2010年12月03日

◆周恩来・角栄会談録発見

渡部 亮次郎

38年前の9月29日は北京の人民大会堂で日中共同声明が発せられ、日中の国交が回復した記念の日である。私は当時、NHK政治部記者であり、派遣されて田中角栄総理の特別機
に同乗を許され、「現場」をつぶさに目撃した。

しかし、当時(1972年)9月25日に到着して以来4日間に亘った田中総理と中国の周恩来総理による日中首脳会談で何がどう話されたかについては、会談に同席した二階堂進官房長官が「一切発表できません」と説明を拒否。

最後に共同声明がいきなり発表されただけだった。マスコミも私も田中・周恩来会談のことは掘り起こす事もしないまま忘れていた。だが最近になってパソコンの中を遊弋していたら

<データベース『世界と日本』 戦後日本政治・国際関係データベース東京大学東洋文化研究所 田中明彦研究室>に突き当たった。
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/indices/JPCH/

[文書名] 田中総理・周恩来総理会談記録を発見して初めて全文を読むことが出来た。

[場所] 北京
[年月日] 1972年9月25日〜28日 極秘無期限となっている。30年の期限が過ぎたので 公開されたのであろう。周恩来は「武力大国にならない」とか「台湾の武力解放はしない」とか殊勝なことを言っている。

私自身は共同声明の6年後、今度は外務大臣園田直の秘書官に発令(福田赳夫総理大臣辞令)され、共同声明に謳われながら、6年間も締結のできなかった日中平和友好条約の締結プロジェクトに携わった。

しかし田中・周恩来による日中首脳会談の記録については時間的余裕が無かったし、見せてくれとも言わなかった。「極秘無期限」では外部から来た秘書官風情に外務官僚が拒否するに決まっていると知っていたからでもある。

秘書官を退官した後、わずか3年で園田は腎不全により70歳で他界した。私も別の仕事に就き、今回、ようやく「極秘無期限文書」に会うこととなった。その時すでに37年の歳月が流れていた。無念、無残也。

記録は厖大である。特に興味のある向きは下記のHPで当ってほしい。
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/indices/JPCH/

以下、概略を抜き出す。

田中総理: 台湾問題につき、問題は日本国内、特に自民党内に問題がある。私は訪中前、佐藤前総理に決意を伝えた。彼は十分理解してくれた。台湾との関係については私と大平との政治力が試される問題である。しかし、日中の長い歴史のためには、その程度の困難は覚悟している。

周総理: 何か物事をやろうとすれば、必ず反対する者が現われる。

田中総理: 私が中国との国交正常化を決意した最大の理由は、中国(共産党)が世界を全部共産党にしようなどとは考えておらず、大中国統一の理想をもっている党であって、国際共産主義の理念の下に行動しているのではないと考えたからである。

周総理: まず自分の国のことを立派にやっていくことが大事で、他国のことは他国自身が自分でやるべきだ。今後は日中関係をできるだけ緊密なものにしたい。まず、飛行機の相互乗り入れからやりたい。

田中総理: 結構である。

周恩来:日中は大同を求め小異を克服すべきであり、共通点をコミュニケにもりたい。

日米関係にはふれない。これは日本の問題である。台湾海峡の事態は変ってきているから、条約(日米安保、米華相互防衛条約)そのものの効果も変ってきている。

台湾問題にソ連の介入を許さないという点で、日米中3国の共通点がある。中国側としては、今日は日米安保条約にも米華相互防衛条約にも、ふれずにゆきたい。日米関係については皆様方にお任せする。中国は内政干渉はしない。【第1回会談】

(日米安保条約を周恩来は口を開くたびに非難していた。しかし、2ヶ月前に訪中した公明党訪問団=代表:竹入義勝委員長に対して、周恩来は、安保条約には触れない、と断言していた。知らなかったのは国民だけ)。

周総理: 日本政府首脳が国交正常化問題を法律的でなく、政治的に解決したいと言ったことを高く評価する。戦争のため幾百万の中国人が犠牲になった。日本の損害も大きかった。

我々のこのような歴史の教訓を忘れてはならぬ。田中首相が述べた「過去の不幸なことを反省する」という考え方は、我々としても受け入れられる。しかし、田中首相の「中国人民に迷惑をかけた」との言葉は中国人の反感をよぶ。中国では迷惑とは小さなことにしか使われないからである。【第2回会談】

周総理: 日華条約につき明確にしたい。これは蒋介石の問題である。蒋が賠償を放棄したから、中国はこれを放棄する必要がないという日本外務省の考え方を聞いて驚いた。

蒋は台湾に逃げて行った後で、しかも桑港条約の後で、日本に賠償放棄を行った。他人の物で、自分の面子を立てることはできない。戦争の損害は大陸が受けたものである。

我々は賠償の苦しみを知っている。この苦しみを日本人民になめさせたくない。

我々は田中首相が訪中し、国交正常化問題を解決すると言ったので、日中両国人民の友好のために、賠償放棄を考えた。しかし、蒋介石が放棄したから、もういいのだという考え方は我々には受け入れられない。これは我々に対する侮辱である。

