2019年05月24日

◆米中貿易戦争、高関税は序の口

宮崎 正弘


令和元年(2019)5月19日(日曜日)通巻第6084号 

 米中貿易戦争、高関税は序の口、これからが本番だ
  5G開発で後れを取った米国勢、日本はお呼びではなかった

 ▲5G特許をめぐる競争は数年前から熾烈化していた。

ファーウェイ排除の前段階からの米中激突の経過を振り返ろう。

2018年春に習近平がトランプに直接電話をかけて、泣きついたとかの情報
があるほど、ZTE(中興通訊)へのインテルの半導体供給停止処分は衝
撃的かつ死活的だった。ZTEはインテルからの半導体供給が止まり、ド
ル箱だったスマホの組み立てが不可能になって倒産しかけたのだ。

ZTEはイランへの不正輸出がばれて、7年間の取引停止を言い渡された
ばかりだった。

トランプの次の手は中国への半導体製造装置の輸出禁止だった。

これで福建省晋華集成電路(JHICC)は、せっかく工場を新築したの
に、操業が不能となった。台湾から来ていた百人のエンジニアも路頭に迷
い、鳴り物入りの最新鋭工場は閑古鳥、まもなくペンペン草がはえるので
はないか。

完全なるファーウェイ排除となれば、中国として生き残る道は部品の国内
生産しかない。半導体の自製化である。

日米はともかく、中国はスマホ、基地局の輸出先を欧州とアフリカならび
にミャンマーなどアジアの発展途上国の市場に置き換えている。東チモー
ルの山奥や、ミャンマーの辺疆へ行っても現地人がファーウェイを使って
いた光景を目撃したが、驚きである。

そのうえファーウェイは、最悪シナリオに備え、半年分の生産に必要な部
品をしずかに備蓄してきた。昨秋にぴたりと停まった日本への発注が突如
ぶり返していたのは、部品備蓄が目的だったのだ。

鴻海精密工業は董事長の郭台銘が次期台湾総統に立候補するなどと息巻い
たが、中国の主力工場から大量のレイオフをなし、インドなどへの工場移
転を発表した。また一部は台湾へ復帰するとした。

米中貿易戦争は凄まじい突風となって全中国に吹き荒れ、一部、共産党の
高官は「GDPの1%減となるだろう」と予測するが、1%ではなく、
10%の悪影響がすでにでている。中国の株式市場は暴落寸前で、5月5日
から17日までに深セン株式市場で7・5%の下落、上海株式市場で5・
6%の下落となった。

遅きに失したが、中国は半導体に自製化を本格的に稼働させる。なにしろ
インテルとクアルコムからファーウェイのみならず業界3位の小美(シャ
オメイ)も、廉価販売のOPPOも、半導体の供給を受けてきたのだか
ら、今後、生産が直撃弾を受けることになる。

習政権は、半導体内製化に発破をかけ、開発メーカーなどが赤字であって
も、株式市場から資金を調達しやすいように上場を急がせる方向にある。


 ▲5G特許の「出願件数」で中国は米国を抜いた

5G開発競争で、たしかに中国は「特許出願」の件数において世界最大で
ある。あくまで「出願」で、特許が「成立」した件数でないことを留意し
た上で、次の一覧を眺めてみよう。

5G必須特許出願の企業別シェアは、ドイツの「IPリッテクス社」の調
査に拠ると、

 ファーウェイ(中国)      15・05%
 ノキア (フィンランド)    13・92
 サムソン (韓国)       12・74
 LG (韓国)         12・34
 ZTE(中国)         11・70
 クアルコム(米国)        8・19
 エリクソン(スウエーデン)    7・93
 インテル(米国)         5・34

明らかに米国並びに北欧が劣勢にあり、中国の大手2社で34%強。世界
の3分の1を占める。日本企業と言えば、「まるでお呼びでない」。

ただし、中国勢の特許出願は基地局に関する技術が殆どである。だが、一
件優勢にみえる中国の5G開発には幾つかの深刻な問題点がある。

第一に「出願」と「成立」した特許とをよくよく吟味しなければならな
い。出願が多くとも、特許として認められるかは別の問題である。

第二に5G技術は4Gの上に成立するのである。つまり4G特許は圧倒的
に米国クラルコムが保有する上、5Gは、4G特許へのロイヤリティ支払
いを前提とする。だから中国はダミー(シンガポール籍のブロードコム)
を使って、クアルコムの買収に、史上空前の買収金額を示して乗っ取ろう
としたのだ。

土壇場でアメリカは、この中国が背後にいる野心的な買収案件に「国家安
全保障にかかわる」として拒絶するという行動に出た。
 
すでにオバマ政権時代から、中国の通信機器のスパイ行為、バックドアな
どの仕掛けによって情報が中国に筒抜けになっている「国家安全保障上の
脅威」は情報関係者から指摘されていたが、オバマ政権はなにも手を打た
なかったのだ。

米下院情報委員会は報告書を作成して「ファーウェイ、ZTEなどの通信
機器は中国のスパイ活動ならびにサイバー攻撃に悪用される可能性が高
い」と警告したため、ようやくオバマ大統領は2013年の米中首脳会談にお
いて「経済スパイ行為をしない」という合意をしたが、中国はこれをまっ
たく無視してきた。


 ▲クアルコムとアップルの特許訴訟、突如、和解へ

さらに重要な変化がアメリカで起きた。アップルとクアルコムは特許使用
料問題で深刻な特許裁判を展開していた。アップルがクアルコムの特許が
異常に高いと難詰し、合計270億ドルの訴訟を米国メーカー同士でいがみ
あい、このためアップルは5G製品の発表が出来ず、このまま行けば
ファーウェイ独走をゆるすことになる情勢にあった。

「アメリカ企業同士があらそっている場合か」と政府や議会、株主、メ
ディアから叩かれ、急転直下の和解。これでアップルの5G参入に目処が
立った。

米国企業が認識する中国の脅威とは、次期ハイテクで中国の後塵を拝する
ような事態が目前に迫り、焦燥がつのった背景がある。とくに習政権が
「2015 中国製造」を打ち上げたときに、アメリカは脅威を深刻に認識した。

2017年1月に発足したトランプ政権はホワイトハウスに特別対策室を設置
し、ハイテクに明るい専門家を急遽寄せ集めて、リストを作ってきたのだ。

当時、ホワイトハウスを訪問した加瀬英明氏から同年夏ごろに直接聞いた
のだが「技術の専門家のデスクがもの凄く増えている」。トランプ政権は
発足直後から、この問題に対応するチームを直轄してきたことになる。


 ▲世界の株式市場から時価総額250兆円が蒸発した

2019年5月10日、トランプ大統領は、追加関税増額措置(2000億ドル分の
中国製品に25%の高関税)を発表、続けて同月15日、ファーウェイへの部
品供給を事実上とめる「非常事態宣言」の大統領令に署名した。「中国」
と名指しはないが、だれが見ても中国製品の流入阻止が目的であることは
明瞭だ。

同時に米商務省は「ELリスト」を作成し、約68社をその対中禁輸リスト
に挙げた。

このため株式市場は大混乱に陥った。世界すべての株式市場から時価総額
に直して、およそ250兆円が蒸発した。

ファーウェイは世界68社から年間670億ドルにおよぶ部品を購入してき
た。日本からは村田製作所、東芝メモリィ、日本電産、ロームSONY、
三菱電機など電子部品、カメラ11社、アメリカはインテル、クラルコ
ム、マイクロソフト、ブロードコムなど、じつに33社、そして台湾と韓国
からで、中国でファーウェイに部品を収めてきたのは京東方科技集団、
BYDなど25社に過ぎなかった。

むろん、米国企業をも直撃する。

トランプの支持基盤である中西部では穀物輸出の農家、穀物商社が輸出減
に悲鳴をあげた。サイロも、バージ船のターミナルも物流に混雑する風景
はなくなり、中国でもターミナル、コンテナヤード、倉庫に行き交う
フォークリフトの数が顕著に減少し、とくに倉庫スペースは空きが目立つ。

