2008年09月04日

◆スパイからの領収書


渡部亮次郎

大韓民国第5〜9代大統領朴正煕氏が嘆いたことがある。「スパイから領収書を取って来いと会計検査院(?)は言う、わが国の先は長くない」。在任中、青瓦台(大統領官邸)に招いて会談した日本政界の指導者園田直氏に打ち明けたものである。

当時、韓国政府に会計検査院があったかどうかは知らない、日本で言えば会計検査院のように「領収書」一点張りで国家予算の行方を監視する組織の事だろう。

問題は敵のスパイを懐柔するために握らせた現金(ゲンナマ)について領収書が取れるか取れないか。取れないのが常識だが、検査院は「領収書の添付されていないカネは使途不明金」との主張を変えない。

検査院とは、そういう姿勢を貫く事が大事だが、「常識」をまた認めないことには「政治」が行き詰まってしまうのも事実だ。朴大統領としては検査院が業務を厳しく遂行して欲しいが、スパイから領収書を取って来いなどと言う馬鹿げた事は言うべきでないというのが嘆きだったろう。

大手建設コンサルタント会社「PIC」によるベトナムでの贈賄事件は東京地検が8月25日、関係者4人と会社を起訴したことで、一連の捜査は終結(産経新聞26日付)。

<ベトナムでの政府開発援助(ODA)事業をめぐる贈賄事件で、東京地検特捜部は25日、不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)罪で、大手建設コンサルタント「パシフィックコンサルタンツインターナショナル」(PCI)前社長多賀正義容疑者(62)=詐欺罪で起訴=ら4人と法人としての同社を起訴した。

このほか起訴されたのは、元常務高須邦雄(65)、元役員坂下治男(62)、元ハノイ事務所長坂野恒夫(59)の3容疑者>。(同)。

東京地検特捜部の検事たちは一体、ベトナムの公務員たちが、低賃金を補うためODAに絡む多額の「賄賂」を分配し合っている実態を知った上で捜査したのか。

その実態を熟知する日本企業は賄賂の「要求」に応じる結果「落札」する。それに業を煮やした欧米企業がOECDを通じて日本外務省に「実態調査」を要求。

連絡を受けた東京地検は「仕方なし」に捜査に踏み切った、と言うのが実態じゃないか。永年、見て見ぬ振りをした外務省やJICAを責めて月光仮面づらするマスコミだけが「正義の味方」で済まされる問題では無いだろう。

起訴の結果、日本が日本人を罰する事になるけれども、ベトナム政権が役人たちを罰する事は先ず、ありえない。とすれば馬鹿を見るのは誰なのだ。「角を矯めて牛を殺す」のが「正義」とは聞いて呆れる。正義を貫くためには国益を棄てるのか。

<社会主義体制のベトナムでは公務員の権限は強いが、給与は高くない。日本の外務省によると、外資系企業の最低賃金月額80万〜 100万ドン(約6000円)に対し、公務員や国営企業職員は同54万ドン(約 3500円)。

「副収入」を求める公務員もおり、受注でしのぎを削る企業が接触機会を狙う構図だ。

毎日新聞の取材に、局長は「忙しいので何も答えられない」とだけ語った。外国公務員への贈賄を禁じた今回の不正競争防止法に収賄側を罰する規定はなく、局長が日本で罪に問われることはない。

ベトナムでは、公務員に対する一定の贈賄行為は「商慣習」ともささやかれる。ただ、今回の現金授受は道路建設を担当する市の業務管理局事務所執務室で白昼堂々と行われ、局長側が受注額の15%前後を要求したという。駐在員は「慣習といってもPCIの提供額は多すぎる。5%ぐらいが相場のはずだ」と語る。

市局長が暮らす4階建て自宅ビルは、市中心地に近い大通りに面し、玄関には防犯用シャッター。知人は「本人はまじめな印象だが奥さんは派手だ。子供2人を海外に留学させている」と明かした>(8月5日毎日新聞)

東京地検の手入れの結果、ベトナム側と日本企業による贈収賄が一旦は自粛されるだろう。日本に還るべきODAは清く正しくEU各国に流れる事になるだろう。しかし役人たちの糊口は濡れないとすればどうなるか。

贈賄の無いEU各国企業に賄賂を公然と要求するか。しかしできないとなれば、かねて手馴れた日本企業を再びターゲットにするしかないだろう。こうなれば東京地検の面子は放浪する。

大学で六法全書の暗記に身を窶し、実社会とは隔離されたような法曹の籠で「目んない千鳥」を歌っている検察庁と「有り得ぬ」領収書を求める会計検査院。一見、頭脳が良すぎて「アタマ」が不自由な秀才を連想してしまう。

その人たちに一句。「角を矯(た)めて牛を殺す」=少しの欠点を直そうとして、その手段が度を過ぎ、かえって物事全体を駄目にしてしまうこと(広辞苑=岩波書店)。2008・8・31
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