2013年06月17日

◆アベノミクス第3の矢

佐藤 鴻全


政府は14日、アベノミクス第3の矢となる「成長戦略」と経済財政運営の方向性を示す「骨太方針」を併せて閣議決定した。

◆ヘッジファンドの売り浴びせ◆

先月末から、これまでのアベノミクスへの肯定的評価に対し逆転現象が続いていたマーケットは、規制改革を主な内容とした成長戦略の第3弾を発表した5日には更なる日本株売り浴びせと円高で「祝福」し、14日時点で戻していない。

国際経済にも影響され、また外国人投資家が先導する言わば鉄火場であるマーケットの動きに一喜一憂する必要はないが、政府が7月の参院選を前に利益団体の票欲しさに、小出し・曖昧・先送り戦略を取ったところを、ヘッジファンドに狙い撃ちされた形だ。

規制改革の内容は、医薬品のネット販売の原則解禁や、投資減税、国家戦略特区を創設し、国際的なビジネス環境を整備するといったものだ。(〔情報BOX〕日本再興戦略の主なポイント2013年06月14日 09:44 JSTロイター
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPL3N0EP2RB20130614

5日の首相のスピーチでは、その筆頭が医薬品のネット販売の原則解禁であったが、元よりこれにより消費者が2倍薬を飲むわけではなく、これが目玉として取り上げられた事自体、他の規制緩和策が具体性に欠ける証左となった。

また、労働規制の緩和として金銭補償による解雇、医療分野では混合診療の原則解禁、農業では株式会社の農地取得、税制では法人実効税率引き下げ等が見送られた。

秋には法案化に向け、投資減税の中身や規制緩和の具体策を詰めるという事で、それに備え早くもマスコミにより「既得権益者 VS 規制緩和派」の戦い図式が作られつつある。

恐らく、ヘッジファンドは次の大勝負を参院選終了後と見込み、その時に強烈な売り浴びせで安倍政権に規制緩和の積み増しを要求してくるだろう。

それにビックリした安倍政権が、竹中平蔵氏等の主導で規制緩和を一気に進めるシナリオになりそうである。

しかし、規制緩和は必要であるが、単純に規制撤廃をしたり、逆に既得権益者と妥協し足して2で割る方法では真の経済成長には結びつかない。

◆規制緩和の条件◆

前述のように、「解雇の金銭解決ルール」については、サラリーマンには刺激が強過ぎるのか盛り込まれなかった。

労働政策の改革は、衰退分野から成長分野への労働力のスムーズな移動が真の目的で在るべきである。

もし単に雇用者側が首切りをし易くするのを目的とするなら、却ってサラリーマンを委縮させ消費を冷え込ませるだけに終わるだろう。

これまでの日本の終身雇用制に対し解雇規制緩和の北風を吹かせるのであれば、その前に(少なくとも同時に)太陽として単に職業訓練の充実等の従来政策の延長に留まらず、雇用拡大に向けドラスティックに「同一労働同一賃金」、「給付付き税額控除」、「恒久的雇用減税」等の導入でカウンターを打ちながら徐々に雇用流動化を図るべきである。

減税政策について、外国人投資家や海外メディアが、分かり易い法人実効税率引き下げを要求してくるのは、ある意味当然だ。

しかし、最も景気浮揚効果があるのは、法人実効税率引き下げでもなく、投資減税でもなく、恒久的雇用減税である。

一定条件下で比較的低賃金でも沢山雇っていた方が税金が安ければ、企業はその方向に動き、中低所得者は高所得者より消費性向が高く、雇用のパイが広がれば国内消費に資するだろう。

なお、そうすれば運用次第で如何様にもなりかねない新設の「限定正社員」制度や、一部の超大企業社員や公務員以外は恩恵に預かれそうもない浮世離れした「3年間抱っこし放題」の育児休暇のような事は、そもそも不要になる。

若者、老人、女性の就業率と再就職の機会が高まれば、生活保護、年金、子育て、少子化等多くの問題が改善され、財政赤字を圧縮するだろう。

医療分野の改革として、混合診療の原則解禁も盛り込まれなかった。患者にとって、混合診療により治療の選択肢が増える事は、元より望ましい事である。

一方、それにより公的健康保険制度が骨抜きになる事が懸念され、医師会等も反対している。

しかし、これは一定の新治療方法が健康保険対象に迅速にかつ強制的に取り入れられる仕組み等があれば、解決する話だ。

これらの具体的要件や手続きを透明に決める仕組みを、中央社会保険医療協議会の中あるいは外に作るべきである。

株式会社による農地所有も盛り込まれなかった。

投機や安易な撤退を生まないのであれば、株式会社が農地所有をする事に本質的な問題はない。

弊害を防ぐ規制やペナルティー或いは国籍条項を具体化し、是非を問うべきである。

また、本来の目的は、株式会社が農業経営に意欲を持って大規模に安定的に参画出来る事なのであるから、もし本当に機能するのであれば、政府が5月に発表した公的管理組合による農地の集約貸借でも不足はないが、それを担保する仕組みが必要である。

上記のように、規制緩和を行うに当たっての原則は大凡以下のようでなければならないだろう。

●規制緩和の目的と効果を明確にする事

●規制緩和のデメリットやインパクトに対し、それを防ぐカウンターの政策を打つ事

●これらにより、規制墨守でも、単純規制撤廃でも、足して2で割る中途半端なものでもなく、人体における交感神経と副交感神経の様に、互いに牽制し合いながら機能する構造的仕組みを作り上げる事

●既得権者が退場する代わりに、「新既得権者」を発生させない工夫
●国民生活のナショナル・ミニマムの確保

◆官民ファンドの条件◆

一方、規制緩和と並んで、特定の成長分野に国が手助けを行う「ターゲティングポリシー」がある。

その端的な形は、特定分野推進への国家意思と民間の目利き能力を融合させた官民ファンドである。

しかし、各省庁は早くも官民ファンドを乱立させ、天下りの隠れ蓑や隠し金庫に使おうという意図も見え隠れする。

官民ファンドについては、下記の事が原則でなければならない。●官の出資は49%以下とし、民の主体性・目利き能力が優先されなければならない。

●民間を等分出資とせず、筆頭出資社を幹事社として、リーダーシップを取らせる事

●官民ファンド毎の予算・決算の国会報告・承認事項化による透明性の確保

戦略とは、勝つための、差別化され体系化された、実行への決然とした意志を伴う、包括的シナリオ・概略作戦書である。

それに照らせば、アベノミクスの成長戦略は、戦略になり切っていない。成長戦略が体をなしていなければ、第1の矢である「黒田バズーカ砲」の金融緩和で溢れた金は行き場を失い年率2%インフレを起こさず投機に回る。そして、ヘッジファンドに蹂躙され株式と円は乱高下し、日本人の金が吸い取られるだけに終わるだろう。

それを防ぎ真の日本再興を成し遂げるのは、突き詰めて言えば私心を去った政治家の志と、物事の本質を見抜き虚妄に惑わされずに発せられる国民の声以外にはない。

<「頂門の一針」から転載>
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