恫喝という手法をとっては
ならないことを確認した」

中国がフィリピンなどから奪った南沙諸島を埋め立てて軍事拠点を作って
以来、このようにミサイル装備を取り外せと具体的に要求したのは、恐ら
く初めてだ。トランプ政権が一歩踏み込んで要求したと見てよいだろう。

そのうえで、米国側は従来どおり、国際法に基づいて南シナ海の航行と飛
行を続けると明言している。

これに対して楊氏は、南シナ海に配備した施設の大部分は民間用だと、
白々しくも主張し、米国が「航行の自由」を掲げて軍艦を派遣するのはや
めるべきだと反論している。

異常に男児が多い

台湾問題について、中国が台湾と国交を結んでいる国々に働きかけ、次々
に断交させて台湾を孤立させている手法を、米国は批判した。すると、楊
氏は「台湾は中国の不可分の領土の一部だ」と主張し、魏氏も「中国は如
何なる犠牲を払っても祖国統一を維持する。米国が南北戦争で払ったよう
な犠牲を払ってでもだ」と強い口調で語っている。

南北戦争は、1861年から4年間も続いた激しい内戦だった。犠牲者は60万
人以上とされる。それ程の犠牲を払っても、中国は台湾の独立を許さない
と力んだのだ。

イスラム教徒であるウイグル人に対する弾圧、虐殺についても米中両国の
溝は全く埋まっていない。北朝鮮の核に関しても、明確な核の放棄までは
北朝鮮に見返りを与えないとする米国と、核廃棄と援助を同時進行で行い
条件を緩和することもあり得るとする中国側の立場は、完全に合致するこ
とはない。

11月末に予定される米中首脳会談への瀬踏みの米中閣僚会議だったが、両
国の基本的対立が解決に向かうとは思えない。

習主席は、自身にその力さえあれば、終身、中国の国家主席の地位にとど
まることができる道を開いた。選挙によって指導者が入れ替わる民主主義
国と較べて、優位に立っていると、習氏は思っているであろう。だが、11
月の中間選挙でトランプ氏の共和党が下院で民主党に過半数を奪われ相対
的に力を弱めたとはいえ、民主党は共和党よりはるかに保護主義的で人権
問題にも厳しい。トランプ政権以降に希望をつなぐのは早計というもので
あろう。

10月4日にペンス副大統領が行った演説の対中批判の厳しさについては、
10月18日号の本誌当欄でもお伝えしたが、米国で超党派勢力が結束して中
国に本気で怒っている理由は、習氏が高らかに謳い上げた「中国製造
2025」という大目標にある。

中国は経済的にも軍事的にも世界最強の国となり、科学、技術の全分野に
おいて世界最先端の地位を確立すると誓った。だがそのための手段は知的
財産の窃盗であり、騙しであり、恫喝に他ならない。こんな不公正な中国
に、世界最強国の地位を明け渡してはならない、という米国の闘争心が掻
き立てられたのだ。

中国が米国に取って代り、中国風の支配構造の中に組み込まれることな
ど、我々日本にとっても願い下げだ。だが、そんな時代は恐らくやってく
るまい。

フランスの歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏は今年5月、シンクタ
ンク「国家基本問題研究所」創立10周年の記念シンポジウムで、全世界の
人口学者の一致した見方だとして、中国は基本的に異常事態の中に在る
と、以下のように語った。

長年の一人っ子政策と女児よりも男児優先の価値観により、中国では女児
100人に対して男児118人が生まれている。通常の100対105乃至106に較べ
て異常に男児が多い。結果、人口学的な不均衡が生じ、現時点でも3000万
人の男性が結婚相手を見つけることができないでいる。

「非常に脆い国」

他方中国の教育水準は全体的に見れば低く、若い世代の高等教育進学率は
6%だ。日本や欧米先進国のそれに較べれば非常に低い。

人口の出入りで見ると、すべての欧州諸国、加えて日本も、流入人口が流
出人口を上回っている。だが中国は違う。中国の統計は信頼できない面も
あるが、通常使われる数字によると、毎年150万人が中国から外国に流出
している。彼らの多くが中国には戻らない。だが流出する彼らこそ、中国
人の中で最も活力があり、開明的な人々である。

