2013年09月13日

◆だらしのないマスコミの消費税判断

杉浦 正章



政治記者は“動物勘”を養え


消費増税に対する新聞の判断力の悪さは全くどうしようもない。同じ新聞でも川柳の判断の方が勝っていた。


朝日川柳では<消費税寝た子を起こす長談義> と官邸主催のヒヤリングなど頭から馬鹿にしていた。読売川柳でも<消費税自由研究まだ続き> と冷やかし、しまいには<千兆円背負う子どもに孫ひ孫>と、主筆ナベツネの指示で消費税反対に廻ったとみられる社説をぶった切っていたほどだ。


首相官邸詰め記者たちの判断は川柳にも負けたのだ。その背景には首相・安倍晋三の「政治主導」を際立たせようとする官房長官・菅義偉らの過剰なまでのミスリードがあった。“純真”なる官邸記者団はそれが見抜けなかったのだ。


筆者は純真とはほど遠いから、最初から判断は当たっていた。安倍がぶつぶつと先送り臭い発言をし出した当初から、「無理」と書いていた。特に2日朝送信の記事では「安倍は来月早々に消費税実施判断へ、官房参与大敗北で論議終息」と職を賭して踏み切った。


おっとっと職はもともとないから職を賭す意気込みで踏み切った。おまけに記事では「近ごろの新聞記者は右往左往した去年の解散判断と同じで、全く政治の展望が読めなくなったようだ。判断する度胸もないのだろう」と警鐘を鳴らしてやったものだ。


鋭い官邸記者がいたなら60人のヒヤリングを終えた段階の紙面で「首相、消費増税決断へ」と踏み切ったのであろうが、それができた社は1社もない。


その最大の原因は官邸にある。菅が最後の最後までミスリードした上に、政治音痴の官房参与の浜田宏一と本田悦朗が水戸黄門の印籠のように“デフレ対策”を掲げて「下におろう」とやっていたからだ。菅にいたっては8日の段階でもNHKの討論で「総理のデフレ脱却への思いは鬼気迫るものがある。


私は総理がデフレ脱却の鬼だと思っている。どうしたら脱却できるかが最優先だ」と“脅し”に出ていた。純真でない筆者は「たとえ鬼だって増税先送りなどできるわけがない」と高をくくったものだが、純真一途な記者たちは怖かったに違いない。


これに新聞首脳の軽減税率への思惑が絡んだ。朝日の社長が新聞への軽減税率導入を唱えれば、読売の会長で主筆の渡辺恒雄が社内でその影響力をフルに行使し始めた。


なんと読売は去年あれほど社説で「財政再建のための消費税不可欠論」を繰り返して、首相・野田佳彦の尻をひっぱたいていいたにもかかわらず、軽減税率の適用が少なくとも8%の段階では見送られるとなると、手のひらを返してしまった。


8月31日には正月に書くような大社説を掲げて「消費税率、来春の8%は見送るべきだ」と大転換。9月11日の社説に至っても「デフレ脱却を最優先し、来春の消費増税は見送るべきである」と、まるで日露戦争の木口小平のように死んでもラッパを離さない構えだった。


ところがさすがに政治部は論説に引っ張られてばかりはいない。各社に遅れをとったが12日の朝刊で「消費税来年4月8%、首相、意向固める」と踏み切った。


「安倍首相は11日、消費税率を来年4月に現行の5%から8%に予定通り引き上げる意向を固めた。増税が上向いてきた景気の腰折れにつながることを防ぐため、3%の増税分のうち約2%分に相当する5兆円規模の経済対策を合わせて実施する考えだ」と報じたのだ。

恐らくナベツネは社内的にも体裁が悪いに違いないが、読者の方は困ってしまうのだ。社説を読めば反対だし、一面トップでは実施だし、また裂きの刑に遭ってしまうのだ。


一方で朝日は読売より1日早く10日付朝刊で「安倍晋三首相は9日、来年4月に消費税率を8%に引き上げるための経済指標面での環境は整った、と判断した」と踏み切った。恐れ恐れの記事だが、格好としては読売に先んじたことになる。


11日付の社説では読売とは真逆に「消費増税―法律通り実施すべきだ」との見出しで「 反対論も強かったが、最新の経済指標は環境が整ったことを示している。安倍首相は、ぶれずに予定通りの実施を決断すべきだ」と主張した。


さすがに記事と社説は一致しており、読売のまた裂き紙面より整合性がとれている。朝日は「反対」と唱えれば「軽減税率を欲しがっている」と受け取られるとみて、ここは“矜持”を発揮せざるを得なかったのだろう。


このように消費増税という超重要政策課題で報道の判断は右往左往した。官邸が意図的にミスリードすると報道もこれほどうろたえるかということだ。昔の官邸記者団だったら間違いなく官房長官はつるし上げられていた。


昨年の解散判断でも全紙の判断がぶれたが、これは与野党を含めた情報を複合的に判断して打ち出す能力が欠けていた事に起因する。


いずれにしても政治記者の判断が弱体化していることを物語っている。企業経営と同じで、最後は必死の取材経験に基づいた“動物勘”が左右する問題である。刑事の嗅覚が衰えたといわれて久しいが、理詰めの社会で偏差値の高いだけの記者では激動期の報道はつとまらない。もっと動物勘を鍛えるべきだ。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)
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