2019年01月20日

◆碑にきく 除痘館発祥の地

読売オンライン  

 薬の町・大阪市中央区道修町。その一角にある真新しい石碑「除痘館(じょとうかん)発祥の地」には、蘭(らん)学者で医師の緒方洪庵(1810〜63)が江戸末期の1849年、天然痘予防の種痘活動を始めた地と記されている。
 〈洪庵はこの種痘所を除痘館と称して同志と共にここを中心に全国的に種痘事業を展開した〉

 紀元前から世界中で何度も流行した天然痘は致死率20〜40%とされ、助かっても体中に膿疱(のうほう)の痕が残り、人々を苦しめた。洪庵も8歳で感染している。

 当時、国内での予防法は実際に感染させて免疫をつける天然痘接種法しかなく、失敗すれば死に至った。洪庵は江戸や長崎で蘭学を修め、大阪で医師になった後、この方法で知人の幼い子どもを亡くした。英国では牛の天然痘から作ったワクチンによる牛痘種痘法が発明されており、長崎で成功したと聞くと、すぐにワクチンを入手。仲間と除痘館を開いた。
 蘭学の私塾・適塾を大阪に開設してからすでに、11年が過ぎていた。洪庵の業績を伝える洪庵記念会事務長の川上潤さん(55)は、「新しい予防法で失敗すればそれまでの信頼を失いかねない。天然痘から多くの人を救いたいという強い信念があったのでしょう」と、洪庵の心中を推測する。
 普及の道のりは険しかった。除痘館が種痘を終えた人に証明書「疱瘡(ほうそう)済証」を渡す際に、「万一接種後に天然痘を発症することがあれば、我々医者の首を差し出す」と約束した、との記録も残る。
 洪庵らは貧しい子どもに金を払い、ワクチンを接種して実績を積み重ねた。手法を教えた医師にワクチンを分け、組織的に拡大。洪庵の著書には活動当初から、地元商人らしい「大和屋喜兵衛」の名が見える。「町衆を仲間としたことで資金を確保し、活動を展開できた」と川上さん。
 除痘館は1858年幕府の官許を得て、西日本の活動拠点となった。手狭になり、2年後、北東約400メートルにあった適塾の南側に移転。現在は、除痘館記念資料室が入る緒方ビル(中央区今橋)が立ち、適塾は国史跡に指定されている。
 道修町で薬の神をまつる「少彦名(すくなひこな)神社」の別所俊顕宮司(70)は「活動を公に認められるようになった後だけではなく、発祥の地も残さなければ、洪庵の苦難や、その苦難を支えた町衆たちの思いが忘れられてしまうと心配だった」。こうした声を受け、2006年6月、大阪大学適塾記念会と、洪庵の親族による緒方家洪庵会が石碑を建立した。
 製薬会社の社員らが行き交う道修町で、人の力よりはるかに強大だった病と対峙(たいじ)した医師や町衆らの信念を、碑(いしぶみ)が伝えていく。(東礼奈)

 ◆恐ろしさ知るからこそ 大阪大名誉教授加藤四郎さん
 日本のウイルス学研究の第一人者。適塾を源流とする大阪大医学部を卒業し、いったんは内科医になったが、治療しようのないウイルス疾患やがんに向き合い、予防医学の道へ進んだ。
 世界保健機関(WHO)が天然痘世界根絶計画を進めていた1968年、研究のため、インドの病院に天然痘患者を訪ねた。「顔中に膿疱がひしめき、感染力が強い。慄然とした」
 洪庵の時代、国内の3分の1以上が天然痘に感染したという記録がある。「洪庵自身も感染しており、すさまじい流行だった。恐ろしさを経験していたからこそ、強引に説得してでも新しい予防ワクチンを打ち続けた。そのことが、いかに世のため人のためになったか」と、功績に敬意を表す。
 国内では天然痘の定期種痘制度は1976年に終わり、世界でも80年に根絶宣言が出された。人類は天然痘を克服したとされるが、「天然痘ウイルスは生物兵器になりうる。接種されていない人はもちろん、接種された人も30年以上たてば、感染防護力はほぼゼロ」と警鐘を鳴らす。「治療は発病した患者1人を治すが、1人が予防すれば、その人から感染する恐れのある何万人をも守れる。予防は治療に優(まさ)る」
 かとう・しろう 1925年中国・大連生まれ。吹田市在住。大阪大微生物病研究所長などを歴任。2003年に瑞宝中綬章を受章。

 ◆交通手段 大阪市営地下鉄御堂筋線淀屋橋駅13番出口から御堂筋を南に約100メートル進み、道修町3の交差点手前を右折、西に約100メートル。美々卯道修町店前にある。
( 読売新聞)



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2019年01月19日

◆中国ファーウェイの寄付金を「保留」

宮崎 正弘


平成31年(2019年)1月18日(金曜日)通巻第5957号  

 オックスフォード大学、中国ファーウェイの寄付金を「保留」
   ケンブリッジ、UCBAなども同様の措置か

5G開発をめぐって世界の先端的な大学研究所、ラボでは優秀な学生を集
め、日夜、開発・研究に鎬を削っている。

トランプ大統領の決定により、米国はファーウェイ製品の排除を決めた
が、「ファイブ・アイズ」の国々のなかでも英国、豪、NZは排斥の列に
加わったが、カナダがいま一歩態度不明である。日本は政府系からファー
ウェイ使用自粛を決めている。トランプはドイツに対しても、この路線へ
の同調を迫っている。

さて英国オックスフォード大学はファーウェイから750万ドルの寄付を、
大学理事会はいったん受け入れたが、「保留」したとして、当該の研究生
にメールで通知した。コンピュータ開発とは関係のない学部の学生、研究
生にはメールは届いていない。
 
M16の幹部が「日々の捜査でファーウェイの不正な技術盗取の実態が明ら
かとなっており、明らかな証拠もある。ファーウェイ創業者の任正非が記
者会見でしらを切るのは当然であり、当該研究者、関係者は『厳重な警戒
が必要』だ」と通告していた。

ファーウェイの寄付はオックスフォード大学のほか、スレイ大学、ケンブ
リッジ大学にもそれぞれ百万ドルの寄付を行っており、米国でもコン
ピュータ技術でトップを走るUCBA(カリフォルニア大学サンタバーバ
ラ校)に同額の寄付を為している。
 