一度は米国復帰を宣言していたハーレー・ディビットソンは対中輸出が難
しくなるため、4月23日、ウィスコンシン州からタイへ工場移転を決めた。

半導体を供給し、中国で組み立ててきたスマホ、とりわけアップルのi
フォンは激甚な直撃を受け、米国内での販売価格は150ドルほど高くなった。

5月初旬の株価下落率でワースト銘柄は半導体のインテル(10・7%の暴
落)、化学材のデュポン(9・8%)、半導体のエヌビディア(7・
8%)、アップル(6・9%)、動画配信のネットフリックス(6・
2%)という具合だった。

アメリカも中国も高関税適用対象からライフラインのかかわる品目を外し
てきたが、とくに中国は豚肉、食料などの税率を据え置いた。報復で中国
が高関税をかけたのは、ガスなど米国以外の輸入代替国があるものに限ら
れた。

 方、米国も消費財(傘とか、スポーツシューズ、PC、スマホ)への関
税を据え置いてきたが、これらも第四次報復関税が発動すれば対象となる。

米中貿易戦争、まだまだ先の見通しが不透明だ。

     
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  樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1896回】       
――「民國の衰亡、蓋し謂あるなり」――渡邊(8)
渡邊巳之次郎『老大國の山河 (余と朝鮮及支那)』(金尾文淵堂 大正
10年)

               ▽
撫順炭鉱の苦力宿泊所を覗く。彼らは「其得る所の賃金は多く之を賭博に
費やす」のであった。彼らを取り纏める「把頭」と呼ばれる中国人の人足
頭は妻帯し、「權力と高給とによりて、猶人らしき生活を樂み得べしと雖
も」、苦力には賭博程度の楽しみしかない。

「上半身裸體の炭塵に汚れたる儘」で「頭を衝き合ひつゝ、嚴禁せる賭博
に耽る」。賭博を発見した「年少日本人監督のために棍棒を以て叱咤打擲
せらるゝも怒らず、驚き且笑つつて蜘蛛の子を散らすが如く逃げ去る」の
であった。

そんな有様を目にした渡邊は、「窃に惻隠の情を催さゞるを得ず。其生活
の寧ろ動物的にして、彼等の自覺の百年河清を俟つよりも望み難かるべ
し」と綴る。

こういう場面に出くわした際、おそらく欧米列強の支配者は「窃に惻隠の
情を催」すことなく、躊躇せず断固として厳罰で臨んだはず。殖民地の被
支配者に「窃に惻隠の情を催」していた日には殖民地経営なんぞできな
い、と嘯きながら。きっと、そうに違いない。

撫順から奉天を経由して南下し、山海関を越えて北京へ。

北京では初期の陸軍支那通を代表する青木宣純中将(安政6=1859年〜大
正13=1924年)に会っている。因みに、青木が北京政府応聘の軍事顧問と
して黎元洪総統の近くにあったのは1917(大正6)年1月から1923(同12)
年1月までである。

「温容一野翁の如き風貌」の青木によれば、「支那の戰爭と稱するもの、
聲容を以てし、文書を以てし、電報を以てし、必ず殺傷相當るが如き激烈
なる鬪爭に出づるにあらざるをや、風雲の動くところ安心すべからず」と
説く。

話が佳境に入る直前、客人が来たということで渡邊は青木の許を辞去して
いる。これから青木が何を話そうとしたのか。大いに興味をそそられると
ころだが、青木や坂西利八郎以下の陸軍支那通、それに大陸浪人の功罪に
ついては、いずれ詳細に論ずることにして、今は渡邊の旅を先に進みたい。

渡邊は明朝歴代皇帝を葬る十三陵、居庸関、弾琴峡、長城(八達嶺)など
を回るが、「初めて支那人の盗癖の油斷ならざる」を知る一方、「支那人
の衣服纏ふの嚴にして、婦人は全く皮膚を露出せず、男子は上半身を露出
すると雖も、斷じて腰部以下を示さず、少年童女と雖も亦相同じく、女兒
は決して胸背並びに乳房を暴露せず、村落の間亦此習慣を存せる」を知っ
たと記す。

さらに足を中国本部と外蒙との接点に位置する張家口まで伸ばす。「人口
6萬5千を有する北京以北唯一の商業地」とはいうものの、やはり旅館に
は閉口したらしい。

「當惑したるは便所の設備の不完全なり。大便所は外壁ありと雖も、入口
に戸あるにあらず、各箇の間に隔壁障陛屏あるにあらず、諸人偶然同時に
會せんか、相並んで脚を接して相見つゝ便せざるべからざるの奇劇を演出
すべし。從つて余等夜中若くは?旦人なき時を窺つて之を爲すの道を取れ
り」。

「人口6萬5千を有する北京以北唯一の商業地」でこれだから、他は押し
て知るべし。とはいえ、これがスタンダードだから我慢、ガマン、我慢、
ガマン、我慢・・・である。

張家口郊外の農村を歩き「鮮人の深入此の地方に及べるか」と綴る。出稼
ぎ農民か。入植者か。彼らの進出と日本の影響力拡大は重なっているの
か。彼らは独自に黄塵万丈の地まで進出したのか。確かに「木は動かせば
死ぬが、ヒトは動かすと活き活きする」ものだ。

張家口から北京に戻り故宮内の武英殿で「清朝鐘愛の珍寶」を見る。

「其輸送の間、多くの僞物と交換せられ」て、最後は権勢家に私蔵されて
しまう。彼らこそ「獨り國寶を私するのみならず、又國家國民を私して其
存亡消長を雲烟に附するの徒なり。而して民國此等の徒に富む、民國の衰
亡、蓋し謂あるなり」。
ニセ国宝、ニセ国家に、ニセ国民・・・?《QED》

◆「中曽根君を除名する!」

渡部 亮次郎


河野一郎さんの命日がまた巡って来た。7月8日。昭和40(1965)年のこと。
死ぬ2日前(6日)の夕方、東京・麻布台の事務所を訪ねると、広間のソ
ファーで涎を垂らして居眠りしていた。

黙っていると、やがて目を覚まし、バツが悪そうに涎をハンカチで拭い
た。何を考えたのか「従(つ)いてき給え」と歩き出した。

派閥(河野派=春秋会)の入っているビルは「麻布台ビル」といったが、そ
の隣に建設省分室と称する小さなビルが建っていた。元建設大臣としては
殆ど個人的に占拠していたようだった。

向かった先はそのビルの4階。和室になっていた。こんなところになんで
建設省のビルに和室があるのかなんて野暮なことを聞いてはいけない。

「ここには春秋会の奴らも入れたことは無いんだ」と言いながら

「今度、ボクはね、中曽根クンを春秋会から除名しようと決めた。

奴はボクが佐藤君とのあれ以来(佐藤栄作との総裁争いに負けて以来)、
川島(正次郎=副総裁)に擦り寄っていて、数日前、一緒にベトナムに行き
たいと言ってきた。怪しからんのだ」

「河野派を担当するならボクを取材すれば十分だ。中曽根なんかのところ
へは行かないのが利口だ」とは以前から言っていたが、派閥から除名する
とは只事ではない。

思えば河野氏は喉頭癌のため退陣した池田勇人(はやと)総理の後継者と
目されていた。しかし、河野側からみれば、それを強引に佐藤栄作支持に
党内世論を操作したのは誰あろう副総裁川島正次郎と三木(武夫)幹事長
だった。

佐藤に敗れた後も無任所大臣(副総理格)として佐藤内閣に残留していた
が,政権発足7ヵ月後の昭和40(1965)年6月3日の内閣改造で河野氏が残留を
拒否した事にして放逐された。

翻って中曽根康弘氏は重政誠之、森清(千葉)、園田直と並ぶ河野派4天
王として重用されてきた。それなのに川島に擦り寄って行くとは。沸々と
滾る「憎悪」をそこに感じた。その頃は「風見鶏」という綽名は付いてな
かったが、中曽根氏は元々「風見鶏」だったのである。

そうした隠しておきたい胸中を、担当して1年にもなっていないかけだし
記者に打ち明けるとは、どういうことだろうか。

7月6日の日は暮れようとしていた。「明日は平塚(神奈川県=選挙区)の
七夕だからね、今度の参議院選挙で当選した連中を招いて祝勝会をするか
らね、君も来なさい。ボクはこれからデートだ、では」

それが最後だった。翌朝、東京・恵比寿の丘の上にある私邸の寝室で起き
られなくなった。日本医師会会長武見太郎の診断で「腹部大動脈瘤破裂、
今の医学(当時)では打つ手なし」。翌8日の午後7時55分逝去した。享年
67。武見は{お隠れになった}と発表した。

当日、奥さんに招かれてベッドの脇に居た私は先立つ7時25分、財界人
(大映映画の永田雅一,北炭の萩原社長,コマツの河合社長らが「南無妙法
蓮華経」とお題目を唱えだしたのを「死」と早合点し、
NHKテレビで河野一郎を30分早く死なせた男として有名になる。

死の床で「死んでたまるか」と言ったと伝えられ、「党人政治家の最期の
言葉」として広くこれが信じられてきたが、河野洋平氏によると「大丈夫
だ、死にはしない」という穏やかな言葉で家族を安心させようとしたのだ
という。これも犯人は私である。

河野氏が死んだので中曽根氏は助かった。「河野精神を引き継ぐ」と1年
後に派閥の大半を継承。佐藤内閣の防衛庁長官になって総理大臣への道を
歩き始め多。風見鶏は幸運の人でもある。

以下はフリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』を参照のこと。

河野 一郎(こうの いちろう、1898年(明治31年)6月2日生まれは、自由
民主党の実力者。死後、従二位勲一等旭日桐花大綬章。河野は神奈川県選
出の国会議員のなかでは実力者であり、県政にも強い影響力があったので
神奈川県を「河野王国」と呼ぶ向きもあった。

参議院議長をつとめた河野謙三は実弟。衆議院議長であり、外務大臣、自
由民主党総裁、新自由クラブ代表をつとめた河野洋平は次男。衆議院議員
河野太郎は孫である。

建設大臣時代、国際会議場建設計画があり、選挙区内の箱根との声が地元
よりあがったが、日本で国際会議場にふさわしいところは京都である・・・
との考えで京都宝ヶ池に国立京都国際会館建設を決めた。しかし、完成し
た建物を見ることなく亡くなっている。

地元よりの陳情を抑えての決断は現在の政治家にもっと知られてよい事例
であろう。

競走馬のオーナー・牧場主としても有名。代表所有馬に1966年の菊花賞馬
で翌年の天皇賞(春)で斃れたナスノコトブキなどいわゆる「ナスノ」軍
団があった時代もある。

河野は担当大臣として東京オリンピック(1964年)を成功に導いたが、市川
崑の監督した記録映画に「記録性が欠けている」と批判して議論を呼び起
こした。

酒を全く飲めない体質だったが、フルシチョフにウォッカを薦められた際
に、「国益のために死ぬ気で飲んだ」とよく言っていた。

1963年、憂国道志会の野村秋介により平塚市の自宅に放火される。その日
は名神高速道路の開通日で河野はその開通式典でくす玉を引いている。

三木武夫が大磯の吉田茂の自邸に招かれた際、応接間から庭で吉田が笑っ
ていた様子が見え「随分ご機嫌ですね」とたずねると「三木君は知らんの
か! 今、河野の家が燃えてるんだよ!」とはしゃいでいた。「罰が当っ
た」と吉田周辺はささやいたと言う。二人は互いを不倶戴天と言ってい
た、終生。2008・07・05


◆台湾が危ない、中国の侵略阻止に力を貸せ

櫻井よしこ


週末、東京・池袋のホテルで、台湾の与党民進党の前行政院長(首相)、
頼清徳氏に取材した。一言で言えば爽やかな感じの人物だ。台湾出身の金
美齢氏は、「政界一の美男」と評したが、むしろ「穏やかな知性の人」と
いう印象が先に立つ。

頼氏は59歳、元々内科医だった。政界に転じ、立法委員(国会議員)、台
南市長を経て2017年9月に蔡英文政権の行政院長に就任、今年1月に職を辞
し、来年1月の総統選挙に名乗りを上げた。

心意気やよし。しかし、頼氏の前には、穏やかな知性だけでは到底越えら
れないハードルが二つある。➀民進党内の選挙で党の候補者に選ばれるこ
と、➁本選挙で国民党に勝つこと、である。

まず民進党内の相手候補は現職の蔡総統(62)だ。党内の支持は頼氏優位
だが、蔡氏が猛烈に巻き返している。その激しい選挙戦の最中、頼氏は8
日から5日間日本に滞在した。森喜朗氏ら元首相3人を手始めに、自民党の
要人数十人と会い、政界人脈をアピールした。日本の大手メディアも取材
に走り、日本側の関心の高さは台湾でも報じられた。訪日によって、頼氏
の選挙運動に弾みがつく可能性もある。

日本にとっても頼氏の台湾総統就任は非常に望ましい。第一に氏は馬英九
氏に代表される国民党の政治家のような親中派ではない。むしろ熊本地震
の時には、台湾の人々の義援金を抱えていち早く被災地に駆けつけた大変
な親日家である。台湾と日本の間には家族のようなつながりがあるとも語
る頼氏は後に詳述する蔡氏の少々冷めた対日姿勢とは異なるあたたかさが
ある。そのような頼氏への日本政界の期待も大きい。

来日の目的について問うた私に、氏は答えた。

「台湾はいま一番大事な時期にあります。中国の脅威はかつてなく深刻で
す。中国の脅威に押し潰されては台湾は生き残れません。台湾人にとって
最も親密な隣国である日本と、中国を含めた国際情勢に関する認識を共有
したい。私の訪日目的はそこにあります」

武力行使は放棄しない

習近平主席は今年1月2日、年頭の演説で台湾に、香港と同様の一国二制度
を受け入れよ、92年合意(中国と台湾がひとつの国であると互いに認めた
とする合意)を認めよと要求したうえで、台湾への武力行使は放棄しない
と明言した。中国は05年3月の全国人民代表大会で反国家分裂法を制定済
みだ。台湾独立の動きには法に基づいて武力行使するというのだ。

台湾が中国に併合されてしまえば、台湾海峡もバシー海峡も中国の領有す
る海になる。そのとき日本の安全保障は危機に直面するとの頼氏の指摘
は、100%正しい。中国への幻想は一切なく、外見の穏やかさの背後に、
厳しい国際情勢についての正確な認識があるのが見てとれる。

台湾情勢を見詰めるとき抱く懸念は、まず第一に、頼氏が表明したような
危機意識を台湾の人々が共有しているとは思えないことだ。世論調査は、
蔡政権の経済政策への失望から、中国に飲みこまれる恐れがあるにも拘わ
らず国民党への支持がふえていることを示している。経済が少々悪くても
いまは我慢して、中国に国を奪われないように台湾人の政党を支持しよう
と考える有権者は、少なくとも現時点では少数派である。

来年1月、万が一、民進党が敗北して国民党が政権を奪還すれば、単なる
政権交替に終わらず、事実上の国家の交替となる可能性が高い。台湾人が
統治する台湾から、中国人が統治する中国の一省としての台湾へと変わっ
てしまうであろう。

そう断言する理由は、国民党の候補者、たとえば元国民党主席の朱立倫氏
も、総統選に名乗りを上げる場合、どの候補者よりも強力だと見られる高
雄市長の韓国瑜氏も、台湾の経済成長を押し上げるという理由で中国との
平和協定締結に積極的であることだ。

平和協定について頼氏が警告した。

「絶対に受け入れてはなりません。過去の中国の実績を見れば明らかで
す。チベットは中国と平和協定を結びましたが、チベットには平和も経済
発展ももたらされませんでした。逆に彼らは国土を奪われ、ダライ・ラマ
法王は亡命しました。中国に苦しめられる悲劇の平和協定には絶対に反対
です。一国二制度も同様で、台湾は第二の香港にはなりません」

国民党政権になれば、ほぼ間違いなく中国との平和協定が成立するだろ
う。頼氏が国民党の政策は台湾を失う危険の道に通ずると警告しても、国
民の支持は民進党より国民党に向かっている。