トッド氏が結論づけた。

「こうして考えると、中国は大国ですが、非常に脆い国なのです。将来的
に危機を回避できない国であると、考えています」

北京発、原田逸策記者の非常に興味深い記事が11月10日の「日経新聞」に
掲載されていた。中国が産児制限の撤廃を検討中という記事だ。中国の現
在の出生率1.3が続くと、今世紀末までに中国の総人口は現在の13億人強
から約6億人に半減する。他方、現在3億2000万人の米国の総人口は4億
5000万人に増えるというのだ。

となると、習氏が高らかに謳い上げたように、2030年前後までには経済
(GDP)で米国を追い抜くことができるとしても、今世紀後半には再び
逆転される可能性があるという。

日本は米中の戦いに、そこまで考えて対処しなければならない。日本の選
択は短期的に見て米国との協調、同盟路線を続ける以外にないのだが、
中・長期的展望を考えてみても、やはり答えは同じになる。

隣国中国とのつき合い方は、中国が共産党一党支配をやめない限り、最大
限の警戒心を持って対処するということに尽きる。

『週刊新潮』 2018年11月22日号 日本ルネッサンス 第828回

◆中国の「借金の罠」が目の前

宮崎 正弘


平成30年(2018年)11月22日(木曜日)通巻第5898号  

 嗚呼、ブルネイよ。お前もか
  中国の「借金の罠」が目の前、習近平がブルネイを公式訪問

フィリピンは中国との取引に応じた。目先のカネのためには領海のことは
棚に上げた。習近平は得意満面でマニラを訪問し、巨額投資を打ち上げ
た。スカボロー岩礁については触れなかった。引き続き習近平は、オイ
ル・リッチの王国、ブルネイ訪問に旅立った。

ブルネイはASEANのなかでも際立って豊かな国である。人口僅か43万、
敬虔なイスラム教徒のくにゆえ、酒もタバコも御法度。信号がなくても、
歩行者がいれば、車は待機するほど暮らし向きが悠然としており、水上生
活者のバラックも電気水道、ガスが配給され、水洗便所である。

あらゆる国際会議にブルギバ国王は自家用機で駆けつけられ、地道に振る
舞うのでメディアが大きく扱うことは少ない。筆者も3年前にブルネイに
行ったことがあるが、巨大なモスクと動物園のような島いがい、なにも見
るところがない。歴史博物館も展示物が貧弱、通貨はシンガポールドルに
連動するが、ブルネイ以外では使えないという不思議な通貨だった。

射幸心とは際限の無いところがある。

自然保護でも有名だったブルネイに意図的に観光ツアーを運び出した中国
は、ダントツの一位。日本人客などまったく目立たなくなった。この沖合
のエコ島までの13キロの海上に中国企業が橋を架けている。総工費は16億
ドルに登ると予想されている。

原油精製工場ではガソリンとディーゼルに仕分けされ、総合的な化学ブラ
ンとの複合設備を建設しているのも中国だ。この複合施設には34億ドル
と、ブルネイ史初の巨額が湯治されている。

現地の報道によれば、半年工期が遅れているが、建設も投資も中国の企業
で、第2期工事へ踏み出すと、別途120億ドルのプロジェクトとなる。ほ
かに山岳部では「ジュブリー水力ダム」の建設が進んでおり、8億5500万
ドルの工費だ。それもこれも中国の資金であり、まさにシルクロードの一
環である。

現時点で中国の対ブルネイ投資総額は41億ドルに達する。

原油とガスが担保されているが、もし資源価格が急落すれば、ブルネイと
て、第2のベネズエラ化しないのか。

◆山科だより・日本初の産業用水力発電所

渡邊好造


山科区にある京都市最大の施設は”琵琶湖疎水(山科疎水)”である。

明治維新後、首都が東京に移ったことで人口の3分の1が流出し、このままだと京都は沈没するのではないか、そんな危機感もあって産業振興の狙いから手がけられたのが琵琶湖の水をひく疎水建設で、京都のあせりが生み出した産物といえる。

