2009年05月23日

◆パンデミック・「新型インフルエンザ」


                  鷹野和美(医学博士)

「過剰に恐れてパニックにならず、でも楽観もせず・・・情報処理能力を高めよう!」

メキシコで発生した「豚インフルエンザ」が「新型インフルエンザ」になった。そしてそれは「パンデミック(pandemic)」な状態だ、と聞いても何が何やら、イマイチわからないという人が大半ではないでしょうか?今回は、一応、公衆衛生学を修めた研究者として、その辺のことをわかりやすく書きましょうね。

水鳥類にはもともとインフルエンザウイルスが存在します。それが家畜の鶏やその他の鳥類に感染って、さらに家畜の豚が感染して、人に感染するというのがインフルエンザのよく知られている経路です。そうして、次の段階として人から人に感染ってはじめて一般的な「季節性インフルエンザ」というわけです。別の生物に感染する都度、少しづつ姿を変えて、水鳥から人へと伝わっていくわけです。

だから、鳥インフルエンザ、豚インフルエンザは、新型インフルエンザではない!ということをまずは理解してください。その辺についてあやふやだと、「豚インフルエンザから新型になった」といわれても何のことかわかりません。東南アジア等で、それぞれ鳥と豚のインフルエンザが人に感染ったからといっても、人−人感染ではなかったから、さほど大騒ぎにはならなかったのです。

ところが、今回メキシコにおいて、豚から直接ではなくて、人から人に感染ったことが確認されたことと、子供や高齢者ではなく、若い世代に感染者も死者も多くみられるという特徴、そしてウイルスのDNA検査の結果から「亜型ウイルスによる新型インフルエンザ」と確認されたのです。

そうして、連日のテレビ報道でわかるとおり、現在のように流通機構が発達していると、数日で世界中に拡がっています。地域が限定されて感染が見られる状態を「エンデミック(endemic)」、世界的に拡がる状態を「パンデミック(pandemic)」といいます。

WHO(世界保健機関)が、「新型インフルエンザのパンデミックアラート期」として、危険度ランクをフェーズ3から4に引き上げました。パンデミックアラート期は「新しい亜型ウイルスによる人感染が発生」したことを指し、フェーズ3は「新しい亜型ウイルスによる人感染がないか、極めて限定されている」ことをいいます。そうしてフェーズ4は 「新しい亜型ウイルスによる人−人感染が増加している証拠がある」ことを指します。

今回のウイルスは「N1H1型」という弱毒性のものによる新型インフルエンザなので、過剰な心配は要らない、メキシコでのみ死者が確認されているのは、医療環境があまり良くないことと、経済状態のよくない人が早期に病院にかかれないためだと、今は云われています。

でも、変異を繰り返すウイルスなので、熱が出た、下痢気味だ、関節が痛い等の症状が出たら、なるべく早く病院へ行ってください。パニックになることが一番恐ろしい、だから冷静に対処することをお勧めします。無知ほど恐ろしいものはないので、どうか科学的に正確な情報を集めて、冷静に対処するようにしてください。

ついでに云うと、数年前から世界の国々の医学者は、ごく近い将来、N5H1型の亜型ウイルスによるインフルエンザのパンデミックな状態が起きると予測し、様々な準備をしています。ワクチンの開発や備蓄もそうですが、実は「感染列島」という映画は、それを知らせるための「政策的警告映画」だったのです。

だから、もしかしたら、近日中に「早くもテレビ放映決定」ってなことになるかもしれません。
(上記は、2009年4月28日 草稿)

■(下記は、09.年5月21日に本誌に追加寄稿)
WHOのフェーズと、毒性の強弱は無関係です。フェーズはあくまでも、疾患の拡がりの様子を表す指標に過ぎず、弱毒性であっても、今回のようにパンデミックな展開をすればフェーズは上がります。

さて、問題は罹患者に対する対応ですね。罹患者はなりたくてなったわけでは当然ありませんが、「犯罪者」ででもあるかのような雰囲気の伝え方には、大きな問題があると思います。HIVが当初そうであったように「罹患者差別」につながることが最も危惧されます。

5月20日、八王子の高校生が罹患し、高等学校の校長がテレビカメラの前で陳謝しました。「模擬国連会議に出席することは、高校生にとって非常に意義のあることだと判断して渡航させました。申し訳ありませんでした」というのですが、最後の一文は不要だと僕は思います。

これがH5N1型などの強毒性であれば、軽率のそしりは免れませんが、H1N1型であると判明した時点で、模擬会議に出るメリットと、渡航禁止にするデメリットを、冷静に判断して、渡航が優先としたのであれば、それはそれで正しい判断だったと考えられないでしょうか。

ヨーロッパでは、H1N1型と判明したとたんに、会議や出張の中止を解除しました。大きすぎる大阪・神戸の経済的・社会的・心理的損失と比べると、冷静なヨーロッパの対応には脱帽せざるを得ません。まさに「大人の対応」です。

我が国でも初期の対応を反省した舛添さんが「通常の季節性インフルと同様の対応を」と鎮静化に乗り出していますが、効果はイマイチというところです。

H5N1型等の強毒性のパンデミックに備えるという意味では、厳しすぎる対応は一種の実験だったのかなとも思いますが、あれだけ厳しい拘置等の処置でも効果がなかったことも分かりました。

マスクは予防に効果が薄いということも、やっとテレビが言うようになりました。予防の基本は、手洗い、うがいの励行という基本的行為になります。どうか、冷静で科学的に正確な対応をしてください。(完)09.05.21

・文部科学省(財)国際生涯学習研究財団 理事
・東京大学大学院医学系研究科客員研究員
・専門 疫学
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