2012年11月05日

◆野田の総辞職論はまず実現しない

杉浦 正章

 

貧すれば鈍すると言うが見通しのよかった民主党最高顧問・渡部恒三までピントが狂いだした。4日のテレビで内閣不信任案が可決されれば解散でなく総辞職だというのだ。憲法上は可決された首相は解散か総辞職を選択することになるが、憲政史上例のない総辞職などまずあり得ない。


民主党幹部の中には苦し紛れに不信任案とは関係なく首相・野田佳彦を引きづり降ろして総辞職させ、代表に前原誠司や細野豪を据えて総選挙に臨むと主張する向きがいるが、これも溺れる者はわらをもつかむの類いだ。悪あがきであり、まず実現しない。
 

2度にわたって野田は本会議答弁でろれつが回らない失態を演じた。普段なら笑って済ませられるが、ここまで政局が過熱した状態下では問題になる。首相の心理状態が最大の関心事だからだ。官邸詰め記者を13年やったから首相の心理は手に取るように分かるが、首相官邸という場所のストレスは並大抵ではない。どんなに精神が図太い政治家でも1年目が一番参る。


あの田中角栄が首相に就任して1年目を後日振り返って「就任早々は勢いでやれるが、1年目というのは神経が参る時期だ」と述べている。「1年目はキツネがついたように何が何だか分からなくなる。自分の椅子に天地逆になって座っているような気になる」というのだ。これまで入っていた情報は入らないし、行動も護衛付きで制限され、羽が伸ばせない。激務と焦燥感で常人ならおかしくなるような場所なのだ。
 

田中ですらそうなのだから、中の中くらいの政治家が首相になればストレスは並大抵ではない。森喜朗はテレビで「ストレスでろれつが回らなくなることや、前が見えなくなることもある」と述べた。「いじめられて朝が来ない方がいいと思ったこともあった」とも漏らす。あの巨体で悶々として寝返りを打ち、「朝よ来るな」というのだから相当なものだ。安倍のようにノイローゼ状態になるし、福田のように突如政権を投げ出すケースもざらだ。
 

そこで、野田がその政権をを投げ出す可能性があるかどうかだ。


渡部は「不信任案が通っても解散はない。総辞職すればいい。野田首相の今の考えでは不信任案が通っても解散はしない」と断言した。確かに解散をしなければ総辞職しかないことになるがその選択が可能かと言うことだ。


戦後史をひもとけば不信任案可決で総辞職をしたケースはない。吉田茂は2度可決されたがいずれも解散。大平正芳も宮沢喜一も解散を選択している。森と小泉純一郎は不信任案が本会議上程後の趣旨説明前に解散を断行しているから、不信任案は「未決」のままだ。羽田努のように不信任案が上程される前に総辞職したケースはあるが、これも言うまでもなく「未決」だ。


憲政には常道というものがある。一国の首相が国権の最高機関から不信任案を突きつけられて、なを未練がましく政権党にバトンタッチしようとするということは、あり得ないし、あってはならないことだ。


渡部は「総辞職したら民主、自民で大連立を組めばいい」と“大風呂敷”を広げるるが、蟻地獄へ落ちつつある政権に手をさしのべる野党があるわけがない。さすがに野田も総辞職は参院本会議で「内閣総理大臣としての責任を放棄するものだ」と否定した。あと6人が民主党を離党すれば不信任案が可決されうる状況に到るが、その場合は解散だ。
 

それでは不信任案と関係なしに総辞職があり得るかというと、これは全くあり得ない話しではない。総辞職して国家戦略相・前原誠司か政調会長・細野豪に代えるというものだ。たしかに「嘘つき首相」のイメージが定着した野田よりは総選挙向きの顔としてはいいし、民主党幹部の中には代表交代論があるのも確かだ。


しかしこれも悪あがきの最たるものでしかない。そもそも民主党幹部は、今民主党が問われている問題を分かっていない。3年間にわたる稚拙な政権運営と国民を欺く公約違反を繰り返してきた政権の本質を問われているのであって、「顔」の是非が問われているのではない。


賞味期限切れの生牡蠣をポリ容器を変えてまた売るようなことは、通用しないし、これほど国民を馬鹿にした話はない。「うそつき解散」はかつて宮沢がやったことだが「うそつき総辞職」は聞いたことがない。
 

「顔」を代えても野党の解散攻勢は変わらない。通常国会は冒頭から動かない。国民の生活第一代表の小沢一郎も4日のNHKで「野田さんは今政権を投げ出すべきではないと思っているように見える。景気対策もあるから総辞職は考えていない」と分析している。


民主党は地獄で悪あがきをしても、もう蜘蛛の糸は垂れて来ないのだ。さっさと諦めて野田のようにやけ酒でも飲んで解散に踏み切るしか手はないことを悟るべきだ。


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)
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