2008年11月06日

◆オバマが勝ったから

渡部亮次郎({頂門の一針」主宰)

米大統領選挙は民主党の黒人候補オバマが4日(日本時間5日)、大勝利した。2008年3月初めには私のところにも、もともとヒラリーを降せないから「オバマは大統領にはなれない」とのアメリカ情報が届いていた。だからオバマの勝利は全く以って突如として起きた経済危機の所為である。

「それでもオバマが勝てない理由」と言いふらしていたのは、アメリカの黒人保守論客シェルビー・スティールであった。「A Bound Man: Why We Are Excited About Obama andWhy He Can’t Win」の著者。

スタンフォード大学のシンクタンク・フーバー研究所の研究員で、オバマの支持者なのだが、メデイアがオバマ優勢を言う中で冷静な分析をしていた。ヒラリーの反撃を早くから予見して、最終的には民主党大会でオバマは劇的な僅差敗北を喫すると断言していた。

しかし、オバマはヒラリーを降して民主党候補に躍り出た。対抗馬は共和党の古参上院議員マケイン。ベトナム戦争で捕虜となりながら虐待に耐えた「英雄」。国家安全保障問題のベテラン、とされ、オバマは「未経験者」扱いされた。

スティールが指摘しているのは、アメリカで成功する黒人は「挑戦型」か「取り引き型」の2つのパターンだという。オバマは「取り引き型」、芸能人やスポーツ選手として白人社会に受け入れられている黒人の大半がこれに当てはまる。政治家としてはコリン・パウエル元国務長官を挙げている。パウエルは暗殺を恐れて大統領選挙への出馬を拒否した。

これに対して「挑戦型」はジェシー・ジャクソンやアル・シャープトンといった市民権運動指導者であり、政治家としてはシンシア・マッキニー、キャロル・モーズリー・ブラウンら。

オバマの弱点は「取り引き型」なるが故に、白人社会に受け入れられ人気を得るための代償として政治的な意見を言うことがタブーになり、あたりさわりのない発言しかできなくなることにある。”変革”をいうが、内容がないにはそのためだという。

選挙期間が長い米大統領選では、オバマの雄弁だけで支持者を引っ張り続けるには限界がある、とも言われた。具体的な政策・理念が欠けるというわけだった。

スティールの論評とは別だが、オバマ旋風を見ているとジミー・カーターの再来という批評もあった。ジョージア州知事だったカーターは草の根運動で支持を集め、現職のフォードを破って大統領となった。

ワシントン政治の経験がない全く無名の候補が熱狂的な支持を集めた背景には、
ウォーターゲート事件による深刻な政治不信があった。対するカーターは素人故に「在韓米軍の撤退」など、出来もしないから約束を平気で言えた。就任後あっさり撤回した。

今回、米国民はイラク介入で失敗したブッシュを見て、その失望の深さが裏返しとしての熱狂となり「最も経験のない」オバマ期待を高めているという。

秋口ごろにオバマの弁舌は冴えを欠きそうになっていた。スティールの論評が当たりそうだった。

ところが、そこへ突然明らかになったのが経済危機。「経済」が主題となればマケインとオバマに差はなくなる。経済に無為無策だったブッシュ=マケインの図式はわかりやすかった。選挙戦の終盤になって、金融危機に対するオバマ氏のリーダーシップや提案が有権者から評価され、支持率が上昇した。

ロイター電によれば、出口調査では、有権者の6割が最優先課題として経済問題を挙げた。とすれば、マケインは「お呼びでなかった?」だった。

しかし、オバマへの支持は政策ではない。ただ未知であることへの期待である。だからカーターに似ている。そのカーターは大統領として有能ではなかった。イラン革命に対応できず、政治経験のなさをさらけ出して1期で共和党に政権を明け渡した。

政治記者の先輩・古澤襄さん(元共同通信社常務理事)に教えられたことだが、「国民の熱狂というのはその程度である。だから国民が全てを決める直接民主主義は危険だと昔から考えられている」。オバマとカーターの比較論は面白い。

北米担当のわが外務官僚は「対日姿勢に大変化なし」とのコメントを首相の揚げているだろう。本当のことを言うと、中国にいびられるから言わないのだが、
オバマのアジア外交は中国に重点があり、日本にはお座なりな付き合い士かしない筈である。だから「大変化」が来る。

それでも国民を安心(油断)させるべく「大変化なし」と発表するのが「外交」。それを信ずるのが馬鹿、信じないのが国民。2008・11・05
 
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