2009年07月09日

◆外食産業の祖・北橋茂男



                   渡部亮次郎

石川県 羽咋郡志雄町浪敷5―10に「やわらぎの郷」と言って1000本もの桜(ソメイヨシノ)が咲き誇る、能登有数の桜の名所がある。

聴けばここから出て大阪で「オムライス」を生み出し外食産業の元祖といわれる・故北橋茂男(きたはし しげお)氏が建立したものである。毎年、春の開花時には大勢の人でにぎわう。

聖徳太子を祀る「太子殿」には田中一村画伯の天井画があり、京都三十三間堂をかたどった「やわらぎ堂」には人間国宝・小島与一氏とその門下による「和の姿」を表現した博多人形33体が展示されている。その他に山門、鐘楼などがある。

北橋は、こどものうちに東京に出て洋食の修業を積んだ後。神戸屋パンの前身の神崎屋で働いた。大阪で「洋食の屋台」を考案。市内を流したあと店をやっと持った。洋食屋とパン屋を併設していたから「パンヤの食堂」という屋号だった。

大正11(1922)年の創業。なにわ筋汐見橋停留所前に1号店を出店した。現在の大阪市浪速区である。

「とんかつ」も「カレー」もなんでも10銭!ホテルの朝食の10分の1で洋食が味わえる、今のファミリーレストランのようなものだった。

当時は、素うどんや銭湯が10銭だった。ホテルの朝食は1円。スエヒロのステーキは、80銭だった。

後に昭和48年8月、東京から大阪のNHKに転勤した夜、ミナミの小料理屋「唐金」に案内されたところ、女将が元「北極星」に勤務していたと自己紹介した。

北極星って何?といぶかる私に女将は「オムライスを考案したお人です」と説明した。知らなかった。

創業当時、雨具屋の小高さんという常連の客がいたが、この人、胃の具合の悪く、いつもオムレツと白いご飯を食べていた。

1925(大正14)年のある日、当時20代半ばだったアイデアマンの茂男は、「来る日もくる日も同じものでは可愛想だ」と、マッシュルームと玉ねぎを炒めて、トマトケチャップライスにしたものを、薄焼き卵でくるんだ特製料理を小高さんに出した。

「おいしいやん!なんやこれ?」と大変気に入られ、「オムレツとライスをあわせてオムライスでんな」と、とっさに答えたのが、日本にしか無い「オムライス」の誕生だった。

「唐金」の女将は小学校を終えて、親戚の紹介で「北極星」に就職。大東亜戦争の始まる1年前の昭和15年のことだった。「お蔭様で勤労動員に動員される事もなしに過ごせました」とのことだった。

その後昭和11(1936)年、難波にビルを建設、永井の命名で洋食「北極星」を開店、成功を収めた。彼の「生活の道しるべせよ北極の天に輝く明星の如く」という言葉から取られた。以後、「北極星」は、洋食屋の草分けとして大正から昭和、平成の3代に亘り、繁盛している。

ところが,ある日、焼肉の「ホルモン焼き」を調べていたら、大阪で豚や牛の内臓を「ホルモン」として売り出し、あまつさえ商標登録までしたのは北橋茂男と知ってびっくりしたのだ。元「唐金」の女将に電話して確かめた次第。

別の機会に既に書いたが、明治期の神戸の牛屠畜従事者の回顧によれば、屠畜場に残された内臓肉は彼らの重要な副収入源であった。

1906(明治39)年の「神戸新聞」には屠畜場周辺地域で、粗末な大鍋で切り刻んだ臓物を煮込んだものが1皿1銭という格安で出されており、店の前を通っただけで異臭がした。だが、夕方からは千客万来であった。

やがて内臓肉は専門業者を通して流通するようになり、都市部では屠畜場周辺以外にも低価格の肉料理として広がりはじめるが、決して一般的ではなかった。

1920年代には一時的にだが「精力が増進する料理」という意味の「ホルモン料理」の店が出来、卵、納豆、山芋などと並んで動物の内臓を出す店が出来た。

1930年代になると、一般向けにも広まった。大阪難波の店「北極星」を営む北橋茂男は1936年(昭和11年)頃に牛の内臓をフランス風の洋食「ホルモン料理」として提供し、1937(昭和12)年には「北ホルモン」の名で商標登録を出願している。

アイディアマン北橋の面目躍如といったところである。

このときの料理はホルモン(放るもん=捨てるもの)の煮込み。敗戦後他の業者たちがホルモン「焼き」で大儲けを始めた時、北橋は
商標登録のことを持ち出すようなことは「野暮」といって黙認した。

それがホルモン焼き普及のわけになった。だからこそ郷里に1000本のソメイヨシノを残すような偉業を果たしたのだ。

今になって外食産業の祖と崇められる北橋重男。人物を紹介する記事は各種の百科事典は勿論、「ウィキペディア」にもない。電話を掛け捲って突き止めたのは、生年月日=明治33年7月23日、肝臓癌で逝去したのは昭和41年2月14日。享年65(満64)だった。
2009・07・05

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