疎水は滋賀県大津市の観音寺、三井寺辺りを基点にして山科区北部の山の斜面に沿って、左京区蹴上までの約11キロメートルにわたる水路である。

明治18年(1885年)に日本人技師のみで着工した最初の大工事で110年前の明治23年(1890年)に完成した。日本初の"産業用"水力発電所建設が最大目的で、これにより蹴上発電所が翌明治24年(1891年)に稼動(現在も無人で運転中)、明治28年(1895年)この電力により国内初の市電が京都市内で運行された。

なお、最初の水力発電所は明治21年(1888年)の仙台市三居沢(さんきょざわ)発電所で、国指定有形文化財として今も残されている。

疎水建設の当初予算は60万円だったのが、明治政府の意向もあって、最終的には125万円に倍化され、当時の京都府年間予算の2倍に相当した(資料・京都市上下水道局)。

使用したレンガは1370万個、地下鉄・御陵駅の近くにレンガ工場跡の記念碑がある。現在の水路は、何回もセメントを吹付けて改修されているので、表面にレンガはない。

疎水は、大津・京都間の船による輸送手段としても活用され、昭和23年(1948年)まで利用された。そうした船便の名残りが、”蹴上インクライン(台車を使って船を引張り上げる線路)”の遺跡である。疎水は山科日ノ岡までの傾斜は緩いが、ここから蹴上へは急な下り坂となるので、このインクラインが利用された。

また、疎水の水路北側に沿って、上水用として第2疎水建設工事が明治41年(1908年)に着工され、明治45年(1912年)に完成した。こちらは全て暗渠となっているため山科の住民でも知らない人が多い。

筆者宅から疎水までの距離は約100メートル。ちょうどそこには3つ目の疎水トンネル(トンネルは全部で4つ)の入口があり、明治時代の政治家・井上 馨の揮豪による偏額(門戸等に掲げる横に長い額)が、当時のまま埋めこんである。

偏額には『仁呂山悦智為水歓』(じんはやまをもってよろこび ちはみずのためによろこぶ = 仁者は動かない山によろこび 智者は流れゆく水によろこぶ)の8文字が彫られている。京都あげての力の入れようが、ここにも残る。
 
京都はお寺中心の古都の印象が強いが、明治維新後は産業面でなんとか振興をはかろうと、日本の最先端技術を駆使して走り始めていた。
 
疎水に関しては、平成元年(1989年)8月に完成した左京区「琵琶湖疎水記念館」(地下鉄東西線・蹴上駅下車)に詳しい。
 
ところで、京都市左京区の南禅寺境内には、ヨーロッパ遺跡に似た赤レンガ造りの「水路閣」(疎水の水をひく水道橋)が残されているが、建設当時は京都の景観を損ねるとして大反対運動が展開されたらしい。

そんな反対運動の心意気が在ったのなら、何故あの悪名高い「京都タワー」建設時(昭和39年=1964年)にどうして発揮されなかったのだろうか。当時の京都市の人口131万人にあわせて高さ131メートルの灯台を模したコンクリート・タワーが古都京都にふさわしいと考えた連中がいたとは、とても解せない。

京都市は新景観条例を制定し、建物の高さ(最高31メートル)や看板の色・デザインを規制強化し、将来は市電の復活、電線電柱の地下化を目指す、といった百年河清を待つような方針が今頃になって出始めている。

NHK京都放送局のTVニュース番組の放送終了時、京都市内の夜景の画面中央にライトアップされた不釣合いな京都タワーが突き出しているのをみるたびに腹立たしい思いにさせられる。(完)