標的がすべて次世代通信技術の5G開発で世界の先端をいくラボに集中し
ているのも、いかにも中国らしい遣り方だ。 
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  樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1845回】                   
――「支那はそれ自身芝居國である」――河東(3)
河東碧梧桐『支那に遊びて』(大阪屋號書店 大正8年)

               ▽

河東が「人心の腐亂した此地」と形容する広州に築いた政府(大総統府)
に拠って北京の中央政府と対峙する孫文を、「彼はたゞ其の懷抱するデモ
クラシーを実現して」、「民衆を覺醒する使命を果たそうとしたのだ」と
する。

だが「彼の眞意は徹底しなかつた。彼の建設は破壞と認められた。彼のデ
モクラシーはソシアリズムの色彩を以つて塗られてしまつた。彼の説は一
片の書生論を以て迎へられ、彼の主張は常に机上説を以て律しられてゐ
る」。それというのも「無智な利欲一圖な、言はゞ獸的なソシアルデモク
ラシーが人心を支配してしまつ」ているからである。

広州は明るく喧騒に満ちている。だが「其の明るさは亡國の明るさであ
り、其の騒ぎは亡國の騒ぎ」でしかない。とどのつまり「人心の腐亂した
此地」は「獸的なソシアルデモクラシー」に覆われ「亡國の徑路を示しつ
つある」。

そんな街で「大總統などといふ空名を擁してをる」孫文は「矢張人間的な
弱點」を持つ。だから、「この大局に對して餘りに無智であることを悲し
まずにはをれなかつた」。広州を拠点に全土の混乱を正し統一政府を打ち
立て「其の懷抱するデモクラシーを実現」しようとする孫文の振る舞い
は、「愚擧であるというよりも、寧ろ悲慘な滑稽なのだ」と手厳しい。

当時の日本には孫文を称え支援を惜しまなかった人々もいれば、北一輝の
ように批判した者もいた。その凡てに目を通したわけではないが、河東の
孫文評を超えるものはないのではないか。「詩人の直感」を遥かに超え、
孫文の弱点・限界を見事に抉っているようだ。

広州の次に訪れたのは「舶來の外國趣味と、土着の支那趣味との交互錯綜
する最も濃い混合色を帶びてゐる唯一の土地だといふ」上海だった。

「上海に於ける工業的先占權が、歐州戰爭の爲めに續々邦人の手に移り
つゝある」。「戰爭前と戰爭後とでは、邦人の數は約四倍殖ゑてゐる、そ
れは植民地に於ける常態の無頼の遊民ではなくて、職業の要求する自然の
増加である」。

こうみると上海では確かに日本人が欧州人を圧倒している。だが「植民政
策の要訣は、結局金か人かのいづれかを惜しまないのに歸着する」。第一
次大戦までイギリス、アメリカ、ドイツが上海で成功したのは「唯金主義
であり、又た其の主義を徹底せしめたからだ」。ところが「貧乏で人の餘
る日本は、それと對抗し得ないで、今日まで已むなく雌伏の状態にあつ
た」。「其の有り餘る人を以て」対抗するしかなかった。

戦後の混乱期を過ぎれば、欧米諸国は必ずや「唯金主義」を掲げて上海に
復帰してくる。これに対するに「金を投ずるかはりに人を投ぜよ、は依然
として我が植民地政策の第一義であらねばならない」。

たしかに上海では日本人が大きな影響力を発揮している。だが「それは要
するに鬼の留守間の洗濯に過ぎないのだ」。欧州での大戦という「偶然の
ことが我を洗濯婆さんにした」。だから現に上海で日本人が享受している
権益を維持するためにも、やがて必ず戻ってくる欧米勢力と「武者振り勇
ましく戰はねばならない覺悟を誰が持つてゐるか」と疑問を呈す。

「鬼の留守間の洗濯は言はば氣樂な消極的な戰ひであつた」。だが、
「(第一次大戦の)講和後の戰ひは、總てが積極的に惡戰苦鬪しなければ
ならなくなる」。であればこそ、「鬼の留守間」に手に入れた「今日の我
が先占權を以て難攻不落の要塞的とする成算を講じて置きたいのだ」。

上海における日本の権益を守る方策について至極まっとうな議論を展開し
た河東であったが、やはり詩人に戻りもする。上海の「總てが大ビラで、
何の取締りも制限もない」姿を「暗?面」としては捉えずに、敢えて「光
明面」として迎えようとするのであった。
      

◆見えないトランプ大統領

櫻井よしこ


「「同盟重視論」が見えないトランプ大統領 米国の攻勢に中国・習政権
は後退の一年か」

2018年は最後まで気の抜けない1年だった。19年の今年はその延長線上
で、より大きな変化と試練が生じるだろう。そうしたことを念頭に置いて
決断を下せば、逆に日本にとっては好機の年になる。世界情勢に油断なく
気を配り、気概を持ち続けることが必須だ。

昨年12月、ジェームズ・マティス米国防長官はドナルド・トランプ米大統
領に辞任の意向を伝えた。トランプ氏のシリアからの米軍撤退に同意でき
ず、2月末に政府を去るとしたマティス氏をトランプ氏は、今年1月1日を
もって辞任させた。

日本が注目しておくべきことは、マティス氏が「米国は自由世界に不可欠
の国だが、強い同盟関係を維持し同盟国に敬意を示さなければ国益を守る
ことはできない」として、同盟関係の重要性を説いたのに対し、トランプ
氏にその気がないことだ。

昨年10月にマイク・ペンス副大統領が行った激烈な中国批判の演説を、日
本は歓迎した。確かに日本にとって基本的に歓迎すべき内容だった。しか
しここでも注目したいのは、ペンス氏の演説には、トランプ氏同様、「同
盟重視論」がないことだ。

シリアで米軍と共に戦ったクルド人勢力を見捨てる決定をしたトランプ氏
の立場で見れば、米国大統領として自分はかねてシリアからの撤退を明言
していた。それは自分の公約だという思いがあるのだろう。

