平井 修一
神奈川県川崎市に住む知人のN子さん(33)は下の子が1歳になったのでこの春から再就職するつもりだった。実家が比較的近く、父親が今春に60歳で定年退職するため、保育園が決まるまでは2人の子供の面倒を両親にお願いすることになっていたのだ。
ところが急に父親が再雇用で仙台支店に単身赴任することになってしまった。「仙台支店に単身赴任」なんて社員は皆嫌がるから、急きょ、会社はNさんの父親に懇請したのだろうし、彼自身も本心は「60歳で孫の面倒を見て過ごすのは厭だ」と思っていたのだろう。
これが決まるとN子さんの母親は、「お父さんがいないのでは私一人で2人の孫は面倒見切れない」と言いだした。それはそうだろう。孫1人だって大変なのだから2人なんてとても無理である。
N子さんとしては専業主婦という道もあるが、独身時代は総合職としてバリバリ働いていたし、その経験を活かして社会との交流も持ちたいし、経済的にもゆとりもほしい。N子さんはどうしたらいいのか、今は途方に暮れている・・・
小生は病気を抱えていたことや母の介護もあって、当初予定より2年早めて58歳で引退したが、年金制度の都合というのは理解できないわけだはないものの、「60歳を過ぎても働け」と言うのはずいぶん理不尽だと思う。そのうちお上は「死ぬまで働け」と言うだろう。国民はのんびり、ゆったりした晩年を奪われるのだ。
この4月から「改正高年齢者雇用安定法」が施行された。あらゆる企業は、希望する従業員を全て「65歳まで雇用」しなければならない。ネットで調べてみた。
企業が雇用を延長するには3通りある。1)定年延長、2)定年廃止、3)継続雇用=再雇用)の3つだ。実際には、1)や2)は難しく、現状では8割以上が再雇用を選択している。
再雇用の場合、従業員はいったん退職し、嘱託などの形でそのまま会社に残る。退職金も支給され、空白期間なしで長年勤めた会社にまた出勤できるのだから、一見したところ良い制度に思える。
しかし、現実は甘くはない。再雇用される場合、収入は激減してしまうのだ。60歳の退職時にもらっていた月給が45万円だとすると、再雇用後の月給は通常24万円程度。以前の給料の半分以下になることも少なくない。
しかもいったん退職させられてからの再雇用のために、退職以前にはまったくなじみの なかった仕事場へ赴任させられるケースも少なくない。たとえば銀行なら、系列のクレジットカード会社や消費者金融のクレーム処理係や債権回収といった職場に配置したりする。
「給料をどんと下げて65歳まで働かせる」。これが一般的な再雇用の実態だ。再雇用される人間にとって素晴らしい環境とはとても言えないが、それでも「65歳まで仕事があるだけまし」で、中小企業のなかには、高齢者雇用安定法に伴う義務を果たせないところも少なくないという。
カミサンは今年から再雇用になったが、給料は下がるし、勤務時間は長くなる、連休はとれない、自宅での仕事は増えると散々な目に遭っている。小生も以前は6時半起床だったのが今では5時半起床でないと朝食づくりに間に合わなくなってしまった。時間的なゆとりがなくなった。
ところで子持ち女性の再就職は相変わらず大変なようである。こんなケースが紹介されていた。
<私が再就職にあたって一番苦労したのが保育園探しでした。まずはフルタイムパートで復帰し、娘は無認可園。パート代がほとんど保育料に消えました。土曜日はハローワークに通い正社員の転職先を探しつつ、有休がないので欠勤しながら区役所に認可園入園のための陳情通い。何度諦めようと思ったことか・・・
最終的に近所の一般企業に正社員として就職が決まりましたが、採用の決め手は、後で人事課長に直接聞いたところ、「社労士事務所での何年かの実務経験」だったそうです。また、私の両親が近くに住んでおり、子どもが急な病気のときなど両親を頼れることも評価されたようです>
再雇用を選ぶかどうか、N子さんの父親など事情は様々だろうが、これまでは60歳定年で出ていく人は出ていった。それが居残るとなれば若者の雇用機会を奪うことになりはしまいか。
また、再雇用によりヂヂババとして期待されていた「孫の世話」ができないといったことにもなる。結果的にN子さんは再就職をあきらめざるを得ないかも知れない。
<「頂門の一針」から転載>