2012年01月09日

◆病院の手術実績を隠す学会(下)

石岡 荘十


【一人前の外科医が育たない日本】

日本胸部外科学会の坂田隆造理事長(京都大学心臓血管外科教授)は理事長就任挨拶(2011年11月)の中で「日本全国で行われる胸部外科手術のほぼ全例の成績を含めて掌握している事実は驚くべきことだ」と自画自賛している。

なるほど、業界の利益を優先する団体としては施設の実態を掌握する上で意味があるかもしれない。しかし、患者サイドから見ると、900を超える心臓手術施設のうちお任せできるところは10ヶ所に過ぎない、残りは “危ない病院”であることが明らかになった。

また、患者5人に一人が亡くなるようなところが心臓手術の看板を掲げている現実が明らかとなり、その意味で「驚くべき」調査結果だった。

また、942の施設のうち464ヶ所の調査結果をもって「ほぼ全例の成績を含めて掌握」と評価するのは、いかがなものか。残る半数以上の施設の実態はどうなっているのか。

調査に回答した病院・施設よりもっと酷い状況に置かれている。だからアンケート調査の対象にもなっていない、と考えるのが普通だろう。にもかかわらず学会は患者の一番知りたい情報を公開しないのである。これでは何のための調査か。

日本胸部外科学会は、若い外科医を育てるため466の施設を「修練施設」としている。このうち、さらに年間手術実績100例を超える332施設を「基幹施設」とし、ホームページでその名前を公開している。http://cvs.umin.jp/inst_list/inst.html

「ここなら安して手術を受けられます」というつもりのようだが、今回のアンケート調査の結果と照らし合わせてみると、年間100例以上をこなす施設は、実は300も無く、精々その半分くらいに過ぎないのではないかと疑われる。この数字の食い違いを学会は説明すべきだろう。

それでも、日本胸部外科学会は「日本の手術成績は欧米に較べて決して悪くない」と胸を張る。しかし、心筋梗塞など冠動脈手術で6時間、大動脈瘤手術で10時間以上という手術も行われている。

心臓手術はいわばティーム医療であり、執刀医(術者)の他に麻酔医、看護師、臨床工学士、事務職員など大勢のスタッフが関わっている。手術が下手な執刀医ほど時間がかかる。

結果、これらのスタッフを長時間拘束することになるので、医療経済から見ると効率の悪い医療が平然と行われているのである。

一人前の外科医を育てるためには多く時間と経費がかかる。しかし、日本の心臓手術現場の現状を見ると、こんな環境の中でプロと呼ばれる名医を育てる可能性は限りなく小さい。

これでは時間と金(医療費)をドブに捨て続けているようなものではないのか。また患者の命が無駄に失われているのではないかという懸念は拭えない。

その最大の原因は、多過ぎる専門医と乱立する施設を野放しにしていることにある。専門医の数は異常に多く、中小の病院が手術の必要な患者を奪い合う中で患者が犠牲になっている可能性を否定できない。

心臓血管外科専門医認定機構は発足した2004年当時、済世会宇都宮病院の心臓血管外科医だった木曾一誠医師が「手術症例数と施設数、本邦での問題点」と題する論文(『慶應医学』・81・2)を発表している。

この中で木曾医師は「施設数も過剰で一施設あたりの症例数欧米に比べきわめて少ないために専門医になるための修練も必ずしも満足できるものではない」と述べている。

その上で、厚労省による「施設基準」の縛りがむしろ「黒船」となって、改革が促進されることを願っている、と問題を提起している。しかしあれから7年経ったいまも、状況は一向に改善していない。

厚労省は昨年末やっと「専門医のあり方検討会」をスタートさせたが、日本胸部外科学会は、その結論が出るとされる2012年度末まで、「黒船」という名の“外圧”がかかるまで、この問題を放置し続けるつもりなの
だろうか。

このままでは日本では一人前の心臓血管外科医は育たない、患者がリスクにさらされている。              20120106

この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック