2011年04月18日

◆「愛国の花」とデヴィ夫人

渡部 亮次郎

渡邊はま子の歌った「愛国の花」がインドネシアのスカルノ元大統領の好きだった歌として有名になったのは、深田祐介(ふかだゆうすけ)が1970年代に小説『神鷲(ガルーダ)商人』で取り上げてからだった。


「神鷲(ガルーダ)商人」深田祐介著は 文春文庫。

昭和33(1958)年、インドネシアに対する賠償協定が調印されたのに目を付けた日本商社は、巨額の利益を求め画策する。その翌年、日本を訪れたインドネシア大統領スカルノは、ナイトクラブで美貌の歌手、根岸直美を見初める。戦後の日本、アジア関係の原点となる賠償に巻き込まれた人間たちのたどる数奇な運命。

インドネシア大統領第三夫人となった直美は、異国での軋轢に傷つきながらもスカルノの愛情を励みに、確固たる地位を築き上げていく。一方、彼女を利用し、巨利を貪り続けようとする日本商社の思惑と、それをめぐる男たちの野心は何をもたらしたのか。果たして、戦時賠償はインドネシアを救うという神鷲だったのか。

ここで「直美」として描かれているのが、当時、東京・赤阪のクラブ「コパカバーナ」でホステスをしていた根本七保子である。

<翌年、日本を訪れたインドネシア大統領スカルノは、ナイトクラブで美貌の歌手、根岸直美を見初める>と小説では描かれている。そこで2人の心を急速に近づける鍵が「愛国の花」なのである。

<スカルノは立ちあがり、部屋の隅のピアノの傍に歩み寄って、2番の歌詞を直美と一緒に、正確な日本語で歌い始めた。>

<2.老いたる 若き もろともに
  国難しのぐ 冬の梅
  かよわい力 よくあわせ
  銃後にはげむ 凛々しさは>

「新版 日本流行歌史(中)」社会思想社 1995年1月発行によると、「愛国の花」は昭和13(1939)年春の歌。作詞福田正夫、作曲古関裕而(独学)。この年、日本放送協会(敗戦後、NHKと名乗る)の「国民歌謡」として渡邊はま子が歌って好評を博した。

そこでコロムビア・レコードが5月に制作・発売、大ヒットした。4年後(1942年)11月には松竹(大谷松次郎、竹次郎双子の会社)が、これを主題歌にして「従軍看護婦の愛の物語」の映画が作られた。戦意高揚の歌より、叙情歌の方を兵隊たちが歌ったのは明日をも知れぬ命を歌ったからではないか。

「愛国の花」の作詞者の福田正夫は「日本の民衆派の先覚として早くから純粋詩壇で活躍した人」として知られた。

主宰者自身としては、生まれて2年後の歌なので、戦時中、7つ上の姉が歌っていたのを聴いた覚えはあったが、ピンと来なかった。

深田の小説「神鷲(ガルーダ)商人)を読んで、大学生の頃、当時の岸信介首相が対インドネシア賠償で、社会党から国会で汚職臭を追及されていたことを鮮明に思い出す。しかしインターネットで「木下産商」と引いても、もはや該当するものは無かった。

スカルノが日本の歌「愛国の花」を歌えたのは、彼のオランダからの独立運動を援助した日本陸軍の将兵が歌っていたのを覚えていたからで、根本さんがこの歌を知っていたかどうか。

この独立運動については畏友で国際問題評論家の加瀬英明氏が小説「ムルデカ」を執筆している。

小説『ムルデカ 17805』
加瀬英明 [著]

自由社〔電話:03-5976-6201.112-0005文京区水道2-6-3〕
2001年5月5日発売
ISBN: 4-915237-28-1
価格: 1600円(税別)

【解説】
インドネシア独立のために、戦った日本人兵士たち
1945年、日本敗戦−−−そして、もうひとつの戦いが始まった。「ムルデカ=独立」の気運が一気に沸き起こるインドネシア。

しかし間もなく、オランダ、イギリスが、再びこの国を統治下に置くべくインドネシアに来攻、独立戦争が勃発した。島崎の教えを受けたインドネシアの青年たちは、真っ先に独立軍に身を投じた。

元日本兵島崎たちは戦犯として、オランダ軍に捕らえられ拷問を受ける。「青年道場」の教え子たちを助けたいという気持ちと、部下を日本へ復員させる責務との間で苦悩する島崎。

やがて、捕虜虐待の罪を着せられ、宮田は処刑されてしまう。遺言は「インドネシア独立に幸あれ」。インドネシアの同志たちの手で奇跡的に救出された島崎は、彼らとともに戦うことを決意する…。

加瀬氏は「日本の多くの青年がアジアを白人の手から取り戻すために生命を捧げた。それがアジアを大きく動かし、大戦後、植民地解放の嵐となって全世界に吹き荒れたのである」という。

スカルノは戦いの先頭で「同僚」日本人たちの歌う「愛国の花」を独立運動の心として歌っていたに違いない。


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 愛国の花

  福田正夫 作詞
  古関裕而 作曲

 1.真白き富士の けだかさを
 こころの強い 楯として
 御国につくす 女等は
 輝やく御代の 山ざくら
 地に咲き匂う 国の花
     
2.老いたる 若き もろともに
 国難しのぐ 冬の梅
 かよわい力 よくあわせ
 銃後にはげむ 凛々しさは
 ゆかしく匂う 国の花

3.勇士のあとを 雄々しくも
 家をば子をば 守りゆく
 優しい母や また妻は
 まごころ燃ゆる 紅椿
 うれしく匂う 国の花

4.御稜威(みいつ)のしるし 菊の花
 ゆたかに香る 日の本の
 女といえど 生命がけ
 こぞりて咲いて 美しく
 光りて匂う 国の花

(註) 御稜威=「みいつ」の尊敬語。天皇・神などの威光。強い御威勢。
(広辞苑)


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