2013年10月15日

◆勧善懲悪の作家、山崎豊子

平井 修一


作家の山崎豊子が9月29日に亡くなった。享年88で、天寿を全うしたのだが、作家として見事な戦死だったようだ。NEWSポストセブン(10月4日)がこう報じている。

<「山崎さんは、1作品書き上げるたびに“もう作家をやめる”と言っていました。取材対象者を200時間以上インタビューするなんてこともザラで、他の作家と比べても圧倒的な取材量でしたから、その分、精神的、肉体的な負担も尋常ではなかったんです。

でも“やめる”と言うたびに、恩師であり新潮社の名物編集者・斎藤十一さん(享年86)に“作家は棺に入るまで書き続けろ。書くのをやめたら、お前は終わりだ”と諭されて、再び書き始めるんです。彼女の人生は、その繰り返しでした」(山崎さんの知人)

5年前からは歩行が不自由になるとともに、全身に激痛が走る原因不明の疼痛症に悩まされ、車椅子生活を余儀なくされていた。

遺作となったのは、8月から『週刊新潮』に連載中の小説『約束の海』。冷戦期の海上自衛隊員の物語である。

「山崎さんは、痛みに耐えながらも山のように積み上げた資料を読み、体調が良いときには自ら車椅子で駆け回り、関係者に取材していました。また体力が落ちてペンも思うように扱えなくなったため、筆圧がなくても書ける細い筆ペンを用意して、自らの力で書くことにこだわっていました。

最後は、ペンを持てなくなり、口述筆記になることもありましたが、“どんなことをしてでも書き上げる”という山崎さんの執念を感じました」
(同)>

小生は「白い巨塔」「不毛地帯」「沈まぬ太陽」しか読んでいないが、「沈まぬ太陽」は日本航空(JAL、作中では国民航空)をテーマにしており、小生は旅行業界の記者だったのでしょっちゅうJALに出入りしていたので、「この作品はずいぶんと労組寄り、アンチJALだなあ」と思ったものである。

主人公の恩地元(おんちはじめ)は国民航空労組の委員長で、実直で何事にも筋を通す性格であり強い信念の持ち主という設定だ。モデルはJALの反会社側組合の日本航空労働組合委員長だった小倉寛太郎(ひろたろう、1930 - 2002年、東京大学法学部卒)である。

委員長時代の1960年代前半に経営陣と厳しく対決し、JAL初のストライキを指導。その後の人事異動で、社内規定を大幅に超える約10年間の海外勤務を強いられた。

1999年に日共傘下の民青同盟東大駒場班主催の講演会で小倉はこう語っている。

<日本航空に入って、山崎さんも書いているけど、労働組合運動をやるつもりはなかった。10年なら10年みっちり仕事をして考えようと思っていたんですけど、ことのはずみで、なっちゃいまして。というのは出来たての会社だから矛盾があったんです。

(本社と支店の労働条件の差別や)その他にいろんな矛盾がありました。縁故採用も多い。そこでストライキをやるようにしまして。山崎さんは98・何%と書いていますが、確か98%か99%の賛成率でした。

というようなことで労働条件は大分良くなったんですが、2年委員長やって職場に帰ったらカラチに行け、と。当時の内規ではカラチの任期は2年になっている。2年経ったら帰れると思ったら今度はテヘランに行けと。「テヘランは店がない」と言ったら、「お前が開くんだ」と言われ。それで、テヘランに行って。

二度の(海外)勤務の時は1年で帰すというのが内規だったんです。一緒に行ったのがみんな帰った後で、僕だけ帰れない。とうとうテヘランに4年いて、今度はナイロビに行け。「ナイロビには店がない」と言うと「お前が開け」と。そういうことで、ナイロビにまた4年いて、(海外には)合計10年いましたね・・・

私を追い出した後、アメとムチで第二組合をつくったんです。それで御用組合との話し合いで物事を決めて、第一組合は徹底的に差別する。そういうことが少なくとも(御巣鷹墜落)事故の遠因になっているんではないかということが当時、国会で問題になった。

東アフリカで学んだことの一つなんですけど、ライオンが一番襲うのは一発で肉がたくさんとれるシマウマやバッファローなんです。何頭かがかりで襲います。襲うんですけれども、他のバッファローは気がつくとそれを奪回にくるんですよ。

バッファローがライオンをけちらして、そしてバッファローがしつこいんですね、ライオンが木に登るまでおいかけて、そして木の下で幹をゴツンゴツンやるんです。そして他のバッファローは、皮膚を裂かれてよろよろと立ち上がったバッファローを舐めてやるんです。それで、群に収容して動いて行くんです。

チーターは適当な餌がないときにはヌー(牛かもしか)を襲うんです。チーターが俺のほうめがけてきたと思えば、たとえば5頭ががっしりね並んで頭下げてチーターを蹴散らすことができるんですね、やろうと思えば。

だけど、ヌーはそのやり方を知らないし、そんな気もないからバーと逃げるだけ。そしてみすみす、チーターよりも大きな体をしながら、一頭が殺されちゃう。そして他のヌーは「あー、今日は俺の番じゃなかった、よかった」それだけなんだ。

私は、リストラの名の不合理な首切りに抵抗できない日本の労働組合はヌーじゃないかと思うんです。やはりバッファローにならなきゃいけないんだと思うんです。

人間は弱い、「お前ね、第一組合に残っていると出世もできないよ、それから正論はいたって世の中通らないんだから、まあ身のため考えたほうがいいんじゃないか」とかね言われるとどうしてもみんな負けちゃうんですよ。だからこそ、お互い支え合う仲間が必要なんだし、それからお互いの信義も必要なんです。人間は弱い、だから、団結と連帯が必要なんです>

一流のオルグ、アジテーターだ。「万国の労働者、団結せよ!」というわけだが、昔から東大には日共の学生細胞が根を張っており、ナベツネこと読売のドン、渡邉恒雄も党員として一時期そこにいた。

小倉が率いた日本航空労働組合の流れを汲む日航乗員組合と日航キャビンクルーユニオンを支援している全国労働組合総連合の大黒作治議長は「個人として全国労働者日本共産党後援会の代表委員を務めている」という。小倉の著書『自然に生きて』を発行した新日本出版は日共傘下である。小倉も党員ではなかったか。

小倉を善玉、JALを悪玉にした「沈まぬ太陽」は勧善懲悪小説で、そう言えば「白い巨塔」「不毛地帯」もそうだ。現実はそんな単純なものではないが、水戸黄門のような分かりやすい勧善懲悪ものは人気である。しかし、悪玉と断罪された方はたまったものではないだろうなあ、と善玉ではない小生は同情を禁じ得ない。(2013/10/14)

<「頂門の一針」から転載>
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック