2011年10月19日

◆臍(へそ)で沸かした茶

渡部 亮次郎

相手がフルシチョフだったかブレジネフだったか忘れたが、永野重雄さんの話である。言わずと知れた新日鉄生みの親。長いこと日本商工会議所の会頭として日本財界の牽引車であった。1984年5月4日逝去。

生前の永野さんが出かけて行ってソビエト(当時)首脳と会談した際、つい日本人相手の心算で「そんなことお安い御用。朝飯前です」といったら相手はキョトン。日本側通訳(在モスクワ日本大使館)が直訳したものらしい。

永野さんは広島のお寺に育ったスポーツマン。軽妙、洒脱な人。ついまた「お茶の子さいさい、臍で茶を沸かす」とやった。それを又直訳したから、今度こそ相手が聞いてきた「臍でどうやって茶をわかすのか」。

「だからねぇ君、通訳というのは相手の国の言葉よりも自分の国のことを良く知ってないとには使い物にならんよ」と言っていた。

そういえば針鼠(危険に逢えば体を丸めて回避する)を山嵐(敵に対して身体を振って音を出したり刺したりする)と誤訳して日米間で火種になったことがあった。

日本外務省の通訳もそうだが、外国語に通じる人は勉強一筋。学問は一流だが、冗談は通じないうタイプが多い。まして緊張していれば朝飯前といった古い言葉や、普段耳にしない動物の名前など、訳がわからない場面があっても、やむを得ない。

考えてみれば日本から遠く離れた国は気候、風土が違うから、住んでいる人間の性格や哲学が違う。樹木や動物も違っている。それらを厳密に区別しながら、相手と理解を深め、且つ、仲良しになる事は大変なことなのだ。

或る時ワシントンDCへ行くのにニューヨークから列車に乗ったことがある。車窓から眺めていると葉が次第に黒さを増してゆく木が何本もあるのに気づいた。フランスにも多かった。

途中、フィラデルフィヤで下車。待っていたアメリカ人の友人と久しぶりに会った。ねえ、あの木はなんという木かね」と聞いたら「あれはジャパニーズ・メイプルと俺たちは呼んでいるよ」。なんとモミジはアメリカでは葉っぱが黒くなるのか。

李(スモモ)も梅も杏(アンズ)も英語ではプラムで統一。李を塩漬けしても日本では梅干とは言わない。家人は杏は大好きだが梅は生では食べない。

日本では「雨降って地(ヂ)固まるというが、中国にはその種の言葉は無い。中国では雨降って固まる地はない。降れば流れて黄河になるか。黄河の水はもとから土色だったのだろうか。

そうやって中国のことを書いた本を読んでいたら驚いた。商売で相手を騙して逃げることも「方便」だと書いてある。中国は広いから逃げたら捕まらないからだそうだ。
2011・10・17

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