2009年10月05日

◆終焉の大切さ

               仲村友彦
<本稿は、10月6日刊の全国版メルマガ「頂門の一針」1691号に掲載されました。「頂門の一針」の購読希望の方は、末尾の手続きで。>


◆本欄掲載の毛馬一三氏の「運命の子・愛犬逝く」を読んだ。その途端、胸が打ち震え、溢れ出る涙を抑えることが出来なかった。

毛馬氏は、愛犬「ももちゃん」がこの世を去って行く時、余命の力を振り絞って飼い主の毛馬夫妻へ「感謝の意」を必死に訴えた凄まじい光景を書き綴っている。「生きとし生ける者」の最後とは、こうした「別れ」をして逝くものなのだろうか。

実は私も、まったく同様の経験をしている。とめど無く流れる涙のわけは、「ももちゃん」のことと、7年前に亡くした家内の終焉とが全く重なり合ったからだ。

7年前のこと、家内が以前から患っていた「胎癌」が終末を迎える事態となったため、掛かりつけの神戸六甲にある病院に入院させた。

入院直後に余命1ヵ月余しかないと主治医から宣告された私は、目の前が真っ暗になり、悲嘆のどん底に突き落とされた。2人で築き上げてきた掛替えのない絆は、この「病魔」によって呆気なく破滅させられるのか。胸が軋み、生きる力も途絶えそうになった。

だが刻々と死期が迫る家内に、そんな気力が失せた私を見せるわけにはいかないと考えた。家内とは最後の瞬間まで出来得る限り共に楽しく語り合いたいと願い、家内のベッドの傍に寄り添い、手を握り合って寝た。職場通勤もここからの往復に切り替えた。

夜中私に話しかける家内は、自分が居なくなったあとの暮らし方を優しく助言したり、日常品・貴重品の在り場所を書いておしえてくれたりした。入院後2週間経つと、私が傍に居ても眠り込む時が増えだし、暫くすると意識が時折途絶えるようになってきた。

3週間ほど経った9月のある日曜日のこと、「異変」が起きた。「痛み止のモルヒネ」の「点滴」をした寝たきりの家内が、なんと「外に出たい」という。六甲山の山並みが迫り、山おろしの風も吹き寄せる病室の「ベランダ」でいいのかなと思ったら、そうではなかった。

「お父さん、病院の庭に連れて行って!」と言うではないか。「草木の匂いを真近かで嗅いでみたいし、大地をこの指で触ってみたい」と説明する。主治医の許可を貰い、「モルヒネの点滴」をしたまま「車椅子」に乗せて、6階の病室からエレベーターで1階に降りた。

広々とした庭からは、六甲山の起伏に富んだ山並み一望出来、秋の日差しが降り注いでいる。庭にはハギ、オミナエシ、キキョウなど秋の七草や紅葉の木々の息づかいを確めて居るようだ。車椅子から秋の香り嗅ぐ様子を見てながら、私はこぼれる涙を止められなかった。

家内は、庭の景色を楽しんだあと、私の支えで体を屈めながら、指先で庭の草花を触り、草花の感触を楽しんだ。20分ほど散策したあと、病室にもどった。ベッドに寝かす時、満足気でこんなに晴ればれとした家内の表情を見るのは入院後初めてだった。

その数日後から家内は昏睡状態となり別の個室「集中治療室」に移された。兄弟姉妹たちも駆けつけ、別室に「仮眠室」をとって待機する緊迫した時間が始まった。

10月1日の深夜、「心電図」に異変が確認されだしたことから、主治医が家族を呼び集めた。「お母さん!姉さん!元気出せ!」と呼びかけた瞬間、昏睡の家内がゆっくり両眼を見開いたのだ。

家内はベッド横に緊張して佇む親族一人ひとりを見渡したあと、最後に私の方に向き直ってじっと見詰め、酸素マスクの下からはっきりとした声で言葉を投げかけた。「お父さん、ありがとう」。そう一言いうと再び昏睡し、3時間後帰らぬ人となったのだ。54歳の早世だった。

「生きとし生けるもの」の終焉とは、こうなければならないのだろう。毛馬氏の愛犬「ももちゃん」も最後の力を振り絞って庭に降り立ち、「不浄」を済ませた後、「自然の匂いと土の感触をたのしみ」、毛馬氏の奥方に「感謝と約束の履行」を目で訴えたのち、息絶えている。やはり、「恩義」に心から「礼」を尽くしている。

人間はもとより、生きものの「愛」とは、こんな世界なのだろう。「ももちゃん」の終焉の様子を知り、7年前のことを思い出しながら、筆を執ってみた次第。「ももちゃん」、天国に行ったら家内を探してほしいな。(完)

◆私が感涙した毛馬一三氏の「運命の子」愛犬逝くーは下記からご覧ください。
 http://hyakka.seesaa.net/article/128505213.html

◆「頂門の一針」平成21年10月6日(火)1691号の
<目次>

・眠れない時は牛乳を:永冶ベックマン啓子
・中川昭一氏の死因は?:石岡荘十
・日本は黙契・信用社会:平井修一
・中国の杜撰な文化事業:宮崎正弘
・荘厳なる 終焉:仲村友彦

・話 の 耳 袋
・反     響
・身 辺 雑 記
◆購読(無料)申し込み御希望の方は
 下記のホームページで手続きして下さい。
 http://www.max.hi-ho.ne.jp/azur/ryojiro/chomon.htm



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