2006年02月01日

◆タバコ増税とある喫煙者の嘆き  

             眞鍋 峰松(評論家)
  
タバコの原産地はアメリカで、これがヨーロッパに伝わったのは1492年コロンブスのアメリカ発見以後。 日本に伝わったのが慶長10年(1605年)だというから大体、百年内外でヨーロッパを通過し、東洋の涯の国に届いたわけである。 
 
そして、これは海音寺潮五郎の「日本歴史を散歩する」という本の中で紹介されていた話だが、当時、ヨーロッパにおいても日本においても、タバコは薬になると信じられていたそうだ。 

だが、慶長14年にタバコが禁止された。その理由というのは「タバコは食欲を減じ、牌胃をそこなう害があるのみならず、大へん火の用心が悪い。爾今、吸うことを禁じる」ということで、ここ最近の法律まで制定しての禁煙騒ぎと大同小異の制定理由と言えよう。
 
私も喫煙家である。一日20本位だから、喫煙者としては「並み」の存在というところであろう。しかも、禁煙試行・失敗が数度という経験の持ち主だから、別段、喫煙の確信犯ということでもない。喫煙の際には、周囲の人々に迷惑の罹らぬように気を使いながらの喫煙者でもある。 

それでも、敢えて言いたい。 今も昔も、この禁煙令は、もともと無理な法令である。一旦ついた喫煙の習慣は、容易なことで止められるものではない、と。 
  
また、来年度の税制改正では、更なるタバコ増税が計られそうであるが、これには、同様にやはり抵抗を感じざるを得ない。何故なら、そこにはもろもろの物品への税負担に一番大切なバランス感覚の欠片も感じることができず、喫煙の習慣性に着目し、何よりも取れる所か取ろうか、という安易な増税感覚がミエミエという気がするからである。
  
面白いことに、私のような感覚の持ち主は昔にも存在していたようで、同じ本の中に 書かれていた話なのだが、関ケ原の合戦直後、薩摩に伊集院大膳という老武士がいた。
 古傷にタバコが良いと聞き、吸い始めたのが習慣になり、無類のタバコ好きになった。
 
この老人が偶然に横目(藩の目付役)の目前で喫煙し、相手の取締りに当たる身分を知らずに言った言葉。「さよう。厳しい取締まりでごわすな。しかし、一体、お上はどういうつもりでいなさるでごわすかな。法というものは立てられた以上、必ず行われなければならんものだ。行われん法があると、その法だけでなく、他の法まで軽んずる心を、民に生じさせ、ひいては、お上の権威を軽視する心を生じさせてくる。それ故に、古来名君といわれる方々は、行われそうもない無理な法は立てられなかったものでごわす。 

ところが、このタバコ禁止の法は、無理も無理、途方もない無理な法でごわす。わしは、天下の政道をとっていなさる方々の御量見のほどが、てんでわかりませんじゃ」

「ホウ、横目殿でごわすか。これはこれは。こうなる上は、いたし方ごわはん。いい訳はつかまつらん。しかし、武士として、縄目の恥を受けることは出来ん。この場で切腹いたすから、御検視をお願い申す」。
  
この武勲高い老武士の扱いに困ったのは主君、薩摩義弘。結局、わけの分らない理由で、この事件をもみ消してしまったとのこと。

薩摩・鹿児島といえば、今日では歌にも唄われるほどのタバコの葉の名産地。それがこの話を残しているのは何よりの皮肉だが、私がこの話を読んだ時、まず思い出したのはアメリカの禁酒法を巡る混乱。ギャングの横行とその顛末。 
  
周知のようにこの禁酒法、後世から悪法の見本視される結果となっているが、結局、本人の趣味・好みを法により規制することには少なからず無理があり、敢えて言えば、同じ嗜好に属する物品であっても、麻薬取締りなどのように社会的に認められる合理的
な規制理由が必要ということになろう。 
 
また、この老武士が指摘している重要な視点に通じるのが、自動車への制限速度の規制。 日本全国の高速道路・主要幹線道路を問わず、あらゆる日本の道路を走る自動車で、果たして制限速度内のみで走行している台数は何割であろうか。 
 
また、違法駐車の問題もしかりである。果たして、これらの交通法規の違反者にどの程度の犯罪意識があり、罪の意識があるのだろうか。怪しいものである。
  
私も、現下の交通事故発生件数や死傷者等の状況を考えれば、スピード違反・違法駐車取締りの重要性を軽視するものではないが、それでも、この老武士の「法というものは立てられた以上、必ず行われなければならんものだ。行われん法があると、その法だけでなく、他の法まで軽んずる心を、民に生じさせ、ひいては、お上の権威を軽視する心を生じさせてくる。」という言葉に妙に説得力を感じるのは、私だけであろうか。
  
やはり、制限速度などは万人が認める程度の危険速度を想定すべきだろうし、駐車違反も場所をもっと限定し、決めた以上は違反者を例外なく検挙するくらいのものでなければならないのだろう。 (了)
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