2010年11月01日

◆失明のリスクに怯えた夏

石岡荘十

本メルマガ2068号(10月17日)で、加齢疾病のひとつ帯状疱疹に悩まされた夏の騒動を報告した。
http://www.melma.com/backnumber_108241_4996790/

今回はいま加療中のもうひとつの典型的な加齢疾病、失明のおそれもあった私の「加齢黄班変性」症例について述べる。

まず、加齢黄班変性とはどんな病気か。

眼に入った光は「角膜」→「瞳孔」→「水晶体」→「硝子体」というルートで「網膜」の上に像を結ぶ。その情報は「視神経」→「脳」に伝えられ最終的に映像として認識される。

ここまでは学校で習った。カメラに例えると水晶体はレンズ、網膜はフィルムにあたる。「黄班」は網膜の中でも視力をつかさどる重要な細胞が集中している中心部で、場所は視神経のちょっと上にある。

そこにある細胞が物の形、大きさ、色、奥行き、距離など光の情報の大半を識別する機能を持っている。その黄班の中心部である「中心窩(ちゅうしんか)」に変性、つまり異常をきたすと、視力の低下だけでなく、物がかすんで見えたり、視野の真ん中がぼやっと黒くなって見えたり、直線がぐにゃっとゆがんで見えたりする。

こんな症状を自覚したのは、昨年春、薄暗い部屋でテレビを見ていた時のことだった。70歳を過ぎてもコンサイス豆辞典を裸眼で読めた。眼には自信があった。テレビが古くなったせい、パソコン疲れかと思ったりして、丁度いい機会だとテレビを最新の薄型、デジタルに買い換えたりしてみた。が、症状は改善しなかった。どうも変だぞ---。

診察で「加齢黄斑変性」の宣告を受けたのは今年2月だった。黄斑部の機能が、加齢等の原因によって障害される疾患だった。検査で網膜の裏側にある脈絡膜から細い新しい血管(新生血管=脈絡膜新生血管:みゃくらくまくしんせいけっかん)が生えてきていることがわかった。

この新生血管は非常にもろく破れやすいため、出血を起こしたり、血管中の成分が漏れたりして、急激な視力低下の原因となっているという診断である。正確な病名は「滲出型(しんしゅつがた)加齢黄斑変性症」。視力検査では1.2あったはずの右目がなんと0.7にダウンしていたのだ。

この疾患は加齢以外の原因が明らかにされていない。このため、その発症を前もって抑えることができず、現在でもさまざまな治療法が検討されている。「おれはこのまま失明するのか」、猛暑の夏、怯えた。

従来、加齢黄斑変性症の治療では、外科的治療やレーザー治療などが行われていたが、ただ近年、「病気の進行を抑え、運がよければ病状を改善する、画期的な治療法が見つかり、急速に普及し始めている」という担当医の説明が救いだった。

その治療法は、眼球にぶっつり注射をする方法だ。注射液はノバルティス・ファーマ社(スイス)が開発・製造した商品名「ルセンティス」(一般名ラニビズマブ)。遺伝子組み換えによる薬品で、新生血管の出現を抑え、改善する効果がある。2006年アメリカFDA(食品医薬品局)とスイスで承認され、日本では2009年、去年3月から使われ始めた。初めての加齢黄班変性の治療薬である。

これを最初の3カ月間は月に1回、以降は様子を見ながら間隔を調節し、1回0.5mg を硝子体内に注入するという。だが、「眼球にぶっつり」でビビッた。この夏、眼下の敵「帯状疱疹」の治療で病院に行ったついでに視力検査をすると、右目0.63と病状は明らかに進行中であった。ルセンティスの効果は現状維持がほとんどで、治癒・改善(視力回復)の効果は希だとされている。となると、治療は早いほどいいということになる。
         
で、帯状疱疹がヤマ場を越えた9月29日、1回目の硝子体内注射を敢行。今月20日、2回目を終えた。手順はこうだ。

まず瞳孔を開く点眼をした後、歯医者にある大きな椅子に仰向けに寝る。椅子を水平近くに倒し、消毒用点眼液を注す、消毒液を生理食塩水で流す。麻酔液を点眼する、瞼を特殊な器具(滅菌開瞼器)で開く---そして注射。違和感はあるが、痛みは想像して、怯えたほどではなかった。が、脇の下と額にじんわり冷や汗が。ルセンティスをゆっくり注入する。「終わりました」とドクターの声。この間15分ほど。

片目を厚いガーゼでふさがれた“丹下左膳”である。その日は、迎えの家族の車で帰宅。翌日、朝一番でガーゼを外し簡単なルセンティス効果の確認。さらに1週間後、治療の精密評価、視力検査と言う手順だ。

結果は、1回目で視力が0.8、2回目で1.0と顕著な改善を見た。注射治療の前後3日間、抗菌点眼を毎日4回といったわずらわしさはあったが、担当医は2回目を終わったところで、「予想以上」と評価して微笑んだ。

それはそうだ。日本でルセンティス認可に先立って行われた臨床試験では症例88件中21例(23.9%)、ほぼ4人に1人が何らかの副作用があったと報告されている。主な副作用は、眼圧上昇8例、視力低下3例、眼痛3例などとなっているから、2回の注射で視力回復まで漕ぎつけた私のケースは「希な部類に入る」(担当医)成功例と言っていいだろう。
だが問題はルセンティス治療にかかる費用だ。

ルセンティス0.5mg のお値段は1本17万円と、それこそ目ん玉が飛び出さんばかりの高額なものである。3割負担で1回の請求書は5万5000円、前後の検査・診察・目薬などを合わせると1回につき6万円の出費であった。

来月半ば、3度目のルセンティスを予定している。

加齢黄斑変性症(AMD)は米国をはじめとする欧米先進国の成人(特に50歳以上)の失明原因の第一位であり、国民の注目度も高い眼疾患だとされている。65歳以上のアメリカ人の4人に1人がかかり、そのうち半数が失明しているという恐い眼病だ。

日本ではこの10年で倍増し、2008年時点の患者数は5万2000人と推定されている。失明原因第3位。病名が示す通り加齢が原因なので、年を取れば誰にでも起こりうる病気だ。放置すれば、光を全く感じられなくなるわけではないが、事実上、失明する。加齢黄斑変性症による失明は「社会的失明」と呼ばれる、と専門書には書いてある。
 
製造元ノバルティス・ファーマ社のルセンティス添付文書にはこう書いてある。

<ルセンティス0.5mg投与後、視力が維持された患者の割合は、投与6ヵ月後、投与12ヵ月後ともに100%(41/41例)でした。ルセンティス0.5mg投与後、視力が改善した患者の割合は、投与6ヵ月後で24.4%(10/41例)、投与12ヵ月後で31.7%(13/41例)でした>
http://www.lucentis.jp/m_sayo/index.html

加齢黄班変性の危険因子は何か。まだはっきりしていないが、喫煙がこれに当ることははっきりしている。紫外線を浴びる機会の多いテニスやゴルフ好きの方等は注意が必要だと言われている。伊達ではなく、サングラスをと専門医は注意を促している。

加齢黄班変性の適齢期のほとんどは年金生活者だ。運悪くかかったら、財布が持たないだろう。             20101028

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