2009年02月16日

◆毛沢東重返人間

渡部亮次郎

相変わらず北京からは外国報道陣に対する規制の報道が伝わってくる反面、毛沢東を生き帰らせてトウ小平の改革開放に腹立ちさせる小説が海外に流れるなど、上手の手から漏れる水も結構あることを知らされて面白い。

次の福島特派員は既に東京に戻っているが戻る直前に打ってきた通信である。
<【北京=福島香織】中国国営新華社通信は2007・9・10日、国務院(内閣)の決定に従って、外国通信社の中国国内における配信を新華社管理下に置き、配信内容に制限をもうけることを定めた「外国通信社中国国内配信記事管理弁法」を発布。同日から施行された。

同法では、外国通信社やそれに類するニュース配信機関が国内ユーザーと契約する場合、新華社系代理店を通すことを義務付けた。

また配信記事、写真、図表について、国家統一や主権領土の完全性を損なう▽国家の安全、栄誉を損なう▽中国の宗教政策に反した邪教、迷信の宣伝▽民族団結や民族感情を損なう▽経済、社会秩序を乱す▽中国伝統文化を損なう−などの10項目の内容を禁止。

これに違反すれば、警告ののち、通信社の資格を取り消す場合もあるとしている。国内メディアが外国通信社記事を使用する場合も同様の規制が設けられた。>(Sankei Web 09/12 00:13)

現在はどうか。
<外国人記者の取材緩和規定は、五輪後の08年10月まで。その後の揺り戻しを思うと、ひどく憂鬱(ゆううつ)になる>と産経野口東秀特派員は嘆いている。2007.10.7 02:52

あれからたった1年。以下のような「お話」が書かれた。
樋泉克夫のコラム――お笑い・おとぼけ・ずっこけ毛沢東・・・『毛沢東重返人間』(葉永烈 風雲時代出版 2002年)
中国でどのように読まれているかは判らない。7年経って日本に紹介された。

張霞は毛沢東の遺体が収められている毛主席紀念堂に勤務する女医。

夫は香港生まれの台湾育ちで香港証券公司北京事務所首席代表。たまたま2人は留学先のハーバード大学で知り合って結ばれた。

現在の住まいは北京の超高層マンションで子供はいない。彼女の父親の張豪は、北京を中心に超高級大型マンション開発を次々と手がけるやり手不動産デベロッパー。

祖父の張軍は毛沢東から強い信頼を寄せられていた身辺警護責任者。共産党長老であればこそ、様々な恩典を享受している。

いわば歴代共産党政権の“いいとこ取り”を享受する典型的な老壮青三世代一家。毛主席万々歳で改革・開放もバンザイだ。

ある冬の日の午後、アメリカ人の友人に誘われ北京郊外でゴルフを楽しんだ疲れからだろう、毛主席紀念堂2階の執務室で英文で書かれた『この目でみたソ連解体』を読みながら、彼女は寝入ってしまう。

どれほどの時間が過ぎたのか。ふと彼女の耳に、コツコツと怪しげな音が。夢か現か。目覚めた彼女が階段を降りて音のする方へ向かうと、ケースに納められた毛沢東がカッと目を見開き、ジッと彼女に見入る。

20数年の眠りから目覚めたのだ。彼女は祖父に連絡し、誰にも知られることなく祖父の家に毛沢東を案内する。

毛沢東を長患いがやっと癒えた書家の文潤之に変装させ、張霞と張軍が連れ出す。先ず北京の街をドライブだ。因みに文は毛沢東の母方の生家の姓で、潤之は毛沢東の号である。
張豪が自家用車を2台持っていることを知るや、毛沢東は「断固として改めねばならない資本主義的傾向だ」と、いきり立つ。

毛沢東の目の前に車庫から引き出された「桑塔納(サンタナ)」のハンドルを握っていたのは張霞。

「若い娘が車の運転か」と怪訝な顔つきの毛沢東に、彼女は「英語、コンピューター、車は今時の中国の若者にとって当たり前よ」と追い討ちをかける。

「20年ほど眠っていたが、まるで1世紀も後れを取ってしまったようだ」と嘆く毛沢東。サンタナはドイツのメーカーと合弁で上海で生産され、目下の中国では一般的な大衆車だとの彼女の説明に、「自力更生。独立自主という我が国工業政策の大方針に真っ向から違反している」と、トンチンカンにも心の底から不満をぶちまける。

北京の街並みは一変し、文革当時の面影は皆無。「M(マック)」や「KFC(ケンタ)」の看板に驚き、若い男女の派手な服装に眉を顰める。繁華街を歩く彼の手に若い娘がパンフレットを手渡す。

「文革の宣伝ビラ。それとも中央トップの講話かな」と喜んだのも束の間。高級マンションの宣伝ビラだった。

落胆頻り。自分と共に、周恩来、劉少奇、朱徳の横顔が並んで印刷された100元紙幣を手にし、「劉は党内外の一切の職務を解任され永遠に党籍を剥奪されたのに、なぜいま、多くの人民が使う紙幣に印刷されているんだ。

これは文革をひっくり返そうという陰謀だーッ」と激怒。当たり前の話だが、まさにKYの極致。
 
以後、故郷の韶山を訪ねては資本主義的変貌に驚き、蒋介石、江青からフルシチョフまで因縁浅からぬ人々と再会し論争し往時を語る。

ついには彼のソックリさんに見間違えられ公安まで出動する羽目に・・・。

「張先生、ぐっすりお休みでしたね」。暫しの眠りから目覚めた彼女は慌てて1階へ。やはり毛沢東は、目を閉じてケースの中に横たわっていた。

「幻想政治小説」と著者がいう『毛沢東、重(ふたた)び人間(じんかん)に返る』は激変する中国社会の矛盾を抉りだし茶化す。狂言回しの毛沢東が可笑しくも悲しい。

(ひいずみかつお氏は愛知県立大学教授。日本における京劇、華僑研究の第一人者。このコラムは宮崎正弘の「国際ニュース早読み」に独占的に連載されております)。

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