2006年11月9日の午前3時過ぎ、アメリカから大きなニュースが入ってきた。予想されたとはいえ、ブッシュ大統領がラムズフェルド国防長官を更迭したのだ。中間選挙での敗北をうけ、イラク政策の軌道修正に取り掛かることを具体的に示したものだ。
<【ワシントン=山本秀也】ブッシュ米大統領は8日午後(日本時間9日未明)、ホワイトハウスで記者会見し、ラムズフェルド国防長官(74)が辞任したと発表した。
イラク政策が争点となった中間選挙での共和党が敗北し、民主党からの批判が強まることを踏まえた事実上の更迭だ。後任にはブッシュ前政権で中央情報局(CIA)長官を務めたロバート・ゲーツ氏(63)が指名された。
ブッシュ大統領は、選挙戦の争点だったイラク政策について「素早く、うまくいってはいない」と認めた。イラクを含むテロとの戦いで、米軍最高指揮官としての職責を果たすため、国防総省の首脳人事を決断したと語った。
ゲーツ氏の新長官就任は、上院公聴会の同意を得て発効する。根回しのため、大統領は同日、上下両院の民主、共和両党首脳に同氏の指名を伝えた。
イラク政策で批判の高まるラムズフェルド氏について、大統領は今月1日、ロイター通信などに対し、政権2期目が終わる2009年1月まで留任させると語っていた。この報道を受け、民主党からは同氏への更迭要求がさらに強まっていた。
記者会見での説明によると、大統領は選挙戦終盤の5日にテキサス州でゲーツ氏と会談。さらに7日にラムズフェルド氏と会い、今回の人事で合意していた。
大統領執務室での指名会見で、ゲーツ氏はテロとの戦いで米国の安全を確保する使命を強調し、「公務復帰に関する大統領の要請受諾をためらわなかった」と語った。
ラムズフェルド氏はフォード政権で国防長官を経験し、現政権の発足で再び同じポストに就いていた。ゲーツ氏はCIA要員として情報畑を歩み、大統領の父の政権で1991年から93年までCIA長官を務めた。>(Sankei Web 11/09 03:50)
今回の共和党敗北は予想されていたことであった。いや、イラク戦争云々だけではなく、いわば「恒例」でもあるからである。この点を、信頼すべき古森義久氏(産経新聞ワシントン駐在記者)は9日の朝刊で次のように指摘している。
「再選された大統領(ブッシュ)の2期目の中間選挙(今回)は与党(共和党)の後退が激しいと言うサイクル的な軌跡がある。保守の強さを発揮したレーガン大統領の時代でさえ2期目の中間選挙では民主党に上下両院の過半数を奪われた。>
日本のTVや新聞を見ていると、いよいよ民主党の時代か、と思わされるが、そうではない。大統領はそのまま、つまり政権交代ではないし、議会では日本と違って法案に対する党議拘束は殆どないから、ブッシュ政権としては、今後議会工作に手間がかかるけれども、何もかにも行き詰まりと言うわけではない。
日本で社会党党首村山氏を首班にした政権ができた時、欧米のメディアはそろって「日本に社会主義政権誕生」と報じた。「しかしこれは自民党に支配された政権だから社会主義政権の誕生なんかではない」と私はニューヨーク・タイムズに投書して掲載されたものだ。
同様に日本人特派員はワシントンで、日本の政界を見るような目でアメリカ政界を見る癖が抜けない。ある記者は「米外交、袋小路の危機」と打ってきたが、ブッシュが大胆な戦略転換をすれば袋小路云々は空文化する。日本と違って新しい国だから転換が出来るのだ。
中国への通商政策の変化に注目する必要はあるが、日本として慌てるべき事は何も起こってはいない。
読売新聞の貞広貴志ワシントン特派員も指摘している。
「レーガン大統領は1986年の中間選挙で上院の過半数を失いながら"悪の帝国"視したソ連に圧力を掛けながら交渉に臨み、冷戦を終結に導いた」。ブッシュはあと2年で何をやるか。民主党は2年後の大統領選挙を目指して纏まれるか、だ。
変化はある。しかしやってくるのは緩やかに、という受け止め方をしておいたらよかろうと思う。2006.11.09