トランプ氏の特徴は、ひとつひとつの公約をその善し悪しは別として、実
行することだ。氏の価値観はあくまでも「米国第一」で、同盟国は大事だ
が、米国の国益を揺るがせにすることはない。日米同盟に大きな比重を置
く日本にとって、自力を強めることなしに米国に依存し続けることの危険
は承知しておいた方がよいだろう。

中国の現状をよく伝えていたのが習近平中国国家主席のブレーンの一人、
ヤン・スウエトン氏が「フォーリン・アフェアーズ」の2019年1〜2月号に
書いた論文だ。題名は「容易ならざる平和の時代 分断世界における中国
の力」である。明らかに中国政府の意向を反映していると思われる論文で
目を引くのは「中国はジュニア・スーパーパワーの役割を果たす」という
表現だ。

この件りは、中国のあらゆる側面を厳しく批判し敵対視した10月のペンス
演説を「誤解を招く」としながらも、「一面の真実がある」と評価した中
で出てきたものだ。そこにはこう書いている。

「ポスト冷戦期の米国一強時代は終わり、二極時代が戻ってきた。中国が
ジュニア・スーパーパワーの役割を果たす時代だ」

確かに米国一強時代は終わった。その点では米国が抱く脅威には理由があ
る。しかし、中国は米国を排除するのでなく、米国をいわば兄貴分と見做
す。中国は弟分でよいと、言っているのである。中国はかつてのように米
国に対して弱者としての立場を強調する外交に転じようとしていると読み
とれる。

12月21日に「ニューヨーク・タイムズ」紙に、コーネル大学のエスワー・
プラサド教授が「中国は米国と妥協したがっている」と書いていた。

中国での広範な意見交換の結果、指導者の多くが中国経済の先行きに非常
に深刻な懸念を抱いており、改革志向の人々はトランプ氏の強圧を、中国
の改革を進める上での追い風として評価さえしているとの内容だ。

習氏は本来なら昨年中に開催していなければならない中国共産党中央総会
を遂に開催できずに年を越した。その年毎の基本政策を決める中央総会が
開かれなかったのは毛沢東時代以来約60年振りの異常事態だ。米国の攻勢
の前に習政権がじりじりと後退する1年になるのか。日本にとっても難し
い外交が待っている。だから覚悟が必要だ。

『週刊ダイヤモンド』 2019年1月12日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1262 

◆歳は足に来る (続)

石岡 荘十


数十メートル歩くと左足がだるくなって歩行困難になる。で、数分立ち止まって休むとまた歩けるようにはなるが、またすぐだるくなる。


このような症状を専門的には「間欠性跛行」という。「跛行」はビッコを引くという意味だ。こうなった経緯については前回述べた。今回はその続編である。


先般、閉塞した足の大動脈にステントを入れる治療を受け、ビッコは解消し、元通り颯爽と歩けるようになった。


はじめ、「これはてっきり腰をやられた」思い込んで、近所の接骨院に駆け込んだら、「典型的な脊柱管狭窄症の症状だ」と断言する。つまり神経の管が腰のところで狭まっている疑いがあるとのことで、電気治療、針を数回やってもらったが、はかばかしくない。


血流が詰まる動脈硬化は典型的な加齢疾病だ。脳の血管が詰まれば脳梗塞になるし、心臓の血管(冠動脈)が狭くなると狭心症、詰まると心筋梗塞になる。私の場合は足にきたというわけである。

造影剤を使ったCTで診ると、左足付け根から動脈を15センチほど遡ったところで90パーセント狭窄していることが確認できた。左足へは最大、通常の7割ほどしか血が流れていない。これではビッコになるわけだ。

治療法は、脳梗塞や心臓梗塞と同じだ。血管の狭くなったところにカテーテルを挿し込んでフーセンで拡げるとか、バイパスを作るとか、etc。

8/23、心臓カテーテル室でカテーテル台に横になると、若くて美形の看護婦さんが何の躊躇もなくパラリとT字帯をはずし、左足の付け根周辺の陰毛を電気かみそりで刈る(剃毛という)。慣れたものだ。

局所麻酔の後、この治療では実績も多い腕利きの医師が、モニター画面を見ながらカテーテルを挿入。先端には、中心部に細くすぼめたバルーンを仕込んだステントがある。ステントはステンレスで出来た金網のチューブである。

これを狭窄部分まで持っていってバルーンを膨らますと、すぼめてあったステントの内径も同時に拡がって、狭窄した血管を見事に押し広げた。

ステントは内径8ミリ、長さ40ミリ。心筋梗塞の治療に使うステントは内径2ミリほどだから、それに較べると大型だ。治療時間は1時間ほど、治療費86万円、自己負担9万円ほどだった。

心筋梗塞でステントを使う治療法はよく知られているが、足の大動脈狭窄にステントを使うケースはまだそれほど多くない。

治療を受けた東京女子医大では、ステントを使った心筋梗塞治療が今年すでに数百件に上るのに対して、足に使った症例は筆者でまだ56件目だという。

下肢(足)へ行く動脈が詰まると、下肢が腐ってしまい、痛いだけでなく、命にかかわるケースもある。そうなると「命には代えられない」とやむを得ず下肢を切断しなければならなくなる。日本では毎年1万人以上が足を切断されているという報告もある。高齢化で症例は増えている。

足にもステントを入れるという治療法は、循環器内科ならどこでもやっているわけではない。リスクもある。医師の選択には慎重でありたい。

元京都大学心臓血管外科部長・米田正始(こめだまさし)医師を中心とする研究グループは新しい血管を作って下肢切断を救う「血管再生法」という試みを行なっていて、再生医学のひとつとして注目されている。が、成功症例はまだそれほど多くない。

「なんとなく足の先が冷たい」

これが、アラームだ。接骨院では治らない。歳は足にくる。専門の医師を選んで、治療を受ける必要がある。

2019年01月18日

◆波乱含みの今年の極東情勢

                         杉浦 正章


2回目の米朝会談が焦点

今年の極東情勢を太筆書きで展望すれば、まさに波瀾万丈とも言える要素
に満ちている。米国と中国の覇権争いは貿易摩擦からハイテク分野にまで
拡大、冷戦に近い様相を示そうとしている。日本は好むと好まざるとにか
かわらず米中双方をにらみながら立ち位置の決定を迫られる。逆に日本の
立ち位置が、米中対立を激化させるか緩和させるかの要素となりうる情勢
でもある。

