2013年01月29日

◆安倍演説は小心なる“炬燵弁慶”だ

杉浦 正章
 

目立つ党利党略の安全運転


「なんだこりゃ」と思わずつぶやいたのが、首相・安倍晋三の所信表明演説であった。所信表明でなく小心表明だ。危機だ危機だと14回も繰り返したのはよいが、尖閣の「せ」の字も、原発の「げ」の字もTPPの「T」もない。就任後初の演説から垣間見えるものは、就任当初から指摘した通り“小心翼翼”ぶりでしかない。


本会議に先立つ両院議員総会では、「この国会は極めて大切な国会だ。まさに日本を取り戻す第一歩となる国会だ」と発言したから、これは相当すごい演説になるぞと思ったら、拍子抜け。家の中では威勢がいいが、外に出ると打って変わる「炬燵(こたつ)弁慶」とはこのことだ。


筆者も長いこと政治記者をやっているが、首相演説の内容より、言わなかったことを列挙するのは初めてだ。聞きたいことは多かった。何と言っても喫緊を要する対中外交にどう臨むかだ。公明党代表・山口那津男が訪中して、中国共産党総書記・習近平と会談、対話への突破口を開いたばかりである。首相の見解は当然出されるべきだった。


石原慎太郎の言うように憲法改正など誰が見ても将来的な課題に言及する必要は全く無い。しかし対中関係は避けて通れぬ課題だ。山口にねぎらいの言葉くらいかけてもおかしくなかった。


原発も環太平洋経済連携協定(TPP)も国論を2分する課題だ。しかも原発は国の命運を左右する問題であり、自民党は総選挙において再稼働を宣言して戦った。勝利を占めるととたんに引っ込めるのは、明らかに公約違反だ。異論のあるテーマは一切避けて、誰も反対しない経済再生など無難なテーマに絞った“逃げ”とも言える演説だった。


自民党内には「思慮深い」という声があるが、果たしてそうか。ことは就任早々の所信表明である。総選挙に圧勝した党の首相発言として固唾をのんで聞くことになる。それが肩透かしだ。「1か月後に施政方針演説があるから重要課題は先に回した」というのが本人とブレーンらの判断らしいが、まさに誤判断だ。


なぜなら一か月たてば国会審議の過程で、すべての課題は掘り尽くされ、施政方針などはもぬけの殻の“二番煎じ演説”にならざるを得ないからだ。就任早々からブレーンの誤判断が目立つ。自民党は安全運転に徹すると言うが、それは国民のための安全運転ではなく、党利党略優先の安全運転ではないか。


演説に先立って、民主党幹事長・細野豪志がいいことをNHK討論で言っていた。「自民党の公約に目を向けると、竹島の日とか、尖閣に公務員を常駐させるとかを掲げた。我々もマニフェストでできなかったことがある。そこは反省する。しかし自民党は初めからやる気がなくて言っていたとしか思えない。そうだとすれば、これは罪深いと思う」と指摘したのだ。


まさに公約違反の“確信犯”だというのだ。民主党のマニフェスト批判を繰り返してきた安倍が、こんどは攻守所を変えてで攻められることになった。


野党の反応も極右・石原から極左の社民党代表・福島瑞穂まで一致して「物足りない」の合唱だ。自民党青年局長・小泉進次カまでから「野球であはいくら守りに徹しても、1点取らなければ勝てない。攻めるところは攻めなければならない」と言われてしまってはどうしようもない。


要するに安倍も自民党幹事長・石破茂も、衆参ねじれ国会を意識するあまりに、超安全運転に徹する姿勢を貫くつもりらしい。もちろん参院選挙での逆転で長期政権を狙ったものであるが、虎穴に入らずんば虎児を得ずである。


断言しておくが、長期政権などは狙って実現できるものではない。懸案に真っ正面から立ち向かってこそ実現可能となるのだ。“水物”のアベノミクスを売るだけで国会を乗り切ろうとする姿勢では、早々に支持層が離反すると心得るべきだ。


唯一目立ったのは安倍の元気さだけだ。演説を聴いていた医者がテレビで「潰瘍性大腸炎は悪化すると貧血が進んで顔色が青白くなってくる。今日の首相は非常に顔色がいいので相当好調であることに間違いない」と太鼓判を押していた。


テレビ出演ではドーランを塗るから分からないが、たしかに選挙中は青白い顔や青黒い顔をしていたことが多かった。今後あの安倍の健康状態を見るポイントは「青白くなったかどうか」であることが分かった。


         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)
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