2012年02月18日

◆墜ちる人工衛星

渡部 亮次郎


1977年11月、NHK国際局(当時)副部長から福田赳夫内閣の外務大臣(園田直=そのだ すなお)の秘書官に発令された。NHKとは体質が合わないと思っていたので、喜んで応じた。

翌年1月に初外遊に同行、モスクワに向かった。まだ健在だった「ソ連」との外相定期協議に出席したもの。

そこから帰国。あさってからは中東各国歴訪に出発だと覚悟を決めて羽田空港に着陸した途端、有田外務事務次官が飛び込んできたから驚いた。「ソ連の人工衛星が墜落して来る」との報告。

人工衛星の墜落は現在では珍しいことではなくなったようが、その時は初めてのことだったので驚いたわけだ。

「それでどうしますか)と大臣。

有田さんは落ち着いたもの。「まだ墜落予想地点が分かりませんから、地点が確定するまで“極秘"にいたします」で終わり。マスコミといえども○○○桟敷。発表はそれから1週間後ぐらいだった。

結局、カナダ国内の山地に墜落が確定したからだった。その時はイラン、アラブ首長国連邦、サウディアラビアなど石油産油国を回っていたので記憶がはっきりしない。

いずれにしても外務省が握る外交機密は、政府が発表しないかぎり国民は知らない、ということなのだ。官房長官のオフレコ懇談などで洩れる事はあるが、それ以外に洩れることは殆ど無い。

そういう観点からすると毎日新聞政治部記者(当時)西山太吉氏によって引起された、沖縄返還に絡む「外務省機密漏洩事件」は特殊な例だった。女性事務官が絡んだものだったからである。

<佐藤栄作内閣下、米リチャード・ニクソン政権との沖縄返還協定に際し、公式発表では米国が支払うことになっていた地権者に対する土地原状回復費400万ドルを、実際には日本政府が肩代わりして米国に支払うという密約をしているとの情報をつかみ、毎日新聞社政治部の西山が社会党議員に漏洩した。

政府は密約を否定し、逆に、東京地検特捜部が、起訴状において、西山が情報目当てに既婚の事務官に近づき酒を飲ませた上で性交渉を結んだと述べ、情報源の外務省女性事務官を国家公務員法(機密漏洩の罪)、西山を国家公務員法(教唆の罪)で逮捕した。

これにより、報道の自由を盾に取材活動の正当性を主張していた毎日新聞はかえって世論から一斉に倫理的非難を浴びることになった。

西山が逮捕され、社会的に注目されるなか、密約自体の追求は完全に色褪せてしまった。また、取材で得た情報をニュースソースを秘匿しないまま国会議員に流し公開し、情報提供者の逮捕を招いたこともジャーナリズムの上で問題となった。

この事件の後、西山の所属した毎日新聞社は、本事件での西山のセックススキャンダル報道を理由とした不買運動により発行部数が減少し、全国紙の販売競争から脱落。また、オイルショックによる広告収入減等もあり、1977年に一度倒産した。

以後、大手メディアの政治部が国家機密に関わる事項についてスクープするということがなくなった(リクルート事件をスクープしたのは政治部ではなく社会部)。

裁判においては、検察側は国家機関による秘密の決定と保持は行政府の権利及び義務であると前提付けた上で、報道の自由には制約があると主張し、国家公務員法の守秘義務は非公務員にも適用されると主張した。

また、報道の自由がいかなる取材方法であっても無制限に認められるかが争われたが、前掲の理由により最終的に西山に懲役4月執行猶予1年、女性事務官に懲役6月執行猶予1年の有罪が確定した。

なお、一審判決後、西山は毎日新聞を退社し、郷里で家業を継いだ。

< 2005年4月 、西山が「国家による情報隠蔽・操作が容易にできることを裁判を通じて国民の前に明らかにする」として国家賠償請求を東京地裁に提訴。

2010年4月9日 。密約訴訟判決。東京地裁(杉原則彦裁判長)は「国民の知る権利を蔑ろにする外務省の対応は不誠実と言わざるを得ない」として外務省の非開示処分を取り消し、文書開示(本当に存在しないなら“いつ” “誰の指示で” “どの様に”処分されたのかも)と原告一人当たり10万円の損害賠償を国に命令。

西山は文京区民センターでの講演『知る権利は守られたか』でこの判決を「歴史に残る判決」と評価し、「われわれが裁判を起こして今回の判決を導き出していなければ、外務省の外部有識者委員会による報告書が密約問題に関する唯一の解明文書となり、国民の知る権利は封殺されていただろう」と述べた。

なお、行政訴訟では一審で勝訴したものの事件には関係ないため自身の有罪判決は変わらないが再審請求は「全く考えていません」>
                    < >内は「ウィキペディア」

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