渡邊好造 

2018年11月22日

◆予想より早く来たGAFAバブルの崩壊 

宮崎 正弘


平成30年(2018年)11月21日(水曜日)通巻第5897号  

 予想より早く来たGAFAバブルの崩壊
  10−20%の時価が下落し、市場は戦々恐々

ゴーンの失楽どころではない。ゴーン逮捕で、日産の株価は東京市場で、
5%強下がって、投資家は慌てたが、それどころではない。ニュースは
ゴーンが会社に支払わせたリオデジャネイロの豪邸などを映し出していた
が、事件の本質はそのことではなく、フランスの法解釈と、日本の捜査に
なぜ「地検」が登場したかとの差違に潜むのではないか。

トランプ相場と言われたのは「GAFA」である。

グーグル、アップル、フェイスブック、そしてアマゾンの四社は時価株式
バブルを演じてウォール街が沸いた。

しかも、これらGAFAが中国市場を狙っていて、トランプの対中政策と
真っ向から対立的だった。

アップルの時価総額が1兆ドルから8800億ドルに下落した。

アルファベットは持ち株会社、時価総額が10%下落した。フェイスブック
とアマゾンは、20 %の下落。つまりGAFAバブルが終わったことを意
味する。

これらは中国市場の動向と密接な関連があるが、パプア・ニューギニア
APECは、米中対立がますます先鋭化したため、首脳宣言が出されない
という異常な終幕となった。

ポートモレスビーで記者会見に臨んだペンス副大統領は「これから(加盟
国は)、アメリカか、中国か、の選択を迫られることになる」と述べた。
 
月末に予定されるアルゼンチンでのG20でも、米中の溝が埋まるというシ
ナリオは想定枠にない。
  

◆韓国の徴用工問題の背後に

櫻井よしこ


「韓国の徴用工問題の背後に広がる深い闇 ネット媒体も駆使して実態を
伝えたい」

ネット配信の「言論テレビ」を始めてよかったと思うことがふえている。
本が好きで、雑誌も新聞も紙で読むことが一番しっくりする私でさえも、
ネットの力、その可能性に驚かされる毎日である。

11月2日に配信した言論テレビの2時間の特別番組では韓国大法院(最高
裁)判決を論じ、多くの視聴者に届けた。元徴用工問題に関する韓国側の
判決は周知のとおり、日本企業(新日鐵住金)に戦時中、非人道的で不法
な労働を強要されたと訴え出ていた労働者4人に4億ウォン(約4000万円)
の支払いを命ずるものだった。

1965年の協定によって、請求権問題は「完全かつ最終的に解決された」の
であり、日本にとっては受け入れられない判決だ。

加えて、安倍晋三首相が国会で明言したように、原告4人は元徴用工では
ない。これは朝鮮問題専門家でシンクタンク「国家基本問題研究所」の研
究員である西岡力氏が、韓国大法院の資料を読み解く中で発見した。

朝鮮半島の人々を日本企業が募集し始めたのは1939年である。徴用は44年
9月に始まり、翌年3月頃まで約半年間続いた。注目すべきことは、この間
ずっと、募集枠を大きく超えて万単位の労働者が日本に働きに来ていたこ
とだ。統計を見ると、少なくとも1万6000人の労働者が不正渡航を理由に
朝鮮半島に送り返されている。それだけ日本における労働条件がよかった
ということであろう。

今回の裁判の原告四人も企業の募集広告を見たり、役場から勧められて応
募したりして、民間企業の賃金、待遇の諸条件に納得して働きに来た。彼
ら全員が徴用の始まる44年9月以前に渡日しており徴用とは無関係だ。

だが、韓国の司法は民間企業の募集で渡日した労働者も含めて全員を「徴
用」と見做す。その理論構成の少なからぬ部分を、日本の知識人が担って
きたと、西岡氏は語る。

「60年代に日本の朝鮮統治は犯罪だったという研究が始まっているので
す。その典型が『朝鮮人強制連行の記録』という朝鮮大学校の教員だった
朴慶植氏が書いた本です。彼の弟子だった人が、いま東京大学の先生に
なったりしています」

彼らは日本の朝鮮半島統治が如何に不法であり犯罪的であったかを研究
し、そうした主張に共鳴する弁護士や運動家が90年代に韓国に渡り、日本
を訴えるための原告を探した。この構図は慰安婦問題と酷似している。西
岡氏は語る。

