2009年05月12日

◆巴里だより 二人称はむずかしい

   
  岩本宏紀(在仏)

あなた、あんた、きみ、おまえ、、、こういった二人称を日本人に面と向かって使うことは、ぼくの場合ほとんどない。

小、中、高では「わし」「ぼく」「俺」対「おまえ」があたりまえだった。しかし会社勤めをするようになってから、そうはいかなくなった。ふりかえるともう長いあいだ、誰に対しても「おまえ」と呼んだことがない。

せいぜいたまに、娘を「きみ」と呼ぶ程度だ。それさえも何かしっくりこない。むしろ名前で呼ぶほうがしっくりくる。

日本語は二人称が使いにくい言語だ、とつくづく思う。何故か。それは二人称を選んだ瞬間に、相手と自分の関係が明らかになるからではないだろうか。

反面、英語では常に you、フランス語では vous(ヴー) か tu(チュ) の2種類のみだ。(vousは 丁寧な言いかた、tuは親しい場合)

フランスに長く住んでいる日本人は、日本人同士でも monsieur(ムッシュー)、 madame(マダム) を使うことが珍しくない。
「ムッシュー、今日のドライバーはよく飛ぶね。」
「最近ちょっと痩(や)せたんじゃないですか、マダム。」といった具合だ。

名前の代わりにもなるし、二人称の代わりにも使える。もちろん「済みませんが」という呼びかけの代わりにもなる、大変便利なことばだ。相手の名前を失念したときには、実にありがたい。

「久しぶりですね、ムッショー。一緒にプレーしたのはもう4,5年前になりますかね。」という調子で、すんなり会話に入っていける。

日本から巴里に来た当時、行列している人同士がすぐに親しく話しだすのを見て、びっくりした。てっきり知合いかと思うほど、自然に会話を始める。

フランスのこの特技は、monsieur、madameという便利な呼びかけことばをもっていること、そして二人称が vous と tu のふたつしかないことが大きな利用ではないかと思っている。

落語には「若旦那(わかだんな)」「ご隠居(いんきょ)」「おかみさん」といったことばで会話が始まる場面が多い。21世紀の日本では、知らないひとをどう呼べばいいのだろうか。キザと思われるのを承知で ムッシューとマダムを使ってみようか。(完)


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