2010年07月02日

◆育むを「いくむ」と読む文化人

渡部 亮次郎

育むは「はぐくむ」と読むのが普通だろうが、学者相手のある会合で、80を過ぎた高名な文化人が「先生、伸ばすといくむはどう違うのですか」と聴かれて、お茶の水大学の副学長、一瞬頭をめぐらして「育む(はぐくむ)ですか」に、今度は文化人が「?」。私はなぜか赤面した。

先の大東亜戦争に召集を受け、敗戦後に大学。パリで文化活動後もモスクワ、中国、台湾などを忙しく回っている自他共に許す文化人であり、著書も多い。それなのに「いくむ」だもの。びっくりした。

しかし、お年のせいか、その場のしらけ鳥に気がつかなかったようだったから、これからも「いくむ」と発音されるだろう。これを面と向って訂正できる人はいないだろう。かくて、文化人はまた笑われるだろう。

そういえばドイツ在住の評論家、作家のクライン・孝子さんのメルマガに「せい巻き」というのがあった。何のことだろうと考えて「席巻(せっけん)」の変換落ちだろうと推察した。そうでなければ悲しい。麻生と同じになる。

今は知らないが、昔の国会議員には酷いのがいた。おいかさらまさ予算?追加更正予算。がっぽうてきてだん=合法的手段。いっきいっかい=一期一会。いちげんいっく=一言一句。いちげんはんく=一言半句。あげればきりがない。

ある大臣は記者会見で「ろんこうぎょうしょう」を連発した。「論功行賞」は「ろんこうこうしょう」と読む。功績の有無(うむ)や大きさを調べ、それに応じて賞を与えること。「ぎょうしょう」では貰った方が赤面する。

わが大臣は旧制中学は出ていたから、常識的な日本語は記憶していただろうが暫時と漸次を取り違えて困った。暫時をぜんじ、漸次をざんじと発音するから、通訳がそのまま間違えて伝えてしまう。

旗幟鮮明をきしょくと読んじゃうし、殺陣(たて)をさつじんと読んだ。満座の前で注意するわけにも行かず、下をむいて赤面した。

通訳と言えば「海千山千」をsea thousand mountain thousandとやった外交官がいた。海・山・河にそれぞれ千年棲んだ蛇は龍になるという中国の俗信からできた言葉で、「やり手」とか「したたか者」と使われる。エリ−トはこれを知らなかった。そういう例は多い。

脱線ついでに。昔、財界人永野重雄氏がソ連首脳との会談で「朝飯まえ」と言ったら通訳はそのまま訳した。また「臍で茶を沸かす」とは可笑しいという意味だが、エリート氏は知らないからそのまま訳したからたまらない。ブレジネフから「どうやって沸かすのか」と訊かれてしまった。ご本人から直接聞いた話だ。

さて、日本のみならずどこの国でも、国会議員に選ばれたからといって、学識と教養がそれに比例するとは限らないこと当然である。むしろ学識と教養が邪魔して国会議員にならないか、なれない人の方が多い。

最近の米大統領ですら、発言中に用語の使い方や文法がおかしいと批判されている人がいたくらいだ。

それにしても合法的をガッポウテキといい、手段をテダンと教えたのはどの学校の誰先生だろうかと考えるに、おそらく小学校卒業後の独学だろうと推測した。

昔の新聞には漢字すべてに仮名を振ってあったのに、覚える時に間違えてしまえば、中年過ぎには注意してくれる人は無いから、出世して恥をかくことになる。

津軽(青森県の西側半分)出身の作家・石坂洋次郎の小説「青い山脈」で女学生宛てのラブレターを先生が取り上げていきなり「へんしい、へんしい」と誤字どおり読んで笑わせる場面がある。

もちろん恋しい、恋しいなのであるが、文字とか言葉というものは、子どものうちこそ注意してくれる人があって直せるが、大人になってからでは、誰も失礼と思うから下を向いて笑いを堪(こらえ)たまま。本人がどでかい恥を掻く事になる。まさに聞くは一時(いっとき)の恥、訊かぬは末代の恥である。

「夫妻」を「ふうさい」といって直らない会長がいる。「夫婦」は「ふうふ」だから「ふうさい」と覚えてしまったのである。そういえば朝日新聞ですら「まだ」未成年だ、などと本気で書く。漢文教育を少なくしたからこうなった。

代議士ではないが「お土産」を「おどさん」としか読めないタレントがいた。さすがにディレクターがそっと呼んで事なきを得たそうだ。NHKのアナウンサーですら「愛娘」を「まなむすめ」ではなく「あいろう」と読んだり、「春日」委員長を「はるひ」と読む。

こうしたことはその人の学識と無関係なことだから、「珍語」と打ってパソコンが「鎮護」としか出せないように、これからもいろいろあって恥をかいたり笑わせたりするだろう。(参照:岩手県立大学徳久教室ホームページ渡部亮次郎エッセイ集「オイカサラマサ」)2006.06.23

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