2006年12月03日

◆官製談合もはや必要悪

渡部亮次郎

和歌山県知事にして官製談合事件の総括者として逮捕された前知事木村良樹に少なからぬ興味を持つ。汚職をなぜメモにしていたのか、なぜ捜索前に廃棄しなかったのか。

木村前知事は、自治省から大阪府に総務部長として着任。同知事をよく知る大阪府の複数の幹部OBによると、人柄にはなかなかいいものがあったが、やはり中央官僚に有り勝ちな過剰な自負と顕在欲は人一倍のものがあった。それが災いしした。地元における知人友人など人脈構築には一向に気を配らなかったそうだ。自己過信そのものだったわけだ。

総務部長在任中、横山ノック知事の不祥事で知事選挙となった。このとき木村は知事候補に推戴されるのは自分だと信じ込んでいた。
だが、友人も支援組織も出来ていないのだから無視された。結局通産省から大田房江現知事が落下傘候補として出馬し当選。この時木村は「夢破れたり」と極度に落ち込んだそうだ。世間一般からすると落ち込む方がどうかしているが。

エリートを自称する人はどうして世間馬鹿になるのだろうか。エリートじゃない者にとっては分らない。世間が分らない人だからエリートというのだろうか。非エリートとしては、この世は四方八方に引っ張り上げてもらって遊泳できるものだと信じているから、周囲には人一倍、気を遣う。

だがエリートは自分しか信じないものらしく、他人に対する気遣いなどは無駄な努力と映るのだろうか。下で気を遣ってもらえない部下は次第にひそかな敵になって行くものだという世間の構造にも気付かないまま老化して行くようだ。

木村の例で見ると、大阪で「夢破れたり」としょぼくれている時、大阪府に着任直後から親密になったゴルフ場の元経営者の井山義一容疑者(56)が救いの手を差し伸べた。和歌山に地縁の深い井山容疑者の全面的支援を受けて和歌山県知事に当選できた。

世間でゴルフ場経営者というのはウサン臭い人、というのが一般的な評価ではないか。案の定、井山は知事と土建屋の仲介役となり1億7000万円もの仲介手数料をとっていた。そのうちのいくらかを知事に渡していたと自供した。このため木村は今度は収賄容疑で再逮捕されることとなった。

あの絶望の境遇から抜け出させ、知事就任の夢を叶えてくれた井山容疑者は、木村知事に取り最初の「命の恩人」だったというが、真実は吸血鬼が恩人という化けの皮を被っていたに過ぎない。

保守王国の和歌山県での木村県政は、悪評さくさく。再選を阻止する動きが俄に動き始めた。そこで県政界に殊の外実力のあるという海南市の建設会社丸山組の田淵利都会長(80)に頼った結果、木村知事は楽々、再選を果たした。但し田淵は工作に2000万円を使ったから、木村に反対給付を求めた。そこから犯罪が始まった。

この「命の恩人」2人に木村知事は、天の声による公共工事の参入や口利き謝礼の受領役などで、俗にいう「お礼」を施している。井山、田淵という2人の命の恩人は木村の命取りと化したのである。

それにしても木村はなぜ悪業の詳細をメモしていたのだろうか。なぜ捜索前に廃棄しなかったのだろうか。単なるチョンボだろうか。証拠として残し、将来、恩人たちを脅迫でもする心算だったろうか、それとも勉強のクセが抜けなかったのだろうか。


一方、同じ官製談合でも宮崎県の場合は、違う側面を持っている。安藤知事はもともと県の役人だったが部長職を最後に知事選に出馬、敢え無く落選。4年後、今度も自民党は元出納長を擁立して、ソッポ。しかし4年後は安藤元部長の勝利。

このとき、ある国会議員の秘書だった人に一方ならぬ世話になった。そこで東京・江東区の設計会社の社長にこの元秘書の経済的な面倒を見させた。更に何処で工面したか、5000万円を渡そうとした。

事件はこのことが露見して今回の官製談合事件発覚となったわけだが、興味深いことに、役人は県警に逮捕された途端に全面自供をしたことである。最後の出納長こそはすべてを引っかぶってサムライになるかと思ったが、ナニ、逮捕を待っていたかのように自供した。

福島県を含めて3つの県で起きた官製談合事件に共通しているのは、地方で権力を入手するためには、どうしても纏まったカネが必要だが、そのために最も手っ取り早いのが官製談合だということ。

その際、知事は自らは直接の指示はしない。福島の場合は前知事佐藤栄佐久(67)(逮捕)が県の幹部に「前田建設が頑張っているな」と言っただけで知事の胸中は伝わったのだと言う。和歌山県庁でも、いわば仲介役のゴルフ場元経営者が代理者面をして談合を取り仕切り役人に指示していた。

知事からの指令は確実に現場に伝えられ実行されていく、しかし捜査が始まると、確実に下から上に自供がなされて行く。役人は悪に手を染めたのは知事のためとはいえ、己の身を守るためだったのだから、逮捕されれば自働的に簡単に自供する、ということである。

宮崎県の場合はナンバー3の出納長が知事の関与を自白したために強気の知事も、もはやこれまでと辞意を表明するしかなかった。

知事がゼネコン汚職に関係して東京地検に連続して逮捕されたのは平成5〜6年だった。宮城、茨城両県の知事。あの事件と今回の一連の事件の違うところは「仲介役」が登場したことである。

自民、公明両党は官製談合を排除するために官製談合防止法案の今国会成立を狙ったが、5年以下の懲役とか、250円以下の罰金刑なんかで効き目があるとは思えない。

なぜなら選挙にカネのかかる事は厳然たる事実であり、地方自治体の首長にとって官製談合以外に資金調達する方法は見つからないからであり、法律が出来ても、犯罪は巧妙化するだけではないのか。

極言すれば官製談合がいわば必要悪だとするなら、他の都道府県や市区町村では今回と同じようなこと無しに首長選挙が行われているとされているのは、不思議と言うことにならないか。(文中敬称略)2006.12.02

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