2013年07月25日

◆安倍は消費増税で泥をかぶる決意を

杉浦 正章



ここにきて“遁走”は許されない


消費増税の判断時期をめぐって財務相・麻生太郎と官房長官・菅義偉が空中戦を演じている。しかし、参院選自民党圧勝という“めでたい時”に政権内部で亀裂が生じたと取るのは皮相的な見方だ。


政権基盤がしっかりしている時の自民党政権は重要問題で賛否の役割を分担する傾向がある。問題を際立たせて世論の誘導を図るためだ。麻生と菅はその役を演じているにすぎない。そして消費税実施をめぐって世論がどこを向くかを見極めようとしているのだ。


最終判断をする首相・安倍晋三には新聞論調が「先延ばし」を主張してほしいという願望があるのだろう。しかし現政権は野田政権時代に新聞全社の社説が消費増税推進論であったことを知らない。まずこの傾向は変わらないのだ。安倍は自らの人気維持のために消費増税から逃げてはいけない。


「消費増税は国際公約に近いものとなっている。予定通りやらせていただきたい」と麻生が8月の首相判断の必要を述べれば、菅は「考えていない」と9月以降を主張する。安倍の側近学者の浜田宏一までが「国外の人を満足させるために日本国民が苦しむことはない」と想像を絶する暴論で、反論した。


このやりとりがなぜ今になって取って付けたように突然出てきたかということだ。麻生に近い自民党幹部筋は21日の安倍・麻生会談を指摘する。選挙当日に昼食を共にしながら1時間10分も会談しているのだ。もうとっくに圧勝が分かっている時点であり、何を話したかと言えば選挙後の政局対応に決まっている。


同筋は「消費税が焦点であった」と漏らす。どんな話が出たかは霧の中だが、対策を練ったに違いない。そして世論の動向を見極めることになったのだろう。


それが23日の空中戦となったとすれば、一種の“やらせ”と看破せざるを得まい。賛否両論を際立たせ、安倍に最終判断のフリーハンドをもたせるという自民党得意のやり口だ。


案の定このやりとりを見て全国紙は朝日が「消費税政権内で対立」と報ずれば、読売も「消費増税閣内に不協和音」と書いた。乗せられたのだ。しかし両紙とも社説で触れることに慎重だ。


朝日は選挙後全く触れていない。1月5日の社説で「消費税を政争の具にするな」と消費税最優先の主張をした読売の23日の社説は「消費増税の判断が焦点。経済成長と財政再建の両立をどう図るか。首相は厳しい決断を迫られる」となんと自らの主張から逃げている。


日経だけが「首相は逃げずに経済改革断行を」と題して「経済が大幅に落ち込む見通しがない限り、延期すべきではない」と言いきっている。


ここで重要なのは、前首相・野田佳彦がしゃにむに消費税法案成立に走ったのは、全国紙のすべてが財政再建のための消費増税やむなしを主張したことが大きな背景としてある。そして昨年8月に自民、公明、民主の3党合意で成立にこぎ着けたのだ。


問題はその付則18条に(1)平成23年度から平成32年度までの平均において名目の経済成長率で3%程度かつ実質の経済成長率で2%程度を目指し総合的な施策を実施する(2)経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し経済状況等を総合的に勘案した上でその施行の停止を含め所要の措置を講ずるーという「景気条項」がついたのだ。


時の首相が景気状況を見て、停止する判断を下すこともあり得るとしたのだ。


これを意識して安倍は首相になる前の自民党総裁時代から慎重論を唱えている。GDPの数字が悪い場合には、増税を実施しない可能性を示唆し続けていた。安倍は、浜田が「デフレ」から抜け出すのを最優先に掲げ、日本銀行が金融緩和で市場に大量のお金をばらまくよう唱えていることに強い影響を受けていた。「リフレ派」の学者のペースに乗ったのだ。アベノミクスはその路線上を走っているのだ。


しかしそのアベノミクスの効果は著しいものがあり、逆に消費増税判断にプラスに作用する結果を生んでいる。1〜3月期の国内総生産(GDP)は年率換算で4.1%増。日銀景気判断は「緩やかに回復しつつある」とした。


「回復」という表現を使うのは2011年1月以来であり、先行きについては「緩やかに回復していく」との見方を示した。そこで首相判断の基となる4〜6月のGDPだが、日銀の先行き判断が正しいなら当然好結果をもたらすものとなろう。


消費増税を予定通り実施する場合は、景気の腰折れとそれによる税収低迷というリスクがつきまとう。しかしこれは増税する以上もともと避けて通れないものであり、それを一時的なものにとどめられるかどうかは時の首相の政治手腕にかかっているのである。


一方、先延ばしする場合は、財政に対する不安から、国債が売られて長期金利が上がり、それを通じて景気が減速するというリスクが伴う。海外のハゲタカファンドの餌食になるのだ。


いずれにしても前門の虎後門の狼なのであり、付則の求める「総合判断」は増税実施にならざるを得ないだろう。全国紙各社もまず消費増税推進の判断を変えまい。不況の最中でも財政再建優先を唱え続けて来たのであり、景気が好転しつつあるいま「停止」の判断に転ずることはあるまい。


従って安倍はもう泥をかぶる決意を固めた方がいい。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)
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