台湾人の国

台湾大手のテレビ局TVBSの世論調査は、いま選挙が行われれば完全に
国民党が勝利するという結果をはじき出した。調査では蔡氏は野党国民党
のおよそどの候補者にも勝てない。頼氏なら勝てる見込みは少し高くなる。

だが蔡氏は再度総統職に挑戦する構えを崩さない。私は蔡氏に幾度か会っ
たことがあるが、真面目で純粋な学者タイプだ。韓国の前大統領、朴槿恵
氏と少し似ている。まず、中国への信頼感が想像以上に強い。朴氏は政権
発足から2年余り、中国を信頼し、中国に頼り、日本にはつれなかった。
中国の正体をようやく理解して日本に接近したときにはすでに政権基盤が
危うくなっていた。彼女の戦略的失敗は、国内で左派勢力の増長を許して
しまった。

蔡氏は中国の要求する92年合意を拒否したところまではよかったが、中国
とは摩擦を起こしたくない、話し合いで解決したいという姿勢だった。対
中融和姿勢は、民進党の政権なのに、中国人の政党といってよい国民党の
幹部を外相、国防相などの重要ポストにつけたことにも表れていた。その
後、閣僚は交替させたものの台湾人には納得のいかないことだっただろう。

学者であったがゆえに、熟考することが多く、素早い決断ができず対応が
常に後手に回った。経済運営の不器用さに加えて、決断できないことが、
国民の支持を失ったもうひとつの理由でもあろうか。敢えていえば、勝ち
目のない総統選から蔡氏は身を引く方が台湾のためになるのではないか。
いまは己れを捨てて台湾人のための未来作りに集中するときではないかと
思えてならない。

頼氏は、自身が選挙に勝てば、台湾独立の言葉は封じつつ、台湾の軍事力
を強化し、日米印豪のアジア太平洋戦略に参加したいと述べた。TPPに
参加し、福島をはじめとする東北の産品の輸入にも道を開きたいとも語った。

米国はホワイトハウスも議会も台湾支援を明確にした。事実上の民進党支
援である。日本も同様に、台湾を台湾人の国とするための支援を打ち出す
べきである。強力な官邸主導の台湾支援戦略が必要だ。

『週刊新潮』 2019年5月23日  日本ルネッサンス 第852回

2019年05月23日

◆政党内初選で揉める民進黨

     Andy Chang
 
  
来年1月の総統選挙に党代表を選ぶ「政党内初選」で国民党と民進黨
は双方とも党代表選挙で混乱している。

国民党側は初選の候補者が3人から4人に増えて4人の人気に大きな
違いが無くなった。民進黨側では政党の初選のルールをめぐって意見
の相違が起きている。もともと民進黨には初選ルールがあったのに、
蔡英文の民間の支持が頼清徳に大幅に負けていることから蔡英文を支
持する民進黨上層部が初選ルールの変更を主張し、頼清徳を支持する
方は従来の初選ルールを勝手に変更するのは非民主だと抗議した。

3月の民間調査では蔡英文37%に対し頼清徳49%で蔡英文総統が大幅
に負けたことから蔡陣営の民進黨上層部は初選ルールの変更を提案し
た。双方の陣営が4月中に何度も協議を重ねた結果、5月1日になって
民進黨は5月22日までに初選ルールを決定し、6月初旬に2度の政見発
表会、6月10日から14日を民意調査の期間と決定した。

蔡陣営の主張では、これまでの有線電話の民意調査に加えて携帯電話
(スマホ)の所有者も民意調査に取り入れるべきと主張した。これに
対し頼陣営はスマホ所有者の身元が確認できない、外国人も中国のス
パイもスマホを持っていると反対を主張した。

しかし協議の結果、蔡陣営に譲歩してスマホ調査を加えることに同意し
た。すると蔡陣営はスマホ調査の結果を80%にすべきと主張し、更に民
進黨員でもなく、未だに立候補もしていない柯文哲台北市長も民進黨の
初選に入れるべきと主張したので合意が出来なくなった。

双方の合意が得られない状況で民進黨の党首は5月22日までに結論が
出なければ数十年来使っていた初選ルールで行うと決定した。しかし
蔡英文陣営の民進黨の中執会(中央執行委員会)は選挙ルールは執行
委員会が決める、党首の決定も否決できると主張している。つまりこ
の論争は蔡陣営の独裁のためと民間の意見は民進黨に批判的である。

民進黨の党内初選が揉めていることを憂慮する台湾本土派は、5月22
日の最終協議会に数名の観察団を派遣して傍聴したいと申し出たとこ
ろ、民進黨秘書長は拒絶しただけでなく、テレビや録音など一切を禁
止すると答えた。つまり非公開の会議で蔡英文に有利なルールを決め
ようとする民進黨上層部に民間団体は大不満である。

来年の選挙は絶対に国民党に負けてはならない。しかし民進黨が独裁
的手段で蔡英文を出せば台湾本土派の支持を失う。蔡英文落選だけで
なく国会議員選挙でも大幅に国民党に負ける。国民党が総統と国会多
数結果となれば国民党は直ちに中台統一を強引に推進するだろう。台
湾の危機は日本の危機、アジアの危機、アメリカの危機である。

民進黨が最終協議に民間団体の傍聴を拒否したので民間団体は22日
に民進黨本部の前で抗議デモを行うと同時に全台湾でラジオ、テレビ
と抗議行動をすると決定した。

まだある。AIT(米国在台協会)も民進黨が党内初選で揉めているのを憂
慮して民進黨本部に人を派遣して協議の進捗状況を質問したと言う。
これまでアメリカは民進黨の執政で「台湾デモクラシー」を謳歌して
いたのに民進黨が独裁的になったので憂慮している証拠である。

さて本日22日の最終協議では蔡陣営がスマホ調査の結果を50%取り
入れ、党員でない柯文哲市長も初選調査に加えると主張したが、討論
で合意に至らず、党主席が閉会を宣言した。蔡陣営の執行委員会はこ
の閉会宣言に不満を発表した。

閉会のあと頼清徳が記者会見で3つの条件を提案した。(1)もし民意
調査で蔡英文が国民党の韓国瑜に勝つ結果が出たら蔡英文を支持する。
(2)もし頼清徳が韓国瑜に負ける結果なら蔡英文出馬を支持する。
(3)もし頼清徳が韓国瑜に勝ち、蔡英文が韓国瑜に負ける結果が出
たら民進黨は頼清徳を支持してもらいたい。
この3条件に対し蔡陣営は直ちに反対した。

結果として初選ルールはまだ決まっていない。党主席は旧来のルール
を維持すべきと言うが、執行委員21人は彼らにルールを決める権利が
あるとしている。

私個人の意見だが、今日の結果を纏めれば以下のようになる:
(1)民進黨は蔡英文支持で頼清徳に不公平である。
(2)人民は明らかに蔡英文を支持しない。
(3)このような混乱が続けばますます民進黨不利になる。
(4)蔡英文が出れば総統選挙、国会議員選挙、ともに惨敗する。
(5)蔡英文は四面楚歌の現状を認めて出馬を諦めるべきである。

               (在米台湾人地球物理学者)
at 09:17 | Comment(0) | Andy Chang

◆1ドル=7人民元を中国は死守できるか?

宮崎 正弘


令和元年(2019)5月17日(金曜日)通巻第6082号 

 人民元為替レート、1ドル=7人民元を中国は死守できるか?
  保有米国債を売却すれば、かえって中国の首を絞めることになる

国際金融市場において、米中貿易戦争の険悪化で深刻な懸念が拡がっている。

第一の懸念とは中国人民銀行(中央銀行)は、人民元為替レート、1ド
ル=7人民元をいつまで死守できるか? という問題である。

第二は習近平が面子にかけてどぎつい報復にでた場合の最悪のシナリオ
は、中国が保有する米国債券を売却するのではないかとする懸念である。

米中貿易戦争が第3幕(3000億ドル分にも25%の課税)に移行するや、上
海の株式市場は下落を演じたが、人民元も対ドル相場を下落させ、1ド
ル=6・9人民元となった(韓国ウォンはもっと下落した)。逆に安定感
のある日本円は上昇した。

中国にとって、為替の死守線は1ドル=7人民元であり、これを割り込む
と、下落は底なしになって1ドル=8人民元を割りこむことになるだろう。

中国人民銀行はしずかに香港での対策を講じた。3ヶ月物と1年物の短期
債券を100億元(1700億円)発行して、香港の通貨市場に介入し、人民元
を買い支えたのだ。なんとしても、人民元の下落を防ぐ狙いがある。

またASEAN諸国は1997年のアジア通貨危機の二の舞を演じかねないと
して、中国の金融当局の出方を注目している。
 
中国は最後の報復手段だとして、保有米国債を売却すれば、かえって中国
の首を絞めることになることを、金融界は承知している。しかしながら、
あの「やけくそプーさん」こと習近平が何をしでかすか分からないだけ
に、警戒を怠らないのである。

米国債(米国の赤字国債総額は22兆ドル)は5月12日統計で、中国が依
然首位の1兆1230億ドル、日本が1兆420億ドルを保有している。
     ☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆書評 しょひょう 
BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIEW
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
地図になかったチベット仏教の聖地を探検した日本人学者がいる
 
再び外国人立ち入り禁止の機密対象地になり、立ち入り出来ない秘境

   ♪
川田進『天空の聖域 東チベット宗教都市への旅』(集広舎)
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

驚きに満ち満ちたカラーグラビアが冒頭をふんだんに飾る。

凄い、こんな聖域、これほどの秘境が地球上にあったとは! しかも中国
の地図には出ていなかった場所だ。

過去に現地へ入った日本人は数人もいないうえ、中国旅行ガイドブックに
はもちろん出ていない。むろん評者も西寧あたりまでは行ったが、その奥
地に踏み込んだことはなかった。地図に記載がなかったからだ。

この「聖域」の場所は四川省の西側、中国の「異界」とされ、妖怪がで
て、怖いところという政治宣伝がなされたため誰も近付こうとしなかった
謂われが附帯しているという。

あなたは知っていましたか? 聖域「ラルンガイ」を?

評者(宮崎)も本書を手にするまで、まったく知らなかった。

ラサのポタラ宮殿やセラ寺ほか、青海省の西寧郊外に拡がる宏大なチベッ
ト寺院、塔爾寺も一日がかりで見学したことがあるが、ラルンガイは高度
四千メートルの山稜に忽然と拓けている宗教都市だった。
 
成都から直通バスで18時間、乗換バスだと36時間かかる遠隔地、というよ
り山岳の悪路をのろのろと走行するのだから、それくらいはかかるだろう。

本書にある概略図で確認すると、西寧から西へ向かい、玉樹の手前を南下
して、そこから迷路のような悪路を辿るルートのようである(現在、外国
人の立ち入りは禁止されている)。

創設者はジグメ・プンツォという「ニンマ派」の高僧であり、しかも何故
か漢語の伝記がでている。プンツォ師は2004年に入寂されたが、後継ラマ
を見つけるなと遺言したという。

当時、数千はあるかと思われる学舎らしき建物が僧坊だった。巨大な寺院
の回りに、小粒の住居が山にへばり付くように並んでいる風景は神々しく
もあり、逆に或る意味で雑然としている。

1万人を超える学僧が住み着いて、天空の聖地ともいえるコミュニティを
形成していた。尼僧もおり、バザールが開かれて、ちかくの農民や行商が
売りに来る。山の中腹には大仏塔が輝き、やまの頂上からは巨大なタンカ
を敷き詰める網が張られていた写真も残っている。

葬儀は鳥葬だった。

著者の川田氏は大阪工業大学の教授。なぜ工学部の先生が、この聖域に惹
かれたのか、これまでに六回の視察をしているという。

「ラルンガルは現実世界とつながっているにもかかわらず、長年、中国の
地図や仏教関係書に載ることはなかった」という著者が最初に、この聖域
に足を踏み入れたのが2001年だった。

爾来6回、定点観測のために訪問してきた。

長田教授はこう書く。

「(初回の訪問時)脳天を割られたような衝撃に襲われた。学僧たちの住
居である僧坊数百戸がことごとく破壊され、基礎と土壁が露わになり、ま
るで空襲語の残骸と化していた」。

その後、墓場のような情景につづいたのは「すり鉢状の谷の三方を僧坊群
が埋め尽くす姿が眼前に現れると、再び私の脳天に一撃が加えられ、一瞬
言葉を失った」

江沢民の仏教弾圧によって寺院と僧坊群は破壊され、そのあと地震が襲っ
た。そして現在までに何が起きたかは明らかではない。

カシュガルでホータンでモスクが破壊されたように、ラルンガルは中国共
産党の標榜する「改造計画」によってまったく新しい「観光用宗教地区」
となりそうな雰囲気であるというのだが、外国人は誰も近付くことさえ出
来ないため、真相は闇のまま。

それにしても、シャングリラ(理想郷)から地獄に落とされたのか、ラル
ンガルの現況はおおいに気になるところである。 
    

◆台湾が危ない、中国の侵略阻止に力を貸せ

櫻井よしこ


週末、東京・池袋のホテルで、台湾の与党民進党の前行政院長(首相)、
頼清徳氏に取材した。一言で言えば爽やかな感じの人物だ。台湾出身の金
美齢氏は、「政界一の美男」と評したが、むしろ「穏やかな知性の人」と
いう印象が先に立つ。

頼氏は59歳、元々内科医だった。政界に転じ、立法委員(国会議員)、台
南市長を経て2017年9月に蔡英文政権の行政院長に就任、今年1月に職を辞
し、来年1月の総統選挙に名乗りを上げた。

心意気やよし。しかし、頼氏の前には、穏やかな知性だけでは到底越えら
れないハードルが2つある。➀民進党内の選挙で党の候補者に選ばれるこ
と、➁本選挙で国民党に勝つこと、である。

まず民進党内の相手候補は現職の蔡総統(62)だ。党内の支持は頼氏優位
だが、蔡氏が猛烈に巻き返している。その激しい選挙戦の最中、頼氏は8
日から5日間日本に滞在した。森喜朗氏ら元首相3人を手始めに、自民党の
要人数十人と会い、政界人脈をアピールした。日本の大手メディアも取材
に走り、日本側の関心の高さは台湾でも報じられた。訪日によって、頼氏
の選挙運動に弾みがつく可能性もある。

日本にとっても頼氏の台湾総統就任は非常に望ましい。第一に氏は馬英九
氏に代表される国民党の政治家のような親中派ではない。むしろ熊本地震
の時には、台湾の人々の義援金を抱えていち早く被災地に駆けつけた大変
な親日家である。台湾と日本の間には家族のようなつながりがあるとも語
る頼氏は後に詳述する蔡氏の少々冷めた対日姿勢とは異なるあたたかさが
ある。そのような頼氏への日本政界の期待も大きい。

来日の目的について問うた私に、氏は答えた。

「台湾はいま一番大事な時期にあります。中国の脅威はかつてなく深刻で
す。中国の脅威に押し潰されては台湾は生き残れません。台湾人にとって
最も親密な隣国である日本と、中国を含めた国際情勢に関する認識を共有
したい。私の訪日目的はそこにあります」

武力行使は放棄しない

習近平主席は今年1月2日、年頭の演説で台湾に、香港と同様の一国二制度
を受け入れよ、92年合意(中国と台湾がひとつの国であると互いに認めた
とする合意)を認めよと要求したうえで、台湾への武力行使は放棄しない
と明言した。中国は05年3月の全国人民代表大会で反国家分裂法を制定済
みだ。台湾独立の動きには法に基づいて武力行使するというのだ。

台湾が中国に併合されてしまえば、台湾海峡もバシー海峡も中国の領有す
る海になる。そのとき日本の安全保障は危機に直面するとの頼氏の指摘
は、100%正しい。中国への幻想は一切なく、外見の穏やかさの背後に、
厳しい国際情勢についての正確な認識があるのが見てとれる。

台湾情勢を見詰めるとき抱く懸念は、まず第一に、頼氏が表明したような
危機意識を台湾の人々が共有しているとは思えないことだ。世論調査は、
蔡政権の経済政策への失望から、中国に飲みこまれる恐れがあるにも拘わ
らず国民党への支持がふえていることを示している。経済が少々悪くても
いまは我慢して、中国に国を奪われないように台湾人の政党を支持しよう
と考える有権者は、少なくとも現時点では少数派である。

