2013年10月13日

◆禍根を残しかねないオバマの決断

加瀬 英明


18年前に、私は『総理大臣の通信簿』という本を、出版したことがあった。すると、細川隆一郎氏から何年か後に、「ぼくの新しい本に、あの題名を使わせてもらっていい?」と、頼まれた。

オバマ大統領が、シリアのアサド政権が住民に化学兵器を使ったからといって、軍事攻撃を加えると宣言した。

私は「大統領の通信簿」をつけることを、思いたった。第2次大戦後の歴代のアメリカ大統領を採点すれば、オバマ大統領は最低点になることだろう。

私はオバマ大統領が異常な人気に乗って誕生した時から、資格を疑っていた。オバマ氏はイリノイ州議会議員をつとめただけで、上院議員に選出されたが、1年生議員になると、すぐに大統領選挙へ向けたレースに加わって、全国を飛びまわり、上院に顔を出すことがなかった。そこで、経験をまったく欠いていた。

シリアは、チュニジアで始まり、リビア、エジプトなどのアラブ諸国にひろがった「アラブの春」が波及して、凄惨な内戦に陥った。チュニジア、エジプト、リビアでは独裁政権が倒れたが、シリアでは今日まで2年にわたる内戦で、10万人以上の死者が発生している。

オバマ政権は、アフガニスタン、イラク戦争の苦い経験から、はじめからシリアに軍事介入するのに、腰が引けてきた。

それなのに、オバマ大統領は、アサド政権が8月21日に首都ダマスカス郊外で、毒ガスを使って1000人あまりを殺したのが、人道的に許容できないといって、シリアに限定的な軍事攻撃を加えると発表したが、10万人もの死者のほうが、はるかに残虐ではないか。

それに、オバマ政権はアサド政権が昨年12月に、シリア中部の都市ホムスで毒ガス兵器を使ったといって、シリアの反乱勢力に食糧援助と、自動小銃などの小火器を供給することを決定したが、いまだに実施されていない。

それに加えて、オバマ政権はシリアに今回軍事攻撃を加えても、「限定的」なものであって、アサド政権を倒すのを目的としないことを、明らかにした。軍事攻撃の目的が、はっきりしない。

アサド政権が崩壊しては、困る。イスラム過激派がいまや反乱勢力の中心となっているために、反政府勢力がシリアの主人公になってほしくない。

それに、アサド政権はイランと、レバノンの反イスラエル民兵ヒズボラによって支援されているから、内戦が続いて、イランとヒズボラが、シリアの泥沼に足をとられているほうが、望ましい。

反政府勢力も、さまざまな部族、宗派によって分裂して、殺し合っている。アサド政権が悪であって、反乱勢力が善であると、単純に区分けすることはできない。

ところが、オバマ大統領は軍事介入すると発表したものの、アメリカ国民の大多数がシリアに軍事介入することに反対し、下院の3分の1の議員が軍事攻撃を加えるのに当たって、議会にはかるように要求したことから、議会の承認を求めることを、決定した。

だが、これまでホワイトハウスが、朝鮮戦争、ベトナム戦争から、2回にわたったイラク進攻、2001年の9・11事件後のアフガニスタン侵攻に至るまで、議会の事前承認を取りつけたことはなかった。

もし、議会がシリアへの軍事介入を否決することになったら、オバマ政権の信頼性が大きく揺らぎ、アメリカの威信が損なわれることになってしまう。アメリカは「張り子の虎」だということに、なりかねない。

オバマ大統領は、愚鈍だ。ロシア、中国はオバマ政権が躓くのを、楽しみに眺めていよう。

毒ガス兵器を使うのが、タブーであると大見得を切ったものの、見過すことになれば、今後、北朝鮮などの諸国が化学兵器を使うのを、躊躇らわなくなるのではないか。


<「頂門の一針」から転載>
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