田中・大平両首脳の考え方を尊重するが日本外務省の発言は両首脳の考えに背くものではないか。(戦時賠償を要求しないことも竹入委員長を通じて予め日本政府に伝えられていたが、当然竹入は極秘を守った)

日米安保条約について言えば、私たちが台湾を武力で解放することはないと思う。(「思う」としているところが微妙だ。不倒翁といわれた用心深さがうかがわれる)。

1969年の佐藤・ニクソン共同声明はあなた方には責任がない。米側も、この共同声明を、もはやとりあげないと言った。佐藤が引退したので、我々の側はこれを問題にするつもりはない。

したがって日米関係については、何ら問題はないと思う。我々は日米安保条約に不満をもっている。しかし、日米安保条約はそのまま続ければよい。国交正常化に際しては日米安保条約にふれる必要はない。

日米関係はそのまま続ければよい。我々はアメリカをも困らせるつもりはない。日中友好は排他的なものでない。国交正常化は第3国に向けたものではない。日米安保条約にふれぬことは結構である。米国を困らせるつもりはなく、日中国交正常化は米国に向けたものでない。

ソ連に対しては、日中双方に意見があるが、条約やコミュニケには書きたくない。日ソ平和条約交渉の問題につき、日本も困難に遭遇すると思うが同情する。北方領土問題につき、毛は千島全体が日本の領土であると言った。だからソ連は怒った。

茅台酒がウォッカより良いとか、ウィスキーが良いとか、コニャックが良いとか、そのような新聞記者が言うような問題は中国側には存在しない。【同】

田中総理: 大筋において周総理の話はよく理解できる。日中国交正常化は日中両国民のため、ひいてはアジア・世界のために必要であるというのが私の信念である。

賠償放棄についての発言を大変ありがたく拝聴した。これに感謝する。中国側の立場は恩讐を越えてという立場であることに感銘を覚えた。中国側の態度にはお礼を言うが、日本側には、国会とか与党の内部とかに問題がある。(ODAで賠償相当額を掠め取られたとの指摘にどう応えるか)

しかし、あらゆる問題を乗り越えて、国交正常化するのであるから、日本国民大多数の理解と支持がえられて、将来の日中関係にプラスとなるようにしたい。 【同】

田中総理: 自民党の中には、国交正常化に十分の時間をかけろという意見が多い。それは、中国が大きな力で統一されたが、その中国に不安をもっているためである。他の社会主義国は別として中国は日本に対し内政不干渉であるという考えが国交正常化の前提となっている。

日本の国内で、中国が革命精神の昂揚をやることはない。日中間に互譲の精神と内政不干渉、相手の立場を尊重するという原則が確認されれば、自民党内もおさまると思う。

(日中国交回復が「角福戦争」の争点となっていただけに、田中総理は今回、条約ではないから国会の批准は必要としないものの、国会での論戦よりも自民党内福田派からの反撃を強く懸念し、遂に相手国首脳に苦衷をうちあけてしまった)

周総理: その点は自信をもってほしい。【同】

周総理:経済力について言えば、中国は20世紀の末になっても、1人当り国民所得で日本のレベルに到達できるかどうか全く判らない。中国の国民総生産は昨年は1、500億ドルである。但し、サービスは入っていない。

7億の人口であるから、1人当り国民所得はせいぜい200ドルである。日本は昨年は1人当りで国民所得はいくらですか。(田中総理の説明を聞き)それでは、今世紀の末になっても、到底、日本のレベルに到達できないと思う。(人口はあれから34年が経ったとはいえ、13億人。当時の統計が不完全だったのが真相ではないか)

我々は財政上、先端的な武器は持ちえない。また軍事大国には決してなりたくない。日本がどれだけの自衛力を持つかは日本自身の問題であり、中国側からは、内政干渉はしない。

田中総理: 日本は核兵器を保有しない。防衛力増強は国民総生産の1%以下におさえる。軍隊の海外派兵はしないという憲法は守るし、これを改変しない。侵略は絶対にしない。だから日本に危険はない。

国交正常化の結果、中国が内政に干渉しないこと、日本国内に革命勢力を培養しないことにつき、確信を持ちたいというのが、大平と私の考えである。中国が革命を輸出しないということが私の最大のみやげになる。

自民党を国交正常化問題について全部賛成に回らせることが問題解決のカギである。

周総理: 我々のところでも、日中国交正常化に、少数の者が反対した。また、彼らは米中関係改善にも反対した。林彪がそうだった。また我々の方も人民に説明する必要がある。人民を教育しなければ、「三光政策」でひどい目にあった大衆を説得することはできない。【同】

周総理: 1959年6月、フルシチョフは中国との間に締結した原子力に関する協定を一方的に破棄した。インドの挑発によって発生した中印国境紛争に際しても、ソ連はインドを支持した。