来年1月、万が一、民進党が敗北して国民党が政権を奪還すれば、単なる
政権交替に終わらず、事実上の国家の交替となる可能性が高い。台湾人が
統治する台湾から、中国人が統治する中国の一省としての台湾へと変わっ
てしまうであろう。

そう断言する理由は、国民党の候補者、たとえば元国民党主席の朱立倫氏
も、総統選に名乗りを上げる場合、どの候補者よりも強力だと見られる高
雄市長の韓国瑜氏も、台湾の経済成長を押し上げるという理由で中国との
平和協定締結に積極的であることだ。

平和協定について頼氏が警告した。

「絶対に受け入れてはなりません。過去の中国の実績を見れば明らかで
す。チベットは中国と平和協定を結びましたが、チベットには平和も経済
発展ももたらされませんでした。逆に彼らは国土を奪われ、ダライ・ラマ
法王は亡命しました。中国に苦しめられる悲劇の平和協定には絶対に反対
です。一国二制度も同様で、台湾は第二の香港にはなりません」

国民党政権になれば、ほぼ間違いなく中国との平和協定が成立するだろ
う。頼氏が国民党の政策は台湾を失う危険の道に通ずると警告しても、国
民の支持は民進党より国民党に向かっている。

台湾人の国

台湾大手のテレビ局TVBSの世論調査は、いま選挙が行われれば完全に
国民党が勝利するという結果をはじき出した。調査では蔡氏は野党国民党
のおよそどの候補者にも勝てない。頼氏なら勝てる見込みは少し高くなる。

だが蔡氏は再度総統職に挑戦する構えを崩さない。私は蔡氏に幾度か会っ
たことがあるが、真面目で純粋な学者タイプだ。韓国の前大統領、朴槿恵
氏と少し似ている。まず、中国への信頼感が想像以上に強い。朴氏は政権
発足から2年余り、中国を信頼し、中国に頼り、日本にはつれなかった。
中国の正体をようやく理解して日本に接近したときにはすでに政権基盤が
危うくなっていた。彼女の戦略的失敗は、国内で左派勢力の増長を許して
しまった。

蔡氏は中国の要求する92年合意を拒否したところまではよかったが、中国
とは摩擦を起こしたくない、話し合いで解決したいという姿勢だった。対
中融和姿勢は、民進党の政権なのに、中国人の政党といってよい国民党の
幹部を外相、国防相などの重要ポストにつけたことにも表れていた。その
後、閣僚は交替させたものの台湾人には納得のいかないことだっただろう。

学者であったがゆえに、熟考することが多く、素早い決断ができず対応が
常に後手に回った。経済運営の不器用さに加えて、決断できないことが、
国民の支持を失ったもうひとつの理由でもあろうか。敢えていえば、勝ち
目のない総統選から蔡氏は身を引く方が台湾のためになるのではないか。
いまは己れを捨てて台湾人のための未来作りに集中するときではないかと
思えてならない。

頼氏は、自身が選挙に勝てば、台湾独立の言葉は封じつつ、台湾の軍事力
を強化し、日米印豪のアジア太平洋戦略に参加したいと述べた。TPPに
参加し、福島をはじめとする東北の産品の輸入にも道を開きたいとも語った。

米国はホワイトハウスも議会も台湾支援を明確にした。事実上の民進党支
援である。日本も同様に、台湾を台湾人の国とするための支援を打ち出す
べきである。強力な官邸主導の台湾支援戦略が必要だ。

『週刊新潮』 2019年5月23日号 日本ルネッサンス 第852回

◆足の血管にもステント

石岡 荘十


数十メートル歩くと左足がだるくなって歩行困難になる。で、数分立ち止まって休むとまた歩けるようにはなるが、またすぐだるくなる。

このような症状を専門的には「間欠性跛行」という。「跛行」はビッコを引くという意味だ。こうなった経緯については、本メルマガ「齢は足にくる」

http://www.melma.com/backnumber_108241_4132433/

で述べたとおりだが、先日、閉塞した足の大動脈にステントを入れる治療を受け、ビッコは解消し、元通り颯爽と歩けるようになった。

はじめ、「これはてっきり腰をやられた」思い込んで、近所の接骨院に駆け込んだら、「典型的な脊柱管狭窄症の症状だ」と断言する。つまり神経の管が腰のところで狭まっている疑いがあるとのことで、電気治療、針を数回やってもらったが、はかばかしくない。

業を煮やして、行きつけの大学病院の整形外科で腰のレントゲン、さらにMRIを撮ってみると、確かに、腰椎のひとつがずれているが、神経には触っていないことが確認できた。脊柱の管にはどこも狭くなっているところはない。ビッコの原因はほかにあるというのが整形外科医の診断だった。

考えられるのは、足に血液を供給する血管、動脈がどこかで狭くなっていて、血液や栄養補給が足の筋肉の運動量に追いつかないのではないか。血管の動脈硬化ではないかというのが循環器内科の医師のお見立てだった。

となると、検査法はPWV(脈波伝達速度)。両腕、両足に幅広のベルト(カフ)を巻いて四肢同時に血圧を測定する検査法である。この検査をすると、動脈の詰まり具合と動脈の硬さ(柔軟性)手足の動脈などの比較的太い動脈の高度狭窄の有無がわかる。

結果は、左足だけが標準値に遠く及ばない。病名は閉塞性動脈硬化症。左足へ行く動脈のどこかが詰まっている疑いが強まった。

血流が詰まる動脈硬化は典型的な加齢疾病だ。脳の血管が詰まれば脳梗塞になるし、心臓の血管(冠動脈)が狭くなると狭心症、詰まると心筋梗塞になる。私の場合は足にきたというわけである。

造影剤を使ったCTで診ると、左足付け根から動脈を15センチほど遡ったところで90パーセント狭窄していることが確認できた。左足へは最大、通常の7割ほどしか血が流れていない。これではビッコになるわけだ。

治療法は、脳梗塞や心臓梗塞と同じだ。血管の狭くなったところにカテーテルを挿し込んでフーセンで拡げるとか、バイパスを作るとか、etc。

心臓カテーテル室でカテーテル台に横になると、若くて美形の看護婦さんが何の躊躇もなくパラリとT字帯をはずし、左足の付け根周辺の陰毛を電気かみそりで刈る(剃毛という)。慣れたものだ。

局所麻酔の後、この治療では実績も多い腕利きの医師が、モニター画面を見ながらカテーテルを挿入。先端には、中心部に細くすぼめたバルーンを仕込んだステントがある。

ステントはステンレスで出来た金網のチューブである。これを狭窄部分まで持っていってバルーンを膨らますと、すぼめてあったステントの内径も同時に拡がって、狭窄した血管を見事に押し広げた。

ステントは内径8ミリ、長さ40ミリ。心筋梗塞の治療に使うステントは内径2ミリほどだから、それに較べると大型だ。治療時間は1時間ほど、治療費86万円、自己負担9万円ほどだった。

心筋梗塞でステントを使う治療法はよく知られているが、足の大動脈狭窄にステントを使うケースはまだそれほど多くない。

下肢(足)へ行く動脈が詰まると、下肢が腐ってしまい、痛いだけでなく、命にかかわるケースもある。そうなると「命には代えられない」とやむを得ず下肢を切断しなければならなくなる。日本では毎年1万人以上が足を切断されているという報告もある。高齢化で症例は増えている。

足にもステントを入れるという治療法は、循環器内科ならどこでもやっているわけではない。リスクもある。医師の選択には慎重でありたい。

元京都大学心臓血管外科部長・米田正始(こめだまさし)医師を中心とする研究グループは新しい血管を作って下肢切断を救う「血管再生法」という試みを行なっていて、再生医学のひとつとして注目されている。

「なんとなく足の先が冷たい」

これが、アラームだ。接骨院では治らない。専門の医師を選んで、治療を受ける必要がある。(再掲)

