2012年06月14日

◆自民党は撤回でなく「棚上げ」で妥協せよ

杉浦 正章

 

統治者を軽んじ、これに変わって支配者になろうとすることを 「鼎(かなえ)の軽重を問う」と言う。税と社会保障の一体改革をめぐる永田町の論議はまさにそれが問われている状況だ。国家財政の危機が目前に迫っているのをそっちのけで、野党も民主党内も「命をかける」とする首相・野田佳彦を突き上げ、揺さぶっている。政策の政局化である。


成否の鍵を握る民主党内の反対派は「増税先行」を御題目のように唱えているが、見当外れもいいところだ。野田はちゅうちょせず自信を持って消費増税という“大義のボール”を抱えて突っ込む時だ。ゴールはすぐそこ、あした(15日)にせまっている。自民党もここは突っ張るべきではない。妥協に動くときだ。



要するに消費増税法案とマニフェストのいずれが重いかということであろう。野田が13日の政府・民主三役会議で、自民党の社会保障制度改革基本法案について「党の考えを盛り込んだうえで修正して共同提案するよう努力してほしい」と指示した。自民公明両党が期限とする15日までの合意を目指す。


昨日の記事で指摘したように自民党案には「マニフェスト撤回→民主党かく乱→分裂か解散か」という“劇薬”が盛られている。これを野田があえて承知で妥協しようとしているのは、まさに「虎穴に入らずんば虎児を得ず」の例え通りだ。野田は消費増税法案の成立と、マニフェストの重さを量って「虎児を得る」決断をしたのだ。一方、小沢グループを中心とする反対勢力は、ただひたすらマニフェスト死守の構えだ。



しかし焦点となっている最低保障年金制度も後期高齢者医療制度の廃止も、死守するに値するものだろうか。まず最低保障年金はマニフェストに掲げたこと自体がフェークなのだ。紛れもない偽物なのだ。


というのも、年金制度などは改革までに5年10年の月日が必要であり、現に同制度の導入は40年後なのだ。それを民主党議員らは総選挙で政権が交代すれば明日にでも7万円が支給されるような虚言をばらまいて有権者の支持を得た。一種の公約詐欺である。


元代表・小沢一郎は臆面もなく13日「なぜか肝心かなめの年金制度が忘れ去られ、捨て去られようとしているのが、今日の状態だ。これでは国民の理解を得られない。原点に返ろう。初心を思い起こそう」と発言したが、柳の下にドジョウは2匹いない。二度にわたる公約詐欺に国民がだまされるとでも思っているのだろうか。
 

後期高齢者医療制度の撤廃も同様だ。名前が発足時に高齢者を馬鹿にしているという世論の批判が根底に在り、それに民主党が乗ったいわばポピュリズムの象徴だ。制度を運営する後期高齢者医療広域連合や,保険料の徴収を行う市町村などは、いったんスタートした制度を一朝一夕に廃止することに猛反対している。これも死守するに値しない問題ではないか。


要するに反対派は「政局」のための材料として両制度を“活用”しようとしているにすぎない。おまけに反対派は両制度への妥協を批判して「増税先行は許されない」(小沢)と主張するがこれもピントが外れている。なぜなら「税と社会保障の一体改革」の内容を理解していないからだ。


税は言うまでもなく消費増税法案だ。社会保障は子育てや非正規社員の待遇改善などであり、これらは修正協議で合意へと進んでいる。与野党協議の社会保障と両制度撤回問題とは別次元の問題なのであり、自民党があえて「政局化」を狙って持ち出した“時限爆弾”なのだ。
 


したがって、野田が野党との間で両制度で妥協に動くことは何ら問題はない。ましてや、将来世代に借金の付けを回さず、事実上の社会福祉目的税的に導入しようとしている消費増税法案は、現段階ではあらゆる政策より重いものである。絶対に誤謬(ごびゅう)のない“天使の秤(はかり)”とまでは言えないが、これを選ぶ“野田の秤”も大局観のあるものだ。野田は「丸のみ」と言われようとここは突っ走るときだ。


一方野党は求めすぎるべきではない。仕掛けて作る「政局」には必ず無理が生じて自分へと跳ね返る。ここは民主党が乗ることを決めた自民党の「国民会議」に両制度を棚上げすべきだ。撤廃に固執すれば「政局化」することは可能だが、自民党も賛成する消費増税法案を置き去りにしてよいのか。


同法案が成立すれば政局の流れは解散・総選挙へと動かざるを得ない。責任政党なら卑しげに要求を次々につり上げて、政局化を目指すべきではない。ここは自民党も表現上の譲歩をして、「両制度撤回」を断念して事実上の「棚上げ」で妥協して合意を達成すべきだ。与野党はいまこそ「決められない政治」を前に進めるときだ。


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)
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