2006年12月01日

◆命の恩人


                   毛馬一三

<談合事件で逮捕された知事が辞職することに伴う和歌山県知事選挙が30日告示され、自民党と公明党が推薦する新人と共産党が推薦する新人の2人が立候補した。投票は12月17日に行われる>。

さて和歌山談合事件だが、一冊の「メモ帳」で本丸が崩れだした。11月15日和歌山県発注の公共工事をめぐる談合事件で逮捕された知事の木村良樹容疑者(54)の目の前に大阪地検特捜部が、11月29日「メモ帳」を差し出した。同知事常用の「メモ帳」だ。

木村知事は、逮捕以来「取り調べには録音または録画」を要求し、供述調書にも署名押印しないで終始容疑否認を続けてきていた。ところが差し出された同「メモ帳」を一瞥するや、以前の強気の姿勢を失せ、一転して否認し続けてきた関与を認め出し、供述調書にも署名したという。

この「メモ帳」は、特捜部が私邸兼用の知事公邸で家宅捜索の際見つけたもので、この中には地元(海南市)建設会社・丸山組から依頼されて下水道公共工事を落札する企業に組み入れた経過など、事細かに記載されていたものだったという。

知事は、これまでと観念したのか、知事就任直後から官製談合に関与していたことも認め出しているという。このように和歌山談合構図の頂点ともいうべき本丸のトップが供述を始めたことで、同県談合の全容が一気に解明される様相を示してきた。


ところで木村知事は、知事就任に関り自ら「命の恩人」と称して憚らない人物が2人いたことは既に知れ渡っている。

木村知事は、自治省から大阪府に総務部長として着任。同知事をよく知る大阪府の複数の幹部OBによると、人柄にはなかなかいいものがあったが、やはり自治官僚という過剰な自負と顕彰欲は人一倍のものがあり、それが災いしてか地元における知人友人など人脈の構築には一向に気を配らなかったそうだ。

大阪府の横山ノック元知事の不祥事に伴う府知事選の際に、自分が知事候補に推戴されるものと真実思い込んでいたフシもあったというのだが、それを支援する勢力も結実しないまま推移し、結局通産省から大田房江現知事が落下傘候補として出馬・当選。この時「夢破れたり」といって、極度に落ち込んだそうだ。

その悲嘆の境遇を親身になって慰めたのが、大阪府に着任直後親密になったゴルフ場の元経営者の井山義一容疑者(56)だった。その後振って湧いたような幸運がめぐってきたのが和歌山知事選挙で、和歌山に地縁の深い井山容疑者の全面的支援を受けて知事に就任した木村知事だった訳だ。あの絶望の境遇から抜け出させ、知事就任の夢を叶えてくれた井山容疑者は、木村知事に取り最初の「命の恩人」だったという。

しかし、保守王国の和歌山県での木村県政は、評判が悪かった。「革新知事」と称して世間向けにはいい顔をするものの、内向けには経済基盤の確立に熱意を見せないなど民意を反映しないとして、県議会・県商工会には特に不評を買った。再選を阻止する動きが俄に動き始めた。

木村知事は窮地に追い込まれた。そこで自らにじり寄ったのが政界に殊の外実力のあるという地元(海南市)建設会社丸山組の田淵利都会長(80)だった。再選阻止に立ち上がる県議を降ろす工作の依頼を、木村知事自ら田淵会長にねじ込んだとされている。

田淵会長は、この申し出を受け県議OBを通じ現金合わせて2000万円を手渡して工作を進めた結果、この有力県議の出馬を見送らせることに成功、木村知事は知事選に楽勝、再選を果たした。「あなたは命の恩人です」と支援者の前で田淵会長に公言したのは、知れ渡った話だ。

この「命の恩人」2人に木村知事は、天の声による公共工事の参入や口利き謝礼の受領役などで、俗にいう「お礼」を施している。なかでも知事就任直後から水谷聡明元出納長を談合の窓口にして、井山容疑者が下水道工事や2件のトンネル工事の入札で受注先の準ゼネコンから県への口利き謝礼として、約1億8000万円を受領しているのには呆れるばかり。

木村知事にとり本当に「命の恩人」が存在したのだろうか。知事になりたいばかりの野心が、選挙という政界の化け物の中で、「命の恩人」という虚像を勝手に拵えたのであり、結局はその人に頼りすぎたばかりに、「破綻への先導役」をさせてしまったのではないか。人柄の良さに付込まれ脇の甘さも、こうなる「天命」だったのかも知れない。
2006・11・30

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