毛馬一三
「頂門の一針」主宰の渡部亮次郎氏から、下記のメールを貰った。
<「トイレの水洗化率」は、1位:東京、2位:神奈川、3位:埼玉、4位:愛知、5位:大阪、6位:兵庫、7位:静岡、8位:沖縄、9位:千葉、10位:石川・・・。これはなぜか。記事になると思います>。
「トイレの水洗化率(生活排水処理)」が、都市インフラ整備のバロメータであることはわかっている。しかし各都市の順位を示して、「これはなぜか?」と質されたのには正直、戸惑った。しかもこのデータの出所も分からない。まさに「禅問答」だった。
ところがこの順位を何度も見直しているうち、ハッと気がついたことがあった。インフラが行き届いている大都市の上位順位は理解できるが、そうでもない沖縄、静岡、石川が全国都市の10位内に入っているのはなぜか。これが「なぞ解き」だったのだと思った。
早速大阪府庁に「取材」も申し入れた。どのようなデータに基づいて大阪府の生活排水処理整備施策をしているのか知りたいと要請した。府庁を訪ねると、都市整備部下水道室と環境農林水産部環境管理室の担当2部署の3人の職員が快く応対してくれた。
まず、「トイレの水洗化」を含む「生活排水処理」普及率を促進するためには、国の2通りの方針があるという。それは、
@、「し尿(トイレ)」と「生活雑排水」とを併せて処理する「合併処理槽の方式」
A、「し尿」のみ処理する「単独処理浄化槽の方式」―だという。
Aの場合は、「し尿」のみ処理するだけで、「生活雑排水」を各家庭が処理しないまま川や海に直接流し河川・海の汚濁に繋がっているため、大阪府では、@の合併処理槽の方式で府内の整備事業を進めているという。
そこで「普及率」の具体的な数値を知りたいと尋ねた所、まず示されたのは、国土交通省・環境省・農林水産省3省合同による上記Aの方式採用の「都道府県別汚水処理人口普及状況(平成20年度末)」の資料だった。
それを見た途端、驚いた。私がメモしていた「普及率」の順位とはまるで違う。
1位は東京都で99.4%、2位が兵庫県の97.8%、3位が滋賀県の97.4%、4位が神奈川県の97.1%、5位が大阪府の94.7%・・・だ。注目の静岡県は70.3%、沖縄県は77.3%、石川県は87.3%で、3県とも「10位以内」から外れている。
「この3省合同資料は、私の資料と上位都市順位でも異なるし、肝腎の3県も外れている。この理由はわかりますか」と訊いた。すると、これら普及率データは、各都道府県が提出した資料を、国が独自分析し結果を出したもので、分析手法は分からないという。
さらに驚いたことは、国土交通省が単独で公表した別の「普及率」を見せて貰ったところ、東京都1位、2位神奈川県、3位大阪府となっている。静岡県は沖縄県より「普及率」は10%近く低く、下位に位置している。早い話、省のデータ毎にバラバラだということだ。
そこで「静岡、沖縄が10位以内に入っている私持参のデータは、何処が公表したものでしょうか」と核心に迫ってみた。ところが「我が部局ではこのデータは把握しておりません。調べた上でご連絡します」ということだった。
府庁を辞して所用を済ませ、帰宅してパソコンを開いてみたところ、先の府庁職員からメールが届いていた。メールには「ご希望のデータが見つかりましたので送ります」と書いてある。環境省のホームページから苦労して探し出したという平成18年度の資料だった。
たしかに、「1位は東京都から始まり、静岡・沖縄両県が7.8位を占め、石川県が10位以内」に全く同じだ。電話を掛けて御礼を述べるとともに、環境省のデータになると、どうしてこのような「普及率」になりのだろうかと確めた。
すると、「この環境省のデータであれば、「合併処理浄化槽」と「単独浄化槽(し尿のみ処理)」の2つの方式が含まれております」という。少なくとも@方式の大阪府とは違う。
この方式で「普及率」をはじきだせば、@の合併処理浄化槽方式の方式に、「し尿」のみの浄化槽も加わるわけだから、地域の生活排水適正処理に懸命になっている生活環境政策は歪められることになる。
環境省が公表しているこのデータの裏には、何らかの意図があるとしか思えない。しかも3省共同のデータと、国土交通省のデータ、環境省のデータが各省毎にバラバラでは、国民の生活排水処理が適正に行われる筈がない。ましてやこれを任されている地方自治体が戸惑うのも目に見えている。
渡部氏の示唆は、縦割り行政の悪弊をあらためて浮き彫りにし、これを改めなければ真の下水道行政は果たし得ないことを知ることが出来た。深謝。(了)2009.10.08