渡部 亮次郎
厳密に言えば「単に高い場所が苦手なこと」とは異なる。こちらは正確には「高所恐怖癖」という。高い場所で本能的に危険を感じ、怖がるのは正常な反応であるからだ。
私のは単に高いところが苦手というのだから「癖」だと思うが、高い所にいることを想像しただけで気が滅入るし、タマが上がるからやはり「症」ではないかな、と思ったりする。
不思議なことに飛行機に乗るのは全く怖くない。その昔、迫水久常氏は池田内閣の閣僚に任命された際、首相訪米に同行を求められた。
「
私、飛行機が嫌いですから・・・」と断るもならず、ワシントンまで一睡もせず、前座席の背も立たれに掴まって行った、と聴いた。
それに比べれば私のは「症」と「癖」の中間かもしれない。40を過ぎた頃、評論家の加瀬英明氏の案内でアメリカを旅行した。加瀬氏は私と同年。アメリカ留学経験者であるから贅沢な旅行だった。
ある日、某銀行のNY支店長から招待されてまだあった世界貿易センター最上階のレストランに出かけた。窓際の席である。特等席なそうな。
坐ってひょいと外を見たら目下をヘリが飛んで行く。それでもういけません。タマが上がって震えがきた。生まれて初めての経験。これが高所恐怖症と言う奴か。出されたムール貝を急いで掻きこみ帰ろうとしたら「そんなにお好きならもう1皿どうぞ」といわれてぎゃふん。
自分が高所恐怖症患者であることを初めて知った旅だった。その後何度もアメリカへは旅をした。家人を案内してエンパイア・ステートビルへも仕方なく登ったが、屋上ではどうしても外壁近くに歩いてゆけずに笑われた。
今すんでいるアパートは20階建ての9階の一部だが、初めは怖かった。寝ていても滑り落ちてゆくような恐怖に駆られた。住んで十数年、おかしなことに、慣れたのか恐怖心は去った。
高所恐怖症は精神科医の手助けが必要な不安障害だそうだ。真性患者は高さ1メートル弱の脚立の上でも身体が竦み、動けなくなってしまう。高所で作業している人間を見ただけで気分が悪くなる者もいるという。私もそうなる。
極端な例を挙げれば、30階建てのビルの屋上から宙吊りにされれば、誰でも怖いわけで、こういう「危険が目に見えている状況」で怖がるのは本能として当然のことである。
むしろ、こういう状況においても恐怖を感じない方が病的なのではないか、と言う専門家もいる。このことから赤ちゃんは本当は「高い高い」は怖いのではないかという説もある(実際、TBS系のクイズ番組『どうぶつ奇想天外!』で同様の実験を行ったことがある)。<ウィキペディア>
北側の窓の先1Kmのところにある634mの「スカイツリー」が開業したが、私は誘われても昇らない。