中国の経済力の拡大で世界情勢は歴史的な転換が始まろうとしている。中
国はやがては米国経済に追いつき追い越すエネルギーを秘めており、かつ
ての秦・漢・隋・唐・宋・元・明・清がその興隆期には世界帝国の様相を
示したように、多かれ少なかれ極東のパワーとしての存在感を強めるだろ
う。中国のインターネット人口は、およそ8億人に達し、現在人口の57.7%
が頻繁にインターネットを利用している。中国は事実上のネット王国と化
しており、今後のIT世界での影響力は増大こそすれ、縮小しないだろう。

米国が現在保持している圧倒的な覇権を脅かす要素は中国だけだろう。し
かし日米同盟が強固である限り、中国のパワーは減殺されるだろう。トラ
ンプが昨年末以来指向している世界的な貿易戦争は深刻化する様相があ
り、日本としても対応が迫られる。日米貿易協定交渉について、トランプ
政権は自動車分野で対米輸出の数量規制を要求する可能性が高いとの見方
がある。

米政府筋は「日本が数量規制に応じないなら、追加関税を発動する可能性
も排除できない」とすごんでおり、油断はできない。

日本としての対応策は規制の範囲を物品以上に広げないように、ヨーロッ
パと連携して対米交渉に臨むことだろう。ただ米国の貿易赤字の47%は
対中貿易によるものであり、日本は9%にすぎない。中国の深刻さに比べ
れば、日本は安倍とトランプの会談に持ち込めば、政治決着がつく可能性
が強い。大騒ぎしすぎて、不必要な波紋を巻き起こすことは避けなければ
なるまい。

朝鮮半島情勢は韓国大統領文在寅の対北融和路線で変質してきており、米
国の圧力も利かなくなりつつある。こればかりは一国の外交方針であり、
干渉しようがない。そのうちにロマンティスト文在寅が描く夢が、現実の
壁にぶつかるのを見守るしかあるまい。日韓関係の悪化は戦後繰り返して
きたことであり、特異な現象ではない。相手が折れるのを待つのが歴史が
証明する最良の方法だ。「半島民族は悪い」と言ったのは田中角栄だが、
半島民族の複雑な感情は常に外交に反映される要因だろう。

対露関係はラブロフが漏らした本音に尽きる。ロシアの本音とは4島返還
どころか、2島も難しいという立場だ。もともと戦争で獲得した領土が返
還された例など、世界的に希有なことであり、沖縄返還くらいしかない。

対米関係だからこそ返還が可能になったのである。対ロシアでは、とても
一筋縄ではいかない。返還されるとすればロシアが国家として疲弊して、
日本に売りつけるような場合だろう。さもなくば中ロ関係が極度に悪化し
て、日本に支援を求めるような情勢になった場合だろう。

極東情勢を見つめた場合、中国は北朝鮮の戦略的価値が致命的に重要であ
ることに気付いている。従って北が日本や米国に接近することをあらゆる
手段を使って阻止するだろう。朝鮮労働党委員長金正恩は10日までの訪中
で習近平と会談し、2回目の米朝首脳会談に向け、「国際社会が歓迎する
成果を得るために努力する」と意欲を表明した。習はこれを評価し、後ろ
盾として支援する姿勢を鮮明にした。対外強硬路線を取るトランプ米政権
と対等に渡り合いたい中朝両国の思惑が一致したかたちだ。対米的に連携
を誇示しているかのようである。

しかし、米朝会談を行っても非核化での進展は困難だろう。昨年6月のシ
ンガポール会談では、トランプが記者団に、「非核化のそのプロセスをす
ぐに始める」と述べたものだが、半年たっても何らの進展もない。北はト
ランプをまんまとだまして時間稼ぎをしたのであり、しびれを切らしたト
ランプが対話モードから対決モードへと切り替える可能性も否定出来ない。

日本としてはこの米朝関係の展開を注視して、もし進展への流れが生じた
ら、タイミングを逃さずに日朝対話に踏み切る必要があろう。20年は米大
統領選挙の年であり、再選を目指すトランプが外交攻勢に出る可能性があ
る。というのも内政では民主党が下院で多数を握っており、大きなことが
できないからだ。

外交・通商での成果を狙う可能性が高いとみなければなるまい。その際、
派手な展開ができるのは極東外交であり、動向から目を離せない。米
CNNテレビは14日、米朝の協議に詳しい関係者の話として、トランプか
ら朝鮮労働党委員長の金正恩にあてた書簡が先週末、ピョンヤンに届けら
れたと伝えた。

トランプは今月初め、2回目の米朝首脳会談について「そう遠くない将来
に設定する」と意欲を示している。さらにCNNは、北朝鮮の金正恩側近の
金英哲副委員長が訪米して、2回目の米朝首脳会談の調整にあたる可能性
があると報じた。何らかの展開が予想される。これに先立ち国務長官ポン
ペオは13日の米CBS番組のインタビューで、米朝再会談の時期について
「いま私たちは詳細を詰めているところだ」と述べている。


◆悪意に満ちた国連委員会の対日非難

加瀬 英明


8月に、スイス・ジュネーブで国連人種差別撤廃委員会が「対日審査会」
を行い、慰安婦、韓国人・朝鮮人に対するヘイトスピーチ、委員会が先住
民とみなすアイヌ・沖縄県民、朝鮮学校問題などを取りあげて、3日にわ
たって日本を嬲(なぶ)りものにした。

私はこの討議の一部を動画で見たが、どの委員も日本が性悪な国として、
こき下ろした。

戦前の国際連盟が本拠だった「パレ・ウィルソン」(パレは宮殿)で開か
れ、会合での対日非難は悪意にみちたものだった。

韓国の委員の鄭鎮星(チョンジュソン)女史は「性奴隷(セックス・スレイ
ブ)」といって、「慰安婦の残酷な状況は、当時の文書、映像、証言など
多くの証言によって、裏付けられている」と、日本政府代表団に迫った。

アメリカの黒人女性のマクドゥガル委員は、日本政府代表団が反論したの
に対して、慰安所を「強姦所」と呼び、「事実を議論すべきではない。こ
れは女性の尊厳の問題だ。慰安婦の大多数が韓国人だった」と、詰め寄っ
た。事実は、大多数が日本女性だった。

