毛馬一三
大阪府の橋下徹知事が、大阪府庁舎を大阪南港のWTCに移転させたいとする「新都心移転構想」は、肝腎な「移転」は否決されたが、一歩前進した。
同「新都構想」を実現する条例改正案は、実はこの2月定例府議会提出したものの、反対多数で否決された。しかしこれに黙っている橋下知事ではない。「政治生命を賭ける」と称して9月定例府議会に「移転条例案」を再提案し「意地」を見せた。
しかも、同条例案とともに「WTCを買う」補正予算案も同時提案したのだ。
ところが、徹夜を含む審議の末、WTCを購入する85億円の予算案は可決した。が、肝腎の府庁舎を移転するための条例案は、またも否決されて仕舞った。この結論だけ見比べると、両者間に「矛盾」が生じていることになる。
何故なら、高額な「住居」を買う予算は確保したが、「移転」は出来ないということだから、納税者の府民感覚からすれば、皆目分けがわからなくなる。
たしかに、「移転」と「買う」の手順が逆さまになってはいるが、よく考えると「買う」ことが先決議決された以上、「移転」を全面否定することは事実上出来なくなったことだ。
だとすれば「移転」について、府民や府議会の納得が得られる合理的な説明が完備されれば、上記の不可解な「矛盾」は解消されることになる。
実をいうと橋下知事は、今回も「移転」が可決されるとは考えていなかった。総選挙の結果を受けて知事野党の民主会派の一部が賛成に回ることは予測できても、総選挙時の知事の動向を激怒した知事与党の自公両会派が賛成する筈もなく、可決に必要な3分の2の賛成は不可能だったからだ。
とはいっても、低迷の極にある大阪再生の道付けとして、どうしてもこの「政治使命」は貫きたかった。そこで秘策を練った。今「移転」可決がだめな以上、「WTC購入」を先行させる「補正予算案」を通して欲しいという作戦だ。表立って言えないにして、もそうすれば、将来何らかの「移転」の実現性が見えてくるという仕掛けだ。
知事はこの新たな「買取先行案」の提出を各会派幹部個別に折衝して説得に回った。案の定、一部会派幹部からは、それを読まれたのか、根強い反発をうけて最終場面まで揉めにもめた。だが結局知事の「悲願」は成就した。
知事は、この一里塚を突破できた以上、目指す「新都心移行構想」へ向けて、一歩前進したと確信している。
しかも知事の腹には、この「予算」でWTCを購入したら、空きビルにする意思はない。府庁本庁舎を除き、第2分庁舎(技術部局)などの移転と、8民間ビルに間借りして年間6億円もの賃料を払っている部局(水道局等)の「部分的移転」を、すぐさま実行する腹積もりだ。
その上で、移転した第2分庁舎跡地は売却し、150億円見込まれる本庁舎の耐震強化工事費の一部に当てることも考えている。逼迫した府財政の健全化にも役立てたいという。
この部分的「移転」でも先行できれば、政令都市大阪市と共同してアジア諸国との貿易を拡大して港経済圏の創生に乗り出せると共に、WTC周辺に企業誘致とまちづくりを進められる政治戦略を描いている。
知事自身は、完全「移転」の希望を捨てては居ない。再度「移転」案を出すことは間違いない。
ただ,WTCに関して学者や専門家の中には、WTCそのものの耐震構造や地震に伴う津波防災対策等に不安を述べている。さらに「移転」に伴う経済効果はまだ白紙のままだ。しかも大阪市でさえ港湾開発に成果を上げられなかった拠点周辺だけに、ここの活性化は極めて難しいと指摘されている。ここが課題だ。
とはいえ、完璧とは言えないまでも、知事構想が一歩前進したことは事実だ。
したたかな橋下知事のことだから、これらの課題に解決策を見出し、WTCを拠点に「関西再生の起爆剤」にしたいという詳細な説明を、府議会と府民に対して納得行くまでするだろう。納得が得られれば先が見えてくる。予断は許さないが、今後に注目したい。(了)2009.10.28
◆本稿は下記のように、「頂門の一針」(10月29日 1710号)に掲載されました。
<1710号・目次>
・無為無策のKY鳩山政権:古澤 襄
・「平成維新」演説に不安が倍増:宮崎正弘
・「子ども手当」は内需拡大にもならない:古森義久
・アフガン戦争の大義はどこに:平井修一
・一歩前進の「新都心構想」:毛馬一三
・話 の 福 袋
・反 響
・身 辺 雑 記
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