2012年07月03日

◆小沢の新党結成は無理がある

古賀 攻


青票(反対票)を投じ終えた小沢一郎・民主党元代表が、すぐ後ろで白票(賛成票)を入れた渡部恒三・民主党最高顧問と笑顔で言葉を交わしていた。「宮沢(喜一)さんの時を思い出すなあ」という会話が聞こえてきそうな光景だった。

1993年6月、2人は野党提出の宮沢内閣不信任決議案に白票を投じ、自民党を飛び出した。直後の衆院選を経て細川連立政権を樹立。自民党1党支配の歴史に終止符を打ったこの事件は、2人にとって最も思い出深く、かつ輝かしい戦績だろう。

ただ、今回は違う。あらゆる意味において、元代表が得意としてきた権謀術数まみれの古い政治は通用しなくなっている。

 ◇政党政治の底抜け

焦点の消費増税法案では、民主党議員が反対票を投じるたびに拍手がわき起こった。その数57人。欠席・棄権した15人を含めると、民主党の造反者はほぼ4人に1人という規模に膨らんだ。

大半が小沢グループの議員であり、鳩山由紀夫元首相のグループに属する議員も6人が反対に回った。3回にわたる記名投票が終わって投票結果が読み上げられると、野党席から「野党に協力させておいて何だ、これは」と野次が飛んだ。

 確かに奇妙な話だ。

議会政治の頂点に立つのは首相である。その首相は議会の多数派によって選ばれる。多数派を形成するのは政党の役割だ。極論すると、政党は自らのリーダーを首相に押し上げるために存在している。

野田佳彦首相が一体改革の実現に「政治生命を懸ける」と意気込むのと軌を一にして、反消費増税の勉強会「新しい政策研究会」(新政研)を発足させ、子分の囲い込みに励んできた。採決で「数の力」を見せつけ、政局の主導権を奪い返すのが至上命題だった。

こうして衆院本会議場は、各党各派のどろどろした打算と思惑が渦巻く戦場と化した。

焦点の消費増税法案では、民主党議員が反対票を投じるたびに拍手がわき起こった。その数57人。欠席・棄権した15人を含めると、民主党の造反者はほぼ4人に1人という規模に膨らんだ。

大半が小沢グループの議員であり、鳩山由紀夫元首相のグループに属する議員も6人が反対に回った。3回にわたる記名投票が終わって投票結果が読み上げられると、野党席から「野党に協力させておいて何だ、これは」と野次が飛んだ。

 確かに奇妙な話だ。

議会政治の頂点に立つのは首相である。その首相は議会の多数派によって選ばれる。多数派を形成するのは政党の役割だ。極論すると、政党は自らのリーダーを首相に押し上げるために存在している。

ところが、元代表や鳩山氏は同じ党の中にいながら、党首の政治生命を奪い取る行動に出た。しかも、脅しの材料として破綻が明らかな09年マニフェスト(政権公約)を活用しているのだから、政党政治の底が抜けてしまっている。

民自公3党の合意に代表される政治の大きな流れは、民主党の質的変化を伴いながら、「小沢抜き」の権力形成へと向かっている。元代表に同調した造反議員たちは、この権力再編劇から振り落とされた勢力だ。

同時に、過去に何度も繰り返されてきた小沢流「瀬戸際戦術」が今後も奏功するとはとても思えない。

まず「増税の前にやるべきことがある」という元代表側の主張は怪しい。「シロアリ退治が先だ」とも訴えているが、どこにいるシロアリを退治したら、10兆円規模の財源が出てくるのか、元代表から説得力のある説明を聞いたことがない。政権交代すれば16・8兆円の財源が確保できると幻想を振りまいたマニフェストの焼き直しである。

 ◇致命的な『文春』の記事

消費税をめぐる元代表のご都合主義については、自民党の森喜朗元首相がこんな暴露をしている。

「平成19年秋、福田康夫首相に大連立を持ちかけた際、小沢は僕に何と言ったと思う? 『日本を救うためには大連立しかない。消費増税を言った政党が選挙で負けるような国は良くないんだ。だから一緒にやろう』。こう言ったんだ。(中略)それが今になって『消費税増税反対』なんてチャンチャラおかしいだろ」(『産経新聞』5月5日付)

元代表にとって、政策は政局の従属物でしかないようだ。

さらに決定的なのは、『週刊文春』(6月21日号)による「小沢一郎 妻からの『離縁状』全文公開」の報道だ。元代表の和子夫人が東京・深沢の小沢邸から転居したことは広く知られていたが、別居に至った心境を岩手の後援者あてにつづったその手紙は、衝撃的な内容であふれてい
た。

核心部分は、福島第1原発事故の直後、元代表が「内々の放射能の情報を得た」として秘書とともに東京から逃げ出そうとしたとの記述である。

評論家の立花隆氏は翌週の『文春』(6月28日号)で「小沢は、自分の選挙区を大災害が襲ったというのに、なぜ被災地に10カ月も入らなかったのか。(中略)和子夫人の手紙を読み、疑問は一気に氷解した」と書いている。

この手紙が本当に和子夫人直筆のものなのか、どういう経路で流出したのかは分かっていない。しかし、法案採決を目前にした報道というタイミングから判断すると、何らかの政治的な意図があったと考えても良さそうだ。

6月20日には、民主党議員ほぼ全員の事務所に一斉に手紙のコピーが郵送される事件まで起きた。差出人は不明で、都内複数の地点から投函されていたという。

追い詰められるとかえって攻撃的になるのが、元代表の行動パターンだ。法案採決を前に手勢を集め、ばたばたと「離党届」を書かせたのは焦りの裏返しであろう。

「新党」構想が綿密に準備されてきた形跡はない。それを裏付けるように、元代表は「俺が新党の代表だとまずいだろうから、民間人を立てるか」と冗談交じりに語っているという。

(毎日新聞政治部長) 【週刊エコノミスト 7月10日号】
2012年07月02日
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