ベルギーのポッソート委員は、日本において韓国・朝鮮人が迫害されてお
り、「日本に住む40万人の韓国・朝鮮人の大多数が、植民地時代に強制的
に日本に連行された」と、攻撃した。事実は同じ国だったから、自由に往
来できたために、より豊かだった日本本土に、仕事を求めて移ってきたの
が、正しい。

コンゴ民主共和国をはじめ、諸国の委員がつぎつぎと日本を誹謗した。

このような国連委員会が世界の世論をつくって、日本の名誉を大きく損ね
てきた。

委員会の会合は、荒唐無稽としかいえないにもかかわらず、日本政府代表
団が一つ一つ、丁寧に答えていた。私は代表団を率いた大鷹正人外務審議
官や、法務省員の苦労を心からねぎらいたいと思った。

私も英語屋だが、大鷹審議官の英語は流暢で、素晴しかった。ところが、
日本政府の代表が「お詫びし、償い金を支払っている」といって、委曲を
つくして答えるほど、弁解しているように見えた。

私だったら弁明に終止せずに、相手を積極的に攻撃して、その歪んだ根性
を叩きなおそうとするだろう。

韓国の委員には、「韓国が独立を回復してから、貴国の国軍は日本の旧軍
の制度を受け継ぎましたが、国軍の将兵の性処理のために、『慰安婦
(ウィアンプ)』と呼ぶ女性たちが働く売春施設を、つくっていました。
『慰安婦(いあんふ)』は旧日本軍とともに姿を消したはずなのに、韓国軍
に長いあいだにわたって存在しました。慰安婦がそんなにおぞましいもの
だったら、どうしてこの日本語を韓国語として発音をして、使っていたの
ですか?」と、たずねたかった。

アメリカの委員には、「アメリカでは1960年代に入るまで、黒人は選挙権
を認められず、白人と黒人の性関係が犯罪とされ、水飲み場、便所から、
食堂まで区別されて、ひどい差別を蒙っていたし、今でも苦しんでいま
す。日本が先の大戦を戦って有色人種を解放したおかげで、黒人が白人と
同等の公民権を勝ち取ったのではないですか?」と、質問する。

委員会が国際連盟を創設することを提唱した、アメリカ大統領の名を冠し
た「パレ・ウィルソン」で開かれたのも、皮肉だった。

ウィルソン大統領はアメリカ南部のジョージア州とサウスカロライナ州で
育ち、有色人種が優生学的に劣っていると説いた、人種差別主義者だった
ために、ウィルソンが創学者のプリンストン大学では、学生たちがその銅
像の撤去を求め、アメリカ議会が創立したシンクタンク「ウィルソン・セ
ンター」を改名すべきだという運動が、行われている。

私だったら、委員たちに「パレ・ウィルソン」の名を改めることを、提案
しただろう。

 このように愚かしい委員会で、日本政府の代表が暴れれば、世界のマス
コミが取り上げて、日本の主張が理解されることだろう。

◆「アラブの冬」の時代に突入

宮崎 正弘


平成30年(2018年)11月9日(金曜日)通巻第5884号  

あの「アラブの春」から7年が経過したが、いま「アラブの冬」の時代に突入

サウジアラビア、周辺国の援助継続不能。イエーメンとの戦費も無理に

ジャメル・カショギ殺害でサウジ王家は世界的な批判に晒されているが、
もっと切実な問題はサウジの財政破綻である。

サウジは潤沢なオイルマネーのおかげで、豊かな教育、福祉サービル、健
康保険も充実し、外国人労働者も高給が取れた。

「この余裕を再び回復できるには原油価格が1バーレル@87ドルとならな
ければ行けない」(『フォーリン・アフェアーズ』、2018年11月・12月
号、マルアン・ムアシェル氏の寄稿)。

状況が激変したのは2014年からの原油価格大暴落だった。

とくにヨルダン、エジプトへの支援が難しくなった。先月のイムラン・
カーン(パキスタン首相)のリヤド訪問でも60億ドルの財政支援を約束し
たと伝えられたが、本当に実行されたのか、どうか。予定していた「アラ
ムコ」の上場は不可能となり、資金をかき集める手だてをなくした。アブ
ドラ皇太子の指導力が陰った。
 サウジがイエーメンとの戦争に費やしているのは毎月60億ドルから70億
ドルにも達しており、最大で年間800億ドルを超えるカネが砂漠に消えて
いる。

高価な武器と傭兵による。

このため国内の福祉、社会サービス、教育無償化などのプログラムの実行
ができなくなっている。国民の不満を逸らすために女性の自動車運転を認
めるなど小細工も講じているが社会全体の擾乱気配は深化している。

サウジの国内バラマキは年間300億ドル、クエートは国民各自に@3500ドル
を給付した。オマーンは道路掃除など公共事業に三万の雇用を無理矢理つ
くりだし、優秀な若者には奨学金の無料交付なども続けた。すべてが物理
的に継続不能となった。

中東全体で失業率は30%前後とされ、とくに産油国でないエジプトとヨル
ダンは、サウジ、クエート、UAE等からの支援で社会保障を維持してき
た。財政悪化状態はサウジとUEA、オマーンなど同じである。

産油国が周辺国を金銭的に支援するプログラムが継続可能という展望がない。

このためエジプトは120億ドルの償還が出来ずIMF管理となり、ヨルダ
ンではデモが発生し、クエートも社会擾乱の兆し、これらの国々へ出稼ぎ
にでていたフィリピン人が最近は大挙して帰国している。

あの「アラブの春」から七年を閲し、民主化どころか、状況は泥沼。原油
価格高騰の局面にはあるが、1バーレル@100ドル時代の到来は想定しにく
い。産油国のどこが最初に「第2のベネズエラ」となるか?  

