2009年12月05日

◆岩手 安家川(あっかがわ)

渡部亮次郎

紅葉の季節を迎えるたび、岩手県の安家川の紅葉ほど素晴らしい紅葉は見たことは無いとつくづく思う。あの辺りを「日本のチベット」などと、昔、地元の人たちは自嘲していたが、交通が不便なだけ美しかった。観光客、ゼロ。自然が自然のまま残っていた。

安家川は岩手県の北上高地を水源に、三陸の海へと注ぐ川。全長48kmと、短いながらも高度差が1200mあり、流れも大きく蛇行するなど変化に富んだ川である。ある年の衆議院選挙の情勢取材で、岩手県北部をジープに揺られながら走った時、久慈市から安家川を遡って岩泉町に入るべく、川沿いの未舗装道を走った。

よく見れば川はイワナなどの清流を好む魚はもちろん、氷河期からの生き残りといわれるカワシンジュガイも見られる。夏、川辺の森ではミソサザイやオシドリなどの野鳥が子育てをする。夏は色とりどりの生き物であふれる安家川だそうだ。

このときは10月の終わりだったから、見えるのは風に舞い散る枯葉だけ。岩肌にへばりつくようにして生えている楢やクヌギなどのいわゆる雑木から散る枯葉が風に舞って急流に散ってゆくのの連続だった。

ジープの先が見通せないくらい舞い散る落葉。すべてが黄色と茶褐色の世界。しばし、停まって見とれた。対向車はもちろん、歩いてすれ違う人もなし。あるのは「過疎」。聞えるのは透明な川の流れだけ。

そうなのだ。岩手県は岩で出来ている。だから松や杉といった「建築材」は生える事ができない。山肌の表土は、極浅いから、いわゆる雑木しか生えない。岩手がかつて木炭の主産地だった理由はここにある。

山が岩で出来ているから、流れ下る雨水は濁らない。山は「山紫水明」なのだ。したがって岩手の山はカネにならない。炭にしかならない。加えて、急峻な山肌にへばりついて村人が育てる作物は雑穀でしかない。

紅葉が世界一の安家川。美しい紅葉は、即ち『貧しさ』の象徴のようなものだろう。しかし、岩手の人たちは人間を大事に育て、人格者を尊敬した。総理大臣を何人も輩出した。
2009・11・29

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