加瀬 英明
8月15日の前に、安倍首相が靖国神社を参拝するべきか、週刊誌からコメントを求められた。
私は「参拝するべきだ。そうしても、日中、日韓関係がいま以上、悪化することは考えられない」と、答えた。
ワシントンは中東で手一杯だから、日中が尖閣諸島をめぐって、万一、軍事衝突することがあったら、アメリカは日本に肩入れして、巻き込まれてしまうことになる。2正面で戦う余裕がないから、日本が中国を刺激しないでほしいと、おびえている。
それに、オバマ政権は発足当初から、対日関係を左派が牛耳ってきた。私は鳩山由紀夫政権が誕生した時に、彼らが「これで日本が正しい方角へ向かう」と喜んだのを、覚えている。菅内閣もお眼鏡にかなった。野田首相になると、よく分からなくなった。
彼らにとって、安倍政権は不協和音だ。私はワシントンの親しい同志の要路の友人たちに、日本はアメリカの思惑に右顧左眄することなく、信じる道を行くべきであり、それが日米の国益に適うことだと、説いてきた。
アメリカは興隆しつつある中国にアジアにおいて対抗するために、日本なしではやってゆくことができない。安倍内閣が信じる道を進めば、アメリカは受け容れる他ない。日本はイスラエルのネタニエフ首相を、手本にすべきだ。友人たちは賛成してくれた。
『潮』9月号に劇作家の山崎正和氏が、日本が歴史認識について主張すると、「第二次大戦後の現状(ステータス・クオ)の変更を要求することになり」「アメリカの反感を買う結果」になるから、慎むべきだと寄稿している。国民の多くが、68年前の敗戦の衝撃と、アメリカによる占領下の教育によって、腰が抜けたままでいる。
アメリカが強要した憲法を「平和憲法」と呼んでいるが、この憲法が軍備を禁じているのは、日本がアメリカの属国としてしか、生きられないようにしたものだ。だが、今でもアメリカに縋り続けたら、アメリカも迷惑だ。
日本国民の大多数が「食料の自給」、「エネルギーの自立」といったら、諸手をあげて賛成しよう。だが、「精神の自立」なしに、一国の独立を保つことはできない。それなのに、この68年、「精神の自立」を顧みることがなかった。
幕末から、旺盛な独立心が帝国主義勢力の脅威から、日本を守った。その精神を発揮することによって、日清、日露戦争に勝つことができた。
私は慶応義塾で学んだが、福沢諭吉先生といえば、「独立自尊」の箴言(しんげん)によって、よく知られる。30年以上も前のことになるが、私は母校で「福沢精神と今日の日本」という演題で、講演したことがあった。
三田まで行く途中で、どのように話を始めようかと、迷った。「独立自尊」という言葉が浮んだ。いったい、独立と自尊の2つの言葉のうち、どちらのほうが大切なのだろうかと、案じた。そして自尊が先だと決めた。
人も国家も自らを尊べば、自(おの)ずから独立する。何よりも、日本を尊ばなければ、自立できない。
もっとも、私は首相をはじめ国民が8月15日に靖国神社に奔流のように参拝するのは、好ましくないと、考えている。敗戦の日に「不戦を誓う」のでは、敗者の平和を讃美することになる。首相も国民も、春秋の例大祭に詣でるほうが、ふさわしいと思う。
<「頂門の一針」から転載>