◆新年に考えた日本の問題あれこれ

櫻井よしこ


「新年に考えた、日本の問題あれこれ」

元旦、各紙の社説を読み較べた。まず「読売新聞」である。兎に角、長す
ぎる。内外の事情に万遍なく触れているが、何か特別に心に残る発信があ
るわけでもないのが残念だった。

「朝日新聞」は「権力のありかを問い直す」として、事実上、朝日定番の
安倍政権批判を展開した。

小見出しのひとつが「弱い国会を強くせよ」である。これには大賛成だ。
米国議会と較べると日本の国会の余りにもお粗末な働き振りに、ウンザリ
する。米国議会では共和、民主両党が少なからぬ案件で激しく対立する。
その一方で、国益のために超党派で協力して仕上げる法案や行政府(ホワ
イトハウス)への働きかけも非常に多い。私は日本国民だが、米議会の動
きによくぞやってくれたと双手をあげて支持する法案や採決は少なくない。

たとえば共和党のマルコ・ルビオ上院議員と同党のスミス下院議員が共同
議長としてまとめた中国に関する年次報告書である。同報告書で米国議会
は、中国政府が100万人以上のウイグル人を強制収容し「アパルトヘイト
さながらの公的な人種差別政策」をとっていると非難した。

今年1月4日には上院情報特別委員会の副委員長、民主党のウォーナー上院
議員と前出の共和党ルビオ氏が、中国などによる先端技術窃取防止に向け
て、ホワイトハウスに「枢要技術安全室」を専門部局として設置するよ
う、超党派の議員団をまとめて法案を提出した。

いずれも非常に大事な案件だ。この種の働きを日本の国会はどれだけ見せ
てくれているだろうか。私たちが目にしてきたのは、あの膨大な時間を浪
費したモリカケ論争であり、また「安倍首相の下では憲法改正は論議しな
い」という理屈にならない理屈で、国会議員としての責任を放棄してし
まった姿だ。

こんな惨憺たる現実があるからこそ、朝日の「弱い国会を強くせよ」とい
う小見出しに賛成するのだが、この小見出しは「働かない国会を働く国会
にせよ」と変えるのがよいのではないか。

憲法改正案を発議せよ

朝日の社説は、終わり近くになって安倍首相非難の“朝日流予定調和”に落
ち着き、訴える。首相の解散権を何とかしたい、「権力の淵源(えんげん)
は、主権者たる国民である」と。

本当に国民を主権者だと朝日が考えているのなら、尋ねたい。なぜ、国会
による憲法改正の発議に反対するのかと。改正案の是非を決定するのは、
国民なのである。国の形の根幹について、国民が最終的に判断する。これ
こそ、究極の主権の行使であるが、戦後70年余り、国民はただの一度も主
権行使の機会を与えられていない。

社論として朝日が憲法改正に反対しているのは承知しているが、「主権者
たる国民」の「主権」をそれ程大事に思うなら、主権を発揮する機会とし
ての、憲法改正の是非を問う国民投票に賛成してほしいものだ。国会は国
民主権を実現せよ、その具体例として、憲法改正案を発議せよと叱咤して
ほしいものである。

「日経新聞」は日本の景気は戦後最長の74か月の拡大を記録する、消費税
増税は手厚すぎる程の対策を講じており、消費の腰折れリスクは小さい
と、安心材料を提示し、人手不足は生産性向上のチャンス、日本の社会的
政治的安定は突出している、と明るい要素を書き出した。

確かに日本の景気はよいのだ。加えて人の心の在り様に景気は大きく左右
される。朝日のように何でも悪い方へ、暗い方へと考えていては景気も悪
くなり、問題解決の道も狭まるだろう。それでも、1000兆円を超える国の
借金を考えると、心配にならない道理はない。大胆で有効な解決策を示し
てほしいと、日経には要望するものだ。

そんな思いで「産経新聞」に辿りついた。「平成は『敗北』の時代だっ
た」という書き出しにハッとした。論説委員長の乾正人氏が数字を列挙し
て説いている。平成元年、日本の国内総生産(GDP)は世界全体の
15%、米国は28%だった。いま、日本は6%、米国は25%だ。

同じく、かつて世界上位50社(時価総額)中、日本企業は32社を占めてい
たが、今やトヨタ1社のみだ。30年前の実績はもはや信じ難い。産経は、
増えたのは国債という名の借金だけだと、厳しく現実を指摘する。

「平成時代の敗北」の原因を、産経は3点、挙げた。➀戦後の経済復興によ
る慢心、➁政治の不安定と混迷、➂中国への支援、である。

とりわけ➂が取り返しのつかない失敗だったと説く。日本の大規模援助で
中国は、今や日本に脅威をもたらす軍事力及び経済力の基盤を築いた。日
本の甘い対中政策で中国は、天安門事件当時の世界の制裁網を解いて再び
世界に受け入れられた。

国内状況の異常さ

そのとおりだ。では、日本はこれからどうすればよいのか。産経は「日米
安保さえあれば大丈夫だ、という思考停止」から脱せよと説いた。異論は
ないが、思考停止から脱するためには現実に目覚めることが必要だ。日本
の現実がどれだけ酷いかを、国民が知らなければならない。

たとえば皇室を取り巻く状況である。あと10年もしない内に、多くの女性
皇族が結婚で皇籍を離れられ、皇族はいずれ皇后陛下の他、皇嗣殿下とな
られた秋篠宮御夫妻と悠仁さまだけになる可能性がある。2700年近い皇統
を、悠仁さまがお一人でつないでいけるのか。万人が心配していることだ
が、まだ手立ては講じられていない。
 
国民が賢ければその国、その民族の未来は安心できるが、日本の教育は
賢い日本人を育てているか。最高学府である大学は今や半分近くが定員割
れで、中国人をはじめ、質を問わず留学生を掻き集めるだけだ。こんな教
育で賢い国民が育つのか。

国家は国土があって初めて成り立つが、その国土が売られ続けている。し
かも、反日教育で育った中国人がその多くを買い続けている。すでに10年
も前から国土売却は問題視されてきた。なぜ、国会は外国資本による土地
購入を制限出来ないのか。

経済の基盤のひとつが安定したエネルギーの供給だ。産油大国のサウジア
ラビアさえ、原子力発電の導入に熱心だ。中国は100万キロワット級の原
発200基の建造計画に加えて、この2年間で20万キロワット級の原発143基
を建てる。