「日本に来て、日本で裁判を起こす。費用は日本側が持ち、手続きも全て
日本側が行う。日本も旅行できるということで始まったのが戦後補償裁判
でした。しかし、日本では全て敗訴だった。この原告たちは言っていま
す。日本の運動家の皆さんが励ましてくれて、もう一回、韓国で裁判を起
こした、と」

日本は法治国家であり、条約も法律も厳格に守られるために、韓国の原告
が勝利する余地はなかったが、韓国での裁判となると、今回の事例に見ら
れるように状況は異なってくる。

関連して、菅直人氏が首相の時、怪し気な動きがあったと、西岡氏は言う。

「左派的な日韓知識人の連帯の中で、菅氏に談話を出させ、日朝併合条約
は無効、つまり日韓併合は非合法的だったと言わせようとしたのです。こ
れは実現しませんでしたが、併合条約が無効だとされれば、日韓関係の根
本は崩れます。それが彼らの狙いです」

韓国には常に、日本による併合は違法で無効だと決めつけようとする勢力
が存在する。しかし、反日政権だった盧武鉉氏でさえ日韓請求権協定の内
容は否定できなかった。それがいま最高裁で否定される次元にきてしまっ
た。この背後にある深い闇の実態を、紙媒体だけでなく大きな広がりを持
つネットを駆使して伝えていきたい。

『週刊ダイヤモンド』 2018年11月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1256

◆蕪村公園横の「毛馬の閘門」

石田 岳彦


阪急千里線の柴島駅(本筋から思い切り離れますが「柴島」を初見で「くにじま」と読める人がどれだけいるでしょうか。梅田から天神橋筋六丁目駅へ向かい、淀川にかかる鉄橋を渡る際、左側奥、淀川大堰の向こう側に大きな「水門」が見えますが、その水門には「毛馬こうもん」と白抜きで大きく書かれています。

「こうもん」を漢字で書くと「閘門」です(ちなみに「毛馬」は地名で「けま」と呼びます)。

最近は警察署にも建物の壁に「けいさつ」と平仮名で大きく書いているところがありますが、「閘門」と書いても読めない人が多いので、「こうもん」と平仮名で書いているのでしょうか。

もっとも、警察署と違い、読みだけ知ったところで何をやっている施設かは分からないと思いますが。

それはさておき、阪急千里線を通勤経路にしている私にとって、毛馬の閘門は見慣れた存在でしたが、近くにまで行く機会はありませんでした。

平成20年春、毛馬の閘門が国の重要文化財に指定されることになったというニュースを聞いた私は、これをよい機会と毛馬の閘門に行ってみました。我ながらミーハーです。

毛馬の閘門に行くには、天神橋筋六丁目駅(阪急千里線、地下鉄堺筋線・谷町線)から北上し、淀川にかかる長柄橋の南詰めから河川敷に出て、更に5分ほど東へ歩きます。

河川敷は公園になっていて、堤防上には歩道も整備されていて、歩いていて楽しい道ですが、天神橋筋六丁目駅からは20分以上の歩きになり、大阪市内ということを考えると交通の便の悪い場所といえるでしょう(私がなかなか行く気になれなかった理由もこれです。)。
 
現地に設けられていた説明板によると、閘門というのは、水位の異なる川、運河等の間で船を行き来させるため、両側に水門を設けた水路で、毛馬の閘門の場合、大川(低)と淀川(高)との間の高低差を調整して船を通すために建造されたものです。

淀川から大川に入る場合、まず、水路内の水位を淀川に合わせたうえ、淀川側の水門のみを開けて船を水路に入れたうえで閉じ、水路内の水を抜いて、水面の高さを大川と同水位に下げた後、大川側の水門を開けて船を通過させるという仕組みになっています。