2019年05月22日

◆自衛隊機事故で得た違和感

加瀬 英明



自衛隊機事故で得た違和感 憲法に自衛隊を書き込むべきだ

4月に、わが航空自衛隊の最新ステルス型F35戦闘機が、三沢基地から
訓練飛行中に、青森県の日本海沖合で墜落する事故があった。

はじめの報道では、パイロットが40代の2佐(国際的呼称では中佐)とい
うことだった。尾翼が発見され、殉職した隊員が41歳の操縦幹部で、姓名
が公表された。

最新鋭の戦闘機パイロットが40代だったのは、自衛隊員の高齢化が進んで
いるからだ。

高齢化が、陸海空3自衛隊を蝕んでいる。

列国のジェット戦闘機のパイロットは、30代で引退するものだ。

若者が自衛隊に応募しないために、自衛隊は定員に満たず、陸上自衛隊を
とれば15万人の定員に対して、13万人しかいない。中隊長は旧軍では20代
か、30代だったが、陸上自衛隊では定年直前の48、9歳が、珍しくない。

高齢化は、深刻だ。3自衛隊を年齢の樹に見立てると、幹部(国際的呼称
では将校)、曹(下士官)、士(兵)のうち、曹ばかり異常に多いため
に、腹が突き出して、体を支えるべき脚が細い。

このために、自衛隊は応募の年限が28歳だったのを、昨年から32歳に引き
上げるかたわら、体重の制限も外した。

 それと並んで、防衛省は女性自衛官を増すことによって、補おうとして
いる。

 大手の保険会社が毎年行っている、青少年が憧れている職業の調査によ
ると、警察官は入っていても、自衛官が入ったことが一度もない。国民の
国防意識が弛緩しているのだ。

 私はF35戦闘機が洋上で遭難した直後に、三沢市の種市一正市長が搭
乗員の安否を気づかうことも、殉職に哀悼の意を表することもまったくな
く、陸地における墜落の危険のみを危惧して、飛行再開に反対したことに
唖然とした。

 これも、憲法に自衛隊が書き込まれていないからだ。

 もし、国軍であったとしたら、市長が国民の一人として、このような非
礼を働くことができただろうか。

 岩屋防衛大臣が、今回の訓練中の事故について陳謝したが、陳謝する必
要があったのだろうか。広報として必要であるならば、大臣ではなく、航
空幕僚長か、制服の幹部が行えばよいことだ。

 日本を取り巻く国際環境が厳しいものとなっている時に、自衛隊を鵺
(ぬえ)のような存在にしたままでいることは、許されない。鵺は伝説上の
正体不明の怪獣である。

 政府は「自衛隊は軍ではない」という詭弁を、いまだに改めないでいる
が、国民全員が自衛隊という呼称自体が欺瞞であることを、よく知ってい
よう。

 江戸時代に、禁酒を強いられていた僧侶が、般若場といって誤魔化し、
四つ足を食べてはならなかったので、猪を山鯨と呼んで、兎を鳥だという
ことにして、いまでも1羽2羽と数えるようなものだ。

 自衛隊の存在を認めたうえで、応援している国民の大多数が、「普通
科」(歩兵)「特科」(砲兵)「対地支援機」(攻撃機)「運用」(作
戦)をはじめとする、謎めいた“自衛隊特殊語”を、理解できないでいる。

 いうまでもないことだが、自衛隊と国民、軍と国民は一体でなければな
らない。

 一日も早く、継子(ままこ)となっている自衛隊を憲法に書き込み、国民
の実子にしなければならない。


◆米中貿易戦争、高関税は序の口

宮崎 正弘


令和元年(2019)5月19日(日曜日)通巻第6084号 

 米中貿易戦争、高関税は序の口、これからが本番だ
  5G開発で後れを取った米国勢、日本はお呼びではなかった

 ▲5G特許をめぐる競争は数年前から熾烈化していた。

ファーウェイ排除の前段階からの米中激突の経過を振り返ろう。

2018年春に習近平がトランプに直接電話をかけて、泣きついたとかの情報
があるほど、ZTE(中興通訊)へのインテルの半導体供給停止処分は衝
撃的かつ死活的だった。ZTEはインテルからの半導体供給が止まり、ド
ル箱だったスマホの組み立てが不可能になって倒産しかけたのだ。

ZTEはイランへの不正輸出がばれて、7年間の取引停止を言い渡された
ばかりだった。

トランプの次の手は中国への半導体製造装置の輸出禁止だった。

これで福建省晋華集成電路(JHICC)は、せっかく工場を新築したの
に、操業が不能となった。台湾から来ていた100人のエンジニアも路頭に
迷い、鳴り物入りの最新鋭工場は閑古鳥、まもなくペンペン草がはえるの
ではないか。

完全なるファーウェイ排除となれば、中国として生き残る道は部品の国内
生産しかない。半導体の自製化である。

日米はともかく、中国はスマホ、基地局の輸出先を欧州とアフリカならび
にミャンマーなどアジアの発展途上国の市場に置き換えている。東チモー
ルの山奥や、ミャンマーの辺疆へ行っても現地人がファーウェイを使って
いた光景を目撃したが、驚きである。

そのうえファーウェイは、最悪シナリオに備え、半年分の生産に必要な部
品をしずかに備蓄してきた。昨秋にぴたりと停まった日本への発注が突如
ぶり返していたのは、部品備蓄が目的だったのだ。

鴻海精密工業は董事長の郭台銘が次期台湾総統に立候補するなどと息巻い
たが、中国の主力工場から大量のレイオフをなし、インドなどへの工場移
転を発表した。また一部は台湾へ復帰するとした。

米中貿易戦争は凄まじい突風となって全中国に吹き荒れ、一部、共産党の
高官は「GDPの1%減となるだろう」と予測するが、1%ではなく、
10%の悪影響がすでにでている。中国の株式市場は暴落寸前で、5月5日
から17日までに深セン株式市場で7・5%の下落、上海株式市場で56%
の下落となった。

遅きに失したが、中国は半導体に自製化を本格的に稼働させる。なにしろ
インテルとクアルコムからファーウェイのみならず業界3位の小美(シャ
オメイ)も、廉価販売のOPPOも、半導体の供給を受けてきたのだか
ら、今後、生産が直撃弾を受けることになる。

習政権は、半導体内製化に発破をかけ、開発メーカーなどが赤字であって
も、株式市場から資金を調達しやすいように上場を急がせる方向にある。


 ▲5G特許の「出願件数」で中国は米国を抜いた

5G開発競争で、たしかに中国は「特許出願」の件数において世界最大で
ある。あくまで「出願」で、特許が「成立」した件数でないことを留意し
た上で、次の一覧を眺めてみよう。

5G必須特許出願の企業別シェアは、ドイツの「IPリッテクス社」の調
査に拠ると、

 ファーウェイ(中国)      15・05%
 ノキア (フィンランド)    13・92
 サムソン (韓国)       12・74
 LG (韓国)         12・34
 ZTE(中国)         11・70
 クアルコム(米国)        8・19
 エリクソン(スウエーデン)    7・93
 インテル(米国)         5・34

明らかに米国並びに北欧が劣勢にあり、中国の大手2社で34%強。世界の
3分の1を占める。日本企業と言えば、「まるでお呼びでない」。

 
ただし、中国勢の特許出願は基地局に関する技術が殆どである。だが、一
件優勢にみえる中国の5G開発には幾つかの深刻な問題点がある。

第一に「出願」と「成立」した特許とをよくよく吟味しなければならな
い。出願が多くとも、特許として認められるかは別の問題である。

第二に5G技術は4Gの上に成立するのである。つまり4G特許は圧倒的
に米国クラルコムが保有する上、5Gは、4G特許へのロイヤリティ支払
いを前提とする。だから中国はダミー(シンガポール籍のブロードコム)
を使って、クアルコムの買収に、史上空前の買収金額を示して乗っ取ろう
としたのだ。

土壇場でアメリカは、この中国が背後にいる野心的な買収案件に「国家安
全保障にかかわる」として拒絶するという行動に出た。
 
すでにオバマ政権時代から、中国の通信機器のスパイ行為、バックドアな
どの仕掛けによって情報が中国に筒抜けになっている「国家安全保障上の
脅威」は情報関係者から指摘されていたが、オバマ政権はなにも手を打た
なかったのだ。

