2009年04月30日
◆入院生活とトイレ
渡邊好造
知人が足首の手術で約3カ月半入院した。長期間の入院中、禁酒と病院食でかえって健康体になったという。しかし、その間ギブスをつけたまま、車椅子による移動,慣れない共同生活などで大変だったらしい。彼の話はこうである。
病院は24時間救急患者受付OK。経過は順調で、手術後半月程で次の治療患者のためにリハビリ棟に移動させられた。病棟は、4人部屋で60歳以上ばかり計56名。そのうち怪我人は10名ほど、あとは脳出血などで脳に障害が残った人、手足、言語や聴覚が不自由になった人などである。
食事が済むと「お勘定してください」と紙切れを差出す人、「オーイ、オーイ、誰か、、」と叫ぶ人、「救急車呼んでください」という人、黙って寝たままの人、ちょっと見にはどこが悪いのか判らない人など様々であった。
こうした病院生活に初めはとまどったが直ぐに慣れたし、騒いでいる人が気の毒になりできるだけ話相手になることにした。"お勘定"の人には「ここはお勘定はいらないよ」、"救急車"の人には「救急車呼んでもまたここに戻るよ」などと応対してあげると静かになる。騒いだりして看護師に厄介をかける人ほど食事時や車椅子を押してもらっている時はおとなしい。騒ぐのは寂しくて面倒をみてほしいからだそうだ。
困ったのはトイレだった。
トイレのスペースや数、設備は申し分ないが、当たり前のルールが守られないので混乱する。使用中の表示がない、ノックしても返事がない、しかしライトが点いていれば誰かいる可能性ありである。ロックできない、返事ができない、聞こえない人もいるからだ。ライトを点けず真っ暗なまま座っている人もいたし、車椅子だけが残されていたこともあった。
車椅子なしでどうして病室に戻ったのか分からない。ともかく「あつ!失礼、、」というのが何回もあった。反対にこちらの使用中、ロックしててもガタガタ無理やりドアを開けようとする人、突然ライトを消す人がいたりで、だんだんイライラがつのり始める。
病院など共同生活に適したもっといいトイレ・システムはないものか、と思いながら毎日落着かない日々が続き、あげくが便秘である。薬を飲んでも治らなかったのに、退院と同時にケロリ。まさに神経症であった。
テレビ視聴は有料(1千円で1千分のカード式)でテレビ機器を買って持込んだ方が安くつく位利用したが、嫌というほどみせられたのは”「ハゲ(育毛、かつら)」に「壁塗り(化粧品)」、「保険」に「通販」”のTVコマーシヤル、そして、その間阪神タイガースは大逆転された。
知人の入院体験談を興味深く聞いたが、なかでもトイレの話は私も知人同様場所を選ぶ方なので、他人事とは思えずとくに関心をもった。
神経質な位トイレが気になりだしたそのキッカケは、19世紀後半のナポレオンV世によるパリ都市改造前の話からである。上下水道が完成するまでのパリは、糞尿を道路中央の溝に流し、時には窓からぶちまけることもあったらしく、当時のパリ周辺は相当な臭気だったという。今では理想的な大都市でもそんなことがあったのか、それなら他の国の現状はどうなのか。
普段ひと気のない2千メートルの高地で年1回行われる3日間2万人もの祭会場、東南アジアの河川での水上生活、アジア辺境の農村地帯などなど、、テレビの旅行番組では、美しい景色やもの珍しさ、食事は紹介されるが、トイレはどこでどうなっているのか、そしてどう処理されているのか、取上げられることはまずない。
中国・北京から辺境地へ派遣された女性教師が一番困ったのは、お互いに向合うオープンなトイレだといっていたこと、世界遺産「ガラパゴス島」や「マチュピチュ遺跡」ではトイレは事前に済ませておくこと、といった風にトイレについて触れている旅行番組は極めて例外である。
昭和39年に開通した東海道新幹線の最後の課題は、トイレだったと聞いた。
一列車1600人の乗客のための配置や数、様式もさることながらその処理方式について、従来の垂流し式で時速200キロのスピードだと、周囲2キロ四方に糞尿を撒き散らすことになる。そこでタンク式と決まったが、タンクが小さいと溢れるし、大きすぎると車体の重量が増すので、停車駅毎にパイプで吸出し回収することになったという。
ともあれ、 テレビで紹介される大自然の風景や生活をみていると「良い所だなあ、行ってみたいなあ」と思うが、トイレはどうなっているのかを考えると、二の足を踏んでしまう。
知人同様に長期入院するようなことがあれば、医師の技術、陣容、機器設備もさることながら、トイレはどうなっているのかをよく調べてからにしたい。
トイレについては人間の基本問題である。日本での家庭用トイレはほぼ申分なさそうだが、共同利用システムについてはもっと研究の余地がありそうだし、旅行案内やテレビ旅行番組ではより具体的に、オープンに伝えるべきではないだろうか。(完)
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