2012年01月25日

◆危ない“心臓外科専門医”(上)―B

石岡 荘十


〜これでいいのか、日本の心臓手術体制〜

◆驚きの結果が出た日本胸部外科学会のアンケート調査

これを裏付けるデータがある。

日本胸部外科学会が2004年、会員である病院に対して大規模なアンケート調査を行った。この中で現場の医師に「心臓血管外科医がどの程度、手術に関わっているか」を聞いたところ、次のような驚くべき現実が浮き彫りになった。

<胸部外科医になるために最も重要な術者(執刀医)として手術するチャンスは、卒業後6年未満では63%の外科医が月1回未満であり、37%の外科医は全くメスを握る機会がない。卒業6〜9年のチーフレジデントクラスで最も集中的な心臓外科手術トレーニングが必要な層でも42%の外科医が月1回未満の術者となる機会しかない。さらに16%の外科医は術者の機会がまったくない>

つまり、医師免許を取得して9年未満の外科医のうち、月に1回の執刀チャンスにありつける医師は半分以下でしかなく、残る大半の外科医は月に1度もメスを握る機会がないということだ。

名医となる条件は、いかに多くの成功経験と失敗経験を重ねてきたかにかかっていると言われる。しかし、実態は、駆け出しの外科医(といっても医師免許を得て10年近く)には30歳半ばまで手術に必要な実績や最低限のスキルの習得・維持する機会がないということだ。

多くの成功・失敗経験を積むことなど夢のまた夢である。プロ野球で言えば、選手になって10年間、月に1回しか登板のチャンスがあるかないかだ。これでは外科医の卵が一人前のプロの心臓外科医に育つ可能性は限りなく小さくなってしまう。

この結果についての日本胸部外科学会の受け止め方はこうだ。

<手術技術が高度化して行く中で、若手外科医が早くから術者として手術修練を積むことができない現状を考えると、胸部外科にかかわる日本の国際競争力が益々低下していくのではと危惧される>
現状では、国際競争力どころか国内の「需要」に応え得る戦力になることさえできないだろう。

心臓血管手術は、いわゆるチーム医療であり、普通、執刀医のほかに2〜3人の助手が必要だ。日本胸部外科学会はそれも勘定に入れて、心臓血管外科外科専門医の必要数を1000人程度と試算している。

しかし「神の手」を持つと言われ、現役バリバリの心臓血管外科外科医である東京ハートセンター(東京・品川)の南淵明宏センター長は「(助手を勘定に入れても)日本で必要な実数はその半分、500人程度で充分」と言い切っている。

もっと厳しい見方をすれば、現実は専門医1742人中、「毎年100例以上の手術を執刀するプロと呼べる外科医は100人ほどしかいない」(南淵医師)という。

前述の日本胸部外科学会のアンケート調査でも、半分以上の外科医が「専門医の必要数は200人ぐらいだ」と答えている。いずれにしても1000人以上の“危ない外科医”が、手術実績を積み、スキルを習得・維持する環境にないばかりか、訓練を受ける機会もないまま、野放し状態になっていると言っていい。(続く)



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