逆に大川から淀川に行く場合には、大川側から水路に船を入れたうえ、水を補充して水路面を淀川と同水位にまで上げてから、淀川側の水門を開放することになります。

なお、そもそも隣り合っている2つの川の水面に何故、極端な高低差があるかといえば、本来の淀川の流れは大川の方で、現在の淀川のうち毛馬よりも河口側の部分(新淀川)は明治時代に治水上の必要で人工的に作られたためだそうです。

ちなみに現在の毛馬の閘門は3代目で、私が毎朝見かけている「毛馬こうもん」もこの3代目にあたります。今回、重要文化財に指定されたのは、初代と2代目(今は船溜になっているそうです)で、このうち初代の閘門は、3代目のすぐ近くに見学用として整備されていました。

初代閘門の水門は2つの扉が観音開きになる方式で(なお、現役の3代目の閘門は門扉が上下して開閉するシャッター方式だそうです。)、現在は半開きの状態で固定されています。最近になって塗りなおされているようで、水色の大きな扉が鮮やかです。

北側の淀川側の水門は、近くにある堤防から一段低いところにあり、階段で下まで降りることもできますが、降りたところに柵が設けられていて、その先の水門をくぐることはできません。

もっとも、南側にある大川側の水門(淀川側に比べてかなり小型です)は開放されていて、そちら側から(旧)水路(当然のことながら現在では水路に水は流されていません。)の中に入ることができ、更に進んで淀川側の水門をくぐることもできます。北側の柵はいったい何のためでしょうか。

水路の中央に見学用の通路が設けられていて、その両側は何故か芝生になっていました。先ほどの柵といい、「こうもん」のペイントといい、この芝生といい、大阪市はよく分からないことに、金と手間を使います。

水路といっても船が通り抜けることができるだけのスペースですから、幅もそれなりにあり、スペース自体はちょっとした広場並みです。両側の側壁はレンガ造りになっていて、ところどころに鎖が取り付けられています。係船環と呼ばれる船を繋ぐためのものだそうです。水路に水を注入または排出するときに船が動かないようにするためでしょうか。

近くには初代閘門の付属施設として建設された洗堰(水が堰の上を越えて流れるタイプの堰)も残っています。淀川(新淀川)から大川に流れ込む水の量を調節するためのものだそうです。なかなかシックなデザインですね。

大阪市やその近郊にお住まいの方であれば、天気のよい休日にでも、広々とした淀川の河川敷や与謝蕪村公園の横を歩きつつ、ちょっと「毛馬の閘門」に寄ってみられるのも悪くないでしょう。(終)



2018年11月21日

◆大坂なおみ選手と人種平等を実現 

加瀬 英明


大坂なおみ選手と人種平等を実現した日本

イギリス王室の結婚式典

私はテレビを観て泣いたことは、めったにない。

今年5月に、イギリスのヘンリー王子とアメリカ人女優のメーガン・マー
クルさんの結婚式典が、ウィンザー城教会において挙げられた。

イギリス王室はウィンザー家と呼ばれ、ウィンザー城は王家の居城である。

王子とメーガンさんが、荘重なイギリス国歌が吹奏されるなかを、お伽噺
のような馬車に乗って、輝く銀の胸冑をつけた龍騎兵の一隊によって守ら
れて、教会へ向かった。

この光景を見て深く感動した。不用意に、目頭が熱くなった。

華燭の式典では、アメリカ聖公会の黒人主教が、説教壇から黒人訛りの英
語で、愛について熱弁を振った。

私はアメリカ黒人女性の聖歌隊が、黒人霊歌(ゴスペル)の『イエスととも
に歩め(スタンド・バイ・ミー)』を合唱した時に、涙を拭った。

メーガン妃は、黒人の母と白人のあいだに生まれた。

いまでも、白人社会では、黒人の血が少しでも混じっていれば、「黒人
(ブラック)」と呼ばれる。オバマ大統領も母が白人であるのに、黒人の大
統領とされた。

ウィンザー城の教会で、エリザベス女王、フィリップ殿下、チャールズ皇
太子をはじめ、盛装した王族を前にして、アメリカから招かれた黒人の聖
歌隊が、黒人霊歌を合唱した。

