川原俊明
2010年9月9日、第5回新司法試験の合格発表がありました。昔の司法試験合格発表のとき、両親が喜んでくれたことを思い出しました。
ところが私たちの時と異なり、司法試験制度が変わりました。法曹の世界に、幅広い人材を送り込もう! 法曹人口を増やし、多くの国民が、法の救済を受けやすくしよう!これが新司法試験制度の目的であったはずです。
今回発表された新司法試験合格率25.4%は、制度趣旨から、大幅にずれています。 国は、法曹をめざす若者の夢を奪っているのです。
国が、いったん決めた制度・方式を、朝令暮改あるいは、猫の目のようにくるくる代わっていいものでしょうか。若者に対する国家的詐欺です。
少なくとも、新制度を公表し、それに呼応して、法曹をめざした若者に、国は最後まで責任を果たすべきでしょう。若者の夢を、つぶしてはいけません。
他にも、問題はいくつもあります。
新司法試験とは言え、それを支えるべき司法試験委員の感覚は、旧態依然たるものがあります。新司法試験制度を理解して問題を作っていません。現役の弁護士ですら、直ちに回答しかねる問題が多く、こんな問題を解かせて、法曹の世界に、幅広い人材を送り込める、とでも思っているのでしょうか。
さらには、合格者数の学校間格差を、問われています。しかし、合格者数上位校の多くは、弊害を指摘された、従来の司法試験予備校並みの体制をとっています。旧司法試験の弊害をなくすための新司法試験ではなかったのでしょうか。
新司法試験の理念のもとに、一般人を対象としたロースクールカリキュラムを組む大学が低位に留めていること自体が問題で、すべてのロースクールの学習体制を見直すべきでしょう。合格者数を誇ればいい、というものではないのです。
ロースクールの中にも、主に法学部卒業生を対象とした2年制既修コース、主に一般人を対象とした3年制の未修コースがあり、それぞれ卒業しないと新司法試験の受験資格がありません。
しかし、たかだか1年の差で、未修者の法律レベルが、既修者と肩を並べられるとは思えません。むしろ新司法試験制度を考えれば、未修者と既修者に同じ問題を提供すること自体が、糾弾されるべきです。幅広い人事を求める、といいながら、難解な法律問題を未習者に解け、といっているのですから。
ここまでくると、5年間の3回受験期限は、撤廃すべきです。若者のチャレンジ精神を国が奪ってはいけません。
さらには、せっかく、国が、一定の法的レベルありと認定した司法試験合格者の、司法修習終了後の処遇、就業確保体制を、国が真剣に考えるべきです。せっかくの人材を、国がつぶしては、日本の将来はありません。