フルシチョフはアイゼンハワーとの会談がうまくいかなかったので、その鬱憤を中国に向けた。

そこでソ連は対中国援助物資も提供を打ち切り、1,300余の技術者も一斉に引き揚げた。

ソ連は反面教師であり、我々は余儀なく自力更生の原則に立った。

田中総理: ソ連は日本との間で不可侵条約を結んでいながら(敗色濃厚となると日本に対し)首つりの足を引っ張ったので、日本としては、ソ連を信用していない。 (首吊りの足を引っ張る、とは角さんといわれた庶民派らしい表現だ)

周総理: 我々は日本がソ連と話をするのは容易でない、4つの島を取り返すのは大変だと思っている。【第3回会談】(この観測は正確だった)

周総理:  話が変るが過去の歴史から見て、中国側では日本軍国主義を心配している。今後は日中がお互いに往来して、我々としても、日本の実情を見たい。

田中総理: 軍国主義復活は絶対にない。軍国主義者は極めて少数である。戦後、衆議院で11回、地方の統一選挙が7回、参議院が9回選挙をした。革命で政体を変えることは不可能である。また国会の2/3の支持なくして憲法改正はできない。 日本人は領土の拡張がいかに損であるかをよく知っている。

日本人は現在、2人づつしか子供を生まない。このままでいけば、300年後には日本人がなくなってしまう。日本を恐れる必要はない。

田中総理: (日本列島改造計画を説明し)軍国主義復活のために使う金はない。 (土建屋上がりと揶揄された所以の発言。カネが別のところに掛かりすぎるから軍事大国にならないとか、少子化傾向だから危険が無い、との発言は経済大国日本の代表としては少々情けない)

周総理: 日本は核戦争にはどのように対処するのか?ソ連は核戦争禁止、核兵力使用禁止を提唱しているが、これは人をだますペテンであるから、あばく必要がある。

核非保有国がソ連のペテンにかかる恐れがある。

彼らは核兵器の禁止を口にするが廃棄するとは決して言っていない。これはペテンだ。ソ連に対する警戒心を失えば、ソ連にやられてしまう。

田中総理: 日本の工業カ、科学技術の水準から、核兵器の製造ができるがやらない。また一切保有しない。 【同】

田中総理: 尖閣諸島についてどう思うか?私のところに、いろいろ言ってくる人がいる。

周総理: 尖閣諸島問題については、今回は話したくない。今、これを話すのはよくない。石油が出るから、これが問題になった。石油が出なければ、台湾も米国も問題にしない。 【同】(なぜ良くないのか。後に!)小平もこの手口で逃げた。禍根はここに始まっていたのか)

周総理: 私は日本の社会党より、ひらけている。社会党は「非武装」をやかましく言うから、日本が自衛力をもつのは当然ではないかと言ってやった。

田中総理: それはどうも。【同】

田中総理: 台湾問題につき、問題は日本国内、特に自民党内に問題がある。私は訪中前、佐藤前総理に決意を伝えた。彼は十分理解してくれた。

台湾との関係については私と大平との政治力が試される問題である。しかし、日中の長い歴史のためには、その程度の困難は覚悟している。

周総理: 何か物事をやろうとすれば、必ず反対する者が現われる。

田中総理: 私が中国との国交正常化を決意した最大の理由は、中国(共産党)が世界を全部共産党にしようなどとは考えておらず、大中国統一の理想をもっている党であって、国際共産主義の理念の下に行動しているのではないと考えたからである。

周総理: まず自分の国のことを立派にやっていくことが大事で、他国のことは他国自身が自分でやるべきだ。今後は日中関係をできるだけ緊密なものにしたい。まず、飛行機の相互乗り入れからやりたい。

田中総理: 結構である。【第4回会談】

抜書きは以上である。翌日、共同声明に調印。周恩来も同乗して上海を訪問。(歓迎に出た張春橋は、後に「4人組」の1人として処断された。)共同声明から4年後に周恩来、毛沢東が相次いで死去。復活してきた!)(とう)小平が、1978年には資本主義経済導入に踏み切った。

その結果、100万ドル以上の資産を持つ中国人ミリオネアは25万人に達するという時代になった。

「今世紀の末になっても、到底、日本のレベルに到達できないと思う。我々は財政上、先端的な武器は持ちえない。また軍事大国には決してなりたくない。日本がどれだけの自衛力を持つかは日本自身の問題であり、中国側からは、内政干渉はしない」といった周恩来の見通しも約束もすべて空文と化したことを痛感するのみである。田中・周恩来会談はひょっとして幻だったのか。【文中敬称略】

◆上記特稿は、12月3日(金)刊「頂門の一針」2112号に
掲載されました。他の卓見もご欄下さい(編集部)

<2112号・目次>
・周恩来・角栄会談録発見:渡部亮次郎
・大改造か内閣総辞職と真紀子節炸裂:古澤 襄
・2年後の総統選挙は50vs50の可能性:宮崎正弘
・三島由紀夫の死をみつめて:加瀬英明
・中国と北朝鮮は「悪の枢軸」:古森義久
・生活大革命を断行:平井修一
・話 の 福 袋
・反     響
・身 辺 雑 記

◆購読(無料)申し込み御希望の方は
下記のホームページで手続きして下さい。
 http://www.max.hi-ho.ne.jp/azur/ryojiro/chomon.htm


この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック