2010年01月05日

◆学問の神様は「政治左遷」

毛馬一三

<本稿は、全国版メルマガ「頂門の一針」(1月6日号)に掲載されました。下記からお手続きして「同誌」をご覧下さい。>

■郷里九州福岡の友人から遅れ馳せながらの「年賀状」が届いた。添え書きに、「大宰府天満宮に初詣。道真公は、学問の神様というより政治家」と記されている。謎めいた書き様だった。

筆者も、今年の初詣は、高校受験と小学校1年生進学の孫の無事達成を祈って、大阪市北区の菅原道真を祀る「綱敷天神社」を詣でた。大宰府に流される時、淀川のこの地の「梅」に目を留め立ち寄ったことを縁起とする学問の神様の神社だ。

友人の「書き添え」が気になった。菅原道真が右大臣という宮廷要職から大宰府に「左遷」されたことは承知していた。が、「左遷の背景」など全く脳裏に浮かんだことはなく、むしろ「学問の神様」として幼少の頃から崇め参拝し続けてきただけである。

ところが友人がわざわざ「学問の神様というより政治家」と、この歳になり改めて添え書きしたのは、道真が「大宰府まで流されてきたのは政治絡み」であったことを伝えたかったのではないかと考えた。

となると、道真の大宰府への「左遷」とは、秀でた「学識」に対する貴族や官僚達の妬みや、やっかみからではなく、右大臣道真である「政治家」としての暗闘の絡みがあったことを指していることになる。

調べて行くうち、添え書きが納得出来るような気がしてきた。それはこうだ。

道真は、父から天才教育を受けて育ち、862年(貞観4年)弱冠18歳で文章生に合格、さらに870年(貞観12年)26歳で国家試験に合格。祖父や父と同じく式部少輔、文章博士もつとめ、いわゆる宮廷筆頭学者として名声を博した。

こうした博学な道真に目を付けた宇多天皇が、道真を右大臣まで重用し、藤原氏を後ろ盾にしながら、有力皇親、賜姓源氏を抑え込む政略遂行に利用した。しかも宇多天皇が譲位の時、新帝への上奏と勅命旨達は、必ず道真を経るようにまでの権力を与えた。お陰で道真は、遣唐使廃止も強行している。


これらが裏目に出て、宇多天皇(その後上皇・法皇)と、譲位された醍醐天皇との政争に巻き込まれることになった。しかもこの抗争が、宇多天皇が擁護する右大臣道真と、醍醐天皇の懐刀の左大臣藤原時平と政敵になるまでに発展、宮廷内の政争は激化した。

醍醐天皇になって実権を握った藤原時平は、味方の有力皇親、賜姓源氏に加えて、藤原氏一派までも纏めて「反右大臣道真」組織を作り上げ、道真を急速に破局に追い込んで行った。

しかも道真の娘を斎世親王(醍醐天皇の弟)に嫁がせたことが、醍醐天皇を廃することを企図していることだとの噂を宮廷内に流し、道真を完全孤立化させた。

その後、昌泰4年(911)1月25日、突然道真に「太宰権帥(だざいのごんのそち)」への左遷の「宣命」が出されたのである。

伝えられる「宣命」によると、道真は、「寒門より取り立てられ大臣になったのに知足の分を知らず、専権の心を以って前上皇を欺き、廃立を行って父子(宇多先帝と醍醐天皇)の慈を離間し、兄弟(醍醐天皇と皇弟斎世)の愛を破ろうとする」となっている。

道真の左遷の報せを聞いた宇多上皇が、内裏に駆けつけ醍醐天皇との面会を申し出たが、結局叶わなかった。頼みの綱だった上皇の擁護も受けることができず、左遷は実行に移された。肝腎の道真には、一言の釈明、弁解も許されなかったという。

政敵藤原時平の完全勝利に終わったわけで、「政治左遷」が見事に成功したことになる。政争に敗れた道真は、筑紫下向に当たり、自邸の梅に向かって「東風吹かば匂いおこせよ梅の花あるじなしとて春を忘るな」と屹然と詠んだと伝えられる。

友人は、今年の初詣でこれを知り得たことから、恐らく筆者も同類であろうと考え、添え書きを寄越したに違いない。それも謎めいた書き方で。

添え書きを貰って、新たな菅原道真像が浮かび上がってきた。純粋博学な「学問の神様」と信じ込んでいた道真も、関った激しい「政争」に敗れ、九州築紫の大宰府に「左遷」させられた政治家だったのだ。(了)
参考―平凡社発行 「菅原道真」      2010.01.04

◆ 本稿が掲載された「頂門の一針」(1月6日刊・1778号)の
目次は下記の通り
<目次・1778号>
・越前大野藩の樺太開拓:平井修一
・特派員が見たシンガポール:古澤 襄
・イエーメン、戦争前夜の状態:宮崎正弘
・学問の神様は「左遷」:毛馬一三
・だまこもち食べる?:渡部亮次郎

・話 の 福 袋
・反     響
・身 辺 雑 記
◆「頂門の一針」の購読(無料)申し込み御希望の方は
 下記のホームページで手続きして下さい。
  http://www.max.hi-ho.ne.jp/azur/ryojiro/chomon.htm


この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック