石岡 荘十
〜危ない専門医を“粗製濫造”する専門医認定機構〜
◆ところが、である。
南淵明宏医師が一昨年暮れまで病院長を勤めていた病院の治療実績を見ると、2010年の手術は505例。このうち440例(87%)が「他院からの紹介」となっている。要するに、他の病院で手に負えなくなった重症患者を引きとって手術をしてきたという意味だ。
この中には2度目、3度目の心臓手術という患者も少なくない。初めての心臓手術に比べ死亡率で2・3倍といわれる難易度の高い重症患者である。例えば最初の手術で臓器が癒着しているケースが多いため、これを丁寧に剥がしていかなければならないからだ。
心臓大血管を傷つけるリスクも高くなるから、月間2〜3例というような未熟な外科医の手には負えない。都心の立派な大病院でもてあました重症の患者がつぎつぎと搬送されてくる。いわば難易度の高い患者手術の最後の砦となった。
胸に違和感を覚えて病院へ行くとまず循環器内科の診察を受けることになるのだが、お飾りで心臓外科の看板を掲げているような総合病院では、最初に患者を診る内科医は自分の病院の外科医が“危ない専門医”であることをよく知っているので、難しい手術が必要と判断すると、自分の病院の外科医には患者を任せず、他の心臓専門病院に患者を回すところもある。
中には他県の大学病院で手に負えなくなってヘリコプターで患者の手術を引き受けたこともあった。そんな見栄で心臓外科の看板を出していても、まともな手術は出来ない病院にとって、ブラック・ジャックはいまでも尻拭いをする貴重な存在なのである。
心臓血管外科専門医認定機構の分類によると、心臓血管手術と一口に言ってもその難易度によってA、B、Cの3ランクに分けられている。誤解を恐れずに言えば、簡単な心臓治療(A)は内科医、難易度の高い複雑な重症患者(BとC)は外科医、という棲み分けが出来つつある。
例えば、心臓病全体の3分の1を占める心筋梗塞は、この分類ではAの「動脈血栓摘除術」で、いまやその多くを内科医がカテーテルで治療に当っている。外科医の出番は確実に少なくなっている。
筆者が12年前に経験した弁膜症、「大動脈弁置換術」はB、つまり心臓手術としては「難易度は中程度」とされているが、いまやこの分野でも、開胸手術によらずカテーテルを使って弁を人工の機械弁に置き換える手術に成功したという報告(大阪大学)もある。
まだ国内での成功症例は少ないが、海外の先進諸国では、カテーテルによる弁置換の症例が増え始めている。近い将来、外科医による大動脈弁置換術に代わって内科によるカテーテルを使った術式(経皮的大動脈弁形成術)が主流となると予想する専門家も少なくない。
(続く)