黒人霊歌は、数百万人の黒人がアメリカに連れてこられて、鎖に繋がれた
奴隷として生きることを強いられた時に、救いを求めてうたった歌だ。

日本の戦いがもたらした人種平等の世界

イギリスの王子が黒人と結婚するのは、王室の長い歴史で、はじめてのこ
とだった。

3、40年前でも、まったく考えられなかったことだった。

これも、日本が先の大戦において国をあげて戦い、大きな犠牲を払って、
アジアを欧米の過酷な植民地支配から解放し、その高波がアフリカ大陸を
洗って、次々と独立していった結果、人種平等の世界が人類の長い歴史
で、はじめて招き寄せられたためだった。

きっと、アジア・太平洋の広大な戦場に散華された英霊が、天上からこの
光景を眺められて、嘉納されたにちがいないと思った。

来年2月は、第1次大戦のベルサイユ会議とも呼ばれるパリ講和会議で、
国連の前身である国際連盟を創設するのに当たって、日本全権団が連盟規
約に「人種平等条項」を入れることを提案して、11対5の票決によって可
決されようとした時に、議長だったウッドロー・ウィルソン・アメリカ大
統領が、「このような重要な事項は、全会一致によって決定しなければな
らない」といって葬った、100周年に当たる。

ヨーロッパの小国が賛成票を投じたものの、国内で黒人を差別していたア
メリカをはじめ、白人の植民地諸国が反対したのだった。

アメリカでは第2次大戦後も、国内で黒人に対するいわれない差別が続い
たが、アフリカの外交官が黒人が入れなかったホテルや、レストランなど
に自由に出入りするのを見て、黒人が立ち上って公民権運動が起った。

 1960年代に、マーチン・ルーサー・キング師が率いる公民権運動が
ついに実を結び、黒人に対する法的な差別が撤廃されて、今日に至っている。

 私は1959年にアメリカに留学したが、ゴルフコースに黒人といえ
ば、キャディしかいなかったし、テニスコートでも、清掃員か、球拾いし
か、見ることがなかった。野球のメジャーリーグで、黒人選手がプレイで
きるようになったのは、第2次大戦後のことだ。

 ゴルフ界でタイガー・ウッズや、テニス界でウィリアム姉妹が活躍して
いるが、公民権運動が実った以後のことだ。
大坂なおみ選手が健闘して、脚光を浴びている。

 なおみさん、英霊が応援していますよ!

◆米・豪、パプア・ニューギニアに

宮崎 正弘


平成30年(2018年)11月20日(火曜日)通巻第5896号  

 米・豪、パプア・ニューギニアに海軍基地を復活
  中国の海の脅威に共同で対応へ

ペンス米副大統領とモリソン豪首相は、APECが開催されたパプア・
ニューギニアの首都、ポートモレスビーで引き続き会談し、同国の北海域
にあるマヌア島のロンブルムを再開発し、海軍基地をするとした。

マヌア島は人口わずか6万、ほとんどの島民が漁業と果物栽培などに住持
しているが、パプア・ニューギニアのなかでも最貧地域とされる。

しかし米豪、インド、NZそして日本にとってはシーレーンを防衛する後
衛の重要なポイントなのである。

米国は既に一帯一路に対抗するためにOPIC予算を倍加、600億ドルと
して地域のインフラ建設、とくにエネルギーと発電のプロジェクトに協力
する。

ほかに米国は4億ドルを「透明化イニシャティヴ」として、地域の汚職追
放、プロジェクトの透明化、通信設備の充実などの方面に使う。

ペンスは「日本とも協力し、鉄道、道路、通信網、エネルギー基地と電力
の供給プロジェクトなどのために、別途100億ドルの予算を予定してい
る。いずれもインド太平洋戦略を重視するためだ」とした。

 
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  樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1822回】                 
――「支那の國ほど近付いてあらの見ゆる國は無し」――關(6)
關和知『西隣游記』(非売品 日清印刷 大正7年)

            ▽

満洲の炭鉱に関して驚異的な発展を認めているが、経営という視点から考
えるなら「滿鐵の支配下に在るは實際大なる不便あり」。それというのも
「滿鐵の經濟は直接大藏省に關係を有するが故に、炭礦の施設計畫往々に
拘束せらるゝを免れず」。だから炭鉱独自の「擴張發展を爲さんには」、
やはり満鉄、ということは大蔵省から切り離して、「炭礦を以て獨立の經
營に委」なるしかない。

「滿鐵王國の經營に就いてはその專制的、獨占的、集注的傾向を或程度に
制限調節する」必要がある。すでに創業の時を遥かに過ぎたのだから「一
切の事業を滿鐵の手に占斷する」のではなく、「寧ろ之を分離、獨營せし
むるを適當なりとせずや」。やはり満州を満鉄の天下にしてしまうことは
問題なのだ。

だが一たび満鉄の利権を手中にした大蔵省の立場に立てば、満鉄は断固と
して一括して傘下に置かなければならない。なによりも省益のためだ。

かくして満洲経営という国益よりは、満鉄経営という省益が優先されてし
まう。なんのことはない、平成という時代が幕を閉じようとしている現在
とさほど違いのない構図ということになる。

これをいいかえるなら満鉄経営は国家のためであったはずが、省益のた
め。ということは、どうやら満鉄経営の実態は単なる「お役所仕事」だっ
たと見做されても致し方ない状況だったわけだ。

情けないとしかいいようのないほどに情けない話ではある。

「建築、道路、風俗、生活、言語悉く日、露、支3國の特色を代表」する
「北滿の咽喉」である長春は、また「歐亞幹線の聯絡點であ」り、「左に
蒙古を控へ、右に吉利を擁す、敬称の利、既に未來の大都たるべき使命を
有す」。周辺鉄道を建設・整備すれば、「日本と東歐との交通の便は、直
に日本海の連絡によりて、大に其の距離を短縮すべし」。

「滿、蒙、若くは東歐に對する交通上、長春は實は唯一絶好の地」なので
ある。

シベリアのチタを起点に満州里から北満を貫き、ハルピンを経てウラジオ
ストックまでを結ぶ中東鉄道に対抗し、日本独自の形で日本海から欧州を
結ぼうというのだから、気宇壮大。

今風に表現すると『一帯一路』の日本版ということになるだろうか。やが
て満洲を舞台に、日露支の3国に加え、米英などが加わって鉄道を巡る
虚々実々の駆け引きが始まるのだが、その問題はいずれ詳細に論ずるしか
なさそうだ。

奉天に向かうために長春駅へ。ここで「コスモポリタニツク」な風景に出
くわす。

「停車場の雜沓甚しく3等客車、滿載の状あり、然して其多數は悉く農民
にして、折柄収穫を終りて故郷山東に歸還するものなり、元來此方面の土
地は殆ど山東省若くは遼東の農民によりて開墾せられたるものに屬し、春
季雪の解くるに及び山東より移り來りて耕作に從ひ、冬季に及びては其穀
を賣り金を携へて再び故郷に還る」。

つまり彼らは「妻子弟兄家を擧げて」満洲にやってきて働き、収穫が終
わって金を手にしたら故郷に戻る。故郷を遥かに離れた満洲という土地で
あれ、働く場所があるなら出掛ける。まさに「千里北隣の如き彼等の生活
其の由來も亦眞にコスモポリタニツクなりと謂うふ可し」である。

そういえばパール・バックの『大地』に、こんな場面があったことを思
い出した。

飢饉で生きるすべを失った村人に村の長老が声を掛ける。「『この村を
出よう』彼は大きな声で言った。『南へ行くだ!この広い国だで、どこも
飢饉だというわけはねえだ。どんなに天が意地悪でも、まさか漢民族をみ
な殺しにすることもあるめえて』」(大久保康雄訳『大地』河出書房 昭
和35年)

關の説く山東や遼東の農民も「どんなに天が意地悪でも、まさか漢民族を
みな殺しにすることもあるめえて」との思いを持ち、「コスモポリタニツ
ク」に生きていたはずだ。