2013年02月08日

◆全柔連の上村春樹会長の責任を問う

古森 義久


■通用しない「柔道の暴力」

柔道女子日本代表選手たちへの暴力問題はすでに米国柔道界にもかなり詳しく伝わった。私が長年、指導も兼ねて通うワシントンの「ジョージタウン大学・ワ シントン柔道クラブ」でも話題になった。当クラブの師範の一員で米国柔道連盟理事でもあるタッド・ノルス弁護士が米国の規範を明確に語る。

「柔道に限らずスポーツでのコーチによる実技範囲外での殴打などはすべて地位乱用の虐待(abuse)として禁じられています。日本の一部にあるという『強くするために殴る』式の思考は文化の違いとしても通用しません」

ノルス氏の説明では米国オリンピック委員会(USOC)では柔道を含むすべての種目の公式コーチに選手虐待を防ぐための詳細な講習の受講を義務づけてい る。

しかも単に肉体的な暴力だけでなく「性的」と「言語」の虐待をも含むというのだ。さらに興味をひかれたのは、当クラブの先任師範の宮崎剛八段が「日本柔道界の訓練では殴打がつきもの」という認識を誤解として排したことだった。

「私は渡米前の20年ほど日本の学生柔道では最も歴史の古い慶応義塾の柔道部に籍を置き、講道館にも頻繁に通い、稽古や試合に励みましたが、実技の範囲外での殴打というのはただの一度もしたことも、されたこともありません。柔道の創始者の嘉納治五郎先生もそんな慣行は認めなかったでしょう」

宮崎氏は定住した米国での柔道経験も長いが、日本では慶大柔道部主将として全国大会で活躍した名選手だった。実は私も彼のずっと後輩とはいえ、同じ柔道部で一貫教育の10年間、鍛えられた。

その間、練習自体では苦しい体験は山ほどあったが、殴る蹴るは皆無だった。ごくまれに暴力のような事態が起きれば、 その実行者よりも上位の先輩たちが出てきて断固として止め、罰した。

だがそれでも日本柔道界、しかもその中枢に暴力による鍛錬をよしとする慣行が続いてきたことは今回の事件でも明示された。ただし、いまとなってはその加害者の監督や母体の全日本柔道連盟も、「体罰はよくない」という認識をコンセンサスとして示してみせた。

だがその地点にいたるまでの全柔連の対応は完全なカバーアップ(もみ消し)の連続だった。その背景では不正も黙認する体質や責任から逃げる態度が明白に浮かびあがってしまった。

柔道の選手たちが指導にあたる監督を公式の場で糾弾するというのはよほどの事態である。今回の事件では暴力の被害者側の心情を十分に知る必要があろう。

私は中学2年のとき、大学3年生に絞め落とされたことがある。その大学生は13歳の少年が「参った」と許しを請うのを平然と無視して首を絞め、意識を奪ったのだ。私はその時点で体力差からみてあまりに残酷だと、その先輩を恨んだ。

その心情は長年、変わらず、もしその先輩が直接の監督やコーチだったら、 まちがいなく柔道をやめていただろう。練習の範囲内とはいえ、抵抗できない側を痛めつける行為は被害者の心に消えない傷を残すのである。

世間の糾弾で監督 や理事を渋々と辞めさせる全柔連の対応は醜いだけである。不正を真に悔いるなら最高責任者の上村春樹会長がまず潔く責任を取るべきだろう。日本柔道界にはまだまだまともな人材はいるはずである。(産経新聞ワシントン駐在編集特別委員)

<「頂門の一針」から転載>
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