米下院情報委員会は報告書を作成して「ファーウェイ、ZTEなどの通信
機器は中国のスパイ活動ならびにサイバー攻撃に悪用される可能性が高
い」と警告したため、ようやくオバマ大統領は2013年の米中首脳会談にお
いて「経済スパイ行為をしない」という合意をしたが、中国はこれをまっ
たく無視してきた。


 ▲クアルコムとアップルの特許訴訟、突如、和解へ

さらに重要な変化がアメリカで起きた。アップルとクアルコムは特許使用
料問題で深刻な特許裁判を展開していた。アップルがクアルコムの特許が
異常に高いと難詰し、合計270億ドルの訴訟を米国メーカー同士でいがみ
あい、このためアップルは5G製品の発表が出来ず、このまま行けば
ファーウェイ独走をゆるすことになる情勢にあった。

「アメリカ企業同士があらそっている場合か」と政府や議会、株主、メ
ディアから叩かれ、急転直下の和解。これでアップルの5G参入に目処が
立った。

米国企業が認識する中国の脅威とは、次期ハイテクで中国の後塵を拝する
ような事態が目前に迫り、焦燥がつのった背景がある。とくに習政権が
「2015 中国製造」を打ち上げたときに、アメリカは脅威を深刻に認識した。

2017年1月に発足したトランプ政権はホワイトハウスに特別対策室を設置
し、ハイテクに明るい専門家を急遽寄せ集めて、リストを作ってきたのだ。

当時、ホワイトハウスを訪問した加瀬英明氏から同年夏ごろに直接聞いた
のだが「技術の専門家のデスクがもの凄く増えている」。トランプ政権は
発足直後から、この問題に対応するチームを直轄してきたことになる。


 ▲世界の株式市場から時価総額250兆円が蒸発した

2019年5月10日、トランプ大統領は、追加関税増額措置(2000億ドル分の
中国製品に25%の高関税)を発表、続けて同月15日、ファーウェイへの部
品供給を事実上とめる「非常事態宣言」の大統領令に署名した。「中国」
と名指しはないが、だれが見ても中国製品の流入阻止が目的であることは
明瞭だ。

同時に米商務省は「ELリスト」を作成し、およそ68社をその対中禁輸リ
ストに挙げた。

このため株式市場は大混乱に陥った。世界すべての株式市場から時価総額
に直して、およそ250兆円が蒸発した

ファーウェイは世界68社から年間670億ドルにおよぶ部品を購入してき
た。日本からは村田製作所、東芝メモリィ、日本電産、ローム、
SONY、三菱電機など電子部品、カメラ11社、アメリカはインテル、ク
ラルコム、マイクロソフト、ブロードコムなど、じつに33社、そして台
湾と韓国からで、中国でファーウェイに部品を収めてきたのは京東方科技
集団、BYDなど25社に過ぎなかった。

むろん、米国企業をも直撃する。
 
トランプの支持基盤である中西部では穀物輸出の農家、穀物商社が輸出減
に悲鳴をあげた。サイロも、バージ船のターミナルも物流に混雑する風景
はなくなり、中国でもターミナル、コンテナヤード、倉庫に行き交う
フォークリフトの数が顕著に減少し、とくに倉庫スペースは空きが目立つ。

一度は米国復帰を宣言していたハーレー・ディビットソンは対中輸出が難
しくなるため、4月23日、ウィスコンシン州からタイへ工場移転を決めた。

半導体を供給し、中国で組み立ててきたスマホ、とりわけアップルのi
フォンは激甚な直撃を受け、米国内での販売価格は150ドルほど高くなった。

5月初旬の株価下落率でワースト銘柄は半導体のインテル(10・7%の暴
落)、化学材のデュポン(9・8%)、半導体のエヌビディア(7・
8%)、アップル(6・9%)、動画配信のネットフリックス(6・
2%)という具合だった。

アメリカも中国も高関税適用対象からライフラインのかかわる品目を外し
てきたが、とくに中国は豚肉、食料などの税率を据え置いた。報復で中国
が高関税をかけたのは、ガスなど米国以外の輸入代替国があるものに限ら
れた。

一方、米国も消費財(傘とか、スポーツシューズ、PC、スマホ)への関
税を据え置いてきたが、これらも第四次報復関税が発動すれば対象となる。

米中貿易戦争、まだまだ先の見通しが不透明だ。

◆「生きている化石」の木

渡部 亮次郎


それは「メタセコイア」。東京都江東区の都立猿江恩賜公園近くに暮らすよ
うになって20年以上経つ。その公園を毎日の散歩コースにしいたのだが、
さすが昭和天皇から下賜された公園らしく、昭和天皇が好まれていたと言
う「生きた化石」の木「メタセコイア」を沢山植えて、都民の「謝意」を
表しているようだ。

まず、公園の入り口(新大橋通り側)に横並びにメタセコイアがそろって
6本植えられ、公園のシンボルとなっている。通りを挟んで向かい側は区
立江東公会堂(ティアラ江東)である。

私が散歩して居たのは「北部」地区。1周1・1キロ。3000歩である。その途
中に、メテセコイアが数十本植えられている。木場(きば)の材木置き場
を埋めたてて公園にしたのが昭和56年と言うから、既に34年、経っている。

メタセコイアはいずれも高さ30メートル近い大木に成長している。壮観だ。

メタセコイア。学名 Metasequoia glyptostroboides
和名 アケボノスギ(曙杉)イチイヒノキ 和名アケボノスギは、英名dawn
redwood(または、学名Metasequoia)を訳したもの(ただし、化石種と、
現生種を別種とする学説もある)。

葉はモミやネズに似て線のように細長く、長さは1〜3cm程度、幅は1,2mm
程度で、羽状に対生。秋に赤茶色に紅葉した後、落葉する。樹高は生長す
ると高さ25〜30m直径1.5mになる。

1939年に日本で常緑種のセコイアに似た、落葉種の植物遺体(化石の一
種)が発見された。発見者の三木茂博士により『メタセコイア』と命名さ
れ、1941年に学会へ発表された。

当初、「化石」として発見されたために絶滅した種とされていたが、1945
年に中国四川省磨刀渓村(現在は湖北省利川市)の「水杉(スイサ)」が
同種とされ、現存することが確認されたことから「生きている化石」と呼
ばれることが多い。

その後、1949年に国と皇室がそれぞれメタセコイアの挿し木と種子を譲り
受け、全国各地に植えられているのだそうだ。

英国の種苗会社などから、インターネットで種子が入手できる。タネは直
径2〜3mmの、淡黄色のおがくず状の物で、発芽率はあまり良くないが、日
本の気候にはよく合い、生育が早いので、栽培してみる価値は十分にある。

早めにタネを入手し、1月中旬か下旬に浅鉢、浅箱などに蒔き、タネが隠
れる程度に覆土し、乾かさないように管理する。櫻が咲く頃に、徐々に発
芽してくるので、数センチになったら3寸のポットに仮植えする。

秋には30cmくらいの苗に生育する。翌春発葉する前に、定植する。苗は一
年で1m近く生育し、最終的には30〜40mになるので、株間は7〜8mは必要で
ある。

冬のソナタ。メタセコイアの並木道が登場し、ドラマのファンからはシン
ボルの一つとして扱われる。

三木町―発見者・三木博士の出身地。博士の功績を記念し、メタセコイア
を町のシンボルとしている。三木町(みきちょう)は、香川県東部に位置
する町。高松市のベッドタウンとなっている。

また香川大学医学部ならびに農学部を擁する、三木キャンパスの学生街で
もある。9月下旬に行われる『獅子舞フェスタ』で知られる。

近年、香川県農業試験場にて開発された讃岐うどん用国産小麦・さぬきの
夢2000の試験栽培が開始され、同品種の名産地として脚光を浴びている。

この事はNHK総合のドキュメンタリー番組「プロジェクトX 挑戦者たち」
第149回(2004(平成16)年7月6日放映分)にて「さぬきうどん 至高のう
まさとは」というタイトルで紹介された。              
                                
2010・6・15執筆    
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』