脱CO2の視点から、中国だけでなく、国際社会の大勢が原発に向かって
いるとき、なぜ、日本だけが原発から遠ざかり火力発電に傾くのか。

取り上げたいことはまだ多い。世界の多くの現実と較べて国内状況の異常
さを日本人が理解するとき初めて、この国に変化が生まれるだろう。日本
の抱える問題の多さに立ちすくみそうになる時もあるが、それだけ働く材
料があるのだと前向きに考えて、今年も問題提起していこう。

『週刊新潮』 2019年1月17日号日本ルネッサンス 第835回

◆歳は足にくる(前) 

   石岡荘十


学生時代から体育会系で足腰には自信があるつもりだったが、古希を過ぎる頃から歳が足にきた。

ことの始まりは、高校の友人と花見がてら玉川浄水伝いの小道を小金井公園まで数キロ歩いたときだった。暫く歩くと左足がだるく、重くなって思うように歩けない。しばらく(数分)休むと回復してまた歩けるようになるのだが、また、だるく重くなる。

こういうのを間欠性跛行(かんけつせいはこう)といい、腰部脊柱管狭窄症の典型的な症状だとされている。跛行とはビッコを引くということだ。

人間の脊椎骨は上から頚椎(7個)、胸椎(12個)、腰椎(5個)、仙骨(1個)、それに数個の尾骨から成っている。脊椎骨の中心を走る脊柱管の中に神経の柱がある。

一つひとつの脊椎と脊椎の骨の間には椎間板というクッションの役割を果たす軟骨組織がある。そしてさらにこれらは靭帯や背筋などの筋肉で支えられている。

ところが、40代後半になってデスクワークが増えたせいか、足に痺れや傷みが来た。背筋が脊椎を支えきれなくなって5番目の腰椎がずれていると診断された。それから、少なくとも一キロ/週、泳ぐ習慣をつけて今日に至っているので、重い足を引きずってビッコを引くようになろうとは思いもしなかった。

脊柱管狭窄症、つまり神経の管が腰のところで狭まっている疑いがあるとのことで、腰のレントゲン、さらにMRIを撮ってみると、確かに、5番目の腰椎がずれている。が、神経には触っていないことが確認できた。脊柱管はどこも狭くなっているところはない。

しかし、MRIをよく見ると、3番目と4番目、4番目と5番目の間の椎間板がほかの椎間板より白く写っていて、炎症を起こしていると認められ、そのせいでごくわずか椎間板がはみ出して、脊柱管を押している。

治療法としては、腰椎を引っ張る、固定装具を使う、消炎鎮痛剤や飲み薬を使う、重症でそれでもダメなら外科手術をするということになる。みのもんたさんは手術をしたといわれるが、そこまでひどい症状は患者の一割程度だそうだ。

私の場合は軽症で、椎間板の炎症は飲み薬でなおる、ビッコの原因はほかにあるというのが整形外科医の診断だった。

では、ビッコの原因は何か。

考えられるのは、足に血液を供給する血管、動脈がどこかで狭くなっていて、栄養補給が足の筋肉の運動量に追いつかない動脈硬化ではないかと循環器内科の医師は考えた。

これを立証するのが、「血圧波検査」だ。両腕、両足に幅広のベルトを巻いて一斉に血圧を測定する検査法である。この検査をすると、動脈の詰まり具合と動脈の硬さ(柔軟性)がわかる。

結果は、左足だけが標準値に達していない、(専門的には「閉塞性病変の疑い」という)左足の血流は右足の7割しかないことが分かった。左足へ行く動脈のどこかが詰まっていた。

血流が詰まる動脈硬化は典型的な加齢疾病だ。脳の血管が詰まれば脳梗塞になるし、心臓の血管(冠動脈)が狭くなると、狭心症や心筋梗塞になる。私の場合は足にきたというわけである。

治療法は、脳梗塞や心臓梗塞と同じだ。血管の狭くなったところにカテーテルを入れ込んでフーセンで拡げるとか、バイパスを作るとか、などなど。

診療科の選択は大事だ。教訓は、大雑把に言うと、足が「痛むとき」は腰の神経になにかが触っているのだから、整形外科へ、「だるい・重いとき」は循環器内科へ、である。

多くの病気は、原因が分かり適切な治療が行なわれれば治るし、治療が適切でなければ治るものも治らない。癌の多くが治らないのは、原因が分かっていない。原因はわかっても治療法がそこまでいっていないか、誤った治療法がまかり通っているためだ、と私は思っている。

いわゆる「難病」といわれるものは、原因が明らかでなく、従って治療法もわからないものをいう。

と、考えると、足がだるくなる間欠性跛行は難病ではない。脳や心臓の梗塞と同じ加齢疾病だと考えればいい。治療法はあり、医師を選び抜けば高い確率で治る。調べてみて“悲観”は飛んだ。

ただ、このような治療法は対症療法に過ぎない。創造主に逆らって老いを押しとどめる智恵はヒトにもない。例外はない。

ガキは頭にくる、なにかというとキレるらしいが、歳は足にくる。(続く)


2019年01月17日

◆さぁ次はオマーンの漁場を狙え

宮崎 正弘


平成31年(2019年)1月12日(土曜日)弐 通巻第5952号  

さぁ次はオマーンの漁場を狙え、中国「一帯一路」の罠
  470隻の近代漁船が2万3000の小舟、零細漁師の漁場を直撃

ホルムズ海峡の隘路、対岸がイランのバンダル・アッバース。サウジアラ
ビア半島側はオマーン(旧国名はマスカット・オマーン)の飛び地である。

ドバイに滞在していたおり、オマーンの国境まで4WDを疾駆させて行っ
たことがあるが、荒れた台地に茶褐色に岩肌、農地にもならない曠野。そ
れが国境だった。

オマーン本国は、ホルムズ海峡を扼する飛び地から東南東。アラビア海と
インド洋に「7」のような地形でせり出している。海岸線が3165キロ
のも及ぶ。

海洋地政学にとって、要衝となるのは当然だろうと思える。首都のマス
コットから南西南へ500キロ。ここがインド洋に面するドクムという漁村
である。

つい昨今まで、ドクムを中心とする5万人の漁師たちは2万3000といわれ
る小舟にヤマハのモーターを駆動させて漁場を移動し、漁獲類は「干し
物」にしてから駱駝の背にのせ、首都マスカットまで500キロ、月の砂漠
をキャラバンで運搬していた。

