2008年07月17日

◆コード・ブルー

石岡 荘十

元警察庁長官・スイス大使を歴任し、退官後はドクターヘリの普及を目指すNPO「救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net)」の理事長を勤めている国松孝次さんからこんなメールが届いた。

<ヘリ救急活動のほうは、経済財政諮問会議のいわゆる「骨太の方針2008」に「ドクターヘリを含む救急医療の整備を行う」と、初めて、「ドクターヘリ」という文言が明記されたほか、フジテレビ系列で「コード・ブルー」という、ドクターヘリで活躍するフライトドクターを主人公にした帯ドラマ(毎週木曜22時から)の放映が始まり、20%を越える視聴率を稼ぐなど、いいニュースが続き、気をよくしているところです>

「骨太の方針2008」を確認するとちゃんとあった。6月27日閣議決定された“骨太方針”第5章「安心できる社会保障制度、質の高い国民生活の構築」の中の重要課題の第1番に、「ドクターヘリを含む救急医療の整備を行う」と明記してある。

その後に、「産科、小児科をはじめとする医師不足---」と、いろいろな医療問題が続いており、ドクターヘリ普及が民間NPOの運動にとどまらず、政策レベルの重要な課題として晴れて公に認知されたことになる。

よく知られている通り、オウム事件捜査のさなか、1995年3月30の早朝、警察庁長官だった国松さんは出勤のため東京・荒川区の自宅マンションを出たところで何者かに拳銃で狙撃された。

銃弾4発のうち3発が胸部や背中などに命中。

瀕死の長官は救急車で東京・文京区の日本医科大付属病院高度救命救急センター(東京・文京区)に搬送され、6時間半にわたる手術が行われた。

奇跡的に一命を取りとめた国松さんは長官退官後の1999年、スイス大使に任命される。そこで遭遇したのがドクターヘリだった。

在スイス3年半、2002年11月に帰任した国松氏は自らの体験とスイス在任中見聞きした経験から、日本での救急体制の立ち遅れを痛感、ドクターヘリの普及に精力的に動き出す。

ドクターヘリの運用主体は基本的には地方自治体だが、2001年岡山県の川崎医大大村付属病院で本格運用が始まって、現在は13道府県で14機が稼動中だ。NPOは10年以内の全都府県配備を目指している。

ハードルはカネだ。ドクターヘリの運用経費は1機当たり年間2億円ほど。国と地方自治体が折半して負担しているが、全国配備をしても200億円、国民1人200円足らず負担で実現するというのに、道路や新幹線建設には熱心だが、ヘリの1億円を捻出できないという自治体がほとんどだ。
要するに、分かっていない。

そんな中、フジテレビ系列で、ドクターヘリで活躍するフライトドクター・ナースを主人公にした帯ドラマ(毎週木曜22時から)の放映が先週から始まった。

一般にはまだよく知られていない職業に賭ける若者たちの青春ドラマという点では、4年前、海上保安官の海難救助の最前線を描いた映画(後に同じフジテレビ系でドラマ化)「海猿」と似た発想のドラマだが、今ひとつ地味な普及活動をしている国松さんら関係者としては、20パーセントを超える高い視聴率は歓迎するところなのである。

ドラマのタイトル「コード・ブルー」は救命救急センター(ER)で使用される隠語のひとつで、患者の容態が急変したことを知らせる、 緊急事態発生・至急全員集合を意味する言葉だ。

出演の人気イケメンや女優陣たちの若者の友情、愛、生命の尊さを訴えるストリーはともかく、ドクターヘリ運用が抱えるいくつかの問題点も描き出されているところは評価していい。

例えば、基地となる病院が満杯のため、1分1秒を争う現場で隊員がほかの搬送先を電話で捜す場面、夜間飛行が不可能なため日没を気にしながら現場救急に取り組む場面などだ。

いま、どこのどの病院で患者受け入れが可能か、リアルタイムで情報を現場に伝えるシステムの構築なくしてドクターヘリの機能をフルに発揮することは出来ないし、ドイツのように昼夜を問わず24時間フライトできる機体・地上設備・関係法令の整備もまた急務である。

国松さんを、まさに奇跡的に救命した日本医大高度救命救急センターはドクター40人、ナース120人が交代で24時間体制で待機し、「絶対に患者を断らないこと」をモットーにしている。しかしこんな病院は例外的な存在だ。

患者受け入れの地上の体制、つまり中小病院の統廃合もまた重い課題だ。開業医の年収は病院勤務医の1・8倍だという。ある医事評論家は、開業医の3分の1は「欲張り村の村長」だと喝破している。

こんな個人開業医が乱立している中で、とりわけ妊婦のたらいまわしが問題となっている産科、小児科の統廃合は最も困難な課題といえるだろう。

骨太方針”のお題目がどれほどの威力を持つものか知らないが、現場救急で3分の1の人が命を取りとめ、半数が後遺症から免れたという実績をみれば、例としてあげた課題の解決こそが、ドクターヘリの運用、人命救助のコード・ブルーといえるだろう。(ジャーナリスト)
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