2009年09月21日

◆「運命の子」の愛犬逝く

                  毛馬一三


<本稿は「頂門の一針」(9月221日・1677号)に掲載されました。同誌には有名執筆家の卓見満載。購読(無料)御希望の方は、下記からお手続き下さい。
   http://www.max.hi-ho.ne.jp/azur/ryojiro/chomon.htm


■私たちの家族だった愛犬「もも」が逝き、この17日に初七日の法要を済ませ数日が経った。シベリアンハスキー犬の「もも」(雌)は、13歳5ヶ月、人間の年齢では95歳位に相当する生涯だった。

たしかに長寿には違いなかったが、私たちと共に過ごしたのは、僅か5年と5ヶ月。しかも「命のバトンタッチ」という責務を背負わされた、いわば「運命の子」だったのだ。そのわけは追々・・。

さて、9月11日午前、外出先から家内と帰宅すると、いつもなら病のため伏したままの「もも」が、部屋の中でしっかりと立ち上がったまま出迎えているではないか。

「どうしたの。元気になったの?」。家内が縁側のサッシ扉を開けてやると、しっかりした足取りで、一人で庭に下りて行った。寝たきり同然の「もも」が、私たちの手助け無しに昔乍らの一人歩きを始めたことに、私たちは嬉しさと驚きが交錯した。

私たちが見守る中、庭の中をゆったりと周回しながら臭いを嗅ぎ回ったあと、片隅でたっぷりと「おしっこ」をし、再び家に中に歩いて戻ってきた。

そのまま布団に倒れ寝込んで仕舞うのかと思っていたら、何と部屋を横切り、まっすぐ家内が居る台所の方に向かって歩き出したのだ。そこで異変が起きた。

台所で炊事仕事をしていた家内の側に行った「もも」は、何かいいたげな眼差しをじっと家内に投げかけ暫く佇んでいた。家内と目を交わした「もも」は、体を反転。その瞬間、そばにいた私の両腕の中に体ごと倒れこんだ。

「どうした!もも」。絶叫する私の声に驚いた家内が、「もも、死んじゃ駄目!」と声を張り上げ抱き起こそうとしたが、「もも」はそのまま息絶え、そのまま静かに逝ってしまった。私たちは慟哭しながら、心臓マッサージ、深呼吸をしたが無駄だった。

ところで、「もも」は、今年6月に「乳腺に癌の疑い」があると宣告され、以後乳腺部位の患部が日を追う毎に肥大した。消炎の抗生物質等を飲ませる一方、患部からの出血と粘液を抑えるためにナプキンを当てた晒しをお腹に巻き、3時間おきに昼夜を問わず交換した。

だが、6月ごろからは食欲が急減、体重も減った。散歩も家の周りだけを回るだけ。あとは家に引き返すと布団の中で寝たきりという状態となった。8月中旬になると、22キロの体を抱えて身を起こし、支えて外に連れ出してやらなければ、「排尿・排便」さえ出来なくなった。

医者によると、このひどい症状でも痛みの自覚はないという。しかし死期の判断は難しいとの診断だった。それなら1日でも長生きさせようと、家内は食欲減退の「もも」に新鮮な生肉やステーキ肉、ハム、レバ、パン粥などの栄養豊富な食事を好きなだけ与えた。

これを機嫌よく食べ尽くしたため、病を吹き飛ばすに違いないと信じ、「まだまだ永らえるぞ」と自ら言い聞かせたものだった。だから天国に旅立った当日の11日、スクッと屹立した姿を見た時は、快方の現れと狂喜したのだ。

なぜ、「もも」は自力で立ち上がり、庭で所要を済ませたあと台所の家内のとこへ、奇跡だとしか言い様のない一人歩きしたのだろうか。

あとで静かに考えてみると、きっと最後の力を振り絞って、家内に「別れと感謝」の気持ちを告げたかったのに違いない。しかも「運命の子の役目」を果たしたことを直接遺言したかったのではないだろうか。そうとしか思えないのだ。

何度も書く「運命の子」だった「もも」の意味は、何だったのか。

この物語は、「命のバトンタッチ」(未刊)という題名の長編小説を、既に私が書き上げている。愛犬にまつわる家族の「生き甲斐と悲しみ」のドラマ、思いも寄らぬ奇跡の展開、それに「もも」に託した「悲願」をドキュメントタッチで綴ったものだ。

さてその物語。

平成15年3月24日、我が家で初めて飼った愛犬シベリアンハスキーの「ゴルビー」(オス)が癌のため、死んだことから始まる。生後2ヶ月で我が家の家族となった「ゴルビー」は、我が家が辛い時も嬉しい時も、そして悲しい時も、いつも癒し、楽しみ、共に慰め合うまさに家族の一員だった。

「ゴルビー」の死後、もぬけの殻になった私たちに「ゴルビー」とそっくりの「もも」の存在を知らせてくれたのが、近所の愛犬家の女性だった。飼い主の会社が倒産し、公園の片隅で飼い主の男性とホームレス同然の不自由な生活を強いられているという。

そのことを祭壇の「ゴルビー」の遺骨と遺影に報告すると、「ゴルビー」が「その子の命を早く助けて!」と叫ぶ声が、家内にはっきり聞こえてきたと言う。

その夜、教えられた現場の公園に急行。飼い主と協議の上、「もも」を救出したのだ。こうして平成16年4月24日から「ゴルビーからの命のバトンタッチ」の役目を背負った「運命の子」になったのだ。8歳の「ゴルビー」と全く瓜二つの「もも」だった。

以後、子宮蓄膿症に罹るなど2回の死線を乗り越え、5年5ヶ月にわたり、家族を癒し助け合ってくれる「運命の子」の役を果たしながら生き続け、長寿を全うしたのだった。

愛犬「もも」は、3つの貴重な教訓を残して逝っている。ひとつは苦しまず、誰にも迷惑を掛けず逝ったこと。2つめは、死後に「清潔に逝くこと」を心がけ、死の直前に「不浄を済ませた」こと。もうひとつは、お世話になった家内に最後の力を振り絞って「感謝と別れ」を告げ、私に倒れ掛かって旅立ったことだ。

私たちが生を終える時は、「もも」のような終焉を迎えることが出来るだろうか。いつの日か発刊する拙著「命のバトンタッチ」のご拝読を願いつつ、合掌。(了)
                  2009.09.19

■「頂門の一針」主宰・渡部亮次郎氏からの本稿へのコメント。
  同メルマガ<身 辺 雑 記>欄に掲載されましたー。

 <太宰治は「すべての犬は人間を噛む」とおそれたそうだが、わたしもそう思う。だからどんなに小さな犬でも近付かない。これは子供のころ秋田で秋田犬にわき腹を食いちぎられたトラウマだろうと思う。

 毛馬さんの犬は噛まなかったのだろう。ちょっと泣かせる話だ。>

◆「頂門の一針」(9月221日・1677号)をご覧ください。

<目次>
・小澤幹事長の健康状態:渡部亮次郎
・小沢・李相得のパイプ:古澤 襄
・功罪半ばする鳩山内閣の布陣:古澤 襄
・アフガン新兵は記号も分からず:宮崎正弘
・武士道〜先人からの贈り物:伊勢雅臣
・「運命の子」愛犬逝く:毛馬一三

・話 の 福 袋
・反     響
・身 辺 雑 記

              


この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。