俄かに、この寒村に焦点が当たった。

「一帯一路」を標榜する中国が舌なめずりしながら大々的に進出してきた
からだ。中国はこう言った。「ドクムを中東最大の漁業基地にして東アフ
リカ一帯の漁業センターにしよう」。

オマーンを取り込む「一帯一路の」の罠が仕掛けられたのだ。

2017年、中国はこのドクムを「免税特区」「輸出工業区」として開発する
ために107億ドルを投資する、条件は25年の租借で、更新可能としたいと
提案した。この降って湧いたような巨額投資にオマーンはすぐ合意に達した。

オマーンは歳入の55%を石油に依存しているため、ほかの産業育成による
収入源の確保に魅力がある。

しかし中国の隠された企図とは、いずれ漁場拠点の軍港転用であり、ジブ
チに海軍基地をつくったように、長期戦略に基づいている。

オマーンは絶対君主制、サィード国王の独裁政治だが、一応、議会があ
る。大政翼参会的な議会はすぐに中国の案件を諒承し、2020年完成を目指
して工事が始まった。すでに10の漁場に冷凍倉庫、魚介類加工、製氷製造
工場などが建設された。

中国は合計470隻の近代的漁船を投入するとしており、10の工場がすでに
稼働している(アジアタイムズ、1月11日)。

怒ったのは地元の漁民、零細で小舟による釣りで生計を立ててきたが、大
型漁船、冷凍設備をもつ近代船などが近海から魚を収獲すると、地元漁民
の生活が成り立たなくなるではないか。

オマーン政府は漁民の怒りをいかに静めるか注目が集まっている。

        
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  樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1842回】     
 ――「只敗殘と、荒涼と、そして寂寞との空氣に満たされて居る」――諸橋
(15)
諸橋徹次『遊支雜筆』(目?書店 昭和13年)

                ▽

長江を遡り諸橋の旅は続く。

よくもまあ、と思えるほどに丁寧に名勝旧跡を回り、関連する故事来歴を
記しながら、時の流れの中で惨澹として珍妙に変わり果てた姿を綴ってい
る。だが、これまで見て来た惨状と大同小異なので敢えて割愛するが、や
はり大冶鉄山については日本人として記憶しておくべきと思うので、手短
に綴っておく。

じつは大冶が全山鉄鉱山であることを発見したのは、清末に近代化を進
めた代表的指導者の張之洞の秘書だった。彼は古書の記述から一帯には鉄
鉱山があると推測する。そこでドイツ人技師に調査を依頼すると、はたせ
るかな豊富な鉄鉱脈を発見したものの、「其の技師は張之洞に先立つて、
本國の公使に知らせた。獨乙公使は素知らぬ顔で其の邊りの土地を讓與し
て欲しひ」と張之洞に申し出る。

すると「此のくせものと、張は一喝の下に技師を解雇した」。なんともド
イツ人の振る舞いはセコイ。やはりドイツ人はセコイのだ。

陶淵明の墓に詣でるべく旅を続ける。某村に着く。「夕日輝きて心地よ
し」。農家に宿を頼むと「殊勝にも御泊りなされ」と。「地獄に佛な
り」。だが「室に入れば汚きこと限りな」く、「戸障子とては一枚もな
し」。「先ず伴へる苦力に飯を炊かせて」、諸橋は「其の家より芋と葱と
を買求め」て調理して食事とした。

疲労の余りかバタン、キュー。「一睡の後醒むれば、予の伴へる苦力と宅
の主人とは、尚頻りに酒を呑みて興がる」。苦力は得意げに諸橋は老朋友
だと説明している。「可笑い」。

そこまではよかったが、そのうちに「苦力小便せまほしと云ふ」。すると
「主人自ら導いて至れる」のは諸橋の寝ている部屋だった。「南無三寶、
臭氣鼻を撲ちて堪へ難し。點燈して見れば汚き便器四疊半にも足らぬ我が
室にあるなり」。かくて我慢ならなくなった諸橋は「苦力を呼び、命じて
其の便器を取去らしむ」。

あの謹厳実直を絵に描いたような漢学者の諸橋が、なんと「汚き便器」の
隣で「臭氣鼻を撲ちて堪」い思いを抱きながら寝ていたとは。古人の言う
ように、確かに艱難汝ヲ玉ニスルものらしい。

某地でのこと。「最上の旅館なりと馬夫の案内」に誘われると、「狹隘
湫隘殆ど馬小屋にも劣る處」だった。しかも「室外には馬糞積んで山の如
し」。

また或る所では。「此の地旅館なし。驛長に一宿を乞うへば、近來土匪
猖獗にして、城外の地は保證し難し、日の暮れざる間に」、早く市街地
行って衙門(やくしょ)を訪ねよ、と。

その土匪だが「居民に課する強制徴収は甚だ苛酷」であり、支払いに応
じな場合は「立ちどころに之を殺す」。当時、一帯に土匪が多かったの
は、北京中枢の一角を占めていた段祺瑞麾下の軍が敗北したからであり、
兵士たちは「段軍の潰散と共に今郷に歸り、土匪とな」ったからである。

そこもと左様にして食いっぱぐれれば流民になり、流民は匪賊になり、匪
賊が兵士になり、運よく戦で軍功を挙げればトントン拍子に出世して、将
軍となり政府の役人に。破れた兵士は匪賊になり、匪賊は流民に。やがて
流民から乞食に。これが「好い鉄は釘にならない。好い人は兵にならな
い」人々の、人生双六ということになる。

曲阜の孔子廟を訪ねた時のこと。「今朝來土匪の猖獗を傳ふる事頻りな
り。曰く尼山に五百人の土匪あり、首領を于三?と云ふ。久山に二千五百
の土匪あり、首領を劉某と云ふ。之に對して濟南第五師團歩兵の一營千五
百人之に當り居れども、官軍戰毎に利あらず、今は曲阜を去る遠からざる
姚村まで土匪の襲來あり」。どうやら孔子サマの有難さもご利益も、土匪
の前では役には立たなかったようだ。

やはり小人は閑居して不善を為すものだ。
数多くの奇天烈な体験も、また『大漢和辞典』作りの下地になったのだろうか